キアスマス構造

キアスマスの定義

聖書の文学形式がここ100年、特に20年ほど前から注目されるようになった。それがキアスマス(chiasmus、chiasm)である。キアスマスとはギリシャ語で「X形に交差した2本の線」を意味する(Xはギリシャ語アルファベットの22番目の「キー」)。

文学的にはキアスマスとは、並行した文・単語・概念の始まりと終わりが対称的に配置されることを指している。句、節、段落、章だけでなく、ときには書物全体がキアスマスになることもある。

簡単な例を見てみよう。マタイ福音書7:6である。
A 聖なるものを犬に与えてはいけません。
 B また豚の前に、真珠を投げてはなりません。
 B' それを足で踏みにじり、
A' 向き直ってあなたがたを引き裂くでしょうから。

AとBの文は、鏡像のようにB'とA'に反映されている。マタイ福音書7:6をキアスマスとして見るなら意味をはっきりとらえることができる。

  • 犬(A)→引き裂く(A')
  • 豚(B)→踏みにじる(B')

という対応関係はきわめて論理的だといえる。

上の例でみたようにキアスマスは基本的に2つの要素でできている。「倒置」と「並行」だ。この2要素から「折り返し点」という3番目の要素が生み出される。上の例は厳密にいえば「折り返し点」がないのでキアスマスではなく倒置並行法だ。キアスマス独特の構造は「折り返し点」を持つことである。折り返し点があるので、ほかの部分の構造も生じてくる。つまり、折り返し点でない部分を比較・対照・完結させることによって、折り返し点にあたる概念を補強するわけだ。

もう一度まとめると、キアスマスとは、中心概念を包み込むように対称的に配置され、並行法、直接法、倒置法、対照法などによる構造をもった文のことである。

前半部の終わりがそのまま後半部の始まりに現れるので、自然と「その間」に注意が向けられる。例を見てみよう。

A B X B' A'

上の「X」にあたる部分が対称をなす左右の中心にあることがわかるので、これを「折り返し点」とみなすわけである。



最終更新:2017年07月10日 21:26