チェスとキリスト教文化

チェスは、紀元前のインドに存在したチャトランガを原型としているボードゲームである。
チェスの駒は、ポーン、ルーク、ナイト、ビショップ、クイーン、キングとなる。
この駒の構成に関して、キリスト教文化の影響が見られる。

チェスの歴史的背景

発生
  • チャトランガ(インド):王、将、象、馬、舟、歩兵
西洋
  • シャトランジ(ペルシャ):シャー(王)、フィルズ(将)、フィール(象)、ファラス(馬)、ルフ(戦車)、バイダク(歩兵)
  • セヌテレジ(エチオピア):ネグス(王)、フェルズ(将)、セベ(人)、ゲレス(馬)、デル(砦)、メデク(歩兵)
  • チェス(ヨーロッパ):キング(王)、クイーン(女王)、ビショップ(司祭)、ナイト(騎馬)、ルーク(砦)、ポーン(歩兵)
東南アジア
  • シットゥイン(ミャンマー):ミンジー(王)、シッケ(副官)、シン(象)、ミン(馬)、ヤター(戦車)、ネ(兵)
  • マークルック(タイ):クン(君)、コン(根)、メット(種)、マー(馬)、ルアー(舟)、ビア(貝)
東アジア
  • シャタル(モンゴル):ノヨン(王)、ベルス(獅/虎)、テメエ(駱駝)、メユル(馬)、ハンガイ(勒勒車)、フウ(兵)
  • シャンチー〔象棋〕(中国、ベトナム):師/将、仕or士/士、相/象、馬or傌/馬、車or俥/車、炮or包/炮or砲or包、兵/卒
  • チャンギ〔將棋〕(朝鮮):楚/漢、士、象、馬、車、包、卒/兵
  • 将棋(日本):玉将、金、銀、角行、桂馬、飛車、香車、歩兵

チェスのキリスト教社会への広がり

占いやサイコロなど、神との関係を否定する神託行為が固く禁じられたのと裏腹に、チェスは中世ヨーロッパに広く受け入れられた。
チェスはイスラム世界から中世ヨーロッパに伝わると、非常に多くの聖職者たちが自分の本来の仕事を忘れてしまうほどチェスに熱中したため、1061年にオスティンの枢機卿ダミアニが聖職者たちにチェスをすることを禁じた。しかし、彼の死後に再開されてしまう。1093年には東の正教会がチェスを非難し、この頃のビザンツ帝国やロシア方面では、異教徒の信仰の遺物として教会がチェス撲滅運動を行った。
中世ヨーロッパでチェスがどれだけ流行したかは、チェスの駒にビショップができたり、聖母マリア信仰の影響からクイーンができたことからも窺える。

象からビショップへ

英語のビショップはキリスト教の聖職者である「僧正」を意味する。駒の形が司教冠に似ているためであろうという。

この駒はもともと象を意味した。象は元々のインドのゲームでは軍隊を表現していた(それほどインドの軍隊では重要だった)。アラブでは象を維持したものの、イスラム教が「(理論上は)生命あるものの形象化を禁じていた」ので、象の牙だけを残して「がっちりした幹の上に生えた2種の角形隆起」で表した。しかし、象を知らないキリスト教徒はこの駒を理解できないので、様々な変形を施した(元のアラブ語をいじって「伯」「大膳官〔セネシャル〕」「樹木」「軍旗立て」などとと呼んだ)。最終的には駒の上に載った角形隆起を、司教冠(or道化の頭巾)に見立てた
結果として、「司教(司教冠)」はアングロ・サクソン諸国に、「道化(頭巾)」はその他の国々に広まった。現在ビショップと呼ばれるのは、イギリスでの「司教(司教冠)」が普及したものである。

将からクイーンへ

将として伝わってきた最強の駒は、聖母マリア信仰と合わさってクイーンとなったと考えられる。

キングの十字架

チェスのキングは、チャトランガの王に由来しているが、十字架のついた王冠を頭につけた形である。



最終更新:2017年07月05日 22:07