アライちゃんといざかまくら

499 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ 6b71-aKZ8)[sage] 投稿日:2018/01/09(火) 01:22:12.98 ID:pib5SqgX0 [3/6]
季節は冬。日本海を渡って吹き付ける冷たい風が、日本アルプスとぶつかって生み出す雪雲が、容赦なく
雪を積もらせる日々。
他人のおこぼれにあずかるしか能のないアライさんには厳しい季節である。

アライさん「うう…寒いのだ…」

東北は日本海側の降雪地帯、あまり開発もされていないいち地方都市。
その車通りもまばらなアスファルトの道路を、さらに交通量が少なくなる深夜、
アライさん一家が歩いていた。

アライちゃん1「ちゃむいのら…おかあしゃんなんとかするのら…」

アライちゃん2「ちゃむいのらぁ…」ブリブリブリブリビチビチ

アライちゃん3「…」

成獣のアライさんはまだともかく、その仔のアライちゃんたちも精彩を欠いている。一匹はお腹を下したらしく
汚らしい下痢便を垂れ流しているし、一匹は口を開く気力すらない。限界が近いのは明らかだった。

アライさん「…こうなったら、あれを試してみるのだ」

まるで秘策があるような口ぶりであるが、実際のところはそう大した話ではない。仔を授かる前一頭で雪山を
うろついていた時、人間がビバークしているのを見たことがあるのだ。その当時は冷たい雪に穴を掘って
避難したって冷たいに決まってるのだ、あのニンゲンはガイジなのだ、とせせら笑っていたアライさんであるが、
自分に都合の良いように、そんな部分は忘れている。

アライさん「…! あったのだ、おっきな雪山なのだ!」

アライちゃん1「ゆきやまであったかくなるわけないのら、がいじなのら……」

アライちゃん2「ちゃむいのらぁぁぁ…」ブリブリビチビチ、ブチュ、ブシュッ、

アライちゃん3「……」

ちょうどよくアライさん一家の前に現れたのは、二十台強ほどが停められそうな駐車場を持つホームセンターだった。
その駐車場の隅には、何台ぶんかの駐車スペースを犠牲にして、駐車場を除雪した雪が山となって盛られている。

アライさん「アライさんにお任せなのだ!」

アライさんは雪山に取り付くと、冷たさをこらえて穴を掘り出した。すべては我が子を守らんがため、母の愛が
成せる業である。

しかし。

アライちゃん1「そんなゆきをほったってエサはないのら、がいじなのら……」

アライちゃん2「ちゃむいのらぁぁぁぁぁぁぁ…」プスゥ、プシュ、プスッ

アライちゃん3「…………」

アライグマは一般に、穴を掘るのは対して得意ではない。アライさんになってもそれは同じことだった。
人間大の手足を得たぶんだけ早くはなっているのだろうが、どうにもちんたらしている。
母の愛も、アライちゃんたちにはいまいち伝わっていないようだ。

アライさん「ぜぇ…はぁ、…つ、疲れたのだ……」

それでも一心不乱に掘った甲斐はあったのか、アライちゃんサイズなら十分入ることが可能な横穴ができあがった。


500 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ 6b71-aKZ8)[sage] 投稿日:2018/01/09(火) 01:22:43.22 ID:pib5SqgX0 [4/6]
アライさん「ぜぇ、はぁ……。さぁチビたち、この中で休むのだ」

アライちゃん1「…もううごけないのだ……」ヨチ…ヨチ…

アライちゃん2「ちゃむい…らぁ…」プスゥ、プシュ、プスッ

アライちゃん3「……………」

アライちゃん1と2はそう言いながらもよろよろと横穴に入っていく。アライちゃん2の下痢はもう出すものが
なくなって止まったようだ。アライちゃん3はもう動けなかった。

