アライちゃんといきものたち

264 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (スッップ Sdaa-OBS+)[sage] 投稿日:2017/09/21(木) 22:05:13.81 ID:AbWnfG6qd [1/15]

アライちゃんが物心ついたとき、そこはすでに自然の中ではなかった。

アライちゃん「…」

アライちゃん2「おなかしゅいたのだー!」ヨチヨチヨチヨチ

アライちゃん3「たいくつなのだ!あそぶのだー!」キャッキャッ

アライちゃん4「のどかわいたのだー、おみずのむのだー」ゴクゴク

アライちゃんは生まれてからずっと、空と太陽を見たことがなかった。
上を見ると灰色の天井と、蛍光灯の光ばかりが灯っていた。

そして、よちよちと歩くとすぐの狭い格子状の壁へとつき当たった。

壁の中には自分含め15匹ほどのアライちゃんが閉じ込められている。

アライちゃんは、この世界がすべてなのだと感じた。

アライちゃん「おなかすいたのだ」グゥー

上空から、大きな生き物が食べ物を投げ入れてくる。

アライちゃん「たべうのだー」ヨチヨチヨチヨチ

アライちゃん「…」モグモグ

アライちゃん「おいしいのだぁ」モグモグ

アライちゃんは、自分たちは何なのだろうかと考えたが、
分析できる思考方法も、知識も教わったことがない。

結局、自分は自分だという結論にしか達しなかった。


265 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (スッップ Sdaa-OBS+)[sage] 投稿日:2017/09/21(木) 22:11:54.47 ID:AbWnfG6qd [2/15]
代わり映えしない世界の景色。
日に日に成長していく体。
狭くなっていく、壁の中。


…ある日その世界は、突如姿を変えた。


作業員1「はーい第2ケース運びまーす」ガシッ

壁の外の大きな生き物が、壁に手をかけると、
突然、世界が揺れ動いた。

アライちゃん「のあっ!」グラリ

アライちゃん2「なんなのだ!?」

アライちゃん3「おうちがうごいてゆのだぁ!しゅごいのだぁ!」ワイワイ

自分たちを乗せた大きな壁の世界は、その場所からどんどん動いていく。

作業員1「じゃ、トラックに積みますねー」ガタン

そして、大きな箱の中に閉じ込められると…
世界は、闇に閉ざされた。

アライちゃん「なんなのだ!?くらいのだぁ!?」ガシャガシャ

アライちゃん2「まっくりゃなのだぁ!」

アライちゃん3「ねむくなったのだ…むにゃ…」ウトウト

アライちゃん4「のだー…のだー…」zzz

アライちゃん「ねるのだ…すぴー…すぴー…」zzz

アライちゃん達は長い室内生活の中で、灯が落ちたら寝るという条件反射を身につけさせられていた。


267 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (スッップ Sdaa-OBS+)[sage] 投稿日:2017/09/21(木) 22:15:15.53 ID:AbWnfG6qd [3/15]

やがて、突然世界が光に包まれた。

アライちゃん「!?なんなのだ!まぶしいのだぁ!」

アライちゃん2「めがいちゃいのだあああ!」

アライちゃん3「まぶちいのりゃあああ!」

光に目が慣れると…

いつもの格子状の壁の外には、青空が広がっていた。

作業員1「じゃあ、倉庫まで搬送しますねー」ガラガラ

アライちゃん「…すごいのだ…きれいなのだ…」

アライちゃん2「おそとにでたいのだああー!」ガシャガシャ

アライちゃん3「おそとにいきたいー!いかせろなのだー!」ガシャガシャ


268 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (スッップ Sdaa-OBS+)[sage] 投稿日:2017/09/21(木) 22:19:55.85 ID:AbWnfG6qd [4/15]
しかし、しばらく運ばれると…
再び、今までと似たような場所へ入れられた。

