大乗仏典

大乗仏教では特に般若波羅蜜(智度)が、空の思想や菩薩の在り方とともに重要な用語として位置づけられ教説されたこと、如来蔵説が唱えられたことなどがある。
これは、衆生皆菩薩・一切衆生悉有仏性・生死即涅槃・煩悩即菩提などの如来蔵思想や、釈迦が前世において生きとし生けるものすべて(一切衆生)の苦しみを救おうと難行(菩薩行)を続けて来たというジャータカ伝説に基づいて、自分たちもこの釈尊の精神(菩提心)にならって六波羅蜜の概念の理解を通じ善根を積んで行くことにより、遠い未来において自分たちにもブッダとして道を成じる生が訪れる(三劫成仏)という修行仮説や死生観(地獄や空色を含む大千世界観)へと発展していった。そうした教義を明確に打ち出した経典として『華厳経』、『法華経』、『浄土三部経』、『涅槃経』などがある。
これらの経典は、釈迦の死後500年以上経ってから書きはじめられたものであり、釈迦が生前語っていたという形式によって書かれているが、実際に釈迦が語った言葉であるとは考えられていない。(キリスト教での外典に近い存在である)

大乗仏教で読まれる仏典

大乗でも読まれる上座部仏典

パーリ仏典と共通の口頭伝承のお経である。
  • 『蛇喩経 Alagaddūpama-sutta』(パーリ語経典中部第22経)〔『筏喩経』~『中阿含経』(大正蔵26)第54巻第200経『阿梨吒経』より抜粋〕:目的と手段を取り違えた場合に起こる悲惨さを説く。
  • 『箭喩経(小マールキヤ経) Cūḷamālukya-sutta』(パーリ語経典中部第63経)〔『中阿含経』(大正蔵26)第221経『箭喩経』、『箭喩経』(大正蔵94)〕:釈迦が、比丘マールキヤプッタに「毒矢のたとえ」で有名な説法をする。
  • 『戒香経』(大正蔵117)、『雑阿含経』(大正蔵99)第38巻『比丘相応』、『別訳雑阿含経』(大正蔵100)第1巻:仏戒を持つ男女は、その徳の故に、ふくいくとして遠くまでよく薫り、何のような香木、華果にも勝れる。 ただこれだけの事を述べた経。
  • 『央掘摩経(アングリマーラ経) Aṅgulimāla-sutta』(パーリ語経典中部第86経)〔『鴦掘摩経』(大正蔵118)、『鴦崛髻経』(大正蔵119)、『央掘魔羅経』(大正蔵120)〕:『アングリマーラの物語』として有名である。
  • 『等見品第三十四(二)』~『増一阿含経』(大正蔵125)第26巻:『琉璃王経』(大正蔵513)とほぼ同内容。

大乗仏典

主にサンスクリット語で書かれた経典の漢訳である。
  • アシュバゴーシャ『仏所行讃 Buddhacarita』曇無讖 訳『仏所行讃』(大正蔵192)〕:古代インドの仏教詩人アシュバゴーシャ(馬鳴<めみょう>)のサンスクリット叙事詩『ブッダチャリタ』を漢訳したものであり、ゴータマ・ブッダの生涯を語っている。
  • 『大品般若経序品』~『Pañcaviṃśatisāhasrikā-prajñāpāramitā Sūtra』の鳩摩羅什 訳『摩訶般若波羅蜜経』(大正蔵223)第27巻:
  • 『般若波羅蜜多心経 Prajñā-pāramitā-hṛdaya』玄奘三蔵 訳『般若波羅蜜多心経』(通称『般若心経』)(大正蔵251)〕:『菩薩が全ての生き物の幸福を追求するとき生ずる、あらゆる困難に打ち勝つ智慧』という意味である。
  • 『法華経 Saddharma Puṇḍarīka Sūtra』〔鳩摩羅什 訳『妙法蓮華経』(大正蔵262)、竺法護 訳『正法華経』(大正蔵263)、闍那崛多・達磨笈多共訳『添品妙法蓮華経』(大正蔵264)〕:「正しい教えである白い蓮の花の経典」の意。仏法について説いた経典。
  • 『華厳経 Avataṃsaka Sūtra』〔東東晉天竺三藏佛馱跋陀羅 訳『大方廣佛華嚴經』(大正蔵278)、于闐國三藏實叉難陀 訳『大方廣佛華嚴經』(大正蔵279)〕:「大方広仏の、華で飾られた(アヴァタンサカ)教え」の意。「大方広仏」、つまり時間も空間も超越した絶対的な存在としての仏という存在について説いた経典である。
  • 『勝鬘師子吼一乗大方便方広経 Śrīmālādevī-siṃhanāda Sūtra』(通称『勝鬘経』)〔『勝鬘師子吼一乗大方便方広経』(大正蔵353)〕:王妃という在家の女性を主人公とする経典。
  • 『浄土三部経』
    • 『無量寿経 Sukhāvatī-vyūha』〔『大宝積経』(大正蔵310)より菩提流志 訳『無量寿如来会』、康僧鎧 訳『無量寿経』(大正蔵360)、支婁迦讖 訳『無量清浄平等覚経』(大正蔵361)、支謙 訳『阿弥陀三耶三仏薩楼仏壇過度人道経』(大正蔵362)、法賢 訳『大乗無量寿荘厳経』(大正蔵363)〕
    • 『阿弥陀経 Sukhāvatī-vyūha』〔鳩摩羅什 訳『阿弥陀経』(大正蔵366)、玄奘 訳『称讃浄土仏摂受経』(大正蔵367)〕
    • 『観無量寿経 Amitāyurdhyāna Sūtra』〔『観無量寿仏経』(大正蔵365)〕
  • 『弥勒六部経』
    • 『上生経』〔沮渠京声 訳『観弥勒菩薩上生兜率天経』(大正蔵452)〕:釈迦が、弟子弥勒が兜率天(とそつてん)に生まれ変わると予言し、その通りになる。
    • 『下生経』〔竺法護 訳『弥勒下生経』(大正蔵453)、鳩摩羅什 訳『弥勒下生成仏経』(大正蔵454)、義浄 訳『弥勒下生成仏経』(大正蔵455)〕:将来、兜率天での修行を終えた弥勒がバラモンの子として下生し、悟りを開いて弥勒如来になる。
    • 『成仏経』〔鳩摩羅什 訳『弥勒大成仏経』(大正蔵456)〕
    • 『弥勒来時経』(大正蔵457)
  • 『維摩経 Vimalakīrti-nirdeśa Sūtra』『維摩詰経』(大正蔵474)、『維摩詰所説経』(大正蔵475)、『説無垢称経』(大正蔵476)〕:内容は中インド・ヴァイシャーリーの長者ヴィマラキールティ(維摩詰、維摩、浄名)にまつわる物語である。
  • 『四十二章経』(大正蔵784):仏教最初の漢訳経典とされる経典。
  • 竜樹=ナーガールジュナ『根本中頌 Mūlamadhyamaka-kārikā』〔青目 釈『中論』(大正蔵1565)〕:戯論が無意義にして害多きことを示すを唯一の目的とする書。

