76 名前:前スレ>>937>>980に捧ぐ(9/25) (ワッチョイ ff12-x5jG)[sage] 投稿日:2017/11/12(日) 19:15:14.19 ID:eaZ7umBs0 [9/26]
―――
――
―
アライちゃん1「のりゃぁ~あ~あ…… あふ」コスリコスリ
アライちゃん2「おふぁよーなのやぁ……」コスリコスリ
お腹一杯で眠るという久々の幸せを味わった2匹のアライちゃんが目を覚ました。
アライちゃん1「いもーと、きょーはそとにでておいしーものをさがすのりゃ……」コスコスコス
アライちゃん2「らじゃーなのや……」コスコスコス
眠い目をこすりながらアライちゃんたちは巣の外を目指す。
アライちゃん2「ちゃ、ちゃむいのやぁ……!」ブルブルヨチヨチ
アライちゃん1「が、がまんなのりゃ!もうここにいてもおいしーものはないのりゃ!」ブルブルヨチヨチ
外に近づくごとにどんどんと下がる気温に震えつつもアライちゃんたちは尚も歩みを進める。
その歩みは、自分たちの未来へと続く栄光のアーチだと信じてアライちゃんたちは外の世界を目指す。
そして、ついにその小さな体は未知なる世界への第一歩を踏みしめたのだ。
アライちゃん1「ちゃちゃちゃちゃ、ちゃぶいのりゃあああああーーーーっ!!!」ガクブルガクブル
アライちゃん2「のりゃあああああああああーーーーーーーーーっ!!!」ガクブルガクブル
栄光の第一歩の余韻もくそもない圧倒的極寒、悪魔的冷気。2匹のアライちゃんにはあまりに過酷であった。
77 名前:前スレ>>937>>980に捧ぐ(10/25) (ワッチョイ ff12-x5jG)[sage] 投稿日:2017/11/12(日) 19:20:11.33 ID:eaZ7umBs0 [10/26]
アライちゃん1「い、いもぉぉぉとぉぉぉぉっ!は、はなれるなななのりゃ!くっついってあった目名がりゃいくのりゃぁあああああっ!!!」ガクブルヨチヨチ
アライちゃん2「らじゃぁぁなのりゃああああああっっ!!!」ガクブルヨチヨチ
少しでも寒さに耐えるため、ピッタリとくっつきながら醜く四つん這うアライちゃんたち。
くっつき過ぎたその姿はまるで足が6本ある未知の生命体さながらである。
アライちゃん1「じゅずずずずっ、お、おはながじゅるじゅるするのりゃっ!!」ジュルルルル
アライちゃん2「おねーしゃ、じゅずっ、これじゃおいちーもののにおい、ずっ、ちないのや!」ジュビビビ
鼻からどろっとした液体をぶら下げるアライちゃん、なんという醜さであろうか。
手の施しようがないとはこういうことを言うのであろうか。
アライちゃん1「じゅずっ、と、とにかくさがすのりゃ!じゅびっ、きっとなにかおいしーものありゅのりゃ!!」バサバサバサ
アライちゃん2「じゅびぃぃぃぃっ!おてて、ちめたいのやぁぁああああっ!!」バサバサバサ
独立宣言などかましたものの、野生で生きていく知識など何一つ教えられていないアライちゃん。
在るはずもない餌を探し、無意味に雪をかき分け無駄に体力を消費して行く。
78 名前:前スレ>>937>>980に捧ぐ(11/25) (ワッチョイ ff12-x5jG)[sage] 投稿日:2017/11/12(日) 19:25:08.70 ID:eaZ7umBs0 [11/26]
アライちゃん1「じゅるるっ、い、いもぉとっ!もっとしっかりさがすのりゃあっ!!」ベチィッ
アライちゃん2「びぃぃぃいぃっ!じゅるるっ、あ、アライしゃんはおねーしゃよりいっしょけんめいさがしてゆのやぁ!」ベチィッ
アライちゃん1「じゅびぃいっ!?こ、このなまいきなやつなのりゃ!はんこーするななのりゃあ!!」シャーッ
遂には不毛な姉妹喧嘩まで始める始末、アライさんに生きている価値が無いことが実感できる光景である。
アライちゃん2「じゅびっ、おねーしゃストップなのや!」ジュルル
アライちゃん1「じゅぴっ、なにをいって…… のりゃ?」ジュズズ
醜い姉妹喧嘩は妹の突然の制止で急に終わりを告げた。
二匹のアライちゃんは何かを感じ取ったのである。
アライちゃん2「ずびっ……」ジュルルル
