ベンキとマンコ、勃つ!の巻

私は一体誰なのだ?

私はなぜこの地――京都にいるのか?

なぜ体のど真ん中に、こんな四角の窪みがあるのか?

そしてこの頭の上の、トグロのオブジェはなんなのか?

ひとつ分かっていることは、私が京都のプロレス団体に所属するレスラーであること――

そして皆が私をこのオブジェの形から"エラード(ソフトフリーム)マン"と呼んでくれていること。








朝日が昇り、青空に照らされている京都市内の歩道を堂々と歩く、一人の男がいた。
荷袋を肩にかけて背負い、日光に目をしかめることもなく無表情な顔で淡々と歩いている。
しかし、彼とすれ違った通行人は例外なくその容姿を二度見して目を丸くしたり、男の頭頂部を凝視したりするなど、
所謂一般人と言われるようなただの男ではないことはその外見から一目瞭然であった。
艶のある硬そうでメタリックな質感の白銀の肌。服すら纏っておらず、胴体はタイルで覆われた窪みのある箱で構成されている。
そして、彼の頭頂部にはまるでチョコレート味のソフトクリームのような、茶色のとぐろを巻いたオブジェが絶大な存在感を放っていた。

「ママー。なんであのひとあたまのうえにウンコのせてるの?」
「シーッ!関わっちゃダメよ!」

母親に手を引かれる子供が男を指さして言う。
しかし、彼の頭に乗っている物は排泄物のオブジェではない。あくまでソフトクリームである。
なぜなら、この男には「エラードマン」という与えられた仮の名があるのだから。

「…結局、何もわからぬままここまで来てしまったな」

エラードマンは京都市随一の施設面積を誇る体育館を前にして呟く。
今日は、エラードマンの所属するプロレス団体でのチャンピオン決定戦が、この体育館を貸し切った上で執り行われる。
テレビのCMに新聞、京都市中を行き交う宣伝車までもを動員した、京都市のプロレス団体の命運を左右する一大イベントだ。
その盤石の宣伝体制の甲斐もあって、京都に住む往年のプロレスファンは勿論、その手の話にあまり詳しくない新参者から家族連れまでが観戦に訪れるという。
このチャンピオン決定戦は、プロレス団体としては何としても成功に終わらせて観客の脳裏に焼き付かせたい興行であるとともに、
エラードマンにとっても負けられない一戦である。

しかし、眉のない無表情を通り越して冷徹ともとれる目の奥には、どこか満たされない虚無感が渦巻いていた。
記憶がなく、自分が何者かを知らぬまま、ただ『レスラーであるから』戦い、試合で勝つ日々。
これではまるで踊らされる人形だ。本当にそれでいいのか?自分にはもっと大事なことがあるのではないのか?
エラードマンはその問いに対する答えを得られずに、迷いを抱きながらも順当に勝ち進み、現在に至る。

「エラードマン!」

と、遠い目をしていたエラードマンの名を呼んだのは、ペルーの民族的なカラフルな色合いのポンチョを羽織った男だった。
今日の試合でエラードマンのセコンドを務める男だ。

「遅かったじゃないか。どこをほっつき歩いてたんだ?」
「いや…少し、な」

考えながら歩いていたら時間が過ぎていたとは言えず、エラードマンは歯切れの悪い返事を返す。
自分のみならずセコンドにとっても大事な一戦を控えている以上、セコンドに要らぬ心配はかけたくなかった。

「とにかく、早く会場入りしてコンディションを整えよう。スパークリングで勝つ流れをもぎ取る術を復習だ」
「…ああ」

心ここにあらずといった様子で、セコンドに促されるままにエラードマンは体育館の入り口へ歩いていく。
その顔は、冷静なのか哀愁に満ちているのかわからない無表情だった。








『お聞きくださいこの大歓声!これまでに我々京都プロレスのレスラー達が凌ぎを削り、今や勝ち残った選手はたった2名となっています!
そして本日、ついに、ついにチャンピオンの座を手に取るレスラーが決まろうとしています!』

