他の宗教との比較

キリスト教との関連などから考えていく。
より広範なものとしては、他の神話との関係を参照。

宗教の分類

宗教の系統


宗教には大きく分けて三つの源流があり、①アブラハムの宗教、②アーリア人の宗教(インド宗教)、③東アジアの宗教 である。ここではこれらに、④神秘主義 を加える。

①アラビアの多神教→メソポタミア神話→ウガリット神話→ユダヤ教→キリスト教、イスラム教(→シク教)
②インド・ヨーロッパの祖多神教→インド・イラン神話(→ゾロアスター教)、ギリシャ神話(→ローマ神話)、バルト神話、スラブ神話、ゲルマン神話(→北欧神話)、ケルト神話
②サンスクリットの多神教→ジャイナ教、ヒンドゥー教(→シク教)、〔上座部〕仏教(→大乗仏教)

宗教の特性

同じ系統の宗教であっても、教義が相いれないことはある。ここでは、宗教の特性ごとに分類する。

1.アブラハムの宗教

シュメール神話アッカド神話ウガリット神話(カナン神話)に起源を持つ。

ユダヤ教

神…ヤハウェ(主)
信仰の対象…神
預言者…モーセ(前13世紀頃)、エリヤ(前9世紀)、イザヤ(前8世紀)、エレミヤ(前7世紀末~前6世紀前半)など
聖典…旧約聖書(前7世紀頃編纂)
開祖…特になし(強いて言えばモーセ)
成立…原始的な形態は前12世紀頃とされるが、現在の形になったのは前539年のユダヤ帰還後
地域…イスラエル
70年にエルサレム神殿が破壊されて以来、預言者はユダヤの民に下されなくなったのだと考えている。この世に預言者がなくなれば、神との契約は更新されることはありえないとし、ユダヤ教徒はモーセの「旧い契約」に対して、キリスト教で神と結んだ「新しい契約」と主張される新約聖書の内容を認めていない。

キリスト教

神…三位一体(父(ヤハウェ)、イエス・キリスト、聖霊)
信仰の対象…三位一体たる神
預言者…ユダヤ教の預言者、ザカリア、洗礼者ヨハネ
聖典…旧約聖書、新約聖書(1世紀中盤~2世紀中盤)
開祖…イエスの弟子たち(特にパウロ
成立…紀元30~33年頃(イエスの活動期~十字架刑)
地域…イスラエル→ローマ帝国→全世界
神の子イエス・キリストの磔刑による死を以て、人間の原罪が赦されたと考える。

イスラム教

神…アッラー(ヤハウェ)
信仰の対象…神
預言者…ユダヤ教の預言者、キリスト教の預言者、イーサー(イエス)、ムハンマド
聖典…クルアーン、ハーディス、(旧約聖書のモーセ五書、新約聖書の福音書)
開祖…ムハンマド
成立…622年(メディナにウンマ(イスラーム共同体)ができたヒジュラの年)
地域…アラビア→北アフリカ、中東、東南アジア
ユダヤ教から分化した宗教であるため、神はキリスト教と同じだが、イエスをキリストとして認めず、預言者の一人に含める。また、ムハンマドを最大にして最後の預言者と考える。聖典には聖書も含まれるが、改竄されて信用できないものであると解釈するため一般的には読まない。
クルアーン4:157-158の記述から、現代イスラム教では「イーサーは十字架の上で死なず、替え玉とすり替わり、昇天した」という立場をとる。しかし、クルアーンの記述のみを考えると、本来想定していたのはグノーシス主義やマニ教のように「肉体としてのイエスは十字架刑により死んだが、「真のキリスト」は死なずに昇天した」という捉え方をしていたと推察される。

バーブ教(新宗教)

神…ヤハウェ?
預言者…イスラム教で認められる預言者に加え、バーブ
聖典…バヤーン(Persian Bayán)
開祖…バーブ
成立…1844年
ムハンマド以降の初の預言者を標榜している。

