アライさんの口減らし

350: 名無しさん (ワッチョイ a5c8-a7ec) :2019/07/09(火) 02:28:27 ID:ulRnjgQU00
「もらって、もらって、もらって欲しいのだぁー!」

駅前広場にケモノ耳を付けた小学生くらいの子供がダンボール箱を抱えてウロウロしている。
道行く人に次々とダンボールを差し出し何か話し掛けているが、遠目からも薄汚れた格好をしており、あからさまに避けられている。
今も大学生ぐらいの女の子たちに声を掛けているが、避けられているのは明らかだ。
電車に乗りたいってのに・・・うわっ、こっちにやって来た。
臭い!生ゴミの様な、腐臭の様な、とにかく酷い匂いだ!

「ヒトさん、この子たちをもらって欲しいのだぁー」

避けようとしたがダンボール箱で行く手を阻まれた。
差し出されたダンボールの中には目の前にいる子供のミニチュアがぎちぎちに詰め込まれていた。20cmあるかないかの大きさのものが、数で言えば10匹以上はいる様だった。

「アライさん、交尾が気持ち良すぎてついつい生みすぎちゃったのだ!こんなに育てられないからもらって欲しいのだー!」

子供は「てへっ」とムカつく笑いを浮かべた。
箱の中からは「のりゃー」だの「なのりゃー」だの甲高く耳障りな鳴き声が聞こえる。
落ち着いて見るとダンボールを差し出しているのは子供じゃなく、最近よく聞くアライグマのフレンズとか言う奴だ。
夕べもニュースで飼い猫を食べただの、一晩で畑の半分のスイカをダメにしただのと言ってたな・・・。

「ヒトさん!聞いているのかー?今なら特別にアライさんのかーいー子たちを好きなだけあげるのだ!!」

目の前のアライグマは俺の胸元にダンボール箱を押し付けてくる。

「うわっ!きったねー!!」

押し付けられた箱を押し返す。ダンボールはじっとりと濡れていた。

「のりゃー、ひとしゃんなのりゃー」「もらってのりゃー」「うんこすゆのやー」「しゅきしゅきー、なのあー」「ごはんほちーのりゃー」「だっこしゅゆのやー」「のりゃっ!のりゃっ!」「のりゃぁぁぁん!」

箱の中をよく見るとアライグマの子供の足元には大量の糞尿が溜まって底が抜けそうになっていた。

「のだー、ヒトさんがこの子たちをもらってくれないとアライさんはこの子たちをご飯にするしかないのだ!」

「そんなきったねーのいらねーよ!」

そう言ってアライグマを突き放し駅に背を向ける。遠回りだが裏に回ろう。

せっかく逆方向に歩き出したのにアライグマは俺についてくる。

「何でついてくんだ!あっち行けって!」

アライグマはなおもついて来る。

「悪い話じゃないのだ!アライさんの子はとくべつにかーいーのだ!」

「アライさんがアライさんの子をいっこあげるのだ、そのかわりヒトさんはアライさんにせんえんさつをひとつくれるのだ、ういんういんなのだ」

なに!?勝手なことを・・・いつまでついて来る気だ!

「いいから!どっか行けって!!!」怒鳴りつけるが、
「エンリョするななのだー、アライさん知ってるのだ、ペットアライさんってせんえんさつみっつ必要なのだ!」

「アライさんのかーいー子はずーっとかーいーのにたったのせんえんさつひとつなのだ!」

くそ―、舐めやがって!実力行使だ!!

「おらっ!いい加減にしろっ!!」

アライさんの腹目がけて蹴りを入れる。
「のっ、のだっ!」アライグマはよろよろと車道に向かってよろめいた。

「あっ、のだぁー!!!」びたんと車道との段差に躓き、ダンボールの中身がザーっと車道にこぼれる。
小さなアライグマたちがボールの様に交通量の多い駅前の車道に次々と転がり出た。

「のりゃー!」「いちゃいのりゃー」「めがまわりゅーのりゃぁ!」「ふぎぃー!」「のぉぉぉりゃぁ!」「いだっ!のだっ!」

車道に転げ出た小さなアライグマたちは逃げる間もなく次々と車に轢かれていく。

「ごぎゅ!」「ほぎょっ!」「ぷげっ!」「のりゃごぎっ!」「のあぎょっ!」「のりゃぁぎゃっ!」

小さなアライグマは次々とぺしゃんこになり、ついには道路の一部になった。

「のだぁー、ひどいのだぁ、あれがないとおかねがてにはいらないのだぁー・・・」

アライグマは余程ショックだったのかふらふらと車道に出てぺしゃんこになった小さなアライグマをかき集め始めたが、当然の様に車がアライグマを撥ねた。
「のごぉぉぉ!」撥ねられたアライグマはゴロゴロと転がり2mほどふっ飛ばされた。

「いだいのだぁ・・・アライざんのぎぎなのだぁー」

アライグマが轢かれたことで車が次々と止まり始めた。
ふっ飛ばされた際に打ったのだろうか、アライグマは後頭部から血を流してのたうち回っている。

「のごおぉぉー、じにだぐないのだぁぁぁ!へねっくぅー!」

コスコスと後頭部をさすっていると徐々に傷が塞がっていくが、傷は深く溢れだす血の量が尋常ではない。アライグマの超回復も死を回避するまでには至らなかった様だ。
徐々に血だまりが広がっていく。アライグマは血まみれになりどんどん動きが鈍くなっている。

「へね・・・く・・・だし・・・げ、で・・・」
その言葉を最後にアライグマは血だまりの中で動かなくなった。


最終更新:2019年07月21日 22:09