体育館を貸し切ってアリーナ中央に設置されたリング、試合が始まるのは今か今かと待ちわびるように会場を彷徨うスポットライト、
そしてリングはアリーナ席からスタンド席まで観客で埋まっており、彼らの送る声援が熱気となって会場の温度を引き上げる。
京都プロレスのチャンピオン決定戦は、試合開始前からボルテージが最高潮に達していた。

『それでは皆様!待ちに待った、選手の入場を行います!…赤コーナー!チョコレート味のソフトクリーム野郎がまさかまさかのファイナル進出!?
その容姿だけじゃなく、ねちっこい寝技を持ち味としているせいで女性のみならず男性にも不人気なアイツがここまで来てしまった!
その名も……エラードマン!!』

実況がマイク越しに抑揚を利かせ、勿体ぶったようにエラードマンの名前を呼ぶと、
それに呼応して脇で白い煙が噴射される花道より、ペルー独特の色合いを持つポンチョをマント風に羽織ったエラードマンが入場する。
しかし、諸氏がお思いのようにその実況によるエラードマンの煽り文句は実に酷く、同様にエラードマンへの客からの反応も散々だった。

「おいエラードマン!決勝戦でもソフトクリームみてーに甘すぎるつまんねー試合をしたら許さねえからな!!」
「お前なんかチャンピオンじゃねぇ!万が一勝っても認めねーぞ俺は!!」
「うわ、頭のやつナニアレ!?チョコレート味のソフトクリームってゆうかどう見ても茶色いアレじゃん…キモッ」

観客席からは容赦ない罵声とブーイングの波が浴びせかけられるも、花道を歩くエラードマンはどこ吹く風というように無表情だ。

「気にするなエラードマン。むしろ連中のお前への目線はチャンスだ。ここで勝ってお前が単なるウンチ野郎じゃなく甘くもないソフトクリームの漢であることを示してやれ」

傍らを歩くセコンドがエラードマンに助言する。
それを聞き入れたかそうでないのか、エラードマンは反応することなくリングイン。そしてロープを跨ぐ際に少しオーバー気味にポンチョを脱ぎ捨てた。

『…対する青コーナー!…あ――っと!?』

エラードマンの決勝戦の相手選手の名を叫ぼうとした実況の声が、突如驚愕の色に塗り替えられる。
会場にいる全員の目が、エラードマンの反対側に続く花道へと向けられた。

(…何事だ?)

エラードマンもリングの上から今から戦うであろう相手側のスペースを見る。
既に、スポットライトに照らされながら花道を通る影があった。
しかし、エラードマン含めその影の持ち主を見た者の顔が実況と同じものに塗り替えられる。

『なんということでしょう!!本来ここで戦うはずだった選手は、既にKOされていた―――!!』

青コーナーの花道を歩いていたのは、美形だが見るからに人相の悪い金髪の男だった。傍らにセコンドと思しきフードを目深に被った美女を侍らせながら堂々とリングに向かってくる。
エラードマン達が驚いているのは、男が担ぎ上げている“かつて人だったモノ”だ。
筋肉質なその肩には、無残にも本来エラードマンと戦うはずだったレスラーが血まみれかつ幾つもの殴打痕の残る状態で担ぎ上げられていた。

『これは、想定外のハプニング!まさかこの大事な大事な決勝戦の舞台に、乱入者が現れた―――!!』

ざわざわと観客席から動揺が伝わってくる。
それはエラードマンとセコンドはもちろん、実況やその他スタッフも例外ではなく、実況に至っては傍らのスタッフに小声でマイクに通らないように「えっ、そんな予定あった?」と聞いている。
確かに実際のプロレスでもこのようなケースはしばしばあるが、プロレスとは勝ち負けを決める格闘技だけでなく、観客を楽しませる興行の側面を持つことを忘れてはいけない。
そういった試合やセレモニーへの部外者レスラーによる乱入のような突然のハプニングというものは、普通ではその場をさらに盛り上げるために予めアポが取られているのであり、
今起こっているような本当の意味でのハプニング、予定外の試合への乱入はよほどのことがないと起こらないといっていい。
よって、この状況には実況までもが困惑を隠せていないのは無理からぬことであった。
表面では会場を盛り上げ、運営側の動揺が観客に伝わらないようにしているのは一種のプロ根性ゆえか。