偽経と疑われるもの

  • 『大般若経理趣分』~『大般若波羅蜜多経 Mahāprajñāpāramitā Sūtra』の玄奘三蔵 訳『大般若波羅蜜多経』(通称『大般若経』)(大正蔵220)第578巻:西遊記でおなじみの三蔵法師(玄奘三蔵)がインド(天竺)に仏教の真理を求める旅によって得られた経典がこの『大般若波羅蜜多経』であり、ここには生きとし生けるもの、命あるものすべてが共存して行くための重要な教えが書かれている。『空』の思想が根本として説かれており、般若は智恵を意味し、智恵は人間の本来の持っている力を最大限に引き出すことが出来る。その『大般若経』全600巻の心髄を表わしている経である。
  • 『大悲心陀羅尼』〔『千手千眼観世音菩薩広大円満無礙大悲心陀羅尼経』(大正蔵1060)など〕:
  • 鳩摩羅什 訳『梵網経盧舎那仏説菩薩心地戒品第十』(通称『梵網経 Brahmajāla Sūtra』)(大正蔵1484):上巻は菩薩の階位である四十種類の法門を述べたものである。下巻は十重四十八軽戒と呼ばれる禁戒を述べたもので、父母に孝順であることなど、中国的な内容が見られる。パーリ仏典の『梵網経』とは全く関係がない。
  • 鳩摩羅什 訳『大智度論 Mahā-prajñāpāramitā-śāstra』(大正蔵1509):摩訶般若波羅蜜経27巻の解説書であり、仏教全体の解説書でもある。
  • 『舎利礼文』:仏陀釈尊が御入滅し、火葬された後に残された遺骨、いわゆる仏舎利に対する、礼敬の意を述べた文言である。よって、狭義でのお経、つまり仏陀の言動録である経典ではない。

日本の大乗仏典

  • 『答叡山澄法師求理趣釈経書』
  • 親鸞聖人『正信念仏偈(正信偈)』:親鸞聖人の「教行信証」の最後に出てくるもので、「教行信証」のエッセンスともいわれる。
  • 『曹洞教会修証義』:在家信者と僧侶のための「曹洞宗教化の標準書」と呼ばれ、法要・葬儀・施食会などで読経される。

密教仏典

  • 『般若波羅蜜多理趣百五十頌 Prajñāpāramitā-naya-śatapañcaśatikā』(通称『理趣経』)〔玄奘三蔵 訳『大般若波羅蜜多経』(通称『大般若経』)(大正蔵220)より『大般若経理趣分』、不空 訳『大楽金剛不空真実三摩耶経』(大正蔵243)〕:理趣とは、道筋の意味であり、「般若の知恵に至るための道筋」の意味である。他の密教の教えが全て修行を前提としている為、専門の僧侶でないと読んでもわからないのに対し、『般若理趣経』は行法についてほとんど触れておらず、一般向けの密教の入門書という位置づけだと考えられている。
  • 『大毘盧遮那成仏神変加持方等経の帝釈天と名付くる法門 Mahāvairocanābhisaṃbodhivikurvitādhiṣṭhānavaipulyasūtrendrarāja nāma dharmaparyāya』〔『大毘盧遮那成仏神変加持経』(通称『大日経』)(大正蔵848)〕:宇宙の真理を体現する法身仏である大日如来が、菩薩の代表である金剛薩たちの質問に答えるという形式で書かれている。
  • 『金剛頂経(真実摂経) Vajraśekhara Sūtra』〔『不空訳『金剛頂一切如来真実摂大乗現証大教王経(大教王経)』(通称『金剛頂経』)(大正蔵865)〕:

最終更新:2017年09月09日 11:11