アライさんの一日

79 名前:アライさんの一日 (ワッチョイ b1ba-vekH)[sage] 投稿日:2017/08/18(金) 23:26:40.02 ID:msqQKeKR0 [17/23]
便乗して書き試していたのを投稿


アライさんの朝は遅い。尿意か便意か空腹か、もしくは外からの刺激によって目を覚ます。その日、アライさんは頬に刺激を感じて目を覚ました。

アライちゃん1「おかーしゃ、おきるだあ。アライさんお腹すいたのだ」ユサユサ

アライちゃん2「しゅいたのだー」


アライちゃん3「のだー」


アライちゃん1「おかーしゃ、アライさんはごはんがたべたいのだ」

アライちゃん3「のだー」


アライさん「ううーん…うるさいのだ、チビ。アライさんはもっともっとたくさん眠りたいのだ」


アライちゃん1「ダメなのだ!アライさんのお腹がききなのだ!」


アライちゃん3「のだー」


アライさん「うるさいのだ、ぐう…ぐう…」


アライさんの子供が、アライさんの頬を小さな手のひらで叩いていた。その刺激で目を覚ましたのだった。

アライさんはそのことを悟ると、早速二度寝に入ろうと目をつぶった。すると、すぐさまいびきが聞こえてくる。

アライちゃん1は下ぶくれした頬を更にぷくーっと膨らませた。
アライちゃん1は、無言で下の妹、アライちゃん3の頭を引っ叩いた。

突然の暴力に驚いたアライちゃん3は、甲高い声で泣き始める。アライさんは眉根をひそめながら再度目を開いた。

アライさん「わかった、わかったのだ!全く、アライさんはかわいそうなのだ」


冬眠中の亀のように鈍重な動きで、アライさんは起き上がった。そのアライさんに、叩かれたアライちゃん3が声をかけた。


アライちゃん3「おかーしゃ、ぶたれたのだ!アライさんかわいそうなのだ!」

アライさん「誰が叩いたのだ?」


アライちゃん3「おねーちゃなのだ!」


アライさん「どっちのおねーちゃなのだ?」


アライちゃん3「わからないのだ!」

アライさん「ならお前の気のせいなのだ」

80 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ b1ba-vekH)[sage] 投稿日:2017/08/18(金) 23:27:41.45 ID:msqQKeKR0 [18/23]
アライさんは簡潔に言うと巣穴をのそのそと這い出た。そのまましばらく歩き、アライさんは近くにある池へたどり着いた。
アライさんは池の水に顔を近づけて鼻を動かすと、突然水の中へ飛び込んだ。
盛大に水しぶきが飛び散る。
アライさん流の荒っぽい目覚ましといったところだった。
飛び込んで目を覚ますついでに、その水を飲んで喉を潤す。アライさんにしては合理的である……その池が、ゴミの浮かぶ汚いものでなければ。
眠りから完全に覚醒したアライさんは、伸びを一つしてから歩き出した。行き先はもちろん人里である。
アライさんは慣れた様子で、町外れにある畑に足を踏み入れた。近くに人影はない。とはいえ、別にそのタイミングを見計らっていたわけではない。そこまでするほどの知能は、アライさんにはなかった。
アライさんは手頃なところにあるスイカを一つ、取り上げて手の甲で軽く叩いた。
いい音がする。アライさんは本能で、美味しいスイカの見分け方を習得したのだ。
アライさんの恐ろしいまでの意地汚さが可能にしたことであった。
その要領で、アライさんはスイカを選定していった。
数分後、大きく立派なまんまるを三つ抱え込んだアライさんの姿がそこにあった。ご満悦のご様子であった。
チビ達の待つ巣穴に戻ろうと何歩か進んだ時、足元から変な音が聞こえてアライさんは首を傾げた。そして、次の瞬間にアライさんの悲鳴が周囲に響き渡った。
自分の右足に何かが通り過ぎるような熱い感覚がして、次の瞬間にアライさんはバランスを崩して地に倒れこんだのだ。
持っていたスイカは空に投げ出され、そのうちの一つが地面にあるスイカとぶつかって砕け散った。