「さて、やるか」
「ええ」

乱入した男は隣にいる女と意味深なやりとりをしつつ、肩慣らしをするかのように抱えていたレスラーをその場に叩きつける。
床に降ろされたレスラーの惨状を目撃した者は絶句した。全身が赤紫の打撲痕で覆われており、所々から出血している。
もはや人間らしい肌色を保てている部分の方が少ない上に首と四肢があらぬ方向に曲がっており、人間としての原型を留めていないほど痛めつけられていた。
かなりの勢いで床に落とされたというのに、“それ”はピクリとも動かなかった。

「なんてひどいことを…!」

相手レスラーの痛ましい姿を見たエラードマンは思わず口にする。
これはではまるで死んでいるよう…否、死んでいる。エラードマンにはわかる。
生物がまだ生物であるならば痙攣や呼吸によって意識がなくとも体が動くはずだが、横たわっている“それ”はほんの少しも、凍ったように動かなかった。
血生臭い物事とは無関連な人間がそんな死体を見れば悲鳴の一つでも上がるであろうがしかし、
会場内の観客どころかそれを目の当たりにした観客からも、付近の観客からも絶句はするものの悲鳴は起こらなかった。

その原因は、ここが興業としてのプロレス、格闘技としてのプロレスの会場であるからに他ならない。
常識的に考えれば、人が集まるような場所で殺人を犯し、あまつさえ死体を抱え上げて堂々とそれを人間に見せつけるなどあり得ないだろう。
リスクに対するリータンが皆無どころか、理解の範疇の次元を幾重にも突破した狂気の沙汰だ。
故に、殆どが“常識的な”人間である観客は皆が無意識にこう結論付けてしまうのだ。
『ここで殺人が起きるなんて“有り得ない”。きっとこれはヒールレスラーのパフォーマンスであり、京都プロレスの演出の一環だろう』と。

「ほう、結構惨たらしく痛めつけてしまったのだが、これでも騒ぎにならないのだな」
「そういう興業ですもの。でも、そのおかげで先駆けて大規模な魔術を行使できる」

そう言ってほくそ笑みつつ、金髪の男とフードを被った女は人間とは思えぬ鋭い動きでリングイン。
軽々とリングにかけられたロープを越えてエラードマンと対峙した。

『さて、大変なことになってまいりました!対戦カードが変わり、エラードマン対謎の男女!彼らの目的が気になるところです!』

「お前達…何者だ!」
「随分と汚らわしい恰好ね。始末するのを後回しにしておいてよかったわ」

エラードマンは義憤交じりで威嚇するも、乱入者二人は意に介さないどころか、女からは心底蔑む視線がエラードマンに伝わってくる。

「ようこそ、我がパーティーへ」

男が観客席に向かって、手を仰々しく広げながらリング上より声を上げる。
その口調は落ち着いていながらも、不思議なことにマイクを持っていないにも関わらず会場全体に声が通っていた。
ついに謎だった乱入者が観客に向かって話し始めたということで、会場はしんと静まり返り、男に耳を傾ける。

「これからこの地を紅い血で染め上げられることを光栄に思う。名は敢えて名乗らない。なぜなら、お前達はこれから死ぬのだからな」

男の言葉の意を測りかねてしばらくは黙ったままの観客だったが、それもヒールレスラーのマイクパフォーマンスと受け取ったのか、次第に熱を取り戻してくる。

「何が紅い血でパーティーだ!せっかく見に来たチャンピオン決定戦を台無しにすんじゃねー!!」
「しかも名乗らねえなんてテメーそれでもレスラーか!!」
「やっちまえエラードマン!アンタを応援するのは癪だが今回ばかりはそいつが気に入らねえ!!」

「エラードマン!」「エラードマン!」「エラードマン!」

『あ――っと!乱入者のあまりの態度に、観客があれほど嫌っていたエラードマンに声援を送る――――!!まさかの事態に私どもも驚きを禁じ得ません!』

男の痛々しい高説が観客の反感を買ったようで、惜しみないエラードマンコールが沸き起こった。
しかし、エラードマンは観客を味方につけたにも関わらず、冷や汗を掻きながら乱入者の男女を睨んだまま身構えていた。
嫌な予感がする。いや、予感どころか確信とも言っていいだろう。
先程死体になり果ててしまったレスラーのこともあり、この男の言うことに嘘偽りが感じられないのだ。
今すぐ止めなければ。これから起こるであろう惨劇を未然に防がねばならないのに、目の前にいる相手の次の行動が全く読めないゆえに、身体が動かない。

――■■たちよ、おまえたちは何ゆえ比類なき力と戦闘能力を身につけこの世に生を受けたかわかっているか?

