アラベスク

アラベスク(Arabesque)は、モスクの壁面装飾に通常見られるイスラム美術の一様式で、植物文、幾何文、装飾文字などを組み合わせ、平面を埋め尽くす連続文様。幾何学的文様の選択と整形・配列の方法は、人物を描くことを禁じるスンニ派のイスラム的世界観に基づいている(シーア派ではムハンマドを除いて描くことは認められている)。

これは、主が偶像崇拝を禁じているとする解釈を拡大させた結果である。

クルアーン 19マルヤム章:42
かれ(イブラーヒーム=アブラハム)が父にこう言った時を思え。
「父よ,あなたは何故聞きも,見もしないで,また僅かの益をも与えないもの(木石の偶像)を崇拝なさるのか。

クルアーン 5アル・マーイダ章:90
あなたがた信仰する者よ、誠に酒と賭矢、偶像と占い矢は、忌み嫌われる悪魔の業である。これを避けなさい。恐らくあなたがたは成功するであろう。

聖書も次のように偶像崇拝は禁じているのだが、キリスト教では、子なるキリストは偶像崇拝の禁止の対象から外れると判断したため、人物画や彫刻が発展していくこととなった。

レビ記19:4
偶像を仰いではならない。神々の偶像を鋳造してはならない。わたしはあなたたちの神、主である。

レビ記26:1
あなたたちは偶像を造ってはならない。彫像、石柱、あるいは石像を国内に建てて、それを拝んではならない。わたしはあなたたちの神、主だからである。

ムスリムにとってこれらの文様は、可視的物質世界を超えて広がる無限のパターンを構成している。イスラム世界の多くの人々にとって、これらの文様はまさに無限の(したがって遍在する)、唯一神の創造のありのままを象徴する。さらに言うなら、イスラムのアラベスク芸術家は、キリスト教美術の主要な技法であるイコンを用いずに、明確な精神性を表現しているとも言えよう。

モスク(礼拝堂)やマドラサ(神学校)など、イスラーム建築の壁面にはタイルなどで美しいアラベスク模様が施されている。

アラベスク発展の歴史

アラベスク形式の幾何学的文様を用いた芸術作品は、イスラム世界でも、黄金時代(750年頃 - 1200年頃)を迎えるまでは広く使用されていなかった。イスラム黄金時代には、バグダードの知恵の館では古典古代のギリシャ語やラテン語のテキストがアラビア語に翻訳されていた。また後のヨーロッパのルネサンスのように、数学、科学、文学、歴史などの研究がイスラム世界に大々的に広まり、プラトンや、とりわけユークリッドの著作が教養人の間で人気を博した。

事実、アラベスクの原型となった様式の発生を促したのは、まさにユークリッド幾何学であり、ピタゴラスが体系化し、Al-Jawhari (800年 - 860年頃)が拡張した三角法の基礎であり、Al-Jawhariの『ユークリッド原論注釈』であった。また、我々の届かないところに永遠不滅の完璧な存在がある、とするプラトンのイデア論もアラベスクの発展に影響があったと考えられる。

幾何学文様

アラベスク模様の中で最も重要なのが幾何学文様である。幾何学文様はムスリムにとって、人間が目で見ることのできる物質世界を超えて広がる無限のパターンを表し、科学や数学と同様、アラベスクも普遍性を持つことから、そのパターンは唯一神の創造をそのまま象徴していると考える。それゆえ、モスクに描くべき最善の芸術様式として、自然界の背後にある秩序と統合のパターンであるアラベスクが用いられる。

グランド・モスケ・ド・パリ(Grande Mosquée de Paris)(フランス、パリ)

ハーフェズ廟(イラン、シーラーズ)

Shah Jahan Mosque(パキスタン、タッター)

預言者のモスク(Al-Masjid an-Nabawi)(サウジアラビア、メディナ)

Al-Salih Tala'i Mosque(エジプト、カイロ)

植物文様

シェイク・ザイード・モスク(Sheikh Zayed Mosque)(アラブ首長国連邦、アブダビ)

ティッラ・カーリー学院モスク(tilla-kari medressa mosque)(ウズベキスタン、サマルカンド)

Shahe-Cheragh’s mosque(イラン、シーラーズ)

シャー・モスク(Shah Mosque)(イラン、イスファハン)

文字文様

スルタンアフメト・モスク(Sultanahmet Camii)(トルコ、イスタンブール)

Sinan Pasha Mosque(コソボ、プリズレン)

イスラム教の宗教画

スンニ派では偶像崇拝を禁止していたことから、イスラム教には宗教画はかなり少ない。しかし、シーア派では人物画が必ずしも禁止されていたわけではなかったので、少数ながらも宗教画が存在する。

  • 『集史』(1307年)より
    • 『天使ジブリールから啓示を受けるムハンマド』
    • 『僧侶ビハラによりにんしきされている若きムハンマド』
    • 『カアバの位置へ黒石を移して紛争を解決したムハンマド』
    • 『ムハンマドの誕生』
    • 『夜の旅』
    • 『メディアへの旅中、女がヤギを洗う中語り合うムハンマドとAbu Bakr』
    • 『死の床にいるムハンマド』
  • 『預言者の夜の旅』(1539-43年)Sultan Muhammad作
  • 『Baraq(人面馬)に乗った預言者ムハンマドの肖像』(1830年)


最終更新:2017年08月04日 08:45