アライちゃん1「じゅるるっ……」ズビビビ
それは人間にはかろうじて感じ取れるぐらいの僅かな振動。
しかし、小さなアライちゃんたちにとってその振動は振動と言うより震動であった。
何かが自分たちに近づいてきている、幼い害獣に理解できるのはそれがせいぜいであったが。
79 名前:前スレ>>937>>980に捧ぐ(12/25) (ワッチョイ ff12-x5jG)[sage] 投稿日:2017/11/12(日) 19:30:13.71 ID:eaZ7umBs0 [12/26]
アライちゃん1「なんなのりゃ…… じゅぴっ」ジュルル
アライちゃん2「わかんないのや…… ずずずっ」ジュルンッ
ズゥン、と一際大きな震動を感じた時、アライちゃんたちはようやくその正体を視界に収めた。
それは黒い毛むくじゃら、幼獣共は知る由もないがこいつらの母親を殺したものと同じ種族の生き物である。
そう、熊だ。
どうやらこのアライちゃんたちの母アライさん辺りに餌を掻っ攫われたのであろう、哀れにも空腹で冬眠ができなかった個体のようだ。
アライちゃん1「のりゃ……」ジュルル
アライちゃん2「のやぁ……」ジュピピ
生まれて初めて見る母親と姉妹以外の生き物、アライちゃんたちは驚きを隠せないようだ。
熊の方はというと、特に驚きもせずアライちゃんたちの匂いを嗅ごうとしている。
アライちゃん2「じゅびぃぃぃぃっ!?」ビックーン
妹アライちゃんは自分の身体ぐらいの大きさの顔が眼前に迫ってきたことへの恐怖で固まってしまった。
だが、姉アライちゃんは違った。
80 名前:前スレ>>937>>980に捧ぐ(13/25) (ワッチョイ ff12-x5jG)[sage] 投稿日:2017/11/12(日) 19:35:14.77 ID:eaZ7umBs0 [13/26]
アライちゃん1「ちゃ~っ!」ピッ
何と、恐れを知らない馬鹿とはかくも愚かで阿呆なのだろうか。
万が一の可能性ではあるが、刺激しなければ見逃されることもあったかもしれない。
しかし、このドがつく阿呆はろくな攻撃力もない爪を熊の鼻先に突き立てたのだ。
アライちゃん1「ふはははーっ!おまえがなにものかしりゃないけお、アライしゃんはむてきなのりゃあ!!」ピカピカ
アライちゃん2「おねーしゃんっ!」ピカピカ
アライちゃん1「だってアライしゃんはあのおかーしゃんのこどもなのりゃ!とってもいだいなのりゃ!てんかとりゅのりゃ~~~!!」ピカピカ
昨日親子の縁を切ったはずの母親を持ち出し、自身の強さを誇るアライちゃん。所詮アライさんの頭脳なんてこんなもんである。
アライちゃん1「ふはははー!こーさんするなりゃアライしゃんのけらいにしてやってもいいのりゃ!」ピッカピッカ
アライちゃん2「アライしゃんたちのこぶんにしてやるのやぁ~!!」キャッキャッ
彼我の戦力差に気付けるはずもないアライちゃんたちは完全に勝ち誇っている。
なぜここまでアライさんという生物は阿呆なのか、いや別に知りたくもないが。
アライちゃん1「どーするのりゃ?アライしゃんのてしたになっていっしょにてんかとりゅのりゃ?それとも……」コスコスコス
自信満々で熊が選択するはずもない選択肢を上げるアライちゃん。
アライちゃん2「しにたくなければアライしゃんたちにふくじゅうするのばぁっ!?」グチャッ
アライちゃん1「……のりゃ?」クビカシゲ
81 名前:前スレ>>937>>980に捧ぐ(14/25) (ワッチョイ ff12-x5jG)[sage] 投稿日:2017/11/12(日) 19:40:46.91 ID:eaZ7umBs0 [14/26]
姉アライちゃんに追従しようとした妹アライちゃんの首があった辺りに黒くて毛むくじゃらの太いものが急に現れた。
何が起きたのか理解できず首をかしげる先生まれアライちゃん。
アライちゃん1「いもーと、どこいったのりゃ?」キョロキョロ
とりあえず辺りを見回してはみたものの、妹の顔はどこにもない。
しかし、妹の腰と足と尻尾はその黒い毛むくじゃらから生えているのだけは見えた。
アライちゃん1「のりゃ?」クビカシゲ
