「幸福な」少女とウソつきの話  ◆XksB4AwhxU




彼女は、普通の少女だった。
友達と優しい両親を持つ、幸福なごく普通の少女だった。
しかし、悲劇が訪れた。
その悲劇は、その少女とその家族の人生を狂わせるには、十分すぎる物だった。
少女の父は、”無くなってしまった”母を求め続けた。
少女が何を言っても、聞かなかった。
やがて父は、その少女を鬱陶しく思うようになった。
そして、父は少女に、暴力を教えた。

I-8、岸壁に立つ集落の家屋の一つ。

伊丹沢 妙 という少女は転送された部屋の隅で、震えている事しかできなかった。

この舞台に転送される前......彼女は些細な事で父親に叱られ、罰を受けていた。
執拗に殴られ、蹴られ、髪を引っ張られながらも、少女は悲鳴を上げず、ただ「ごめんなさい」と繰り返し謝るだけだった。
父親はそれが癪に障るのか、終いには酒ビンを取り出し、頭から血が出るまで殴られても.....少女は、ただ耐えるだけだった。
.結局父親はぼろ雑巾の様になった自身の娘を蹴り飛ばし、ドアを蹴って出て行ってしまった。
かつて、父親と母親に囲まれて過ごした部屋を片付けながら、少女は思う。
どうして、こんな事になったのだろう。
何で優しかったお父さんは、帰って来てはくれないのだろう。
幾ら考えても分からなかった。やがて、父が帰ってきて、隅で震えている彼女を殴ろうとした瞬間、少女は見知らぬ空間へ転送された。


始めは、何が何だか分からなかった。もしかして、殴られて死んじゃったのかな、みたいな事をぼんやり思っていた。
男の人が殺し合いをするとか何とか言っていたけど、よく分からなかった。
皆、何やら騒いでたけど.......突然、大きい音と一緒に女の人の頭が無くなって、消えていった。
私は、これは夢なのだと思った。
男の人が何か言っていたけど、何も聞こえなかった。その人に組み付いてきた人がいたけれど、しばらくしたらその人は倒れて動かなくなった。
そして、男の人が何か言い終わると同時に、私の体はどこかへ消えていった。

夢だと分かっているはずなのに、私の体には、まだこの夢に入る前の、殴られた痛みが残っていた。


「痛い.....痛い.....痛いよお........お父さん、やめて......ねぇ、お父さん......」
「バトル・ロワイヤル」という「暴力」の中で、彼女は現実を受け入れられず。小さく、か細い声でうわ言を繰り返し呟き続ける事しかできなかった。


古い家屋の一室で、側後 健彦は目覚めた。
どうにも記憶が曖昧、と言えばいいのか......今までの出来事がどうも現実離れし過ぎているのか、状況の把握に数秒かかった。
私は、あの夜....確か、『仕事』の『後始末』を終えて帰路に着いていたはずだった。
何一つ証拠が出ないよう、入念に「掃除」し、塵の一つも「汚れ」がない事を確認し、満悦に浸りながら.....楽しい週末を、過ごすはずだった。
しかし.....『奴』が、それを邪魔した。
ナオ=ヒューマ......訳の分からないイカれた男に首輪を付けられ、「バトル・ロワイヤル」とか言う、傍迷惑な「暇潰し」のキャストに選ばれた。
歯向かった二人の少年は殺された。「能力」を与えたとか言っていたが、何の事かは分からない。
そして、その一連の行為は.....「安心」を求める彼にとっては、恐ろしく屈辱的なものだった。
しかしその傍らで、冷静に事態を受け入れ、先の見えぬアクシデントに対処・対策を練ろうとする「彼」もいた。記憶を巻き戻し、この殺し合いに関する情報を少しでも多く手に入れようとする。
そうして頭を分析の方へ回し......一通り落ち着いた側後は、傍に転送されていたらしい「支給品」を確認した後、慎重に部屋の探索を始めた。


そうして、彼女等は出会う。
先に気付いたのは、側後の方だった。暗がりの隅で、蚊が鳴くような声で何かを呟き続けている。自分の中の世界に縋り付いて、周りなどこれっぽっちも見えてはいない様子だった。
そして彼女は、側後 健彦という男が、幾重となく見てきた「目」をしていた。
全てを失い、何も見えていない目。ただひたすらに、在りし日の幸福を求める盲目の「目」だった。
チャンスだ、と側後は思った。
チャンスというよりは、幸運と言うべきか......ある意味当然の事ではあった。ごく普通の小学生が、いきなり見知らぬところへ転送され、理不尽な殺し合いを強いられているという状況なのだから。
そして、今まで「観察」をしてきて分かった事だが......この状態の「人間」という生き物は、酷く脆い。
それでいて、扱いやすい。.....もっとも、この「殺し合い」という場では、彼女など真っ先に屠られる存在であり、どの道足手纏いにしかならないと、普通なら思うだろう。
しかし、この「殺し合い」の場合......あのイカれた男、ヒューマが言っていたことを思い出す。

「一見ガキにしか見えない奴も大人を余裕でバラバラにできるぐらいの能力を持っている」.....にわかには信じがたいが、どうも奴の言動からして漫画とかアニメとかの”創作物”から、そういった類の能力を”そのまま”移植したらしい。

だとしたら、利用する価値は存分にある。少なくとも、その「能力」とやらの存在を確認するまでは、生かしておいて損は無いだろう。
そう判断し.....表向きの弁護士の顔で接しようと、極力自然に、心配するように声をかけた。

