ここでは、多くの母語話者を抱える言語の翻訳を中心に扱う。
ヒンディー語(3位)、ベンガル語(6位)はキリスト教人口が極めて少ないためここでは省略する。日本語については
日本語訳聖書で扱う。また、人口では少ないものの、ヘブライ語訳新約聖書と現代ギリシャ語訳は近代の翻訳の中では特別な意味を持つため含める。
ヘブライ語聖書(新約聖書)
新約聖書はギリシャ語で書かれたため、原典はヘブライ語ではない。ヘブライ語版は近代になって翻訳されたもののみであり、Franz Delitzschによる『ברית חדשה (Berit Khadasha), Hebrew New Testament』(1877年出版) と、Salkinson-Ginsburg訳の『Ha-Berit ha-Ḥadashah』(1877年翻訳、1886年出版)の二つが重要である。
初版は1877年出版であり、第10版が最終的な稿として1889年に出版された。
1891年に改訂されている。
ギリシャ語聖書(現代語)
新約聖書はギリシャ語で書かれており、この原典は見つかっていないものの研究されており、
テクストゥス・レセプトゥス(公認底本)、
ウェストコット・ホート、
ネストレ・アーラントとしてまとめられている。
旧約聖書はヘブライ語が原典であり、古代には
七十人訳聖書(SEP)として訳されている。
しかしながら、これらはコイネーと呼ばれる古代の共通語としてのギリシャ語であり、現代ギリシャ語とは異なる翻訳である。そこで、現代語訳を作る試みが行われてきたものの、ギリシャ正教会の反発があり、1924年に現代語訳の出版が自由化されるまでには多くの障害があった。
Η Αγία Γραφή (Παλαιά και Καινή Διαθήκη) (Today's Greek Version, TGV) (1997)
ギリシャ聖書協会で発行された現代ギリシャ語聖書。
ギリシャ語の新約聖書に批判的な編集を行ったもの。新約聖書のみ。
英語はネイティブが5億3000万人おり、中国語を除くと世界最大の母語話者を抱えている。しかも第二言語として10億人以上が使用していることから、聖書の販売数は最大である。
別ページ参照。KJV/NKJV, NIV, ESV, NLT が人気である。
スペイン語聖書
スペイン語はネイティブが4億2000万人おり、その多くがキリスト教国であることから聖書の販売数は英語に次ぎ多い。
1602年に発売となった古い翻訳の聖書であり、英語でいうところの鑑定訳(1611年)、日本語でいうところの文語訳(1887年)に等しい存在である。1960年改訂の
"Reina-Valera 1960" が最も人気がある。
英語訳聖書である"New International Version (NIV、新国際訳)"のスペイン語版である。1999年に完全版が発売となった。
アラビア語
アラビア語圏には古くからイスラム教徒に交じってキリスト教徒が多く存在し、中世から翻訳が存在する。
しかしながら、
聖書が禁じられている国がアラビア語圏には多数存在する。
もっともポピュラーな翻訳は「ヴァン・ダイク版(Van Dyck Version)」であり、シリア宣教会とアメリカ聖書協会が財政支援した。これはエリ・スミス(1801年 - 1857年)の着想による翻訳事業であり、1847年にベイルートを中心にして開始された。エリ・スミスの死後、コルネリウス・ファン・アレン・ファン・ダイク(en:Cornelius Van Allen Van Dyck)の監修で完成した。en:Nasif al Yazijiやen:Boutros al Bustaniなどが関わっている。こうして新約聖書は1860年3月9日に完成を迎え、1865年3月10日金曜日にタナハすなわち旧約聖書もこれに続いた。この年からおよそ一千万部にも及ぶ聖書が配られ、コプト教会およびプロテスタントで使われていった。この翻訳は欽定訳聖書と同じくテクストゥス・レセプトゥスを主な底本とし、翻訳の文体的なスタイルも欽定訳聖書に倣った。
ポルトガル語
ポルトガル語はネイティブが2億1500万人おり、キリスト教圏の言語としては英語、スペイン語に次ぎ3番目に多い。ポルトガルの人口は1000万人程度であり、その9割がカトリックである。一方、ブラジルの人口は2億人であり、カトリックとプロテスタントが入り交ざっち得る。
Almeida (1681/1821)
カトリックの聖書だが、プロテスタントにも評価されている。
ロシア語
ロシアでは元々、教会スラブ語による聖書が用いられていた。近代になりRUSVが長らく使われていたが、1990年になりソビエト政府が崩壊すると、教会による活動が活発となり、さまざまな新しい翻訳の聖書が書かれている。
RUSVは教会スラブ語でないロシア語聖書であり、ロシア正教会やロシアのプロテスタントで使われている聖書である。翻訳は1813年に始まり、新約聖書が1820年に、旧約聖書が1825年に出版された。
国際聖書協会による翻訳である。
フランス語聖書
フランス語の主話者は1億3000万人程度だが、総話者は2億人を超え、アフリカの多くの国で使用されている。
フランス語のプロテスタントの聖書では最も普及している。1975-78年に改訂されている。
LSGよりも意訳の多いフランス語訳聖書である。
Bible en français courant (BFC) (1987)
LSGとBDS以外で人気の聖書である。
La Bible de Jérusalem (エルサレム聖書) (1954)