不意に黒い毛むくじゃらが上に動いていった。
その行き先をアライちゃんが目で追っていくとさっき自分が攻撃した変なのがいるではないか。
そして、黒い毛むくじゃらがあった場所を見るとそこには真っ赤な何かを撒き散らして潰れているものがあった。
アライちゃん1「……のりゃ?」クビカシゲ
アライちゃんは、これを知っている気がした。
一生懸命に思い出そうとするアライちゃん、果たしてこれは何だったのか。
ビクビクと醜い痙攣を見せる妹の下半身を見て、ようやく気がついた。
アライちゃん1「の、のののののの…… のりゃあああああああっ!!!!」ヨチヨチヨチ
幼い害獣はようやく理解した。
82 名前:前スレ>>937>>980に捧ぐ(15/25) (ワッチョイ ff12-x5jG)[sage] 投稿日:2017/11/12(日) 19:45:10.92 ID:eaZ7umBs0 [15/26]
妹はどこにも行っていない、ずっと同じ場所にいたのだ。
あの黒いけむくじゃらは変な奴の腕で、妹はそれで押し潰されて、そして死んだのだと。
余りの寒さに凍死した一番下のアライちゃんを返事をしないガイジと思い込んでその死を理解できなかったアライちゃん。
そんなアライちゃんは自分のすぐ横で妹が潰し殺されたことでようやく死というものを理解したのである。
アライちゃん2「にげ、にげゆのりゃあああっ!ぴぃぃいぃぃぃぃぃぃぃいいぃぃぃぃいっっ!!!」ヨチヨチヨチ
殺される、殺される。あの毛玉に殺される、殺されればどうなる?死だ、死、あるのみだ。
アライちゃんは必死に四つん這った。
三日三晩、一週間いや一カ月、もっとだ一年。それだけの間アライちゃんは必死に逃げた。
逃げなければ必死なのだから当然である。
遂に目覚めた死への恐怖、それから逃れるために。
だが、そんな気の遠くなるような時間逃げ続けたのはアライちゃんの体感でしかない。
実際のところはほんの1,2秒程度の間の出来事で、進んだ距離は鼻で笑えるくらいだ。
だから、アライちゃんの必死の全力ヨチダッシュは熊に瞬時に追い抜かれ……
アライちゃん1「のびゃっ……がはっ!!」ゴパァッ
熊の強烈な打ち上げアッパーを受けてアライちゃんの身体は一瞬にして妹アライちゃんの死骸のそばに転がった。
83 名前:前スレ>>937>>980に捧ぐ(16/25) (ワッチョイ ff12-x5jG)[sage] 投稿日:2017/11/12(日) 19:50:11.21 ID:eaZ7umBs0 [16/26]
アライちゃん1「の、のりゃ…あぁ……」ズリ・・・・ズリ・・・・
凄まじい痛みが幼いアライちゃんの全身を駆け巡る。
今すぐ泣き叫んで大好きだったお母さんに助けてほしい、その思いを必死に抑え、アライちゃんは痛みを堪えながら這いずる。
何故なら、そんなことをしたところで自分は助からない。生き抜くためには何としてもこの場を自力で逃げなけらばならない。
幼い身ながらそのことをこのアライちゃんは先程からの僅かな時間の中でしっかりと自覚していたのだ。
アライちゃん1「あ、アライしゃんは…てんか、とゆの…… りゃぁああ……!」ズリ・・・・
少しずつ、少しずつではあるがアライちゃんは確実にその場から離れていく。
生き抜くため、天下を取るため、カタツムリにも劣る進行速度でアライちゃんは前に進んでいく。
だが、それは儚き抵抗だった。触れれば割れるシャボン玉のような虚しい反攻だった。
アライちゃん1「ぴっ、ぎぃぃぃ……っ!!?」ビックーン
醜く這いずるアライちゃんの尻尾を熊が後ろ足で踏みつけたのだ。
84 名前:前スレ>>937>>980に捧ぐ(17/25) (ワッチョイ ff12-x5jG)[sage] 投稿日:2017/11/12(日) 19:55:12.82 ID:eaZ7umBs0 [17/26]
アライちゃん1「うぬぬ…… は、な、すのりゃあああっ!!」カプッピピピッ
――――生きる。
その一念で恐れも痛みも乗り越えて、アライちゃんはその牙を爪を熊の足へと突き立てる。
そう、全ては生き抜くために!天下を取るために!