作業員1「倉庫へアライちゃんセット、15匹搬送完了しました」

アライちゃん「まつのだぁ!さっきのとこもっとみせゆのだああ!」ガシャガシャ

アライちゃん2「さっぎのどごいぎだいのだあああああ!びええええんっ!」ビエエエエン

アライちゃん3「もっどみだいのだああああ!」ビエエエエン

泣けども求めども、先程の場所には連れていっては貰えなかった。


269 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (スッップ Sdaa-OBS+)[sage] 投稿日:2017/09/21(木) 22:24:21.85 ID:AbWnfG6qd [5/15]
その場所で、今までと似たような餌をもらい…
また、蛍光灯が消灯した。

アライちゃん「ここはどこなのだ…あらいしゃんは、なにものなのだ…」

アライちゃん13「すぴー…」

アライちゃん14「のだぁ…のだぁ…」

アライちゃん15「ぐがー…ごがー…」


翌朝、目を覚ましたアライちゃんは、
あまりの世界の激変に驚いた。

アライちゃん「!?」

まず、今までのような狭い格子状の壁がない。

もっともっと狭い、透明な壁に囲まれていた。

さらに、その周りには…


インコ「チュンチュン」

プードル「ワン!ワン!」

猫「みゃ~」

イグアナ「…」ギョロギョロ

今まで見たこともないような生き物たちが、自分たちと同じような壁の中へ閉じ込められていた。


270 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (スッップ Sdaa-OBS+)[sage] 投稿日:2017/09/21(木) 22:27:49.45 ID:AbWnfG6qd [6/15]
アライちゃん「ここはなんなのだ…」

地面は今までと同じ、格子状の壁であった。

アライちゃん2「しらないのだ!あらいしゃん、おなかいっぱいでうんちしたくなったのだ」

アライちゃん3「うんちすゆのだー!うーん~…」ブリブリブリブリュリュブツチチチチ

アライちゃん4「おしっこすゆのだ!は~…きもちいいのだ~…」ジョボボボボボ

糞尿は、格子状の地面をすり抜けて、ちょっと下の地面へ溜まった。


271 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (スッップ Sdaa-OBS+)[sage] 投稿日:2017/09/21(木) 22:30:57.97 ID:AbWnfG6qd [7/15]
アライちゃん「へんないきものいっぱいで、おもしろいのだぁ!おーい!おーい!」ブンブン

プードル「…」ハッハッ

アライちゃん「そこのおまえ!あらいしゃんをむしすゆな!なんかいうのだー!」

プードルは何も言い返さない。

オウム「…」バサバサ

アライちゃん「つまんないのだ!そこのおまえ!あらいしゃんとおはなしすゆのだぁ!」

オウム「ゴミパンダ!ゴミパンダ!」

アライちゃん「なに?なんなのだ?」

オウム「クソガイジ!コバエ!ウジムシィ!」

アライちゃん「何言ってるかさっぱりなのだ!」


274 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (スッップ Sdaa-OBS+)[sage] 投稿日:2017/09/21(木) 22:38:56.60 ID:AbWnfG6qd [8/15]
アライちゃん「そこのきもちわるいやつ!なんかいうのだぁ」

蛇「…」チロチロ

まわりの生き物たちは、みな言葉を話せないようである。

アライちゃん2「こいつらくちがきけないのだ!」

アライちゃん3「あらいしゃんたちがいちばんあたまいーのだぁ!」

アライちゃん4「ありゃいしゃんたち、ここのおーさまになれゆのだぁ!」

そこへ、いつもの大きな生き物が来た。

飼い主「うーわ、うじゃうじゃうじゃうじゃ。いっぱい届いたなぁ」

アライちゃん「おい、おまえ!おまえはあらいしゃんとおはなしできゆのか!?」

アライちゃん6「へんじすゆのだー!」

アライちゃん10「なのだー!」

アライちゃん15「のああぁ」プリプリ

飼い主「おー、ホントに言葉しゃべりんだな。はは、面白そうだぁ」

アライちゃん「!?おまえのいってること、わかゆのだ!おーい!ありゃいしゃんと、おはなしすゆのだ!」

初めて、自分の言葉が他の生き物へ通じた。
きっとあの大きな生き物は、自分たちが大きくなった姿なのだろうと、アライちゃんは思った。


277 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (スッップ Sdaa-OBS+)[sage] 投稿日:2017/09/21(木) 22:43:12.53 ID:AbWnfG6qd [9/15]
アライちゃん「わかったのだ、あらいしゃんたちはここにすむのだ!そしておまえたちみたいにおーきくなるのだ!」