バハーイー教(新宗教)

神…ヤハウェ?
預言者…バーブ教で認められる預言者に加え、ゾロアスター、釈迦、バハーウッラー。
聖典…クルアーン、バハーウッラーの著作(「キターブ・アクダス」など
開祖…バハーウッラー
成立…バーブが処刑された1850年以後
イスラム教から分化した宗教だが、多神教を網羅する一神教で、多神教の神も全て唯一神が、地域と時代により伝え方がその民族にあった伝え方をしたためにおきた現象であり、ゾロアスターや釈迦などを含めて、全て同じ事を言っている、そのため、他の宗教を批判する事は誤りである、としている。

2A.アーリア人の宗教(ゾロアスター教系)


インド・ヨーロッパ神話に起源をもつもののうち、ペルシャで普及したゾロアスター教に関するものである。

ゾロアスター教

神…多神教(最高神以外は被造物)
最高神…アフラ・マズダー
信仰の対象…最高神
預言者…ザラスシュトラ(前7世紀頃とするのが定説だが、前13世紀頃とも言われ、はっきりしない)
聖典…アヴェスター(紀元3世紀)
開祖…ザラスシュトラ
成立…少なくとも紀元前6世紀以前
地域…イラン
ゾロアスター教はアーリア人の祭司だったザラスシュトラによって開かれた。彼が30歳の時、天使ウォフ・マナフ(Vohu Manah)に導かれて正義の神アフラ・マズダ(Ahura Mazda)に出会い啓示を受けた。アーリア人は多くの神を信じていたが、ザラスシュトラは、アフラ・マズダこそが唯一の神であると説き、アフラ・マズダの言葉を人々に伝え始めた。ゾロアスター教の教えである一神教、天国と地獄、最後の審判などの概念は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教あるいは仏教に大きな影響を与えたといわれている。

ミトラ教

神…多神教
最高神…太陽神ミトラス
信仰の対象…最高神
開祖…特になし(イランのゾロアスター教教の神官?)
成立…前1世紀
流行:後1世紀~4世紀
地域…ローマ帝国
ミトラ教は牡牛を屠るミトラス神を信仰する密儀宗教である。信者は下級層で、一部の例外を除けば主に男性で構成された。信者組織は七つの階級があり、上から①父、②太陽の使者、③ペルシア人、④獅子、⑤兵士、⑥花嫁、⑦大鴉であった。それぞれは①土星、②太陽、③月、④木星、⑤火星、⑥金星、⑦水星の守護下にあった。七つの星界を経て魂が上昇して不死にあずかるという教義があったらしい。入信には試練をともなう入信式があった。

マニ教

神…光の王国の光明の父・偉大なる父(ズルワーン)、闇の王子
人間の創造主…「光明の父」が呼び寄せた「第三の使者」を模倣して、大悪魔と大女魔が創造した。
信仰の対象…
預言者…イエス(西方)、釈迦(東方)、ザラスシュトラ(中央世界)、マニ(最後の預言者)
開祖…マニ(3世紀)
ゾロアスター教を背景に、キリスト教グノーシス派の流れを汲んでおり、啓典宗教の特徴をもつ。かつては北アフリカ・イベリア半島から中国にかけてユーラシア大陸で広く信仰された世界宗教であった。
ユダヤ教、キリスト教、仏教、ゾロアスター教の考えを引き継いでおり、それぞれの開祖を預言者と位置付けているが、イエスに関しては、肉体を持たない「真のキリスト」と、それとは対立する十字架にかけられた人の子イエス(ナザレのイエス)とを区別する。すなわち、十字架刑により人の子イエスは死んだが、「真のキリスト」は父の元へ帰ったと考えている。

2B.アーリア人の宗教(インド神話系)

インド・ヨーロッパ神話に起源をもつもののうち、インドで普及したバラモン教に関するものである。

バラモン教

神…雷神インドラ、火神アグニ、水神ヴァルナなどを重要視する多神教
聖典…ヴェーダ(前15世紀頃)
開祖…なし
成立…前15世紀頃
インドに侵入してきたアーリア人によってつくられた宗教。

