七元徳

七元徳(しちげんとく)とは、カトリック教会の教義における7つの基本的な徳をいう。
古代ギリシアの「知恵」、「勇気」、「節制」、「正義」の4つの枢要徳に、『新約聖書』のパウロの手紙に見られる「信仰」、「希望」、「愛」の3つの徳を加えたものである。
カテキズム(キリスト教の教理をわかりやすく説明した要約ないし解説)においては、徳を人間的徳と対神徳に分け、4つの枢要徳を人間的徳の中心的な役割を果たすもの、信仰・希望・愛の3つを対神徳とする。
13世紀のトマス・アクィナスは、その著作の中で、キリスト教徒の七つの枢要徳と対比する形で七つの「枢要罪」をあげている。

歴史

4つの枢要徳については、プラトンやアリストテレスの著作に見える。なお、ギリシャ哲学からの逆輸入と考えられるものの、旧約聖書外典の「知恵の書」にも書かれている。
知恵の書8:7
だれか正義を愛する人がいるか。
知恵こそ働いて徳を得させるのだ。
すなわち、「節制」と「賢明」、
「正義」と「勇気」の徳を、知恵は教えるのである。
人生にはこれらの徳よりも有益なものはない。

3つの対神徳は、『新約聖書』のコリントの信徒への手紙一に見える。
コリントの信徒への手紙一13:13
それゆえ、信仰と、希望と、愛、この三つは、いつまでも残る。その中で最も大いなるものは、愛である。
なお、上記の3つの内、「信仰」に関しては「敬虔」として、また「神の無償の愛」としての「アガペー」に関しては後期末(最後)の対話篇『法律』の神学部分である第10巻における「神々は人間を配慮していて、宇宙全体の善を目指している(だから人間もそれに応えて善を目指していかなくてはならない)」といった記述として、プラトンの時代から既に提示されている発想であることに、留意が必要。これらは完全にキリスト教オリジナルの発想というわけではない。

プルデンティウス(Prudentius)によって西暦400年ごろに書かれた寓意的なラテン語叙事詩『プシュコマキア』(魂の闘い)は7つの美徳が7つの悪徳を倒す物語である。その7つの内容は現在の七元徳や七つの大罪とは多少異なっているが、美徳が7つあるという概念はこの書によって一般的になった。
トマス・アクィナス『神学大全』の第二部・第1部の問61で枢要徳について、問62で対神徳について取りあげている。また第2部では7つの徳のそれぞれを取りあげている。

七つの美徳 枢要徳/四元徳 七元徳
Prudentius(400年頃) 知恵の書8:7(前1世紀)
プラトンの著作など
中世
純潔(⇔色欲) 知恵/賢明 人間的徳 知恵
節制(⇔暴食) 勇気 勇気
救恤(⇔強欲) 節制 節制
勤勉(⇔怠惰) 正義 正義
慈悲(⇔憤怒) (敬虔) 対神徳 信仰
忍耐(⇔嫉妬) - 希望
謙譲(⇔傲慢) (神々の人間への配慮) 愛(アガペー)

最終更新:2017年05月12日 13:54