アライちゃん2「わーい!」

アライちゃん3「おっきくなって、おそとにでゆのらー!」キャッキャ

アライちゃんは、この世界に産まれた意味を感じた。
きっと今まで、狭い世界へ閉じ込められていたのは、ここへ来るためだったのだ。

いずれ自分も目の前の男のように大きく成長し、この窮屈な世界の外を自由に闊歩できるのであろう。

アライちゃん「おそとにいくの、たのしみなのだー!」

飼い主「お、楽しみか?じゃあ、もっと楽しいとこにいこうか」ガシッ

アライちゃん「のあ?」ヒョイ

男は、アライちゃんを抱え、持ち上げた。

透明な壁がはるか下に見えた。

アライちゃん「やったのだぁ!あらいしゃん、おそとにでられたのだあ!」キャッキャ


279 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (スッップ Sdaa-OBS+)[sage] 投稿日:2017/09/21(木) 22:46:15.44 ID:AbWnfG6qd [10/15]
飼い主「じゃ、お友だちと遊んで貰えよー」パッ

アライちゃん「のあっ!?」ヒュー

アライちゃんは、空中で突然離された。

アライちゃん「のだぁっ!」ボテッ

尻餅をついたアライちゃん。

アライちゃん「びええええん!いだいのだああ!」ビエエエエン

そのとき、何者かがアライちゃんへ近付く。

蛇「…」シュルシュル

アライちゃん「…!おまえは、さっきのきもちわりゅいやつなのだ!」

アライちゃんはあたりを見回すと、再び自分が透明な壁に囲われていることに気づいた。


280 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (スッップ Sdaa-OBS+)[sage] 投稿日:2017/09/21(木) 22:51:08.82 ID:AbWnfG6qd [11/15]
飼い主「あーワクワクするぜ」ジロジロ

先程の男は、透明な壁の外から自分を眺めている。

蛇「…」シュルシュル

アライちゃん「おい、おまえ!さっきはよくもあらいしゃんをむししたのだ!れーぎがなってないのだ!」ペチッ

蛇「っ…」

アライちゃんは、蛇のほっぺを叩いた。

アライちゃん「ありゃいしゃんはなぁ、いだいなんだぞぉ!いつかおそとにでて、そこのやつみたく、ここのおーさまになるんだぞぉ!」エヘン

飼い主「王様(笑)ぷぷっ」クスクス

蛇「…」

アライちゃんは確信していた。
言葉を話せる自分たちは、特別な生き物なのだと。
ここにいる変わった生き物たちの中で、一番偉いのだと。

アライちゃん「なんなのだそのめつきは!たいどがわるいと、けらいにしてやらないのだぁ!ふははははー!」ペチッ

蛇「…!」

アライちゃんは、再び蛇のほっぺを叩いた。


284 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (スッップ Sdaa-OBS+)[sage] 投稿日:2017/09/21(木) 22:57:53.21 ID:AbWnfG6qd [12/15]
蛇「キシャアアアアッ!」ガバッ

アライちゃん「のあああっ!?」

突如蛇がアライちゃんに襲いかかり、ぐるぐるとアライちゃんに巻き付いた。

アライちゃん「ぐえ…ぐ…ぐるじいのだ!なにすゆのだぁ!いだいのだあ!」ジタバタ

蛇「シャアアア」ギュウウウウウ

もがけどもがけど、蛇は力を緩めない。

アライちゃん「び…びぃいいぃぃっ!ぐ、ぐるじいのだぁ!やべうのだ!ありゃいしゃんはいだいなのだ!ごんな…ざがらうなっでいっでゆのだあぁ!」メキメキ

蛇はなおもアライちゃんを締め付ける。

飼い主「クッソうけるwww」

アライちゃん「のぎゃああっ…!びっ…ぎびいぃいぃぃーーーっ!ぐゆじい!ぐゆじいのだああ!ぞごのおまえ!ありゃいしゃんをみでないでだずげゆのだあぁ!あああ!」ミシ…メキメキ…