ヒンドゥー教

神…多神教
最高神…三神一体の神(創造神ブラフマー、維持神ヴィシュヌ、破壊神シヴァ)
信仰の対象…三神一体たる神
聖典…ヴェーダ(前15世紀頃)
開祖…なし
成立…前5世紀頃
ヒンドゥー教は西暦4世紀以降のインドで隆盛となった宗教である。しかし、その起源は古く、紀元前10世紀以前のインドに起こったバラモン教(ヴェーダの宗教)の流れを汲むものだといわれる。
ヴェーダの宗教とヒンドゥー教の間には数々の違いがあるが、終末論的な観点からいうと、ヒンドゥー教が輪廻転生の思想を基本にしていることだといえる。輪廻転生とは、この世に生きているものは人間も動物も死後に再び生まれ変わって誕生し、これが永遠に繰り返されるという考えである。このような考えは、ヴェーダの時代にはなく、ヴェーダの時代が終わってから紀元前500年頃までの間に誕生したものである。 インド生まれの宗教として、ヒンドゥー教の他に仏教やジャイナ教があるが、これらはみなこの時代以降に成立したので、いずれの場合も輪廻転生の思想を持っている。
なお、近世以降、ヒンドゥー教では「三神一体論(トリムルティ)」とよばれる教義が唱えられた。この教義では、本来は一体である最高神が、三つの役割「創造、維持、破壊」に応じて、三大神「ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァ」として現れる。

シク教

神…イク・オンカール・サト・ナーム(「唯一の神は真理である」の意味、アッラーもヴィシュヌも同じ存在)
信仰の対象…神との合一(ムクティ)
聖典…グル・グラント・サーヒブ(教典にして、生ける永遠のグル)
開祖…グル・ナーナク
イスラム帝国がインドを征服した歴史の中で、「ヒンドゥー教徒もイスラーム教徒もいない」人類すべてが分かち合える『唯一なる真理』のメッセージを人々に送るためにつくられた宗教。
ヒンドゥー教と同様に輪廻転生を肯定している。カーストを完全否定しているがこれにはイスラム教の影響もあると考えられている。神は一つであるとして、唯一神を標榜している。神には色々な呼び名があり、それぞれの宗教によって表現のされ方の違いはあるが諸宗教の本質は一つであるとし、教義の上では他宗教を排除することはない。アラーもヴィシュヌも同じ神の異名にすぎないという立場である。
シク教の最終目標は、輪廻転生による再生を繰り返した末に、神と合一するムクティである。ムクティに至れるかどうかは他人への奉仕とグルの恩寵にかかっており、ムクティと個人の性やカーストは無関係とされている。人の一生を精神の超越への行程と考えるヒンドゥー教に対し、シク教では人は自分の事ばかり考える人間は5つの煩悩(傲慢、欲望、貪欲、憤怒、執着)に負けてしまうため、真のシク教徒は一生を常にグルに向け、神を究極の師(サド・グル)として仰ぐ

2C.アーリア人の宗教(仏教)


インド・ヨーロッパ神話に起源をもつもののうち、バラモン教から発生した仏教に関するものである。

原始仏教・上座部仏教

神……不可知論的だがバラモン教と共有
最高神…創造神ブラフマー〔梵天〕(その他に、軍神インドラ〔帝釈天〕など重要)
信仰の対象…なし(強いて言うならブッダ(覚醒者))
聖典…パーリ仏典
開祖…ブッダ〔仏陀〕=ガウタマ・シッダールタ〔釈迦〕
成立…前5世紀
輪廻転生が言われていた古代インドにおいて出現した思想。出家して厳しい修行を積んだ僧侶だけがさとりを開き、輪廻転生から解脱して、死後、天へ行くことができる。したがって、悟りを開くための修行をしたわずかな人が救われ、一般の人々は救われない。小乗仏教では、さとりを開いた35歳以上の釈迦を崇拝する。

