717 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイWW 9f72-1M3p)[sage] 投稿日:2018/06/21(木) 01:19:37.40 ID:xzGQyyPP0 [1/6]
アライしゃん「やめるのだ!アライさんはなにも悪いことしていないのだ」
昨日仕掛けておいた畑のかご罠にかかった3匹のうち、真っ先に口を開いたのは一番大きく育ったアライちゃんだ。
アライちゃんA「そうなのだ。アライしゃんはごはんを食べていただけなのだ」
我が家でここまで育てた家庭菜園のジャガイモは無惨な姿で周囲に転がっている。明らかに興味本意で掘り起こすだけ掘られたジャガイモたちはきれいに一口ずつかじられている。コレが食卓に上ることは永久にないであろう。
子供には何と伝えよう。土にまみれて苗植えを手伝った我が子への言い訳を考えている間にもアライちゃんたちは罠のなかをしきりに体当たりをしたりしながら動き回っている。
体が一番小さいアライちゃんBはかご罠のなかで比較的大人しくしている。
口回りに着いたら血の痕からかご罠に仕掛けたメンチカツに食いついたのはこいつのようだ。
大人しいのはエサに食いついた際に負った傷が原因ではない。こいつのせいで罠に閉じ込められたことを察した二匹のけものにひどく傷つけられたからだ。
昨日仕掛けた時間からみてこいつらが捕獲された夜中からずっとかご罠のなかで醜い争いがあったのだろう。
アライちゃんBの耳は片方が取れかかっており、頬は腫れ上がっている。
さて、こいつらをどう始末しようか。
724 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (スププ Sd9f-1M3p)[sage] 投稿日:2018/06/21(木) 10:09:21.55 ID:/W6b7r2Xd [1/2]
とりあえず話しが通じるかどうか試してみよう。
「あの畑を荒らしたのは君たちかい?」
掘り起こされたジャガイモの残骸を指しながら声をかけてみる。
「あの根っこは美味しくなかったのだ」
一番大きなアライしゃんが動きを止めて答えた。なるべく怒りを表に出さないようにしたのが効を奏したのか、敵意なしと感じたのか。
「このあいだあった赤いつぶつぶがないので、しょうがないからあの根っこを食べたのだ」
大きい方のアライちゃんが横から割って入ってきた。
「赤いつぶつぶおいしかったのりゃ。またたべたいのりゃ!」
どうやら先日ミニトマトを全滅させたのはこいつらで決まりらしい。
子供と一緒に作った小さなビニールハウスは一昨日の朝変わり果てた姿で収穫にきたうちの子を出迎えた。
朝食に使う野菜を自分で採ってくるという仕事に誇りを感じ始めていた子供が泣いて悲しむのを苦労してなだめながら罠を仕掛ける決心をした。
熟れているものだけでなくまだ青いトマトまで枝から取り尽くされ地面に打ち捨てられていたことで、おおよその犯人は分かっていた。
捕まえたはいいがどうするか。思案のしどころだ。
725 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (スププ Sd9f-1M3p)[sage] 投稿日:2018/06/21(木) 10:45:04.29 ID:/W6b7r2Xd [2/2]
「ありゃいしゃんたちはこのはこからでられなくなったのりゃ・・・」
一番小さいアライちゃんが怖々と声を出した。メンチカツを刺していたフックで負った口の傷が痛むのか、散々に殴打されたらしい頬の腫れのせいか、やや不明瞭で小さな声だ。
小さなアライちゃんが口を開くとアライしゃんは振り返ってうずくまる小アライちゃんに顔面を一蹴りした。
「おまえがなにかしたからアライしゃんはこの箱からでられなぬなったのりゃ!!」
「おいしいものをひとりじめしようとしたのりゃ!くちにはりがひっかかったのはばちがあたったのりゃ!」
メンチカツと罠の因果関係は想像がついたようだが、三匹まとめて閉じ込められたのは自分たちもエサに釣られて罠に入ったためだが、そこには気が回らないらしい。恐らく姉妹であろう小さいアライちゃんを二匹は口汚く罵っている。
「ひぃ!?キュルルルル」
小さいアライちゃんは取れなかった耳をかばうように頭を抱えてうずくまる。
その怯えかたから朝までどんな目にあってきたかがおおよそ察せられた。
よく見れば毛皮(?)にも無数の引っかき傷がみられた。
これからコレらをどうにかしなければならないと考えるとうんざりしながら罠の中の三匹を見下ろした。
726 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイWW 9f72-1M3p)[sage] 投稿日:2018/06/21(木) 14:09:04.75 ID:xzGQyyPP0 [2/6]
「とりあえずここから出してあげよう。一匹ずつね」