アライさん「いた、痛いのだ!何が、なんなのだ!?なんなのだ!?」

アライさんの右足を断ち切ったのはベアトラップだった。そのベアトラップが設置されていたのは、畑内部ではなく畑の外である。そして、その近くには罠が設置してある旨の注意書きを記した看板が立っていた。
文字を読むことのできないアライさんを対象にした罠の作り方だった。

81 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ b1ba-vekH)[sage] 投稿日:2017/08/18(金) 23:28:10.54 ID:msqQKeKR0 [19/23]
痛みと出血のため、アライさんの意識は朦朧とし、視界もぼやけていた。
アライさんは切断された自分の足を掴んで、這って移動し始めた。とにかく巣穴に戻らなければならない。ここにいればヒトに見つかってしまう。
ヒトに見つかってしまった場合、待っているのはヒトからの激しい攻撃だ。アライさんは悪くないのに、ヒトは全く理不尽な生き物である。
とにかくアライさんは進み続けた。立ち止まるわけにはいかなかった。
アライさんには子供がいる。たとえ、泣き声がうるさくて寝ているのが難しくなってからでないと餌を取りに行かないという程度の母性愛しかないとしても!それでも子供は子供である。
アライさんは、出てきた時の十倍以上の時間をかけて巣穴へ戻った。鼻水と涙と鼻くそを顔から垂れ流しにしながら、スカートからは小便と大便をぼとぼと垂らしながら、切断された足からは血液を迸らせながら。
アライさんの帰還を察したアライちゃん達が、次々に巣穴から這い出してきた。
口々に、おなかしゅいたのだ、おかーしゃおそいのだなどと言いながら巣穴から這い出てくる。アライちゃんは、全身から血を流して地に伏すアライさんを見て、一瞬無言になった。

82 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ b1ba-vekH)[sage] 投稿日:2017/08/18(金) 23:28:54.60 ID:msqQKeKR0 [20/23]
アライちゃん2「おかーしゃなにやってるのだー?」

アライちゃん3「おかーしゃ、のあー」

アライちゃん1「ばか、なにをいってるのだ!おかーしゃけがしてるのだ!ききなのだ!」

アライちゃん2「けが?けがってなんなのだ?」

アライちゃん3「あーうあーのあー」

アライちゃん1「おまえはだまってろなのだ!」ドカッ

アライちゃん3「のだっ……ビエエエエーン!」ノダアアアア

アライちゃん1はアライちゃん3を殴りつけると、すぐ母親へと近寄った。

アライちゃん1「おかーしゃだいじょうぶなのかー?いたいのかー?」

アライさん「チビ……アライさんの足が……足が……」

アライちゃん1「おかーしゃのみぎ足がないのだ!血もドバドバ出てるし、おかーしゃのききなのだ!」

アライちゃん1はアライさんの様子を良く見てからそう叫んだ。

アライさん「チビ……チビ!どこかからツタを持ってくるのだ!早くするのだ!」

アライちゃん1「わかったのだ!いっこくもはやくつかまえるのだ!」

アライさんの言葉を受けてアライちゃん1は巣穴を出て行った。アライちゃん1は、三匹いるアライちゃんの中では一番先に生まれている。
その分肉体的に強く、また、頭の方は母親と同程度には完成されていた。

83 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ b1ba-vekH)[sage] 投稿日:2017/08/18(金) 23:29:24.24 ID:msqQKeKR0 [21/23]
さて、アライちゃん1が出て行って、巣穴の近くにはアライさんとアライちゃん2、アライちゃん3が残された。より正確に言うなら、その三匹に加えて、アライさんの右足だったものもそこにはある。
アライちゃん達は、切断されたばかりの右足からしたたる血液の匂いを嗅いで、口からよだれを垂らした。

