タロット

占いであるタロットとはキリスト教にとっては禁忌である。しかしながら、その成立にはキリスト教が関与している。

タロットの構成

大アルカナと小アルカナからなる。

大アルカナ(major arcana)

タロットの一組78枚のうち、22枚を構成する、寓意画が描かれたカードを指す。
番号 マルセイユ版 ウェイト版 エッティラ版
0or空白 愚者【THE FOOL】 78.狂人【FOLIE】
1 魔術師【THE MAGICIAN】 理想【IDEAL】
2 女教皇【THE HIGH PRIESTESS】 啓蒙【ECLAIRCISSEMENT】
3 女帝【THE EMPRESS】 討論【DISCUSSION】
4 皇帝【THE EMPEROR】 啓示【REVELATION】
5 教皇【THE HIEROPHANT】 航海【VOYAGE】
6 恋人たち【THE LOVERS】 秘密【SECRETS】
7 戦車【THE CHARIOT】 支援【APPUI】
8 正義【JUSTICE】 力【STRENGTH】 執念【TENACITE】
9 隠者【THE HERMIT】 正義【JUSTICE】
10 運命の輪【WHEEL OF FORTUNE】 節制【TEMPERANCE】
11 力【STRENGTH】 正義【JUSTICE】 力【FORCE】
12 吊るされた男【THE HANGED MAN】 慎重【PRAUDENCE】
13 死【DEATH】 結婚【MARIAGE】
14 節制【TEMPERANCE】 暴力【VIOLELNCE】
15 悪魔【THE DEVIL】 悲哀【CHAGRINS】
16 塔【THE TOWER】 意見【OPINION】
17 星【THE STAR】 死【DEATH】
18 月【THE MOON】 裏切り【TRAHISON】
19 太陽【THE SUN】 貧困【MISERE】
20 審判【JUDGEMENT】 幸運【FORTUNE】
21 世界【THE WORLD】 訴訟【PROCES】

小アルカナ

タロットの一組78枚のうち、56枚を構成する組を言う。
小アルカナは、以下の四つの組 (スート suits)に分かれる。
  • 棒(杖) wands (batons)
  • 剣 swords
  • 聖杯 cups
  • 硬貨(護符) coins (pentacles) ※エッティラ版では「天体」

さらに各スートは、以下のように分類されて構成される。
  • 数札 pip cards … 1から10までの数字を示す札
  • 人物札 court cards … 4枚の人物を示す札。小姓 page、騎士 knight、女王 queen、王 king

タロットから、小アルカナのみを抜き出したのがトランプの原型であるとも、逆にトランプが先にあって、後に大アルカナが加えられて現在のタロットになったとも言われている。タロットとトランプとの関連性は皆無、とする説もある。

歴史

トランプの成立

ここではタロットの小アルカナの起源としてトランプが存在するという説を採用して開設する。

起源は諸説あるが、現在中国説が最も有力であり、また、全て東方に発生したものが欧州に移入されたとする点では一致している。これら東方に発生したものを西アジア方面から復員した十字軍やサラセン人などの手によって欧州に伝えられた可能性が高い。

中国説は、12世紀以前の中国に「葉子」というトランプの一種があったことから、これが欧州に伝わったとする説。ただし古い時代の葉子がどのようなゲームであったかはわかっておらず、明代以降の紙牌と連続性があるかどうかもわかっていない。

アラブのカード

トプカピ博物館所蔵の15世紀ごろのマムルーク朝のカードは、偶像崇拝に抵触しないように、絵札には人物は書かれておらず、かわりに文字で説明がされている。このためスート名と絵札の名前が判明している。完全な形で残っているわけではないが、ダラーヒム(=貨幣)、トゥーマーン(=カップ)、スユーフ(=刀剣)、ジャウカーン(=ポロ競技用のスティック)の4つのスートがあり、各スートには1から10までの数札とマリク(=王)、ナーイブ(=総督)、ナーイブ・サーニー(=第二総督)の3種類の絵札があったと考えられている。

