Q資料


Qは、ドイツ語のQuelle「資料」の頭文字。新約学における2資料説に基づく仮説上の資料名。

同説によれば、マタイ福音書とルカ福音書は、マルコ福音書とQ資料の二つを骨格としてそれぞれ独自に改訂編集したとし、この説は基本的には、大部分の新約聖書学者には受容されている。

またQ資料が、文書資料であったことも、大部分の研究者が認めている。これは、マタイとルカ福音書のマルコに依らない平行個所(Q資料に帰せられる章句)が、高度な言語上の一致を示していること、またその章句の引用順序がマタイとルカがほとんど同じか、似通っていいることから結論される。

また資料は、おそらく一時に編集されたものではなく、かなり長い年月をかけて編まれたものであろう、つまり最初は個別語録が幾つか集まって句集合をなし、それが更に集結されて句集となり、やがてより大きな部分編集を通り、全体的な編集にと発展していったものと思われる。

このように考えたクロペンボルグは、Q資料が三つの段階を経て成立したという新しい説を示すに至った。彼によれば初めにまとめられたQ資料はイエスの知恵のことばを中心に、貧しさや使徒としての資格についてのことばが含まれていた。そこへ終わりの日と裁きに関することばが付け加えられ、最後にイエスの誘惑のことばが付け加えられたという。

Q資料の特徴

共観福音書は全て十字架贖罪論すなわち「イエスの歩む十字架贖罪死への道」を中心テーマとするが、Q資料には受難物語がない。つまりQ資料は十字架贖罪死信仰を無視している。

奇跡信仰もそれほど好まない。イエスそれ自体を崇拝するとか贖罪のキリストとして信じるとかするのではなく、イエスの行なった「人の子」の日の近い到来を告げる宣教活動を忠実に継承し、ひたすら「人の子」なるイエスの再臨の日、終わりの日、審判の日を待ち望む。

だからQ資料は受難観や十字架理解において「マルコによる福音書」をはじめとする共観福音書と正反対の立場にあるといえる。

マタイとルカの編集方法

マタイ、ルカの両福音書では、Q資料とマルコ福音書をそれぞれ用いて編集されている。(共観福音書も参照。)
マタイ福音書では、テーマ別に内容が分けられており、さらに言葉も編集されている。
ルカ福音書では、おそらくQ資料の順序に沿って福音書の物語が書かれている。

Q資料の内容

  1. 洗礼者ヨハネの説教(ルカ3:7-9,16-17)
  2. 荒野の誘惑(ルカ4:1-13)
  3. 「幸い」の説教(ルカ6:20-26)
  4. 愛敵の教え(ルカ6:27-28,35-36)
  5. 権利の放棄(ルカ6:29-30)
  6. 黄金律(ルカ6:31)
  7. 裁きの禁止(ルカ6:37-38,41-42)
  8. 盲人による盲人の手引き(ルカ6:39)
  9. 弟子と師(ルカ6:40)
  10. 木の実の比喩(ルカ6:43-45)
  11. 「主よ、主よ」と言う者(ルカ6:46)
  12. 建築のたとえ(ルカ6:47-49)
  13. カファルナウムの百人隊長(ルカ7:1-10)
  14. 洗礼者ヨハネの問い(ルカ7:18-23)
  15. 洗礼者ヨハネに対する評価(ルカ7:24-30)
  16. 「今の時代」のたとえ(ルカ7:31-35)
  17. イエスへの信従(ルカ9:57-62)(マタイ8:19-22)
  18. 弟子たちの派遣(ルカ10:1-12)
  19. ガリラヤの町々への呪い(ルカ10:13-16)
  20. 弟子たちに聞き従う勧め(ルカ10:17-20?)
  21. 啓示の言葉(ルカ10:21-22)(マタイ11:25-27)
  22. 見る目は「幸い」(ルカ10:23:-24)(マタイ13:16-17)
  23. 主の祈り(ルカ11:1-4)
  24. 求めよ(ルカ11:9-13)
  25. ベルゼブル論争(ルカ11:14-23)
  26. 汚れた霊の帰還(ルカ11:24-26)
  27. ヨナのしるし(ルカ11:29-32)
  28. 燭台の上に置かれるあかり(ルカ11:33)
  29. 目は身体のあかり(ルカ11:34)
  30. ファリサイ派批判(ルカ11:37-44)
  31. 知恵の言葉(ルカ11:45-54)
  32. 隠されたものの開示(ルカ12:2-3)
  33. 真に恐るべきもの(ルカ12:4-7)
  34. イエス告白と否認預言(ルカ12:8-9)
  35. 聖霊に逆らう罪(ルカ12:10)
  36. この世の権威の前で言うべきこと(ルカ12:11-12)
  37. 思い煩うな(ルカ12:22-32)
  38. この世の宝に対する警告(ルカ12:33-34)
  39. 夜盗(ルカ12:35-40)
  40. 忠実あるいは不忠実な僕(ルカ12:41-48)
  41. 地上の分裂(ルカ12:51-53)
  42. 和解の比喩(ルカ12:58-59)
  43. からし種(ルカ13:18-19)
  44. パン種(ルカ13:20-21)
  45. 狭い門
  46. 偽りの弟子たちの否定
  47. 諸国民の招宴
  48. エルサレムへの嘆き
  49. 高くされる者と低くされる者
  50. 盛大な晩餐の譬
  51. 家族を棄てての信従
  52. 十字架を負うての信従
  53. 塩の比喩
  54. いなくなった羊の譬
  55. 二人の主人
  56. 襲撃の言葉
  57. 律法の一画も落ちることはない
  58. 離婚の禁止
  59. 赦しの勤め
  60. 奇跡を起こすほどの信仰
  61. イエスの黙示録
  62. 命を救う者と失う者
  63. ミナ(またはタラント)の譬
  64. イスラエル十二部族の審判


Q資料の復元案


最終更新:2021年10月09日 19:07