カトリックの聖書である。これは英語でも「エルサレム聖書 (The Jerusalem Bible)」として読むことができる。これはフランス語で最初に1954年に登場し、1973年に改訂された。その豊富でありながら簡素な脚注と器具はプロテスタントとカトリック双方の読者の尊敬を勝ち得ている。この翻訳はフランス語からの重訳が多数なされている。その中でも英語版(1966)は、オリジナルであるフランス語版が1973年に改訂したのをうけ、1985年に
"New Jerusalem Bible (NJB, 新エルサレム聖書)" に改訂されている。
ドイツ語聖書
ドイツ語は総話者1億3000万人程度であり、公用語として使用される地域もヨーロッパに限られているが、現代語訳聖書発祥の地として重要な点や、母語話者数が10位であることから重要な言語と言える。
ドイツ語への聖書翻訳においてもっとも大きな重要度と影響を持ったのは『ルター聖書』であった。マルティン・ルター(1483年-1546年)の翻訳がドイツ語の発展に与えた影響は、しばしば、KJV(『ジェイムズ王欽定訳聖書』)が英語に対し与えた影響と比較される。ルター訳聖書は1986年の改訂を経て現在も使用されている。まず、ルターは独力で新約聖書の翻訳を行ったが、旧約聖書の翻訳に際してはカスパール・アクィラら複数の専門家から助言を受けた。新約聖書の翻訳に於いては特にヴルガータの影響が強く感じられる。
ルター聖書1984年版(LUT1984)。
チューリッヒ聖書は、聖書翻訳のひとつで、フルドリッヒ・ツヴィングリによるドイツ語訳である。翻訳作業はツヴィングリと彼の友人であるLeo Jud、そして聖ペテロ教区の牧師が中心となって行われ、マルティン・ルターの「ルター聖書」より先に完成された。
俗にいうダービー聖書(Darby Bible, 正式名称: The Holy Scriptures: A New Translation from the Original Languages by J.N.Darby)はジョン・ネルソン・ダービー(1800-1882)によりヘブライ語およびギリシャ語から翻訳された聖書のことである。ドイツ語版は1871年に出版されているが、他にフランス語版(1885年)と英語版(1890年)も出版されている。
J.N.ダービーは旧約聖書において、他の大半の訳が神の御名を主(LORD)または神(God)としているのに対して、エホバ(Jehovah)と訳している。エホバ(Jehovah)と訳され、広く使われているのはアメリカ標準訳(ASV)だけだが、エホバの証人新世界訳(1950)がこのASVに倣っており、就中、底本の頻度を超えて200回以上も「エホバ」という言葉を使用している。
シュラクター聖書は、Franz Eugen Schlachterによるドイツ語訳聖書である。何度か改訂されており、2000年改訂の
"Schlachter 2000"が最新である。
この翻訳は、ドイツ語を話すカトリックの全司教区で共通に使用される最初の翻訳聖書であるが故、このように呼ばれている。『統一訳聖書』の新約聖書と詩篇の訳文テクストは、ローマ・カトリックとプロテスタントの学者からなる委員会において合意されたもので、ローマ・カトリックとプロテスタントの双方の信徒による使用を意図したものである。とりわけエキュメニズム(普遍教会運動)での有益性が意図されている。その一方で、残りの旧約聖書の部分は、ローマ・カトリックの伝統に従った翻訳を意図している。
イタリア語
イタリア語のネイティブは6100万人に留まるが、イタリア人の9割超がキリスト教徒であり、キリスト教人口としては多いといえる。
イタリア司教会議によるカトリックの聖書である。
中国語
中国でもキリスト教人口は5%に過ぎないが、総人口が13億人を超えることから、6000万人を超える大きなコミュニティーとなっている。
和合本(héhéběn、わごうほん)はプロテスタントの中国語訳聖書の中でも現在最も多く使われているもので、1919年に完成した。もともと現在は中国語繁体字と呼ぶ旧漢字で縦書きであったが、中華人民共和国成立後は
簡体字版(CUVS)が発行されている。横書き、新標点版(現代風の句読点付き)などもある。また
ピンイン版(CUVP)も存在する。
通称:思高聖経(思高圣经/思高聖經 sīgāo shèngjīng, しこうせいきょう)はキリスト教聖書の中国語訳である。20世紀中ごろに完成し、カトリックの用語で翻訳されているので、中国語を使うカトリック教会でもっとも広く使われている聖書である。中国大陸では徐々に牧霊聖経が広く使われてきている。
牧霊聖経(牧灵圣经/牧靈聖經 mùlíng shèngjīng, ぼくれいせいきょう)はクリスチャン・コミュニティー・バイブルの流れを汲む中国語聖書で、1999年に完成したもので、中国のカトリック教会で採用しているところが多く、中国のプロテスタント教会で広く使われている和合本と並んで、中国でもっとも広く読まれている聖書である。
朝鮮語/韓国語
朝鮮語の母語話者は7500万人であるが、韓国はフィリピンを除くアジア諸国ではもっともキリスト教徒の比率が高い国である。
예수 聖敎全書 (예수[イエス] 셩교젼셔) (1887)
ジョン・ロスが奉天の東関教会で翻訳・出版。
韓国プロテスタント教会の殆んどの公認聖書の一つ。最近まで最も一般的な聖書だった。
改訳ハングル版の改訂版。今は韓国プロテスタント教会で一番ポピュラーな聖書。
韓国のカトリックとプロテスタントによる共同の翻訳。しかし、韓国プロテスタント教会はほとんど使わなかった。1984年にはDPRK版である『共同翻訳 平壌校訂本』も出版されている。
聖經 (Holy Bible, 2005)
韓国カトリックの現公認聖書。
最終更新:2018年01月19日 20:13