パーリ仏典

仏教の経典は仏教の開祖であるゴーダマ・ブッダ(釈尊)が弟子に話して聞かせた内容を死後に記録したものである。ブッダは生前教えを文字に記すことを許さなかったといい、そのため、経典は暗記で保持され、ブッダの死後に弟子達が教えをまとめ、文字化したらしい。

ブッダの死後、仏弟子たちは教えの内容を簡潔にまとめ、あるいは韻文の詩の形に表現したという。これは古代マガダ語か、マガダ語の影響の強い俗語であったと推定される。それがある時期パーリ語に書き換えられ、現在ではパーリ語聖典のうちに伝えられている。一方、原始仏教聖典の全てをまとめた三蔵(経蔵、律蔵、論蔵)は、西暦紀元後にもとの俗語からサンスクリットに翻訳され、それがチベットと中国でそれぞれ翻訳されるという経緯を辿ったらしい。

パーリ仏典←古代マガダ語かその俗語による口伝の教え→サンスクリット経典→チベット大蔵経、漢訳仏典(大正蔵)

仏典は長い歳月の中で数々の言語による翻訳を経て、サンスクリットになり、そして漢語訳、チベット語訳になったのである。そしてそれが漢語訳を経て、日本へともたらされたわけである。

構成

律蔵

Vinaya Pitaka(ヴィナヤ・ピタカ):戒律
  • 経分別(Sutta-vibhanga) - 波羅提木叉(Patimokkha、僧団内規則、具足戒)の解説
  • 犍度(Khandhaka) - 僧団運営規則
  • 附随(Parivara)

経蔵

Sutta Pitaka(スッタ・ピタカ)漢訳『阿含経』:経典本体

長部(Digha Nikaya ディーガ・ニカーヤ)

漢訳『長阿含経』(大正蔵1)。長編の経典集。
パーリ仏典では34経、漢訳では30経。
沙門果経(サーマンニャパラ・スッタ)や大般涅槃経(マハーパリニッバーナ・スッタ)を含む。
須弥山と呼ばれる仏教の世界観が描かれている。

中部(Majjhima Nikaya マッジマ・ニカーヤ)

漢訳『中阿含経』(大正蔵26)。中編の経典集。
パーリ仏典では152経、漢訳では222経。

相応部(Samyutta Nikaya サンユッタ・ニカーヤ)

漢訳『雑阿含経』(大正蔵99)、『別訳雑阿含経』(大正蔵100)、『雑阿含経』(大正蔵101)。
テーマ別の短編経典集だが、漢訳では元々の主題別のまとまりが崩れてしまっている。
パーリ仏典では訳3000経、漢訳では1362経。

増支部(Anguttara Nikaya アングッタラ・ニカーヤ)

漢訳『増一阿含経』(大正蔵125)。トピック内容の数ごとにまとめた短編経典集。
その支(aṅga)の数が集(nipata)を重ねるごとに1つ1つ増えていくので、「aṅga(支)-uttara(上/増)」、漢訳では「増支」「増一」といった表現が成される。
パーリ仏典では9557経、漢訳では約520経。

小部(Khuddaka Nikaya クッダカ・ニカーヤ)

特異な経典集。パーリ仏典のみにあり、15経。
原始仏典であるスッタニパータ(法句経)やダンマパダ(経集)を含む。
漢訳では相当文が散在するが、主に大蔵経の「本縁部」に相当する。

論蔵

Abhidhamma Pitaka(アビダンマ・ピタカ):解説・注釈
  • 法集論(Dhamma-sangani)
  • 分別論(Vibhanga)
  • 界論(Dhatukatha)
  • 人施設論(Puggalapannatti)
  • 論事(Kathavatthu)
  • 双論(Yamaka)
  • 発趣論(Patthana)

その他

アッタカター(Aṭṭhakathā) - 注釈(註釈)書
ティーカー(Ṭīkā) - 複注釈(註釈)書・復注釈(註釈)書


原始仏教の教え(パーリ仏典、経蔵小部、原始仏教聖典)

原始仏教の教えを良く保存していると言われる。

『小誦経(Khuddakapāṭha Khp. クッダカパータ)』〔第1経〕

南方上座部の日常勤行聖典というべきものである。

『法句経(Dhammapada Dhp. ダンマパダ)』〔第2経〕

人生の指針となるような句を集めたアンソロジーである。
漢訳は、維祇難等訳『法句経』2巻(大正蔵210)、法炬共法立訳『法句譬喩経』4巻*(大正蔵211)、竺仏念訳『出曜経』30巻*(大正蔵212)、天息災訳『法集要頌経』4巻(大正蔵213)(法句譬喩経、出曜経には注釈書に相当する部分が含まれている)があり、プラークリットやチベット語の文献も残されている。
  • Dammapada(=真理のことば)=Damma(=法)pada(=ことば)

『自説経(Udāna Ud. ウダーナ)』〔第3経〕

釈尊が質問に答えるのではなく、感興に催されて自発的に発せられた詩を集めたもので、サンスクリット語で残された『ウダーナヴァルガ(Udānavarga)』は先の『法句経』とこれが合わされたようなものである。
  • Udanavarga(=感興のことば)=Udana(=感興語)varga(=集まり)

『如是語経(Itivuttakaīt. イティヴッタカ)』〔第4経〕

「世尊によってこのように説かれた(vutta)○○と(iti)」という形式でまとめられた経。

『経集(Suttanipātaśn. スッタニパータ)』〔第5経〕

古い経(sutta)を集めたものである。
漢訳にはその一部が『義足経』(大正蔵198)として残されている。
  • Suttanipata(=経の集大成)=Sutta(=経)nipata(=集大成)

『本生経(Jātaka J. ジャータカ)』〔第6経〕

釈尊の前世でのすぐれた行いを説話を借りて物語ったものだが、原始聖典に属するのは詩の形で書かれた部分で、物語の部分は後に成立した注釈書である。

『長老尼偈経(Thera-gāthā Thag. テーラガーター)』〔第8経〕

比丘たちがうたったとされる詩。

『長老尼偈経(Therī-gāthā Thīg. テーリーガーター)』〔第8経〕

比丘尼たちがうたったとされる詩。

以上の原始仏典聖典に対する注釈書

『天宮事経(Vimāna-vatthu Vv. ヴィマーナヴァットゥ)』〔第9経〕:天界の有り様とそこに生まれる原因となった業を説いたもの。
『餓鬼事経(Peta-vatthu Pv. ペータヴァットゥ)』〔第10経〕:餓鬼の有り様とそこに生まれる原因となった業を説いたもの。
『義釈(Niddesa Nd. ニッデーサ)』〔第11経〕:『経集』〔第5経〕のなかの義品と彼岸道品の注釈。
『無礙解道(Paṭisambhidāmagga Pṭm. パティサンビダーマッガ)』〔第12経〕:修業道の体系を述べたもの。
『譬喩経(Apadāna Ap. アパダーナ)』〔第13経〕:仏弟子の過去世についての詩。
『仏種姓経(Buddhavaṃsa Bv. ブッダヴァンサ)』〔第14経〕:25人の過去仏の種姓・因縁・一代記についての詩。
『所行蔵経(Cariyāpiṭaka Cp. チャリヤーピタカ)』〔第15経〕:『本生経』〔第6経〕の話のなかから十波羅蜜の各項に当てはまるものを選んで詩の形に編集したもの。


リンク

概説


本文

最終更新:2017年08月14日 14:25
添付ファイル