厚手の革手袋をつけながらそう言うと入り口が上になるようにかご罠を引き起こした。
三匹の小さいけものはもつれるように転がりながらかご罠の底に落ちて行く。
「きゅるる!?重いのりゃ~」
一番下になったアライしゃんが不満の声をあげた。上になった姉妹たちを蹴りつけて降ろそうと、もがいている。
「ひとしゃん!入り口をあけたらアライしゃんたちはそとにでられるのだ。はやくするのだ!」
大きいアライちゃんが罠の格子を登ろうとしながら言う。
アライグマは木登りが得意な動物だが、アライちゃんにはまだそこまでの腕力が具わっていないようだ。体を支えられずその場で格子にしがみついているのが精一杯のようすだった。
727 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイWW 9f72-1M3p)[sage] 投稿日:2018/06/21(木) 15:21:20.18 ID:xzGQyyPP0 [3/6]
「すぐに出してあげるよ。後で森にも帰してあげよう。ところで今日はこの三人だけ?お母さんや他の妹とか、いないの?」
そう聞くと三匹の顔が一斉に曇った。
「おかーしゃんはかえってこなくなったのりゃ・・・」
アライしゃんが俯いたままそう言うと他の人間も肩を震わせて泣きはじめた。
「おかーしゃはおちちがでなくなったのりゃ。ありゃいしゃんたちはすてられたのりゃ。したのいもーとたちはうごかなくなったのりゃ」
一番小さいアライちゃんが呟く。
大体の想像はつく。アライさんには第2、第3の発情期がある個体がいる。
アライグマは冬のの終わりの発情期に交尾する機会を逃すと夏前ごろまでは再び発情期を迎える。アライさんはその年出産を終え、ある程度育児を行うと次の発情期に入ることがあるのだと、畑仕事をならった農家さんから聞いたことがある。
この三匹の母親は離乳期を機に次の繁殖相手を見つけに行ったのだろう。
こうして生まれてくるアライちゃんたちは早い時期に産まれた個体ほど冬に向けて成長し、生存率が上がるという。
ここにいるのは離乳期を終えて畑にくるまで成長した『運のいい』アライちゃんと云うわけか。
728 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイWW 9f72-1M3p)[sage] 投稿日:2018/06/21(木) 16:38:04.33 ID:xzGQyyPP0 [4/6]
まあ、これで聞きたい事はあらかた聞けた。
「さあ、誰から出たいんだっけ?」
呼び掛けると罠の中は色めき立った。
「「「アライしゃんが・・・」一番なのりゃ!」」
一斉に言いかけて途中で小さいアライちゃんは言うのをやめる
。上の姉妹に気後れしてしまっている。一方で姉二匹は睨みあってお互いを威嚇しあっていた。
「「アライしゃんか先にでるのりゃ!」」
「アライしゃんはなぁ!立って歩けるんだぞ!いだいなんだぞ」
こいつは立てるのか。それは厄介。
「じゃあ、立てるアライちゃんから先にしようか」
道具箱から選定ばさみをとりだすと、左手をかご罠に差し入れた。
「やっぱりアライしゃんが一番なのだ」
得意気な顔をしながら左手に捕まろうとする手をはね除けるとアライしゃんの尻尾つかみ、一気にかごから取り出した。
状況が掴めずキョトンとしている宙吊りのアライしゃんの右手に選定ばさみを向けると、そのまま一気にレバーを握る。
ジャキン、という無機質な音とともにアライしゃんに右の上腕部あたりから下がポトリと地面に落ちた。
730 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイWW 9f72-1M3p)[sage] 投稿日:2018/06/21(木) 18:05:27.84 ID:xzGQyyPP0 [5/6]
「あ!?アライしゃんのう」
言いきる前に左腕を切り落とす。
思っていたよりずっと簡単に、あっけなく両腕は肘より少し上辺りで切断できた。
「ぎぃぃぃぁあああキュルルルルルあぁぁあ」
人間の声帯ではとても出せそうにない声でアライしゃんは叫んだ。いや、鳴いた。
「うで、うっできゅゅるるるる」
血を吹き出す断面を信じられないと言った目で見ながらもがいている。
切ったほうが言うのもなんだが、この光景を見ている気分は自分でも驚くほど平静だった。
これまで小動物を同じ目に遇わせたことなど勿論ない。この感覚はなんだろうか。逆さ釣りになったままうねうねと動くアライしゃんを見ながらふと思った。
740 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイWW 9f72-1M3p)[sage] 投稿日:2018/06/22(金) 00:53:11.13 ID:oTCTErp60 [1/8]
続きです。
腕を切られたアライしゃんは足をバタバタさせながら、なおも蠢いている。
その振動が尻尾を通して左手に伝わってくる。・・・尻尾?
