聖伝

聖伝あるいは聖伝承(Sacred Tradition, Holy Tradition)は、キリスト教における伝承のこと。正教会、東方諸教会、カトリック教会、聖公会では重要視される。
聖伝の位置づけについては正教会とカトリック教会の間に違いがある。正教会は「聖伝の中に聖書が含まれる」と捉えるのに対し、カトリック教会は「聖書と聖伝」と並び称す。
他方、プロテスタントでは位置付けが異なり伝統と訳すが、伝統をどこまで認めるかには幅があり、純粋に聖書のみを主張する者も居れば、逆にカトリック教会に近い伝統主義の者などもいる。

正教会の聖伝

次のものが聖伝の主要構成要素であるとされる。
  • 新旧約聖書
  • 七回の全地公会議決定
  • 地方公会(教会会議)決定
  • 信経、教義議定(公会で制定されたニカイア=コンスタンティノポリス、ニカイア、カルケドンの三つ。使徒信条やアタナシウス信条は公式には認められていない)
  • 奉神礼(いわゆる礼拝
  • 聖歌やイコン、教会建築などの教会芸術
  • 教会法
  • 聖師父の教え・聖人伝
  • 教会を形成していく人々の生きた体験の記憶

カトリックの聖伝

カトリック教会は正教会と異なり、「聖伝の中に聖書が含まれる」ではなく、「聖書と聖伝を同じく尊敬すべき」として、聖書と聖伝を並列させている。つまり、神が人類を救うために啓示した真理と手段のうち、聖書に含まれていないものをいう。トリエント公会議(1545年)において聖伝は「同じ畏敬を以て認むべきもの」(ラテン語: pari pietatis affectu)と位置づけられた。

カトリック教会は、聖書を聖霊の霊感によって書かれた神のことば、聖伝を「主キリストと聖霊から使徒たちに託された神のことばを余すところなくその後継者に伝え、後継者たちは、真理の霊の導きのもとに、説教によってそれを忠実に保ち、説明し、普及するようにするもの」と説明する。

カトリック教会でいう聖伝とは、使徒たちがイエスから受け、聖霊によって学んだ、使徒伝承を指す。使徒伝承は「大伝承」とも呼ばれる。
使徒伝承と別に「諸伝承」(神学、おきて、典礼、信心上の諸伝承)がある。諸伝承は大伝承との照合を受け、(ローマ教皇をかしらとする)教会の教導権の指導のもと、維持・修正・放棄される。

使徒継承の形式的な条件は、使徒ないしその後継者から教会の職に就く者が任ぜられることにある。これを「叙階」「叙品」などと呼ぶ。ここでは使徒にキリストが与えた権威は、後継者らによって継承されていくと信じられている。ここでいう使徒の後継者とは監督、後世の教会用語では主教・司教であって、彼らは複数人で他の主教・司教を任じ、あるいは単独で司祭や輔祭・助祭を任じることができる。その際、先任者が(頭に)「手を置くこと」によって任命がなされ、霊的な力が神から与えられると信じられている。宗教改革以前から存在する教会では、この儀式は機密・秘跡(サクラメント)の一つとされ、神の力が直接に働く神秘であると信じられている。

しかし、具体的に何がこの意味での聖伝であるかを決定するのは困難で、カトリック教会では、その教皇不謬性説に基づいて、教皇権によって決定されたものが聖伝であるとの立場をとる。

英国聖公会の司祭でありカンタベリーの大司祭であるMichael Ramsey(1961–1974)は、「使徒継承」の3つの意味を次のように記述した。
  1. ある司教が他の司教と同じ方法で引き継ぐということは、教えの継続性があったということを意味する:「教会は全体として心理が注がれる器であるが、それとともに司教らはこの任務を遂行する上で重要な機関である。」(One bishop succeeding another in the same see meant that there was a continuity of teaching: "while the Church as a whole is the vessel into which the truth is poured, the Bishops are an important organ in carrying out this task".)
  2. 司教らは次の意味の中で、使徒たちの後継者でもあった。「司教らが説教、当地、そして儀式を行うという機能は、使徒たちが行ったとの同様であった」(The bishops were also successors of the apostles in that "the functions they performed of preaching, governing and ordaining were the same as the Apostles had performed".)
  3. それは次のことを意味するためにも使用される。「恵みは、按手を通じて各世代の司教らにより、使徒たちから伝えられている。」(It is also used to signify that "grace is transmitted from the Apostles by each generation of bishops through the imposition of hands").
最終更新:2017年04月02日 14:40