大乗仏教(顕教)

宇宙仏〔神〕…毘盧遮那仏〔ヴァイローチャナ〕
人に姿を変えた宇宙仏…釈迦如来
信仰の対象…釈迦如来(日蓮宗など)、阿弥陀如来(浄土宗)
聖典…『華厳経』『法華経』『般若経』『涅槃経』など。(浄土宗は『大無量寿経』)
開祖…龍樹〔ナーガールジュナ〕
成立…2世紀
ブッダとは歴史上にあらわれた釈迦だけに限らず、過去にもあらわれたことがあるし未来にもあらわれるだろうとの考えはすでに大乗以前から出てきていたが、大乗仏教ではこれまでに無数の菩薩たちが成道し、娑婆世界とは別にある他方世界でそれぞれのブッダとして存在していると考えた。この多くのブッダの中に西方極楽浄土の阿弥陀仏・阿弥陀如来や、東方の浄土とされる浄瑠璃世界の薬師仏・薬師如来(阿閦如来)などがある。ただし、密教とは異なり、衆生を教化するために姿を示現した「釈迦如来が、秘密にすることなく明らかに説き顕した教え」である。
大乗仏教の仏とは、宇宙そのものであり、宇宙の真理とでもいうべき仏陀(宇宙仏)である。(一般の宗教での「神」に当たるのが宇宙仏とも言える)この宇宙仏が真理を説き、教えを説く。しかし、宇宙仏は姿、形が無く、そのままでは教えを説く事が出来ない。そこで宇宙仏が人間である釈迦に姿を変えてこの世に登場した、と考える。
しかし、宗派によって最高位の仏は異なり、毘盧遮那仏が人となって表れた釈迦如来を最高位に置く宗派と、西方極楽浄土の仏である阿弥陀如来を最高位に置く浄土宗系の宗派に分かれる。

3.東アジアの宗教

シンクレティズム(syncretism, 習合)は東アジアの宗教に共通の特徴である。シンクレティズムとは、相異なる信仰や一見相矛盾する信仰を結合・混合すること、あるいはさまざまな学派・流派の実践・慣習を混合することである。そのため、個々の信仰を認識するのが困難な場合が多い。
また、東アジアでは宗教を権力正当化のよりどころとしなかったため、宗教的統一が図られなかったという事情もある。

道教・中国伝統宗教

神…多神教
最高神…神学的には元始天尊だが、時代により変わる
信仰…道(タオ)と一体となること
開祖…老子?
道教は漢民族の土着的・伝統的な宗教である。中心概念の道(タオ)とは宇宙と人生の根源的な不滅の真理を指す。道の字は辶(しんにょう)が終わりを、首が始まりを示し、道の字自体が太極にもある二元論的要素を表している。この道(タオ)と一体となる修行のために錬丹術を用いて、不老不死の霊薬、丹を錬り、仙人となることを究極の理想とする。それはひとつの道に成ろうとしている。
全真教と正一教が主要な宗派。全真教は古代(三国志の時代の太平領王道辺り)の初期道教を継承したものでこちらが玉皇大帝を最高神とする場合が多い。正一教は明代以降に「老子」の教えを取り込んだものでこちらが三清などが最高位に来る場合が多い。

儒教

神…『天』という曖昧な概念だけがあり、人格は存在しない。
信仰…「礼」を尽くすことで、君子の政治を実現させること
開祖…孔子
君子の政治を実現させ、「仁義」という理念と「礼」という作法を強調し、年齢や身分による上下関係を説くものである。儒教は一見、為政者の理念を説いているようでいて、それ以上に民衆の義務を強調していることから、施政者によって利用されてきた。