厚い革手袋越しにも感じられる気味の悪い感触に顔を歪めながら、アライしゃんをまじまじと見た。
縞模様がついた、体には不釣り合いなほどの大きさの尻尾。
最初に罠にかかったこの生き物を見たときから、感じていた違和感。
「ひぃぃぃぃ!?アライしゃんのうでが切られたのだ!いたいのだぁはなすのだ!やめるのだぁ!!」
たとえ小さくとも生き物が命の限りに暴れれば相当の力だ。
しかし今のアライしゃんは尻尾を捕まれた宙吊りの状態。尻尾で体重を支えたり、姿勢を保持する動物は数知れずいるがどうやらアライさんにはその力はないようだ。
懸命に体を動かしてもせいぜい振り子のように揺れるのが精一杯。しかしその動きは尻尾を通じて伝わってくる。
ふさふさした毛皮の下にある、見た目ほどは太くはない尻尾。
「やっぱりこれかな」
選定ばさみをその付け根に近づけるとアライしゃんは大きく体を震わせた。
「やめるのりゃ!!アライしゃんのだいじのだいじな」
やっぱり最後までは言わせない。付け根に沿わせると今度も選定ばさみはいい音で仕事をしてくれた。
741 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイWW 9f72-1M3p)[sage] 投稿日:2018/06/22(金) 01:01:33.01 ID:oTCTErp60 [2/8]
「ぶしゅ」
顔から地面に落ちるとない腕で顔を擦るようにして転げ回る。
尻尾がないせいか少しダイナミックさに欠けるが。
それよりも切られて勝手に蠢く尻尾の気味悪さに思わず手を放してしまった。
742 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイWW 9f72-1M3p)[sage] 投稿日:2018/06/22(金) 01:03:31.32 ID:oTCTErp60 [3/8]
地面でまだ動いている尻尾を見ていると、かご罠の中の二匹が目に入る。
最初に切った右腕は罠の中に落ちていた。姉が少しずつ短くなっていくのを間近で見たのだ。
怯えて硬直している二匹に声をかけようとすると、大きなアライちゃんの方が転がっている右腕を掴むと、よろよろとつかまり立ちしながら掲げるように見せつけてきた。
743 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイWW 9f72-1M3p)[sage] 投稿日:2018/06/22(金) 01:04:20.48 ID:oTCTErp60 [4/8]
「みるのりゃ、あのねっこをほったのはおねーしゃんなのりゃ」
言われてみれば二匹の手には泥がついてない。アライしゃんの右腕には爪の間にも土が入り込み掘ったであろうあとがある。
「わるいのはぜんぶあいつなのりゃ。アライしゃんはわるくないりゃ!」
トマト泥棒を自白したのは意識さえしていないのだろう。この大きなアライちゃんは罪を姉に押し付けて保身を図っている。
確かに幼稚園児でさえ掘り起こせるイモ畑でも四足歩行のアライちゃんが掘るのは少し骨のいる作業だろう。
「だからアライしゃんにひどいことするのはやめるのりゃ。ひどいめにあうのはわるいやつだけなのりゃ」
744 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイWW 9f72-1M3p)[sage] 投稿日:2018/06/22(金) 01:08:38.85 ID:oTCTErp60 [5/8]
そう言うと右腕を持ち主に、姉であるアライしゃんに投げつけた。
アライしゃんは顔の近くで両腕の断面、両肘辺りを必死に擦り合わせるようなしぐさをしていたが動きを止め、こちらを見た。
「お、おまえ~↑おまえがたべたいといったからアライしゃんはがんばってあなをほったのりゃ!おかーしゃんのかわりにめんどーをみてやったのりゃ!」