アライさん「入るのだ!」

アライちゃん3「……………ぅ」ボトッ

アライちゃん3はアライさんに掴まれてぽいっと穴の奥へ投げ入れられた。愛はあれどこういうところが雑なのが
アライさんの限界と言える。まだかろうじて息はあるようだ。

アライさん「う、ぐ……せ、せまいのだ…」

身をかがめ、四つん這いでないと成獣のアライさんにはきつい大きさである。

アライさん「…けど、風に吹かれないのは、思ったよりラクなのだぁ」

ようやく一息つけたと、少しアライさんの顔がほころぶ。

とはいえ皆空腹だ。エサを見つけてこなければ、まずチビたちが危ない。息が整ってくると、アライさんは発つ決意をした。

アライさん「よし、アライさんはエサを探してくるのだ。おまえたちは、ここで待っているのだ」

アライちゃん1「わかったのら……」

アライちゃん2「ちゃむ…い……」プスゥ、プシュ、プスッ

アライちゃん3「…………………」

アライさん「……」

わかっていたことだか、三匹とも限界が近い。急がねばならない。
アライさんはずりずりと横穴から這い出すと、一目散に駆け出した。

夜勤終わりの青年「飛び出し?! やべぇ…!!」キキーーッ!!

アライさん「じびぇっ?!!」ドン!!!!!!! …グチャ

そうして道路に飛び出した際に、たまたま通りかかったムーヴカスタムに撥ねられた。
ABSはきちんと作動したが、ツルツルに凍っていた路面に対してあまりにも制動距離が不足していた。
結果、アライさんはほとんど減速していない軽自動車に衝突され、肋骨の大部分を骨折し、血を吐きながら飛んでいった。

アライさん「」ガクッビグッビグッバタッバタタタッビグンビグッバタタッ

ガチガチのアイスバーンに頭から叩きつけられたアライさんは、脳を激しく損壊させ、見苦しいゴキカイジムーブを
行った後に絶命した。

夜勤終わりの青年「………はぁぁぁぁぁぁ~。…良かった、アライさんで」

人身事故を起こしてしまった!と思って真っ青になっていたドライバーは、胸をなでおろし、心の底から
安堵の息をついた。
あれがヒトだったら大変なことだったと自分を戒め、たしか自分の保険は単独事故も直せるはず…と
算段をつけながら、アライさんの死骸には目もくれずに再び走り出し、安全運転をこころがけて家路についた。


501 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ 6b71-aKZ8)[sage] 投稿日:2018/01/09(火) 01:23:08.13 ID:pib5SqgX0 [5/6]
さて、この元アライさんは、明け方カラスたちのお腹を満たしてこの世から退場するわけであるが、
彼女の遺児たちはいったいどういう運命をたどるのか?
「知ってた」とか言われそうであるが、もうすこしお付き合いいただこう。

アライちゃん1「……くらいのら……」

アライちゃん2「ちゃ…む………」プスゥ、プシュ、プスッ

アライちゃん3「……………………」

遺されたアライちゃんたちだが、自分たちの母親に降り掛かった出来事をなんにもわかっていなかった。
というのも、決意も固く一目散に飛び出したアライさんのせいで、時間差で静かに横穴の入り口の上の雪が
崩れ落ち、穴を塞いでいたのだった。

酸欠が危惧されるほどしっかりと塞がったわけではない。今すぐ掘れば脱出は可能だろう。しかしそれも、
疲労困憊のアライちゃん3匹には荷が重かった。

ただただ時間だけが経過し、夜が明けた。

ゴウンゴウンゴウン…

アライちゃん1「……なんなのら……?」

一番マシなコンディションのアライちゃん1がその音に気づいた。ヒトしゃんののりもの…クルマの
おおきいやつの音だ、とアライちゃん1は気づいた。しかしそれをかき消すほどの、この何かを
引きずるようなでかい音はなんだ…?