カップのスート名「トゥーマーン」はトルコ語で「万」を意味する語であり、中国の紙牌のスートである「万子」との関連性が考えられる。例えば、ウィルキンソンは漢字の「万」を上下逆さまにした形がカップになったと推測した。

欧州への伝来

起源が定まっていないことから欧州への伝来についても諸説あるが、少なくとも14世紀には欧州各地に記録が見られることから相当数広まっていたと考えられる。欧州に最初にトランプが出現したのは14世紀前半のイタリアとされているが、スペイン説も有力。カードの構成は当時のアラブのカードのデザインを襲用している。ただし、スートのうち「ポロ用スティック」は、欧州においてはポロ競技に馴染みがなかったものだから、イタリアでは儀式用の杖、スペインでは棍棒に変化した。

15世紀も後半になると、タロットの小アルカナとトランプが完全に分離したと考えらえる。例えばフランスでは、トランプに分化したものでは、スートがダイヤ(♢)、スペード(♤)、ハート(♡)、クラブ(♧)に変わり、絵札の騎士が女王と差し替えられた。

タロットの成立

タロットは小アルカナと大アルカナを合わせたものであり、以降は主に大アルカナの起源についてみていく。

タロットの起源を古代エジプトや古代ユダヤに求める説もあるが学問的な根拠は無く、発祥は不明である。タロットの起源に関しては諸説が入り乱れているが、ここでは「中世の祭壇画パネルが携帯用にカード化されたもの」という説を採用する。

例えばこれは、フラ・アンジェリコが1451-53年に作成した "Armadio degli Argenti" の一部分であり、外側の円には旧約に登場する十二名の人物が描かれている。上部中央がモーゼ。右回りにソロモン王、エゼキエル、エレミヤ、ミカ、ヨナ、ヨエル、マラキ、エズラ、ダニエル、イザヤ、ダビデ王。内側の円には新約から八名の使徒が選択されている。上部中央がヨハネ。右回りにペテロ、マルコ、ユダ、ルカ、ヤコブ、マタイ、パウロ。円外右側は時の教皇グレゴリウス、左側はエゼキエル。絵自体はエゼキエルが得たヴィジョンを描いたものである。合計22名である。

エゼキエル1:15-16
わたしが生き物を見ていると、四つの顔を持つ生き物の傍らの地に一つの車輪が見えた。それらの車輪の有様と構造は、緑柱石のように輝いていて、四つとも同じような姿をしていた。その有様と構造は車輪の中にもう一つの車輪があるかのようであった。

中世ヨーロッパには遍歴学生ないし偽神父と称される放浪者が存在しており、無資格ミサ等のいかさま稼業で世を渡っていた。こういった者は一箇所に長居できないという事情もあり、祭壇や宗教画といった商売道具も簡素な携帯品に変化したのである。こういった祭壇画パネルが放浪者たちの世界で伝えられるうちに、占術用の小道具としても用いられるようになったと思われる。

記録上辿れる限りでは1392年の「シャルル6世のタロット」が最古であるがこれは現存していない。これはシャルル6世が画家ジャックマン・グランゴヌール(Jacquemin Gringonneur)に作らせたものである。これは現存していないため現在のタロットとどの程度似ていたのか、全然違ったものだったのか、まったく不明である。

現存するもので最古のものは15世紀半ばの北イタリアのミラノで製作された「ヴィスコンティ・スフォルツァ版(Visconti Sforza Tarocchi)」である。この時代のタロット・カードは、占い、あるいは魔術のツールではなく、「ゲーム」のためのツールだった。当時は、貴族や富豪の為に画家が手描きで描いて作製していた。現在の大アルカナ22枚に相当するカードは、欠損していると考えられる悪魔と塔を除き、少なくとも20枚はあったことはわかっている。小アルカナの人物札は現在よりも多く、女中(maid)、小姓(page)、女騎士(horsewoman)、騎士(knight)、女王(queen)、王(king)の6種類から成っていた。

