益獣フレンズ、アライさん・後編

9 :家畜 ◆.xYpVG0Kr2 [sage]:2017/08/22(火) 21:30:46.77 ID:hde7sgbY0
やはり黎明期には多くの苦労があったようです
エサをやるたびに反抗し暴言を浴びせスキあらば脱出しようとするアライさんに、多くの飼育員がノイローゼになったといわれています
飼育員の負担を減らすため、アライしゃんの目をくり抜く、声帯を切除する、爪と牙を折り腱を切断する、脊髄を半壊させるなど様々な手法が試されました
しかし、その全ては徒労に終わることになったのです
生きている限り、そして食事さえ可能なら致命傷であってさえ時に復活し得る…
フレンズとしての特殊能力…自己回復スキルがアライさんには備わっていたからです
食肉にする以上は餌を与えないわけにはいかず、餌を与えれば傷を癒やしてまた暴れる、しかも傷を癒やした分だけエネルギーを無駄にしてしまい、成長が遅くなり肉の味も落ちてしまいます
悪循環の果てに、シンプルに閉じ込めて関わりを持たないという結論に行き着いたのは必然だったのかもしれません


10 :家畜 ◆.xYpVG0Kr2 [sage]:2017/08/22(火) 21:31:22.12 ID:hde7sgbY0
実際の屠殺のやり方については、檻ごと水に沈めて動かなくなったところで首を切るという昔ながらの方法が多いとのことです
生きたままの丸焼きや活造りを望む食通もいるため必ずしもそうなるとは限りませんが、少なくともこのシステムが一般化してからはアライさんが生きて檻から抜け出したケースは報告されていません
何にせよ、アライしゃんからすればAグループに振り分けられた時点で余命が数ヶ月であることが決定するということなりますね
完全な成体になるには一年以上の育成が必要になりますが、育ちすぎると臭みも出ますし肉も固くなります
アライしゃんが妊娠可能なアライさんに成長するその境目の時期…具体的には初潮の寸前こそが一番美味しいというのが定説であり、またもっとも経済効率が高いのだと言います
正直、私にはアライさんの細かい変化は見てもよくわからないのですが、各地のセンターでは厳しい試験をくぐり抜けた国家資格を持つプロがその判定を行っているという話です
関係者の不断の努力によって、私たちは日常的に美味しいアライ肉を食べることができるのですね


11 :家畜 ◆.xYpVG0Kr2 [sage]:2017/08/22(火) 21:32:58.39 ID:hde7sgbY0
さて、少しお腹が空いてきたかもしれませんがもう少しお付き合いください
次はアライしゃんBの話をしましょう

アライしゃんB…ツライさんと呼ばれることも多いタレ目のアライさん
覇気がなく、常に何かに怯え、場合によっては従順にもなり得るそれなり程度にはレアなアライさんです
アライちゃんの頃に恐怖や苦痛を与えることで、一定の確率でこの形質に変化します
このアライさん…ツライさんも、食用として使うことになんら問題はありません
実際に、成長速度も食味も通常のアライさんとほとんど変わらないのです
しかし、近年のアライさん養殖においてはまず食用に使われることはありません

通常のアライさんと違い、暴れたり脱走したりする可能性が低く管理が楽なので、ツライさんは新たなアライさんの母体として有効に活用されるのです
一年ほど檻に入れて育成し初潮が確認できると、その後はそれなりの広さのある施設、通称ツライ宿舎に首輪と鎖付きではあるものの一室を与えられ、その後数年間、繁殖を繰り返し行い続けることになります


12 :家畜 ◆.xYpVG0Kr2 [sage]:2017/08/22(火) 21:33:38.90 ID:hde7sgbY0
ツライさん「あ…あああッ! うぁぁああああっっ」

ちょうどいいタイミングで、陣痛を迎えたツライさんがいるようです

ツライさん「嫌なのだッ! もう嫌なのだぁ! もうアライさんの子供を取らないで欲しいのだぁ…」

ツライさんは右手でお腹を守るように抱えて左手は自分の股間を押さえています
まるで出産を拒むかのような、生まれ出る我が子を胎内に押しとどめようとするかのような体制です

ちょっと埒が明きません
飼育員さんも困った顔です

あまりこの状況が続くとツライさん自身も生まれる前のアライちゃんも危険です
見かねた飼育員さんが出産の手助けに入りました
アライさんの腕を掴みあげ、腹をさすり出産をしやすいよう体位を整えてあげています