アライちゃん1「のぉぉぉりゃぁあああああああああっっっ!!!」カプカプカプ
しかし、ああしかし、熊はそんなもの意にも介さない。
アライちゃんの必死の抵抗を軽く流して熊は妹アライちゃんの死骸を手に取る。
アライちゃん1「のりゃっ、はっはっ…… だ、だったや…… のりゃあああああっ!!」ググググ・・・・
熊に自分の攻撃が一切効いていないと悟ったアライちゃんは作戦を変更した。
全身全霊を込めて自ら尻尾を引きちぎり、熊の後ろ脚から脱出しようというのだ。
ああ、なんと悲壮な覚悟だろう。生きるために、自らの身体の一部を捨てるというのだから。
アライちゃん1「の、りゃああああーーーーーっ!!!」ググググ・・・・
まぁ、所詮非力なアライちゃん。万全の状態でもはっきり言って自分で尻尾を引きちぎるほどのパゥワ―はない。
さらに今は熊の打ち上げアッパーを受けていたるところを脱臼、骨折している。
尻尾を引きちぎっての脱出なんて最初から無理なのである。
アライちゃん1「の、りゃぁ……っ!ああっ……」グググ・・・・ガクッ
どうして尻尾がちぎれないのか、一目確認しようと振り返ったアライちゃんの目に衝撃的な光景が飛び込んできた。
85 名前:前スレ>>937>>980に捧ぐ(18/25) (ワッチョイ ff12-x5jG)[sage] 投稿日:2017/11/12(日) 20:00:11.02 ID:eaZ7umBs0 [18/26]
妹アライちゃんの死骸が熊にボロボロに食いちぎられているという凄まじい光景だ。
熊の強靭な顎の力の前には幼いアライちゃんの骨などちょっと硬いせんべい程度の代物。
ブチブチと音を立てて肉を噛みちぎり、秋に満たせなかった空腹を熊は埋めていく。
その光景を見て、アライちゃんは抵抗など無意味だと気付いた。気付いてしまった。
しかし、まだアライちゃんの生き抜こうとする意思は砕けなかった。
幼い未熟な頭脳を必死にフル回転させ、この場を切り抜ける命乞いを考えた。
考えて、考えて考えて、一つの答えを導き出した。命を繋ぐ、最高の命乞いを。
アライちゃん1「お、おい…… そこのおまえっ!アライしゃんをみのがしてくれたなや……」プルプル
アライちゃんには確信があった。この言葉を言えば、どんな奴でも自分を見逃すはずだという確信が。
アライちゃん1「アライしゃんがおおきくなったときに、いちばんさいしょにこうびしてやうのりゃ!!」ビッシィーン
86 名前:前スレ>>937>>980に捧ぐ(19/25) (ワッチョイ ff12-x5jG)[sage] 投稿日:2017/11/12(日) 20:05:04.49 ID:eaZ7umBs0 [19/26]
決まった。
現時点で比肩するものなど皆無な可愛さを持つアライちゃんなのだ。
大人になったらそれはもう殆どのものがひれ伏すほどに超絶美しいアライさんになるに決まっている。
そんな自分の処女をくれてやるというのだ。これを聞いて自分を見逃さない奴はいない。
完全に決まった。
と、アライちゃんは満面のドヤ顔を見せながらそう確信していた。
しかし、熊の方はそんなアライちゃんのどうしようもない誇大妄想なんて微塵も気にしていなかった。
アライちゃん1「の、のりゃっ!?どうしたのりゃ!アライしゃんのはじめてをあげゆっていってゆのりゃ!はやくはなすのりゃぁあっ!!」ジタバタバタ
いつしかアライちゃんの妹だったものは右足を残すのみになっていた。
そこまできてようやくアライちゃんは理解した。
87 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ ff12-x5jG)[sage] 投稿日:2017/11/12(日) 20:10:28.34 ID:eaZ7umBs0 [20/26]
熊は自分のことを餌としか見ていない。よくて、ちょろちょろ動く餌程度にしか思っていないことに。