蛇「シュウウウゥゥ」ギュウウウウウ

外で見ている大きな生き物は、自分を助けてくれない。
それどころか、 笑いながら見ている。

アライちゃん「どうじでだじゅげでぐれないのりゃああ!ありゃいしゃんはどぐべぢゅなのりゃああっ!あだまいいのだああっ!こんなばかにいじめられるのやなのりゃああああっ!ぴぎいいいぃいーーーっ!!」メキメキ


287 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (スッップ Sdaa-OBS+)[sage] 投稿日:2017/09/21(木) 23:04:15.91 ID:AbWnfG6qd [13/15]
突如、アライちゃんは自分の体の中から、ボギッという大きな鈍い音が聞こえた。

アライちゃん「ぎびぃぃいっぃーーーーーっっ!びぃぃいーーーーーっ!」

身体中が痛い。

蛇「シャアッ」ガブッ

アライちゃん「のぎゃあっ!」ズポッ

蛇が大きな口を開けて、アライちゃんの頭を飲み込んだ。

アライちゃんの目の前は真っ暗闇。
その奥へ、奥へと、ぐいぐいと引きずり込まれてゆく。

アライちゃん「もごおぉっ!ごもおおぉっっ!」ジタバタ

アライちゃんは直感的に悟った。
この奥へ進んだら、もう二度と戻って来れないと。

美味しいご飯を食べることも。
もう一度、青空を見ることもできないと。

アライちゃん「だじゅげでえええっ!いやなのだああっ!もごおぉっ!」ジョボボボボボ

アライちゃんは恐怖のあまり失禁した。
しかしそんなことはお構い無く。
どんどん、熱くじめじめした、狭い暗闇の世界へ引き込まれていった。


288 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (スッップ Sdaa-OBS+)[sage] 投稿日:2017/09/21(木) 23:10:37.15 ID:AbWnfG6qd [14/15]
やがて、アライちゃんは真っ暗闇の世界へ閉じ込められた。

アライちゃん「いぎが…でぎないのだ…あぢゅい…ぐるじぃ…」ジタバタ

だが、きっとあの男が助けてくれる。
自分は特別な存在なのだから。
きっとこの世界の王となる生き物なのだから。

アライちゃん「だ…じゅ…げ…」

突如、全身の皮膚を、焼けるような熱さが襲った。
そこらじゅうからジュージューと音が鳴り響き、アライちゃんの皮膚を焼いていく。

アライちゃん「ぎびぃぃいっぃーーーーーっっ!あぢゅい!あづい!あぢゅいのりゃああああああっ!」ジュウウウウ

アライちゃん「だ…じゅ…げ…」ジュージュー

熱いだけではない。
息ができない。苦しい。

アライちゃん「だぇ…が…」ジュウウウウ

意識が朦朧としてくる。

アライちゃん「…」

自分は、何のために産まれてきたのか。
今自分がいるこの世界は何なのか。

あの男はいつ、自分を助けてくれるのか。

アライちゃんは何ひとつ知れないまま、やがて…
意識も、体も、暗闇の中へと溶けていった。


289 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (スッップ Sdaa-OBS+)[sage] 投稿日:2017/09/21(木) 23:13:15.52 ID:AbWnfG6qd [15/15]
…翌日…

蛇「…」チロチロ

蛇「フゥー」ブリブリブリ

蛇の糞「」ボトボトボトッ

飼い主「うわーたくさん出たなぁ」ガサガサ

蛇の糞は、燃えるゴミ袋へ捨てられた。



おしまい



最終更新:2018年04月06日 22:15