だが、エラードマンの心には同時に、心を突き動かすような力が、ぽっかりと開いた胸の内を叩いていた。
それは確かな失われていたかつての記憶の芽生えだ。

「残念だけど、この人が言ってるのは全部本当のことなの。貴方達の魂、できるだけ有効に使ってあげるから感謝してね」

フードを被った女が冷徹に告げると共に、淡い紫色の光が女を中心に広がった。
その光は鮮やかな模様を描いた円陣――所謂魔法陣――を形作っていき、まるで威光のような溢れ出した風が周囲に押し寄せる。

「な…なんだ?」

エラードマンもエラードマンのセコンドも、観客実況含めた皆が突如発生した現象に戸惑いつつも見とれてしまう。
女を囲っていた光は徐々にその輝度を増していき、極限まで眩しく輝くと同時に――爆ぜるようにして会場全体に広がった。

「うわっ!?」

思わずエラードマンも目を瞑ってしまう。
光が収まったのを確認すると同時に、恐る恐る目を開くが、特に何も起こった様子はない。
が、乱入者の二人としては確実に何かをしたようで、したり顔の厭らしい笑みを深くした。

「結界を張った…これでこの体育館は外と隔離されたわ。出入りもできなければここでどんなことが起ころうが、外に伝わらないし誰も知覚できない」
「これで心置きなく大量に狩れる。聖杯戦争の準備は抜かりなく、だな」

次の瞬間、エラードマンの体がリングから斜め上へと吹き飛び、会場の壁へと激突した。
身体中に迸る痛みと共に、エラードマンはこの刹那で起こったことを認知できておらず、明滅する視界の中で先程自分のいたリングを注視する。
そこには、金髪の男が掌底を放った姿勢のまま静止していた。彼の拳からはあまりの速さに摩擦が起こったのか、白い煙が立ちのぼっている。

『な…何が起こったのでしょうか!?気付いたらエラードマンが、会場の壁にめり込んでいました!そしてリングには涼しい顔で乱入者の謎の男がドヤ顔で掌底を突き出している!まさか、乱入者の仕業なのでしょうか――――!?』

男は、もはや人間離れという生易しいものではない身体能力でエラードマンを軽々と打ち飛ばしていた。
観客は皆何が起こったかを理解できず、エラードマンとリングにいる男を交互に見ている。

「肉体強化の魔術を使っているとはいえ、こんなものか。人間からかけ離れた容姿をしている分マスターかと警戒していたが、そうでないのか目覚めていないのか」
「どっちにせよ皆殺しの過程で処分すればいいわ。覚醒する前にとどめを刺せば所詮はNPCと同じ」
「何を…言っている?」

