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「一体どうなってんだよ、こいつは!」
『新一、落ち着け。無駄に騒ぐんじゃない』
「無理だっつーの! こんなん!」

 住宅街の一室にその少年はいた。
 寝室のベッドに腰掛けながら、少年は誰かと会話をしていた。
 室内に少年以外の姿はない。
 ただ一人で、だというのに何処からともなく返事がくる。

『落ち着け。できる筈だ。新一、きみなら』

 声に従うように、新一と呼ばれた少年は大きく息を吸う。
 左手を胸に置き、吸い込んだ空気を長く長く吐き出す。
 それだけの動作で、確かに新一の表情には落ち着きが戻っていた。
 寸前までの焦燥が嘘のように、けろっとした顔で座っていた。

『頭は冷えたか?』
「……ああ、ありがとう。ミギー」

 孤独な会話は続く。
 いや、良く見ると言葉を放つ口はもう一つあった。
 こねてる途中のパン生地のように、奇妙に伸びた右腕。
 その先につぶらな瞳が一つと、口がある。
 右手が、喋っていた。

「それにしてもどうなってんだよ、本当に」
『わたしにも分からん。気付いたら先程の場にいて、気付いたらここにいた』
「マジかよ……だぁ~、やっぱり落ち着けねぇ~!!」

 話す右手を、新一は当たり前のように受け入れていた。
 気味悪がる様子も、驚く様子もない。
 中々にシュールな光景がそこに広がっていた。

「……さっきのあれ、本気かな」
『本気、だろうな。伊達や酔狂でこんな事が出来る訳がない』
「だよなあ……どうしようか、ミギー」

 最後の三人だけが生還できるという殺し合い。 
 さきの暗闇では相当な数の人がいた。

『殺してしまえば良いだろう。自分以外の参加者を』

 右手……新一からミギーと呼ばれる怪物の答えは明快である。
 参加者の殺戮。
 成る程、今存在する最も明確な生還方法だった。

「んなことできるかよ……」

 新一は首を横に振り、ミギーの案を却下した。
 そう返答すると分かっていたのだろう、ミギーは続ける。

『だが、それが最も簡潔だ。なに、今のきみならただの人間が何人揃ったところで負けはしない』
「そういう話じゃないだろ! こんな状況だろうと人を殺すってのは……ダメだよ」
『そうか……。ならば、どうする』

 答えは、出ない。
 少なくとも新一の側に見出せる答えはなかった。
 沈黙が場に重くのしかかる。

『……まずは会場を見て回るか。何か脱出手段が見つかるかもしれない』
「ミギー……!」

 先に沈黙を打ち破ったのはミギーであった。

『きみは強情だからな。他者の殺害が無理なら他の手段を考えるしかあるまい』
「ありがとうな、助かるよ」

 i-Phon●を開き、地図を見る。
 東側にオフィス街、南側には海、西側に住宅街、北側に草原。
 中央は森林地帯が広がり、地図の中心点に鉄塔がある。
 また各地には施設があるらしい。
 オフィス街には『765プロダクション事務所』、『廃ビル』、『NY市警』。
 住宅街には『東福山市役所』、『音ノ木坂学院』、『本能寺』。
 北の草原地帯には『ヘルシング邸』、『ルパン三世のアジト』、『中央要塔<セントラルピラー>』。
 南側の海岸線には何もない。

「……なぁ、ミギー。これ書いてあること本当かな」
『どうだろうな。嘘を記すメリットはないだろうが』

 とてもじゃないが信じられる中身ではない。
 『765プロダクション事務所』は東京の大田区にある。
 その近くに『NY市警』がある訳などないし、スクールアイドルで有名な『音ノ木坂学院』だって歩いていける距離にある訳でもない。
 『東福山市役所』は新一も良くしっているが、こんな地理上にあった筈はなかった。
 まるで嘘のような地図がそこに広がっている。

「訳わかんねえなあ、もう……」

 頭をかきながら、新一は立ち上がった。
 殺し合いに謎の会場。
 考えることが多すぎて頭がパンクしそうであった。
 それでも何とかしなければならない。
 こんな所で死ぬのだけは嫌であった。

『そういえば新一は気付いていたか?』
「ん? 何が?」
『参加者名簿の名前の事だ』
「有名人から、信長なんていうまた良く分かんない名前までいっぱいいたな。それがどうした?」
『その中に後藤とあった』
「あー、確かにあった気がするなあ。……って、まさか」
『あの後藤だ』
「えぇえ!? だ、だって後藤なんて名前どこにでも……」
『……最初の場で奴の反応を感じた。あちらも気付いているだろうな』
「マジ……」

 後藤。
 五体の寄生生物が集結して出来た最強の存在。
 かつてパラサイトの打倒を掲げ、自衛隊や警察が協力をしたことがあった。
 『東福山市役所』を包囲し、対パラサイト用の装備をした兵士が何十と投入。
 作戦は思いの外うまくいき、多少の被害を出しながらもパラサイト達を駆逐していった。
 だが、その優勢を一人で覆したのが後藤だった。
 部隊を全滅させ、包囲網から悠遊と立ち去っていった。
 しかも新一を殺害するという最悪の宣言を残して、だ。
 まさかこんな状況になってまで、後藤から狙われるとは思いもしなかった。


『何らかの対策を練っておく必要はあるだろう』
「そうだな……」

 問題は山積みだ。
 思わず溜め息が漏れる。
 それでもと、前を向けるのは彼が相応の修羅場を潜り抜けてきたからだろう。
 前を向き、民家から出る。

「とりあえず『東福山市役所』を目指すよ。施設が本物かどうか見ておきたい」
『そうだな、それが良いだろう』

 新一とミギー。
 生き延びるために、寄り添い、進む。
 奇妙な一人が、道を進んでいく。