カバラ

カバラ(קַבָּלָה qabbalah, Kabbala, Cabbala)、カバラーとは、ユダヤ教の伝統に基づいた創造論、終末論、メシア論を伴う神秘主義思想である。独特の宇宙観を持っている。ユダヤ教から生まれた神秘思想主義であり、16世紀にほぼ現在の体系が完成したとされている。

カバラは大きくユダヤ・カバラとクリスチャン・カバラに分類される。前者が本来のカバラであり、ユダヤ教徒が旧約聖書の解釈に用いるものである。後者はユダヤ・カバラをキリスト教に応用するために考えられたが、後に近代西洋魔術の理論的根拠にされた。クリスチャン・カバラは生命の樹(セフィロトの樹)の活用を中心に成り立っている。

ユダヤ・カバラ

初期のカバラは瞑想や神や天使の階級についての神学的考察を行う一派であったと考えられる。
後に創造の書による体系化、ピタゴラス思想の流入などにより神学的考察とは別に宇宙観の考察が始まる。

12世紀ルネサンスの時期に光明の書が発見される。光明の書?には神から発せられる神性によって成立する樹、転生思想などからネオプラトニズムとの習合が指摘されている。

また、少し後には光輝の書も発見される。2世紀の賢者、シムオーン・バル=ヨーハイのものと云われているが、文法の解析からは13世紀頃のものと考えられている。また、創造の書?、光明の書?より思想的にも洗練されているため、これらの前に成立したとは考えられないとされる。

16世紀頃になると、ゲマトリア、ノタリコン、テムラーといった体系が確立され、現在“カバラ”として広く認知されている形のカバラが成立した。

その後、カバラ的な色が強い宗教運動であるサバタイ派の台頭により正統派のラビはカバラを異端と見るようになり、ユダヤ教カバラの流れは途絶えることになる。

クリスチャン・カバラ

キリスト教におけるカバラはルネサンス期の人文主義者、ジョヴァンニ・ピコ・デラ・ミランドラらによるディオニシオス文書とカバラの宇宙観を習合させたのが端緒だと考えられている。
この流れはアグリッパ・フォン・ネッテスハイムにより集成され、ジョン・ディーなどに受け継がれていくことになる。

カバラの聖典

まず聖書が聖典だが、それ以外に独自の聖典を持っている。
1.創造の書(セフェル・イェツィラー) 3~6世紀
モーセ五書の一つである創世記の中の宇宙論的思索などを背景として生まれた書物。

2.光明の書(セフェル・バヒル) 12世紀
「生命の樹」についての記述がある。「生命の樹」が現在の形になったのはこの時期と考えられる。

3.光輝の書(ゾハール) 13世紀
カバラで最も重要な書物であり、この書には神の性質、神の名の秘密、 人間の魂、その性質と運命、善と悪、トーラー(モーセ五書)の真義、メシア、救いなどについて、神秘主義的思弁が展開されている。

詳細はこちらのリンクを参照されたい。
カバラ ~ユダヤ教カバラからキリスト教カバラへ~

暗号解読法

聖書を神秘主義的に解釈する際、次のような暗号解読術を用いる場合がある。
これらの体系は16世紀頃に確立したとみられる。これらが後に世俗化し数秘学、数秘術と呼ばれる運命解読の方法となった。

セフィロト(Sephiroth)の樹

セフィロトの樹とは、創世記に現れる「生命の樹」と同じ名前であるが、カバラでは10個のセフィラと22個の小径(パス)を体系化した図のことを意味し、文字通りの樹を意味しない。

正確な起源は不明だが、カバラの伝承では、モーセがシナイ山で40日40夜籠った際、十戒とともに授けられたのがカバラの叡智とされ、セフィロトの樹はそれを図式化したものだと言う。

カバラによると、神は自ら「セフィロト(単数形:セフィラ―)」と呼ばれる光を放ち、この宇宙を創造したとされる。この光は全部で10個あり、「生命の樹」と呼ばれる象徴的体系図として描かれている。(これは後に魔術師達がヘブライ文字や数値、タロットカード等と対応させて、一種のマンダラとして扱われるようになったが、タロット自体はカバラとは異なるものであり、キリスト教では占いとみなされ嫌悪される。)

セフィロトの樹は上下が逆さまの樹であり、天に根を広げて霊力を吸収し、それを各セフィラー(球)へ行き渡らせながら下部の物質世界へ降りていき、地に枝を伸ばしていく。セフィラーは上方から段階的に下方へ流出していくが、この流出過程を逆にたどることによって、神の叡智へと到達することができるといわれ、セフィロトの樹は、「宇宙全体から人体」、「精神世界から物質世界」を象徴させる概念を投影している。