エラードマンは呻きつつも問う。乱入者の男女の言うことは、正直言って何のことを言っているかわからない。
魔術?マスター?聖杯戦争?そんなものは聞き覚えがない。

――それはその力を宇宙のため平和のため、人間たちをあらゆる外敵や禍から守るために神から与えられしものなのじゃ

しかし、惨劇の幕が開けようとしている時に、確かに聞き覚えのある、肝に銘じていたはずの言葉がエラードマンの脳裏に浮かんでくる。

「おいおいあんた達、さっきから黙ってりゃなんなんだ!?予定にない乱入に加え、エラードマンまでもをあんな――」

一部始終を見ていたエラードマンのセコンドも、流石の事態にロープをくぐってリング脇に上がり、乱入者の男女に物申す。
しかし、その行動が命取りとなった。

「ちょうどいい。お前が犠牲者第一号だ、喜ぶがいい。…キャスター!」
「――へ?」

男が叫ぶと、キャスターと呼ばれた女は無言でセコンドを指差し――たかと思えば、その指から紫色の丸太のような光線が発射され、セコンドの胸を貫いた。

「あ゛…が…」

『え?あれ、死んで――』

実況の呆けた声がマイクに乗せて会場全体に響く。観客も実況と同じ心持で呆然としていた。
果たして、光線に貫かれたセコンドの胸には風穴が空いていた。それもエラードマンの胴体にあるような窪みではない。貫通だ。
心臓、肺、肋骨、背骨に至るあらゆる臓器が光線の熱で焼かれ、消失していた。
そんなプスプスと焼け焦げた自身の胸を不思議そうに見ながら、エラードマンのセコンドは仰向けに倒れ、リング外へ落ちて死んだ。

「さあ…我らの糧になってもらおう」
「私とマスターのためにね」

男は拳をポキポキと鳴らし、女はまた魔術を使おうとしているのか紫色の光を再び発行させる。

「う、うわあああああああああああああぁぁぁぁぁ!?!?」

ようやく現実を認識した観客は会場が揺れ動きそうな喧騒に包まれた。
蜘蛛の子を散らすように逃げて出口へと向かい始める者、未だに受け入れられず呆然としている者、嵐が過ぎ去るのを待つようにうずくまっている者と、取った行動は様々であった。

「な、なんでだ!?どうして開かないんだ!?」
「お願い、開いて!私まだ死にたくない!」

「私さっき言わなかった?体育館は外と隔離されたって。ここから出られないし、貴方達がどんなに叫ぼうと外には届かないわよ」

リングから降り、逃げ惑う観客にゆったりとした歩調で近づいていくキャスター。
彼女の言う通り、この会場は外と完全に隔離されており、出入りも出来なければ外からもこの騒がしさは知覚できない。

「我々には魔力が必要なのでな。悪く思うな」

マスターと呼ばれていた男は近くにいた観客の男の首を掴んで持ち上げている。
このままでは観客は皆、いずれエラードマンのセコンドや相手レスラーのようになる。
この会場がキャスターの張った結界から解放される時には、この会場は血の海と死体で満ち溢れていることだろう。

『皆様…我々は未曽有の大ピンチに晒されています。乱入者の言ったことは…真実でした…!彼らは今…我々を葬ろうと動き出しています。我々はどうなってしまうのでしょうか…!』
『何やってんですか!早く逃げましょう!』
『嫌だ!どうせ死ぬなら私は実況して死ぬ!』

マイクを通して実況とスタッフの言い合う声が飛び交う悲鳴の合間を縫って木霊する。
京都市のプロレス団体のチャンピオン決定戦の舞台は、地獄絵図になり果てていた。





「や、やめろ…」





壁に打ち付けられ、ダウンしていたエラードマンが辛くも立ち上がる。





「人間を傷つけるのは…」





そのメタリックな肌を震わせ、エラードマンは怒りを乱入者のマスターとキャスターに向ける。





――超人たちよ
――超人たるものその力で人間を救うためにあることを、その身が滅び黄泉の国にいくまで強く肝に銘じていなければならない





その怒りは、かつてエラードマン――否、『ベンキマン』が抱いた怒りと、同じだった。




「正義超人として断じて許さんっ!!」




そして、エラードマンはベンキマンとして覚醒する。
胴体にある窪みの正体は、『便器』。そしてベンキマンは、便器の超人。
出身は古代インカ帝国、所属は正義超人。
正義超人の務めは…人間の窮地を救うこと!