しかし、それが誤算だった。



濁っていた瞳が、黄金色に光り

声を掛けられた彼女は、その意識を外界に向け

『戻される事』への恐怖からか、無意識に 『能力』 を発動させていた。


双方とも、何が起きたのかは最後まで分からなかった。
ただ、どちらも一瞬、「妙な感覚」があった。厳密に言うなら、「意識」が飛ぶような感覚が。
先に我に返ったのは、妙の方だった。ハッとなって、目の前に男がいる事に気づき、怯えて数歩、覚束ない足取りで後ずさった。
暗がりで、顔は見えなかった。どうやら自分に起こった事が信じられず、呆然としている様子だった。
そうして、男の方も我に返り......妙の体を、恐怖が包んだ。

「......お前.........」

その男の顔には、何も無かった。
まるで、『薄っぺらな嘘』の仮面が剥がれ落ちたように。

「私に、『何をした?』」

真っ白な顔から、目が浮かび出た。
男は、伊丹沢 妙という少女が、幾度となく見てきた「目」をしていた。

そして、顔が生えてきた。
少女は、絶叫した。
薄れゆく意識の中で、男は、父親と同じ顔をしていた。


部屋の片隅で、側後はため息をついていた。
結局少女は糸が切れたように倒れ、そのまま眠ってしまったようだ。精神の限界、という奴だろう。始めて『仕事』を引き受けた時によく見物出来た光景だった。
少女の能力については、依然不明のままだ。身体にも、能力をモロに受けたと思われる視界にも異常は見られない。
側後は再びため息をつき、掌から『あるもの』を出現させる。
”謝債発行機”――名称など側後は知る由もないが、その『能力』は、音楽プレーヤーの様な形をしていた。
側後が少女から能力の攻撃らしきものを受けたあの時.....側後の掌には、何かが出現したかのような感触があった。
その後、不可解に思いあの感触のイメージを何回か試しているうちに.....彼の掌には、『感触』の正体が具現化されていた、という訳だ。
妙な感覚だが.....あのヒューマの言う事を信じるなら、これが自分の能力だという事になる。
そのイメージを掴む為、しばらく出現させては消す動作を繰り返していたが.....ここで、”謝債発行機”の上部に、イヤホンジャックのような穴がある事に気づく。
「(........そう言えば.....デイバッグの中に、イヤホンがあったな)」
思い出し、デイバッグから『オマケ』とメモが付けられたイヤホンを取り出す。確認した時は何の事だか分からなかったが.......
「(.....しかし........これが本当に「能力」だとして、あの男......本当にこれで私を生き残らせる気があるのか?)」

最初、あの男.....ヒューマに逆らい、体に穴をあけて死んでいった男.....警官の、ジョーと言ったっけな。
あの男にはお誂え向きと言わんばかりの、子供向け番組に出てきそうなスーパーマンの様な能力が与えられていた。
その超人染みた能力を、ヒューマは自分が与えた能力を.....まるで自慢するかのように語っていた。
それに比べて、自分の能力は......「音楽プレーヤーを出現させる能力」?笑い話にもほどがある。
勿論、そんなカスみたいな能力で到底生き残れるとは思えないが......何かが、引っかかる。
.....確か、あの男は、確か殺し合いが開始される直前に......「優勝者は、特別報酬として能力を進呈する」等と、言っていたな。
.......やはり、引っかかる。能力を紹介していた時と言い、あの男は、自分が与えた能力に妙な自信を持っている。

「(.....試してみる価値は、あるか)」


....しかし、何とも言えない、厄介な状況になったな。
この「能力」の事もあるが.......やはり、一番の心配はこの少女だ。
幸い今は寝ているが、どうもこのガキ.....前は暗くて分からなかったが、見てみた所、まるで数分前までぶたれていたような腫れ痕などが顔のあちこちに幾つか見られる。
成程、どうもこいつは......既に、壊れていたみたいだな。一時的なショックで混乱していただけだと思っていたが......
......そうなると、困ったことに......この少女が何をするか、想像が付かない。もしかすればヒューマの言っていた事を思い出し、「能力」を使って私を真っ先に殺しにくるのかもしれないな。
しかし、未だ自分の能力の"本質"が分からない以上、リスクはあるが......折角の幸運を、無駄にするわけには行かない。一先ず、彼女との接し方にはより一層、慎重になる必要があるな。
幸い、”職務上”人に「希望」をチラつかせ、誘導させるのは自分の十八番だ。くれぐれも隙は、与えないようにしなければ。

一先ず、休むとするか.......そう言えば、このプレーヤー、確か一つだけ音楽のアルバムが入っていたな.....「Black planet」?......一先ず、聴いてみるか......

夜は、まだ明けない。


【一日目・1時00分/I-8・集落】

【側後健彦@謝債発行機/HUNTERxHUNTER】
[状態]:精神疲労(小)、若干の不安
[装備]:謝債発行機@HUNTERxHUNTER
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2(確認済み)、『オマケ』のイヤホン
[思考・行動]
基本方針: 生き残る。一先ず自身の能力の”本質”が分かるまでは様子見。
1:この音楽プレイヤー(謝債発行機)を試してみる。
2:一先ず、休む。どうするかはガキが目覚めたら考えるか。
3:このガキは....能力が分かるまでは、精々利用させてもらおう。

[備考]
※伊丹沢妙の能力を見ました(能力レンタルの第一条件を達成)

【伊丹沢妙@略奪/Charlotte】
[状態]:体中に殴られた傷と痣、精神疲労(大)、睡眠中
[装備]:なし
[道具]: 基本支給品一式、不明支給品(0~2)
[思考・行動]
基本方針:???
1:お母、さん......
2:側後への恐怖

[備考]
※自身の能力を、まだ使いこなせていません


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