ついにアライちゃんの心は恐怖に負けた。
アライちゃん1「の、のりゃぁぁ…… のりゃぁあぁぁああああんっ!!」ビェェェン
アライちゃんは泣いた。眼前にまで迫ってきた市から決して逃れられないことを悟った故に。
アライちゃんは泣いた。最早如何なる抵抗も如何なる言葉も死から逃れる手段にならないことを悟った故に。
アライちゃんは泣いた。自分にはもうあの毛むくじゃらに食われて死ぬしかないことを悟ったが故に。
アライちゃん1「たちゅげてぇえええっ!おがーじゃんっ、おがぁじゃぁああああんっ!!」ビエェェェン
自分から切り捨てた母親に助けを求めるアライちゃん、本当にどうしようもない生き物である。
もっとも母親が生きていたところで、とうに育児放棄をした後であり助けに来てくれるはずもないのだが。
アライちゃん1「じにだぐないぃぃぃぃいっ!じにだぐないのりゃぁぁあああぁんん!!」ビェェェ
全ての生き物が心の奥底で願っているであろう思いがアライちゃんの口から洩れる。
だが、ジタバタしたってもうどうしようもない。目の前の現実は変わらない。
88 名前:前スレ>>937>>980に捧ぐ(21/25) (ワッチョイ ff12-x5jG)[sage] 投稿日:2017/11/12(日) 20:15:11.71 ID:eaZ7umBs0 [21/26]
妹アライちゃんの右足を咀嚼し飲み込んだ熊はいよいよ先生まれアライちゃんへと手を伸ばした。
アライちゃん1「びっ、びぃぃぃぃぃぃぃいいいいっ!!!ばなぜっ、ばなずのりゃぁああああああ!!!」ジタバタバタ
掴まれたアライちゃんは最後の抵抗を見せる。ジタバタ醜い蠢きを見せたが、なんとそれが功を奏した。
はずもなく、かえって酷いことになってしまった。
頭から食らいつこうとしていた熊はアライちゃんの抵抗を受け、尻尾から食らいつくことにしたのである。
アライちゃん1「ぴぎぃぃぃぃいいいいいいっ!!あ、アライしゃんのしっぽがぁぁあああっ!かわいいしっぽがぁあああああっっ!!!」ブチブチブチィッ
先程自分から引きちぎろうとしていたくせに、いざ尻尾がちぎられるとうるさく泣きわめくアライちゃん。
だが、この手の中の小さな生き物の生殺与奪の権限を握っている熊はそれを意にも介さない。
アライちゃん「のぎゃぁぁああああぁぁあああああああーーーーーーーっっ!!!!」ブッチィーン
続いて左足が噛みちぎられ、熊の胃を満たす餌となっていく。
先程までの殴られた痛み、尻尾をふんづけられた痛み、そして尻尾を噛みちぎられた痛み。
それらの痛みが最上級の痛みだと思っていたアライちゃんをあざ笑うかのように想像を絶する激痛が脳天まで走り抜ける。
89 名前:前スレ>>937>>980に捧ぐ(22/25) (ワッチョイ ff12-x5jG)[sage] 投稿日:2017/11/12(日) 20:20:03.23 ID:eaZ7umBs0 [22/26]
アライちゃん1「いぎゃっ、いぎゃっ、いびゃ……うびぃぃぃいぁぁぁぁあいぃえぇぇぇええええっ!!!」ビクビクビックゥーン
痛みのあまり、アライちゃんは痛いという言葉さえまともに言えなかった。ただ、痛みを訴えるだけの不愉快な悲鳴が漏れるだけだ。
熊は痙攣するアライちゃんの身体をしっかりと握り、右足、そして腰まで一気にかぶりついた。
熊はアライちゃんの下半身を一息にかっ喰らったのだ。
アライちゃん1「――――――――――――――――――っ!!!?」ブルッブルブルブル
言葉はもう出なかった。
ただただ、痛いという事実だけがアライちゃんの残された体を苛み、死という真実だけが重くのしかかった。
視界は明滅と急回転急旋回を繰り返し、耳から聞こえるのは何かが壊れていく音。
アライちゃんは、残った体を駆け巡る異常な感覚に心の底から身震いしつつ死というものを覚悟した。