「たった今…ようやく完全に思い出した―――っ!!」

ベンキマンは雄叫びを上げながらマスターの男へ立ち向かっていく。

「フン、雑魚が何度来たところで…」

男は強化した肉体により観客の首を掴んでいる方とは逆の手で軽くあしらおうとする。

「シャラーッ!」

が、今の相手はエラードマンではなくベンキマンだった。
ベンキマンは勢い良く男に向かってドロップキックを放つと、マスターの男は突き出した拳ごと逆方向に吹き飛ばされてリングの床に打ち付けられる。

『どういうことでしょう!?エラードマン、立ち上がって先程圧倒された男をドロップキックで逆に吹っ飛ばす――――!』

半ば自棄になっていた実況にも希望が見えてきたか、少しばかり熱が入ってくる。
ベンキマンは手放され、へたり込んでいる観客を会場の隅へ逃げるよう促すと男を追って軽々と跳躍し、リングインして倒れる男を見下ろした。

「が、は…!!き、貴様…何だその力は!先程とはまるで違う…!」
「超人パワーを取り戻した私を甘く見てもらっては困るな!」
「『取り戻した』だと!?…まさか!」

男の顔が驚愕に彩られる。
エラードマンだった時とは比べ物にならないベンキマンの実力もそうだが、男はベンキマンが記憶を取り戻し、聖杯戦争のマスターとして覚醒した可能性に行きついた。
男の推測は正しく、ベンキマンは記憶を取り戻すと同時に、聖杯戦争の知識を得ており、この乱入者が一足先に成った主従であること、また乱入者の目的も理解していた。

「魔力を得るために多数の民を犠牲にしようなど外道の所業!このベンキマンが貴様の悪の心ごと洗い流してやる!!」
「マスター!」

多数の観客を魔術によって一網打尽にしようとしていたキャスターが転回し、ベンキマンに向かってくる。
そして魔術によって展開した無数の魔弾をベンキマンに浴びせた。

「そして何よりも許せぬのは……無関係な者まで集めて殺し合わせる聖杯戦争そのものだ―――っ!!」

『今度は乱入者の女が気弾のようなものをマシンガンの如く放つ―――!!もはやこれはプロレスではない!超次元プロレスだ――っ!これを前に、どうするエラードマン!?』

ベンキマンはマスターを自覚して抱いた憤りを叫びながら、キャスターの撃ち出した魔弾を細身の身体を駆使して紙一重で避けていく。
本来マスターとサーヴァントの間には隔絶した実力差のある筈が、超人パワーを持つベンキマンはそれがどうしたと言わんばかりにキャスターへと肉薄する。

『エラードマン、避ける避ける!皆さんご覧ください!私どもももうダメかと想っておりましたが、希望は見えてきました!エラードマンがたった一人で今、戦っています!』

まさかマスターであるはずの者に見切られるとは思わず、キャスターにも焦りが見え始めるもベンキマンの手が届きそうになったところで、ついにその身に魔弾を受けてしまう。
一度怯むとそのまま2発3発と続けざまに食らってしまい、ベンキマンはリング外に押し出されてダウンした。

『あ――っと、エラードマンダウーン!これは万事休すか!?』

「グ…!」

「おのれ…このタイミングで目覚めてしまうとはな」
「早く片付けましょう。サーヴァントを召喚される前に!」

倒れるベンキマンを見下ろすマスターとキャスター。
しかし今の彼らには余裕を保つ笑みはなく、その目に殺意を浮かべながらベンキマンを睨んでいた。
二人はベンキマンの便器の身体を粉砕すべく、再び動き出そうとした、その時。

「私は正義超人として…インカ超人の末裔として…誇り高きベンキーヤ一族として…負けるわけにはいかぬ!」

尚も立ち上がったベンキマンの便器の奥から、眩い光が迸った。

【この水流が懐かしい。我を喚ぶ男の声が懐かしい。あの頃を思い出すな…かの地に開いた国のことを。我を支えてくれた兵と民を】

会場に声が木霊する。それは紛れもなく、ベンキマンの便器の中――そこに溜まっている水の奥から聞こえていた。
だが何故だろう。本来汚いはずの便器に溜まった水が、まるで聖なる女神が現れるような泉に見えてしまうのは。
ベンキマンの便器を纏うその光は、それだけの神々しさを放っていた。

【我を喚ぶ者よ。我をよりにもよってこの星のほぼ真反対の地、京都に喚ぶとは相当縁深い者と見える。もしそうならば呼んでおくれ、我の名を。お前が我を知るならば、我もお前を覚えていよう】