これよりもう少し時代を下った頃のタロットは、まだ枚数や絵柄などもどの程度確定していたのか不明であるが、この時期のデッキの構成から、すでに後世でいう大アルカナと小アルカナが合体したものであることは推察できる。

マルセイユ版の出現


歴史上遡ることのできる範囲において初めて「マルセイユ版タロット」の絵柄が確認されるのは、マルセイユではなく17世紀後半(1650年頃とされている)のパリにおいてである。ジャン・ノブレによって作成されたタロットカードが「マルセイユ版タロット」の絵柄をもつ最も古いデッキとして有力視されている。

これがフランス革命の情勢不安定な頃の占いブームに火が付き、占いカードとしてのタロット誕生に至ったと考えられる。

このデザインが、後にタロットカードのデザインとして一般的なものとなり、これを元にした様々なバリエーションのカードがフランス各地で生産されることとなった。それらがマルセイユ版と呼ばれるようになったのは20世紀に入ってからのことで、ニコラ・コンヴェルという18世紀のマルセイユのカードメイカーの作ったタロットを、1930年代にグリモー社が「マルセイユのタロット」の名で復刻したことに始まる。

タロットと神秘主義の融合

タロットと神秘主義が関連付けられたのは近世のことである。

1781年、フランスの作家ド・ジェブランが『原始世界』なる著作において、いわゆる“タロット=トートの書”説を世に広めている。当時フランスではエジプトが一種の流行と化しており、多様な文物が輸入されていた。ド・ジェブランはタロットこそアレクサンドリア大図書館の焼失すら生き延びた伝説の魔法書であるとホラを吹きまくったのである。もちろん、この種の言辞はシャンポリオンが神聖文字を解読するまでの幕間狂言のようなものであった。


1791年にはやはりフランス人の占い師エッティラが『トートの書の理論と実践』なる書物でタロット=エジプト起源説を披露し、この珍説はますます世に広まった。なお、エッティラは自身でタロットの絵柄を再編し、エッティラ版(Etteilla)が生まれた。

そして近代、タロットはキリスト教神秘主義であるカバラと結びつけられた。

1856年、近世魔術師の筆頭たるエリファス・レヴィ(1810-1875)がその著書『高等魔術の教理と祭儀』においてタロットをカバラと結びつけている。すなわちこのとき、タロットと魔術が出会ったといえよう。レヴィ以前、いかにエッティラ等がタロットをトートの書と結びつけようとしたところで、肝心のトートの書やエジプト古代宗教の実態が不明であるため、ほぼ徒労が約束されている作業でもあった。

タロットとカバラの間にある共通点といえば、発症がキリスト教(ユダヤ教)由来であることの他には、大アルカナが22枚、ヘブライ語のアルファベットも22文字というこの一点のみといってよい。ただしカバラには『形成の書』と称する神秘文献があり、ここに生命の樹とその22の小径の占星術配属が記されている。この文献を土台にタロットにも占星術配属を持ちこんだとき、タロット魔術が生まれたのである。

生命の樹だけでなく、四元素、七惑星、十二宮という伝統的な価値観をも取り込み、タロットはわずか数百年の短い歴史でありながら、伝統的な占いに肩を並べてしまったのである。

ウェイト版(ライダー版)の登場


やがてイギリスへと飛び火したタロットの神秘的解釈は、20世紀初頭の1910年、アーサー・エドワード・ウェイトによるタロットカード、すなわち黄金の夜明け団の教義に基づくカバラ思想・神秘的象徴をふんだんに取り入れた「ウェイト版タロット」として結実し、このデッキがライド社から出版されたのを皮切りに、世界中で神秘的解釈に依拠したタロットカードが製作されることとなった。



最終更新:2017年08月10日 23:35