神道

神…多神教ですべての者に神が宿る、祖霊崇拝性により祖霊も神に含まれる
最高神…天照大神(あまてらすおおみかみ)だが、神学上は天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)
開祖…なし
神道(しんとう)は、日本の宗教。山や川などの自然や自然現象、また神話に残る祖霊たる神、怨念を残して死んだ者などを敬い、それらに八百万の神を見いだす多神教。自然と神とは一体的に認識され、神と人間とを取り結ぶ具体的作法が祭祀であり、その祭祀を行う場所が神社であり、聖域とされた。

4.神秘主義系統

一言でいうならば、神(絶対者)を直接認識し、直接つながり、合一することができると信じる宗教形態である。各地の大宗教からも生み出されている。

プラトン哲学

根本原理…諸々のイデア(ものごとの真の姿)
物質世界の創造主…デミウルゴス
提唱者…プラトン
プラトンは、我々の属する物質世界、現象世界の上にイデア界(叡智界)をおいた。このイデアという概念は、プラトン哲学の中心概念ともいえる。イデアとは言ってみれば、完全にして普遍、永遠の真実性であり、物体としては捉えられない存在である。我々の感覚的世界の事物はこのイデアを原型とする模造であり、イデアを分有してのみ存在する。イデアは、我々の感覚的知覚の対象とはならず、理性的認識の対象である。

グノーシス主義(キリスト教グノーシス派)

神…至高神
物質世界の創造主…偽の神ヤルダバオート(=デミウルゴス、=YHWH)
信仰の対象…至高神、至高神の送られた霊的存在イエス
預言者…イエス(至高神により天の国バルベーローから送られてきた存在)
聖典…独自の聖書
開祖…特になし
ユダヤ教的な唯一絶対の創造神を設定した場合、それだけでは、善なる唯一神が存在していながらその一方で人々を不幸に陥れあるいは破壊する悪が絶えないのはどうしてかという解決不能な問題が持ち上がる。グノーシス主義はこの問題に様々な解答を試みたが、その中には物質的な宇宙の創造は全能の神によるものではなく、サタン(悪)もしくは「神の不完全な代理人」が神の意図を誤解しておこなったものであるというものがあった。すなわち、善なるものは霊的なものに限られ、物質は悪に属するという考え方である
グノーシス主義では、『旧約聖書』に登場するヤハウェと名乗っているデミウルゴスを、固有名で「ヤルダバオート」と呼んでいた。『旧約聖書』において愚劣な行為を行い、悪しき行いや傲慢を誇示しているのは、「偽の神」「下級神」たるヤルダバオートであるとした。しかしヤルダバオートは自らの出自を忘れ、自らが唯一の神であると信じている。
グノーシス神話では、神の国・天の国はバルベーローである。バルベーローとは至高神の似姿からつくられたアイオーン(至高の最初のイデア)の国である。イエスとは至高神により、バルベーローから送られてきた存在という位置づけである。
物質界が不完全であるのは、物質界が至高神のバルベーローから零れ落ちた存在であり、したがって物質界はバルベーローから最も離れた場所にあるからである。これを「流出説」と呼ぶ。

新プラトン主義(=神秘主義)

根本原理=神…一者(ト・ヘン/to hen)
信仰の対象…我々の魂を「一者」と合一させること
提唱者…プロティノス
プラトン哲学と基本的には同じだが、従来のプラトン哲学のイデア界以上の究極の原理を求める。
すなわち、このイデア界にも様々な階層がある。そして、この究極の原理を求めるのならば、一切の多様性を取り除いた原理が求められなければならない。これは、多様性どころか存在や思惟すらも超えた所にある原理でなければならない。これこそが「一者(ト・ヘン)」であり、様々な物に分化する前の統一体でもある。
この「一者」は空間や時間を超越した存在であるから、どこにあるわけでも、いつあったわけでもない。動きもしないし、静止もしていない。形も大きさも重さもない。意識すら当てはまらない。意識は「見るもの」と「見られるもの」という対立から生じるのだが、「一者」には、そういった区別も無い。また「一者」は、神とも呼ばれるが人格を持っているわけでもない。要するに、あらゆる規定や法則に縛られない根本原理のことである。
新プラトン主義も「流出説」をとる。つまり、流出したということは、完全な存在である『一者』から、こぼれ落ちた存在だということになる。『一者』からの流出は、『ヌース(知性、精神、理性。イデアを認識するための理性的能力のこと)』から『魂』を経て、段階を踏んで『質料(物質的な存在)』に行き着く。
しかし、人間は本来は、天上的な存在であり、我々の「魂」の故郷はイデア界にある。よって、「魂」を解放してイデア界に帰り、そこからさらに「ヌース」へと高まり、ついには「一者」そのものと合一する。
狭義の新プラトン主義の定義としては、①超有的超知性的な最高始元(つまり『一者』のこと)を設定していること、②イデア界において『ヌース』と『魂』を区別していること、③流出説を承認していること、④我々の魂の最高始元との合一の可能性を承認していること、この4つの条件を満たしている哲学思想のことを言うという。