13 :家畜 ◆.xYpVG0Kr2 [sage]:2017/08/22(火) 21:34:37.53 ID:hde7sgbY0
ツライさん「やめるのだ! やめるのだ! もう許して欲しいのだ! ほっといて欲しいのだぁぁ」

人の心、家畜知らずとでも言えばいいのでしょうか
ツライさんはそのタレ目から涙を流しながら叫びます
偉そうなアライさんも不愉快ですが、このツライさんの叫びからも自然と生理的な嫌悪感を抱いてしまいます
かつて害獣と呼ばれていた一番の理由は、被害そのものではなくその姿と鳴き声によるものだった…つまりアライさんの本質は不快害獣である、そう断ずる人は少なくありません
私個人はこれまでその意見には否定的でしたが、実際にアライさんを間近で見る機会を得ると少し納得しそうになりますね

おっと、失礼しました
今大事なのは目の前のツライさんの出産でしたね


14 :家畜 ◆.xYpVG0Kr2 [sage]:2017/08/22(火) 21:35:37.94 ID:hde7sgbY0
ツライさん「駄目なのだ、出てきちゃ駄目なのだ、駄…あっ、あっ…のだあああああああぁぁぁッッ!!!」

ノダー
ビエエエエーン

ひときわ大きな叫び声の直後、小さな声がしてきました

ツライさん「ああっ、あああっ、ああああああぁぁ…」

ナノダー
ノダー
テンジョウテンゲユイガドクソンナノダー

続けて次々に新しい声が響きます
どうやら我慢してた分、一気に生まれてきたようです
全部で…五匹、終わってみれば安産でしたね

あとはこのまま生まれたてのアライちゃんをケージに入れ、一ヶ月ほど生ゴミを与えまたアライしゃんAとBに分けてていくのです


15 :家畜 ◆.xYpVG0Kr2 [sage]:2017/08/22(火) 21:36:06.54 ID:hde7sgbY0
ツライさん「お願いなのだ…アライさんの子供を連れて行かないで欲しいのだ…」

それなりに従順であることが特徴のツライさんですが、アライちゃんを連れて行く時は反抗的になるケースが多いそうです
このツライさんもそのケースのようですね

もちろん、そんなセンターの存在意義をなくすようなことができるわけがありません
アライさんの要求はその一切を無視するというのが鉄則です
一つ言うことを聞けば無限大に要求はエスカレートしていく、それはツライさんであっても例外ではないのです

飼育員さんたちは当然、それを弁えた方々です
アライちゃんたちを淡々とケースに投げ入れ、ツライさんの方には目も向けません
彼らのプロ意識があってこそアライさん養殖は安定した成果を上げているのですね


16 :家畜 ◆.xYpVG0Kr2 [sage]:2017/08/22(火) 21:37:25.62 ID:hde7sgbY0
ツライさん「せめて、せめて一回だけでいいから抱っこさせて欲しいのだ…おっぱいをあげさてほしいのだぁ…」

飼育員さんは無言で最後のアライちゃんをケースに入れ、ツライさんに背を向けました

ツライさん「うあああ、どうして…どうしてなのだ…」

未だ荒い息を吐きながら、ツライさんが泣き崩れます
そしてそのツライさんを近くに待機していた違う飼育員さんが押さえつけ、その胸に器具…搾乳機を取り付けました

ツライさん「やめるのだ、それは赤ちゃんのためのおっぱいなのだ、とらないで欲しいのだぁ」

皆様の中にも飲んだことがある方はいるかもしれませんが、アライさんの初乳は極めて美味であり栄養価も高く、高値で取引がされています
そして非常に強力な抗菌作用もあり特殊な薬効も期待できるとして研究機関でも需要があるとか
少なくとも生来の頑丈さを持つアライちゃんに飲ませるにはもったいない代物であることは間違いありません

ツライさん「ああぁ…嫌なのだぁ…やめるのだぁ…アライさんは悪くないのになんでこんな目にあうのだぁ…」

その不愉快な声を背中で聞きながら、飼育員さんに連れられて私はツライ宿舎を後にしました


17 :家畜 ◆.xYpVG0Kr2 [sage]:2017/08/22(火) 21:38:28.92 ID:hde7sgbY0
一般に、アライさんの妊娠時期は大体二ヶ月強であり、平均して一度に4匹程度のアライちゃんを生むのだそうです
そして食料に不自由しないセンターでは、年に複数回の妊娠出産が可能となっています