アライちゃん2「なんかいいにおあがすりゅのだー」

アライちゃん3「のあー」

しかし、アライさんにはそんなことに構っているだけの余裕はなかった。意識が朦朧としてきた。視界がぼやけ、足の切断面が焼けるように痛む。そして頭にもそれと同じくらいの痛みがあった。
アライさんが黙り込み、動こうとしないのをいい事に、アライちゃん達はアライさんの右足へ近寄った。立つこともできないので、四足歩行でヨチヨチと、遅々とした歩みで。

アライちゃん2「これはなんなのだ?おかーしゃー」

アライちゃん3「いいにおいしゅりゅのあー」

アライさんは答えない。もはや意識は失われる寸前だ。目は半開きで、口からはだらしなくよだれが垂れている。全身から力が抜けて、近くの木に身体を預けているが、今にもずり落ちてしまいそうだ。

84 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ b1ba-vekH)[sage] 投稿日:2017/08/18(金) 23:30:21.81 ID:msqQKeKR0 [22/23]
アライちゃん2「これは食べ物なのかー?おかーしゃー」

アライちゃん3「たべていいのだ?たべるのだ!」

アライちゃん2の言葉を受けて、アライちゃん3は母親の右足へかぶりついた。血のしたたる切断面に食いついたアライさんは、同族の血肉で口と毛皮を汚しながら更に食事を続ける。

アライちゃん2「あっ……ずるいのだ!おたからをひとりじめするきなのだ!」

アライちゃん3に遅れを取ったアライちゃん2も、ようやく我に返って母親の右足へ牙を突き立てた。肉と血と骨がアライちゃん2の空きっ腹によく染み渡る。
二匹のアライちゃんは機嫌よく食事を進め、ついに全てを食べきってしまった。

アライちゃん2「おいしかったのだ!おかーしゃ、ありがとなのだ!」

アライちゃん3「ありがとなのだー」

その頃にはアライさんは、力なく地面に倒れ伏していた。そんな様子に構わず、飢えを満たしたアライちゃん二匹は巣穴へ戻ろうとする。この二匹に異変が起こったのは、まさにその時だった。

アライちゃん3「あ……あ……のだ」

アライちゃん2「どうかしたのかー?いもーとーよー」

アライちゃん3「えれえげー」ゲロロロ

アライちゃん3がいきなり、胃の中身を吐き出したのだ。
アライちゃん2が驚いて見守る中、アライちゃん2は右足の肉と血と、そして自分の血を吐き出してから、力なく倒れこんだ。
だが、アライちゃん2もそれを見届けることはできなかった。同じような症状に襲われたからだ。
アライさんの不調の原因は、痛みによるショックと出血だけではない。ベアトラップには毒が塗ってあったのだ。足の切断面から体内に毒を取り込んだアライさんは、痛みと出血も相まって非常に苦しんだのである。
そして、そのベアトラップに塗ってあった毒は、切断された右足の方にも付着していた。それを食した事によって、アライちゃん達は体内に毒を招き入れる事になったのだ。
のあ……の……あ……と断末魔の呟きを残して、二匹のアライちゃんは死亡する。こうして、アライさんとその子供二匹は最期を迎えたのだ。

85 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ b1ba-vekH)[sage] 投稿日:2017/08/18(金) 23:31:01.21 ID:msqQKeKR0 [23/23]
アライちゃん1が母親の傷を縛るためのツタを持って戻った時、そこには母親と妹二人の死体が転がっていた。
アライちゃん1は長い間戸惑い、何をすればわからなかったが、とにかく人里に降りて食べ物を奪ってくる必要があった。
そして、農家の猟銃で命を落とした。
アライちゃん1は子供達の中では優れた身体能力と、母親を上回るかもしれない頭脳を持っていたが、なんの予備知識もなしに人里に出て、無事食べ物を盗めるものではなかったのだ。
こうして、アライさんの家族は全滅した。


おわりなのだ



最終更新:2018年04月06日 02:27