ヘルメス思想

神…「一者」(=YHWH)
聖典…ヘルメス文書
信仰の対象…「一者」からの万物の流出や、神を認識することを救いとする。
開祖…ヘルメス・トリスメギストス
ヘルメス文書に由来する思想。ヘルメス文書には紀元前3世紀に成立した占星術などの部分も含まれるが、紀元後3世紀頃までにネオプラトニズム(新プラトン主義)やグノーシス主義などの影響を受けて、エジプトで成立したと考えられている。内容は複雑であり、占星術・太陽崇拝・ピタゴラスなどの要素を取り入れている。他にも、「一者」からの万物の流出(ネオプラトニズム的)や、神を認識することが救いである(グノーシス主義的)などの思想もみられる。
ヘルメス主義とグノーシス主義は互いに共通のイメージ(神話、プラトン哲学、聖書など)を用いるが、前者が親宇宙的(Pro-cosmic)であるのに対して、後者が反宇宙的(Anti-cosmic)である点が異なる。創造主の否定につながるグノーシス主義が正統派のキリスト教と相容れないのに対し、ヘルメス主義は必ずしもキリスト教と矛盾するものではない。

大乗仏教(密教)

宇宙仏〔神〕…大日如来〔ヴァイローチャナ〕(日本密教)、本初仏(チベット仏教)
人に姿を変えた仏…釈迦如来
信仰の対象…大日如来(日本密教)、本初仏(チベット仏教)
聖典…『大日経』『金剛頂経』『理趣経』など。
開祖…龍猛(伝統的に龍樹〔ナーガールジュナ〕であると言われるが時代が異なる)
成立…伝承によれば2世紀?
顕教では釈迦を通じて教えを得ようとするが、密教では直接、大日如来に教えを聞こうとする。宇宙仏(神)と直接つながろうとする点で、神秘主義の一種である。顕教とは異なり、真理そのものの姿で容易に現れない「大日如来が説いた教えで、その奥深い教えである故に容易に明らかにできない秘密の教え」である。全ての諸仏は宇宙仏が現れたものだと考えるため、どのような仏像を祀っていても、信仰の対象は宇宙仏である。
チベット仏教では、大日如来をも超える根源的な存在となる法身の「本初仏」を崇拝する。

カバラ

神…エイン・ソフ(YHWH)
聖典…聖書に加え、独自の聖典
開祖…3-6世紀頃自然発生
カバラはユダヤ教の伝統に基づいた創造論、終末論、メシア論を伴う神秘主義思想である。独特の宇宙観を持っていることから、しばしば仏教における密教との類似性を指摘されることがある。しかし、これはもっぱら積極的な教義開示を行わないという類似性であって、教義や起源等の類似性のことではない。
カバラでは世界の創造を神エイン・ソフからの聖性の10段階にわたる流出の過程と考え、その聖性の最終的な形がこの物質世界であると解釈をする。この過程は10個の「球」と22本の「小径」から構成される生命の樹(セフィロト)と呼ばれる象徴図で示され、その部分部分に神の属性が反映されている。したがってカバラは一神教でありながら多神教や汎神論に近い世界観を持つ。
『エイン・ソフ』は、自らの姿を見ようと欲してこの世を創られたとあるが、『エイン・ソフ』から私達の住む現象世界は、直に発生させることはできなかった。そこで『エイン・ソフ』は、自らと現象世界を媒介とさせるために「セフィロト」を放射したといわれている。この世に存在する自然万物はすべて「セフィロト」の力によって発生したものである。『エイン・ソフ』は、全宇宙の統治者であり、自然万物の中に秘められて存在しているといわれている。