人間は、一番下の10番球マルクトに存在しており、22本の径路を経ながらセフィラーを会得し、1番球ケテルへ向かって精神を高める旅を続けている。

カバラにとって、セフィロトの樹は、神と宇宙の法則、世界の創造と人間の霊的進化の過程を示す縮図と言える。

10個のセフィラとダアト


10個のセフィラ(複数形:セフィロト)は、モーセの十戒の各項目に該当する。
タロットの小アルカナの数札の番号(1~10まで)は、セフィラの番号(1~10まで)と対応し、コートカード(人物札)は、キングが第2セフィラ、クイーンが第3セフィラ、ナイトが第6セフィラ、ペイジが第10セフィラに該当する。
①ケテル(王冠) ――――― 主が唯一の神であること
②コクマー(知恵) ―――― 偶像を作ってはならないこと(偶像崇拝の禁止)
③ビナー(理解) ――――― 神の名を徒らに取り上げてはならないこと
④ケセド(慈悲) ――――― 安息日を守ること
⑤ゲブラー(神々しい力)― 父母を敬うこと
⑥ティファレト(美) ――― 殺人をしてはいけないこと(汝、殺す無かれ)
⑦ネツァク(永遠) ―――― 姦淫をしてはいけないこと
⑧ホド(威厳) ―――――― 盗んではいけないこと
⑨イエソド(基礎) ―――― 偽証してはいけないこと(嘘を言ってはならない)
⑩マルクト(王国) ―――― 隣人の家をむさぼってはいけないこと
⑪ダアト(知識)――――― 十戒には対応しない、隠れたセフィラ

小径(パス)

ver.1 ver.2

22個の小径(パス)には、22文字のヘブライ語のアルファベットがそれぞれ割り振られており、これがタロットの大アルカナに相当する。
ただし、どのパスがどのアルファベットに該当するのかは解釈により異なる。
アレフ (ケテル → コクマー)愚者
ベート (ケテル → ビナー)魔術師
ギーメル (ケテル → ティファレト)女教皇
ダレット (コクマー → ビナー)女帝
ヘー (コクマー → ティファレト)皇帝
ヴァヴ (コクマー → ケセド)教皇
ザイン (ビナー → ティファレト)恋人
ヘット (ビナー → ゲブラー)戦車
テット (ケセド → ゲブラー)力
ヨッド (ケセド → ティファレト)隠者
カフ (ケセド → ネツァク)運命の輪
ラメド (ゲブラー → ティファレト)正義
メム (ゲブラー → ホド)吊された男
ヌン (ティファレト → ネツァク)死神
サメフ (ティファレト → イェソド)節制
アイン (ティファレト → ホド)悪魔
ペー (ネツァク → ホド)塔
ツァディー (ネツァク → イェソド)星
コフ (ネツァク → マルクト)月
レーシュ (ホド → イェソド)太陽
シン (ホド → マルクト)審判
タヴ (イェソド → マルクト)世界

3つの柱と3つ組

また、セフィロトの樹のセフィラは、3つの柱や3つの階層に区分することができる。

3つの柱
  • ビナー、ゲブラー、ホドからなる左の柱は峻厳の柱と呼ばれる。
  • コクマー、ケセド、ネツァクからなる右の柱は慈悲の柱と呼ばれる。
  • ケテル、ティファレト、イェソド、マルクトからなる中央の柱は均衡の柱と呼ばれる。

3つ組
  • ケテル、コクマー、ビナーからなる三角形は至高の三角形と呼ばれる。ロゴスの三角形と呼ばれることもある。
  • ケセド、ゲブラー、ティファレトからなる三角形は倫理的三角形と呼ばれる。
  • ネツァク、ホド、イェソドからなる三角形は星幽的三角形と呼ばれる。魔術的三角形と呼ばれることもある。

世界の階層

カバラでは、神は生命の樹の構造を作った後、この生命の樹を4つ造り、宇宙を4つの界層に分けたとされる。


1.アツィルト(神性界) = 神の性質が忠実に反映された世界
  • 神の性質に似せて造られた神人“アダム・カドモン”が存在する。
2.ベリアー(創造界) = 神の性質が具体的な形となる世界
  • 神の僕として働く大天使たちが住んでいる。
3.イェツィラー(形成界) = 具体的な形が個性に分かれる世界
  • 天使たちが住んでおり、聖書に登場するアダムとイブの世界は、この世界を描写したものとされる。
4.アッシャー(物質界) = 私たちの住む世界
  • 間が住み、同時に悪魔たちも共存しているとされる。

最終更新:2017年08月08日 14:31