その正体は…

オペレーター「さーて、ちゃっちゃとすますか」

駐車場の除雪に駆り出された除雪車が、古い雪山にさらに雪を集めている音だった。しんしんと静かに降った
雪にアライちゃんたちが気づけるはずもないが、その降雪量は50cmにもなった。除雪車によって集められた
雪は押し込まれ、圧縮され…

アライちゃん1「ぎゅぶうううぅぅぅうぅ?!?!」

アライちゃん2「じびぇえぇぇぇぇ?!?!」

アライちゃん3「……………………」

アライちゃんたちの居た空洞もあっけなく崩れた。アライちゃん3はすでに息絶えていたが、雪に生き埋めに
なって窒息するアライちゃん1や2に比べればまだマシだったのかもしれない。

もちろん除雪車のオペレーターが巻き込まれたアライちゃんたちに気づくはずもなく、彼は自分の仕事をこなして、
依頼主…ホームセンターの店長に報告に行った。

オペレーター「終わりました―。クルマ戻してもオッケーっすよー」

店長「まいど、どうもご苦労様です」

オペレーター「そろそろ排雪もしてほうがいいかもしんないっすね」

店長「無茶苦茶降ったものねえ」

オペレーター「ダンプ使う現場増えてくんで、今のうちっすよ。親方に言っときましょうか?」

店長「うーん、じゃあお願い」

オペレーター「うっす。じゃあお疲れ様です」


502 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイ 6b71-aKZ8)[sage] 投稿日:2018/01/09(火) 01:23:37.74 ID:pib5SqgX0 [6/6]
店長「お疲れ様です」

アライちゃん1「……………………」ブリブリ…ミチミチ…

アライちゃん2「……………………」ビチビチ…ジョロジョロ…

アライちゃん3「……………………」

窒息死したアライちゃんたちは体の中のものを垂れ流していたが、分厚い積雪の奥なのでもちろん誰も気づかず、
しばしの時がながれた。




うって変わって、抜けるような青空の広がる快晴。

オペレーター「じゃあ始めますか」

ドライバー「うーい」

早朝、件のホームセンターの駐車場には一台のダンプとショベルカーが止まっていた。このショベルカーが
うず高く積まれた雪を掻き出し、ダンプに積めるだけ積む。そして、適当に開けた場所…この街の場合は河川敷だ…
に捨てに行く。地道といえば地道だが、客商売なのにいつまでも駐車場を圧迫させておくわけにも行かないのだ。

アライちゃん1「……………………」ドサドサ

アライちゃん2「……………………」バサバサ

アライちゃん3「……………………」ゴロゴロ

いちいちゴミを選別したりはしないので、アライちゃんたちだったものも一緒くたにダンプに乗せられ、運ばれてゆく。

河川敷に山と積まれた雪の上に、アライちゃんたちだったものも振りかけられ、またすぐにその上から
雪が振りかけられた。

アライちゃん1「……………………」

アライちゃん2「……………………」

アライちゃん3「……………………」

やがて厳しい冬が過ぎ、春になった。

小春日和の柔らかな日差しが、少しずつ雪の山を溶かしていく。

アライちゃんたちだったものも、徐々に露わになってくる。

カラス「カァ、カァ」

そして待ってましたと言わんばかりにカラスに食われた。奇しくも母親と同じ最期を辿ったのであった。

(アライさんが少しでも減って)めでたしめでたし。


503 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイW 1f62-RjiE)[sage] 投稿日:2018/01/09(火) 08:11:51.25 ID:kf3DEoL50
面白かった
クソ害獣の死には冬と雪がよく似合う


504 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (アウアウカー Sa4f-lN22)[sage] 投稿日:2018/01/09(火) 08:35:13.43 ID:pk0LT2ESa
雪山ちほーのアライさんには厳しい季節だからねー
賢いアライさんなら雪が降る前に巣穴を確保して餌を蓄えて冬を乗り越えそうだけどヨチラー連れの新米母アライさんには厳しいかな?


505 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワンミングク MMbf-V97V)[sage] 投稿日:2018/01/09(火) 11:25:40.84 ID:otqco2zzM
凍えて震えるアライちゃん良いよね

504
餌ためても今度はそれを目当てにやってきたアライさん同士の家族対決の殺し合いが見れそう


最終更新:2018年01月10日 22:56