スーフィズム

神…アッラー
聖典…クルアーン
開祖…9-10世紀頃自然発生
スーフィズム教団間を統括するような教理体系は現れなかったが、おおむね一致する教理として次のようなものがある。つまり、創造者である神と被創造物である人間の内的な繋がりを仮定し、強い愛の力によって両者の隔たりを消滅させ、精神的合一を目指すというものである。
スーフィーの修行は階梯にたとえられ、神の与えてくれる心的状態(アフワール)を経験するとひとつ上の段階に移行できる。すべての階梯を登り切ると忘我の境地に至り、霊知(マアリファ)と真理(ハキーカ)と呼ばれる高い意識を永続的に得られると考えられた。
スーフィズムでは禁欲的で厳しい修行を行う。 修行法は様々だが、もっとも重要な行はズィクルと呼ばれる祈祷句を読み上げる儀礼である。神に思念を集中し一心不乱に連祷することでファナー(消滅・消融)と呼ばれるトランス状態に入り神秘体験をする。
ファナーに入るために音楽や踊りも盛んに用いられた。たとえば、白い布状の服を身につけて一心不乱に回る、回旋舞踊(セマー)と呼ばれるものを行い、神との一体化を求めた。スーフィーは導師の指導の下、決められた修行(マカーマート)を段階的にこなし、準備を進める。最終段階では、雑念を捨て去り一心に神の事をのみ考え、神と合一したという悟りが訪れるのを待つ。この境地に至った者は、時として聖者に認められ、崇拝の対象となった。

オカルティズム

「隠されたもの」 occultaを認める思想およびそれに基づくいろいろな行動をさす。通常の認識では解明できない自然現象、人間的事象などがその対象となる。占星術、呪術などをさすが、歴史的には近代科学を準備したともみられる面がある。
近代においてはバラ十字団やシェリングの学徒ケルナー、ツェルナーなどが、学問的復権をはかり、19世紀以来の神智学もこの系統に数えられる。特定の思想を指す言葉ではないため、宗派によって神や世界観は異なる。

5.無宗教・不可知論

不可知論

神…神の有無について知ることはできない
不可知論(agnosticism)は、ものごとの本質は人には認識することが不可能である、とする立場のこと。神の存在を知るとか、証明することは不可能であると考えており、原始仏教に近い立場ともいえる。

無神論

無神論(atheism)は、世界観の説明に神の存在、意思の介在などが存在しない、または不要と主張する考え方である。
「無宗教」と混同されがちだが、無宗教は特定の宗教を支持しない状況を指しており、積極的に神を否定する無神論と厳密には区別して考えられるべきである。唯物論や機械論を無神論とみなす者もいるが、これらの理論は霊魂や物質世界への超越的な力の介入を否定しているのであって、必ずしも神の存在を否定しない。

神の比較

イスラム ユダヤ・キリスト ゾロアスター バラモン・ヒンドゥー 仏教
アッラー YHWH - - -
- - - ブラフマー ブラフマー
〔梵天〕
- - アフラ・マズダー ヴィローチャナ ヴァイローチャナ
〔毘盧遮那仏〕
サタン サタン 暗黒神アーリマン - -
大天使ミーカール 大天使ミカエル ミスラ ミトラ マイトレーヤ
〔弥勒菩薩〕

リンク


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最終更新:2018年01月25日 10:27