都合、ツライさん一匹いれば単体でも年間10~20匹のアライちゃんを得ることが可能になるのです
そこから時折現れる新たなツライさんを適時母体役に回して、他は食肉として育成し出荷する
季節を問わず安定してアライ肉を市場に供給し続けることが出来るわけです

ちなみに高い回復能力を持つアライさんと言えども、年に複数回の出産は流石に回復不能な負担があるようです
五年目辺りで著しく妊娠率が下がり、奇形の発生率や流産の可能性が跳ね上がり、母乳の品質も大きく低下してしまうのです
そしてちょうど同じくらいの時期には、精神に変調を来たして首輪と鎖を使い首吊り自殺をする個体が増えてきます
そのあたりで廃棄する方がコスト的に優れているため、ツライさんの死因における自殺率の高さは優秀な施設の証明と言われていますね
ここまで長く生きたアライさんは食用としては臭みが強く需要がないため、その死体は砕かれてアライちゃんのエサとなるのです
アライさんは母性が強い生き物だと言われています
死して子供のエサとなる、本当の愛がそこにあるのかもしれません


18 :家畜 ◆.xYpVG0Kr2 [sage]:2017/08/22(火) 21:39:54.07 ID:hde7sgbY0
育成におけるコストの安さと一切の病原菌と寄生虫を無視できる安全性
物理的に閉じ込めさえすればどうとでもなる管理の簡便さ
アライグマの精液さえ用意すれば簡単に増やせる繁殖力(ヒトの精液でもよいという説もあります)
高い栄養価と優れた食味

現代におけるヒトの食糧事情において、アライさんはなくてはならない存在になっています
かつては最悪の害獣と呼ばれ、一時は根絶寸前となったアライさん
それが今ではヒトと理想的な共存関係を築くに至りました


19 :家畜 ◆.xYpVG0Kr2 :2017/08/22(火) 21:40:49.77 ID:hde7sgbY0
いつか存在したと言われる楽園、ジャパリパーク
アライさんはそこからやってきた『フレンズ』だという都市伝説があります
アライさんが害獣と呼ばれていた時期は誰もがそれを嘲笑いました
何がフレンズだ、アレとどう友だちになれというのか、と

でも、今は誰もが認めるでしょう
人類にとって最高の家畜
無駄なく使える便利な資源

アライさんは、間違いなく私達人類の大事なフレンズなのです




第一章 食料編 完
20 :家畜 ◆.xYpVG0Kr2 [sage]:2017/08/22(火) 21:44:11.39 ID:hde7sgbY0
第二章 嘘予告


生きたアライさんはあらゆるウィルスに感染せず、寄生虫の宿主になることもありません
それは誰もが知るアライさん基本能力です
ジビエとして野生のアライさんが狩られていた頃からハンターの間では常識ではありましたが、当時はこの事について研究者はいませんでした
しかし、昨今のアライさんの養殖の一般化に伴いその脅威のメカニズムが次第に明かされてきています

致命傷からも持ち直す回復能力
教わらずとも勝手に言語を習得する脳
ウィルスや寄生虫を無効化する超常的な免疫力

怪我を、病を、老化による脳の衰えを克服したいという人類の宿願
アライさんに秘められた力は、それを人類に与えてくれるのでしょうか


第二部 医療編に続かない


22 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage ]:2017/08/22(火) 21:53:21.39 ID:Ak+wp1iY0
乙。新しいタイプの話だな。


23 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/22(火) 21:59:54.65 ID:5Yzb5sc70
とても面白かったです。
虐待もされず、アライ問題に対する最も平和的で理想的な解決かと。
できれば続けてください。


32 :家畜 ◆.xYpVG0Kr2 [sage]:2017/08/23(水) 22:15:54.62 ID:ljdWRvMM0
感想ありがとうございます
アライさん物語以来久々に書かせていただきました今作ですが、楽しんでいただけたのでしたら望外の喜びです
それにしてもたまに文章を書くと気持ちがスッキリしますね
…まぁ、改めて読み返すと誤字脱字や話の矛盾があって少し凹むのですが
投稿前に校正くらいしようぜしようぜ俺、と

基本的に読み専の私ですが、また気分が盛り上がったら何かを書くこともあるのかもしれませんので、もしもその時にご縁があれば読んでやって下さい
それでは失礼しました


33 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/23(水) 22:41:03.61 ID:is3FLIrt0
あの「アライさん物語」の人でしたか!
あれも面白かった!
またいつか是非書いてください。


最終更新:2018年04月06日 01:56