そのときである。
アライさん「ちびー!待たせたのだぁ!!」ドタドタドタ
90 名前:前スレ>>937>>980に捧ぐ(23/25) (ワッチョイ ff12-x5jG)[sage] 投稿日:2017/11/12(日) 20:25:13.13 ID:eaZ7umBs0 [23/26]
ブサイクな走り方でアライちゃんの母親たるアライさんが駆け寄ってきたのである。
まさか、そんなばかな、ありえない。
しかし、最早機能していないはずのアライちゃんの視覚にそのアライさんの姿ははっきりと見えていた。
そして、その聴覚にも聞き覚えのある声が届いていた。
アライさん「ふはははーっ!助けに来てやったのだ、チビ!こんな奴、アライさんにお任せなのだ!!」ドタドタドタ
きっと、これはアライちゃんが死の直前に見た幻にすぎないのだろう。
だが、アライちゃんは必死に手を伸ばした。駆け寄ってくるアライさんに向けて手を伸ばした。
そして――――
アライちゃん1「このガイジ…… どうしてもっとはやくこなかったのりゃ……!」ペッ
幻のアライさんに唾を吐いて一言、恨み節を漏らして死んだ。
残された死骸は熊が頭骸骨まで噛み砕き、その血肉と化した。
このように、過酷な冬を乗り越えられるアライさんは決して多くはない。
アライさんは、アライちゃんは今日もどこかで死んでいるのだ。ざまぁみろ。
91 名前:前スレ>>937>>980に捧ぐ(24/25) (ワッチョイ ff12-x5jG)[sage] 投稿日:2017/11/12(日) 20:30:16.49 ID:eaZ7umBs0 [24/26]
―――――
―――
―
アライさん2「のだぁあああっ!!」ボコッ
アライさん2「ふぅぅ…… 雪でお家が埋まった時はどうしたものかと思ったのだ……」パンパンッ
冬の終わりが近づき、春の兆しが見え始めたころ、一匹のアライさんが雪の中から顔を出した。
餌不足で冬眠できずに彷徨う熊や厳しい寒さにも負けずに生き残ったのだ。
アライちゃん4「のやぁあああっ!!」ポコッ
アライちゃん5「のりゃあああっ!!」ポコッ
なんと、二匹のアライちゃんも飛び出してきた。
アライさん2「しかしアライさんは賢いのだ!こんなこともあろうかとお家の中にいっぱい食べ物を隠しておいたのだ!!」コスコスコス
アライちゃん4「おかーしゃんしゅごいのやぁああ!!」コスコスコス
アライちゃん5「てんしゃいなのやぁあああ!!!」コスコスコス
どうやら雪に閉じ込められたものの蓄えていた食料でどうにかしのぎ切ったらしい。
92 名前:前スレ>>937>>980に捧ぐ(25/25) (ワッチョイ ff12-x5jG)[sage] 投稿日:2017/11/12(日) 20:32:27.80 ID:eaZ7umBs0 [25/26]
アライさん2「でも、もう食べ物はないのだ……」ショボーン
アライちゃん5「おなか、くーくーなのや……」ショボーン
アライちゃん4「のりゃぁ……」ショボーン
しかし、もう食料は底を尽きたようだ。
アライさん2「……ふはははーっ!でも安心するのだチビたち!このかんじ、もう冬は終わったのだ!!」コスコスコス
アライちゃん4「のりゃ?」クビカシゲ
アライちゃん5「のやぁ?」クビカシゲ
アライさん2「もう、食べ物は外にいっぱいあるのだ!早速探しに行くのだー!!」ドタドタドタ
アライちゃん4「のりゃあああー!!」ヨチヨチヨチ
アライちゃん5「のやぁあああー!!!」ヨチヨチヨチ
凄まじいバイタリティである。
アライさん一家は巣穴を雪で埋め隠すと食料探しの旅へと出発した。
道中、ここではどの季節に何が採れるか、こういう場所はどう利用すればいいか、生きていくための知恵を子どもたちに教えるアライさん。
こうやって害獣共は連綿と命を次の世代へと繋げているのだろう。
最終更新:2018年04月06日 22:33