「うそなのりゃ」
大きなアライちゃんが言い返す。
「おまえがいつもごはんをひとりでたべるからしたのいもーとはうごかなくなったのりゃ。きょうもねっこをいちばんにかじったのはおまえなのりゃ!おまえがいなければアライしゃんが・・・」
745 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイWW 9f72-1M3p)[sage] 投稿日:2018/06/22(金) 01:11:05.81 ID:oTCTErp60 [6/8]
言い争いをうんざりとした気持ちで聞きながらかご罠に手を入れる。
よく見れば両腕のないアライしゃんは出血が止まりかけているように見えるが・・・。
そう言えば怪我が治りやすいとか言ってたな、農家のおじさん。
かご罠の中の大きなアライちゃんは激しく動いて捕まるまいとするが、やはり目立つのはその大きな尻尾だ。
興奮すると特によく動く尻尾の先を捕まえると思い切り持ち上げる!
「あぁぁぉぉあぁぁぁぁぁ!!イヤなのだ。アライしゃんはイヤなのだぁ!!」
格子にしがみついてなんとか引きずり出されるのを防ごうとする大きなアライちゃん。
「いい態勢だ」
ちょうど尻尾の付け根がこちらを向いている。
そのままハサミを差し入れて
ジョキン。
746 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイWW 9f72-1M3p)[sage] 投稿日:2018/06/22(金) 01:18:40.62 ID:oTCTErp60 [7/8]
「あぁぁぁあ??」
そのままかご罠の下に落ちる大きなアライちゃん。
「しっぽ あらいしゃんのしっぽ・・・」
痛みはそれほどでもないのか、しかし放心した様に地面に落ちるとずるずると体を引きずるように四足で這っている。
「最後になったけど、君も一応、ね」
かごの上からハサミを入れると、小さいアライちゃんの尻尾を、ジョキン。
高さがあったせいで少し残ってるけど。
アライちゃんたちを最初に見たときに感じた違和感。それはアライさんの特徴でもある縞々の、大きな、尻尾。
それが自分の中では生き物の中でも、害獣、いや害虫と位置付けていたんだね。
でもその尻尾はなくなった。
無駄な殺生はよくない。
麻袋を取り出すと、アライしゃんを頭から詰め込む。出血のせいか特に抵抗もなく大人しく放り込めた。
後は放心しているアライちゃんたちをかご罠を傾けて放り込んで、お仕舞い。
残業続きで森にも帰すのは3日後になったけど、大人しく森の茂みのなかにリリースしてあげました。もう動いてなかったけど。
おしまい
748 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (スッップ Sd9f-1Ki3)[sage] 投稿日:2018/06/22(金) 02:35:03.38 ID:BUXp9mlZd
乙でした。面白かった!
無益な殺生は良くないと言いながらも餓死させてるのがいい意味で笑った。
749 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイW 7ff8-Cm6z)[sage] 投稿日:2018/06/22(金) 08:27:03.45 ID:+b6F9KF90
害獣の数が減るんたから無益じゃないからね
しかたないね
751 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (アウアウウー Sae3-EN5i)[sage] 投稿日:2018/06/22(金) 10:46:29.05 ID:cmERPBFLa
捕まえたアライさんを殺処分するのは善良な市民の義務だからね
無益に生かすのが一番駄目なのよ
最終更新:2018年06月23日 02:22