キリスト教文学

キリスト教文学の歴史

2~3世紀

地中海文化の中心アレクサンドリアのオリゲネスをはじめとするギリシア語の作品、テルトゥリアヌスらによる護教的なラテン語の作品がある。

4世紀

生の苦悩と回心を扱うアウグスティヌスの自伝『告白』はキリスト教文学初期のもっとも重要な作品である。本書はアウグスティヌスの青年時代の罪深い生活からキリスト教へのめざめをたどっている。西欧において最初期に書かれていた自伝にはよく見られる内容であり、その後中世までおよそ1000年にわたってキリスト教徒の作家に強い影響を及ぼす雛形となった。完成した自伝ではなく、40歳ごろまでのアウグスティヌスしか書かれていない。

また、同じくアウグスティヌスの歴史書である『神の国』は、世界の創造以来の歴史を、地の国とそれに覆われ隠されている神の国の二つの歴史として叙述しており、普遍史の一つの解釈として知られているが、カトリックにおける自殺の禁止はこの著作に由来している。アウグスティヌスは『神の国』第1巻第16-28章において、自殺を肯定しない見解、自殺を罪と見なす見解を示した。神に身を捧げた女性が捕虜となって囚われの間に恥辱を被ったとしても、この恥辱を理由に自殺してはいけない、とした。またキリスト教徒には自殺の権利は認められていない、と述べた。「自らの命を奪う自殺者というのは、一人の人間を殺したことになる」とし、また旧約聖書のモーゼの十戒に「汝、殺すなかれ」と書かれている、と指摘し、自殺という行為は結局、神に背く罪だ、とした。アウグスティヌスは「真に気高い心はあらゆる苦しみに耐えるものである。苦しみからの逃避は弱さを認めること」「自殺者は極悪人として死ぬ。なぜなら自殺者は、誘惑の恐怖ばかりか、罪の赦しの可能性からも逃げてしまうからだ」と理由を述べた。

同時代のアンブロシウスは賛美歌創始者として知られており、『アンブロジオ聖歌』として歌われているものがそれだと言われている。ハンガリーの教会音楽研究者であるベンジャミン・ラジェキーによれば、アンブロシウス自身、賛美歌をいくつか作ったと書き残しており、アウグスティヌスは、そのうちの四つの詩について言及している。

7世紀末~8世紀

イギリスのキャドモン(Cædmon)キニウルフ(Cynewulf)が古英語で、美しく敬虔な詩を書く。
キャドモンは旧約聖書から題材をとり,キニウルフは新約聖書から題材をとって、それぞれ宗教詩を書き残している。

8世紀末

(現フランス)の司祭である オルレアンのテオドゥルフ(Theodulf of Orléans)がラテン語で、美しく敬虔な詩を書く。

9世紀

現在のドイツで書かれた古ザクソン語の詩『ヘーリアント』(救世主)は『新約聖書』の意訳として評価される。

中世後期

文芸が盛んになり、聖人伝説の代表作として、ヤコブス・デ・ウォラギネの『黄金伝説』(13世紀)、アッシジのフランチェスコの伝記『小さな花』など。
またクレチアン・ド・トロアを中心とするアーサー王伝説群は、5世紀末のケルト王アーサーに従う円卓の騎士たちが、最後の晩餐に用いられた聖杯を探求する主題で、騎士の行動はキリスト教精神に裏づけられた。この説話群は、15世紀イギリスのトマス・マロリーにより『アーサー王の死』として集大成された。
スコラ学の思想書としては、トマス・アクィナスの『神学大全』などが挙げられる。トマスの最大の業績は、キリスト教思想とアリストテレスを中心とした哲学を統合した総合的な体系を構築したことである。かつて

神秘主義的作品

ドイツのマイスター・エックハルト:生前は神秘主義的な著作や言動で知られていた。1326年ケルンで神学者として活動していたエックハルトはその教説のゆえに異端の告発を受け、これに対し「弁明書」を提出。審問を待つ間に、エックハルトは没した。その死後 1329年、エックハルトの命題は異端の宣告を受け、著作の刊行・配布が禁止された。著作は禁書となったが、「弁明書」を中心とした断片が残っており、ヨーロッパでは脈々と受け継がれてきた。
イギリスのノリッジのジュリアン:『神の愛の十六の啓示』(1393年ごろ)
スペインの十字架のヨハネ(San Juan de La Cruz):『暗夜』(1580年頃)など多数。

演劇

教会の儀式的な対話的交唱から、死、友情、知識などを擬人化した道徳劇(モラリティーズ)、
聖ニコラスらが主人公の奇跡劇(ミラクルズ)、
天地創造から最後の審判に至る重要場面を職人組合が演じる聖書劇(ミステリーズ)民衆に宗教的慰撫(いぶ)と娯楽を与えた。
ドイツのオーバーアマーガウで1634年以来10年ごとに村人によって行われる受難劇はこの系譜に連なる。

中世からルネサンス期の間

フィレンツェ出身のダンテ・アリギエーリの『神曲』(1321年)は、地獄篇、煉獄篇、天国篇の3部から成る、全14,233行の韻文による長編叙事詩であり、聖なる数「3」を基調とした極めて均整のとれた構成から、しばしばゴシック様式の大聖堂にたとえられる。イタリア文学最大の古典とされ、世界文学史にも重きをなしている。当時の作品としては珍しく、ラテン語ではなくトスカーナ方言で書かれていることが特徴である。
トマス・ア・ケンピスの信仰告白の書『キリストに倣いて』

ヨーロッパ近代文学

キリスト教の敬虔主義を母胎としたが、ヒューマニズム、宗教改革を経て16世紀以降急速に世俗化の傾向をたどる。イギリスの
ジョン・バニヤンの『天路歴程』(The Pilgrim's Progress、1678年正篇、1684年続篇)は、プロテスタント世界で最も多く読まれた宗教書とされる。"City of Destruction"(「破滅の町」)に住んでいたChristian(クリスチャン、基督者)という男が、「虚栄の市」や破壊者アポルオンとの死闘など様々な困難な通り抜けて、「天の都」にたどり着くまでの旅の記録の体裁をとっている。
ジョン・ミルトンの叙事詩『失楽園』(1667年):旧約聖書の『創世記』をテーマにした壮大な初期近代英語の叙事詩。人間の自由意志を中心テーマとする作品で、イギリス・キリスト教文学の金字塔と目される。

近代

理性の時代といわれる18世紀から、急速に産業革命が進む19世紀にかけて、ワーズワースの詩では、汎神論的傾向が強まる。




最終更新:2017年10月30日 07:18