「こ、この声は…!」

ベンキマンはそれを聞いた時、途方もない懐かしさに襲われる。
それは強敵ギヤマスターにあと一歩のところで敗れた時でも、キン肉マンにパンツを詰められて敗れた時でも、
インカ超人としての記憶を取り戻し、第21回超人オリンピック ザ・ビッグファイトのペルー予選で優勝した時でもない。
昔の昔、さらに昔。フランシスコ・ピサロ率いるスペインに故郷のインカ帝国が侵略されるよりも遥かに昔。
現在で2000歳を超えるベンキマンが、まだ現役で古代インカ帝国皇帝の警備超人を務めていた頃の――。

「ああ、あなたは、あなたは…」

ベンキマンは、会心の笑みを浮かべ、感極まって一筋の涙を流す。
声の主は、かつて自身が守っていた者。声の主は、故郷の開祖。声の主は、かの地・クスコに国を開いたインカ帝国の偉大なる礎。

「インカ帝国健在の頃より、我が両親と同じ、いやそれ以上にあなたを慕っておりました――」






「我が王・マンコ!!!!!!!!!!」







「我を喚んだな!!ベンキーヤの!!」







ベンキマンがその名を叫んだ瞬間、ベンキマンの便器の内から"彼"は飛び出した!
その姿は褐色肌で、インカの王冠を被った黒髪の長髪の中性的な容姿をしていた。インカの民族装束を露出度高めに着ている。
男とも女とも取れる、男装の麗人風のサーヴァントだった。
その真名は、【マンコ・カパック】。ライダークラスのサーヴァントとして現界した、インカの神話でも破格の存在感を誇るインカの初代皇帝。

「お前のことは我が側面の一が覚えている。本人ではないが、敢えて言おう。『久しぶりだな』、ベンキーヤの」
「あの王マンコにまさか会う日が来るとは…!…しかし、その姿は?声も心なしかかなり高いような…?」
「ああ、この容姿はな…。おそらく、日本とやらの国の文化に影響を受けて無理矢理女の側面を付け足されたようでな。まったく言葉とは国によっては本当に――おっと」

マンコが苦笑しながらベンキマンに語ろうとしていると、後ろから殺意の塊となった乱入者の主従が各々の拳と魔力を滾らせて奇襲してきた。
マンコはベンキマンと共に軽々とマスターの拳を避け、その隙を狙ってキャスターから打ち出された光線を、なんとマンコは手を軽く払うだけでかき消してしまった。

「な、なんて強固な対魔力なの…!?」

キャスターに心からの動揺が走る。
乱入者の主従が劣勢になるにつれ、逃げ惑っていた観客もベンキマンとマンコに希望を見出し、徐々に応援の声が湧きつつあった。

『なんと、ここでまさかのエラードマンに援軍だ―――!!突如としてエラードマンの四角い窪みから現れた男装の美女が助太刀に現れた――!!
2対2、数で互角!エラードマン、現れた謎の美女と共に巻き返せるか!?』

「はっはっは!我は本来は男だというのにまさか美女だとはな!妻のママへのいい土産話になる!
ベンキマンよ、随分と愉快な場所で喚んでくれたではないか!これは何の文化だ?何の文明だ?後世に生きる人間がこれほどまで面白い文明を創っているとは、感動したぞ!」
「王マンコ、相手は主従です!元々プロレスのチャンピオン決定戦が行われていたところを、この者達が全員を皆殺しにしようと――」
「ふむ、大方は把握した。ならば、この場に則ってプロレスなるものの技を使ってみよう。ベンキマンの知る超人プロレスの技とやらも使ってみたいな」

それを聞いて驚いたのはベンキマンだ。

「王マンコ、貴方はサーヴァントの筈…超人レスラーにもなれるのですか!?」
「そうだな、その秘密を今から見せてやろう」

そう言ってマンコは腕を水平に広げ、計画が狂った焦りと動揺により目に見えて動きの鈍ったマスターとキャスターごと、両腕のラリアットで吹き飛ばしつつリングに飛び入る。
ただでさえ強力なサーヴァントのラリアットで相当な衝撃が二人の脳に伝わったようで、リングの床で二人とも倒れ伏し、マスターに至っては身体を痙攣させている。

『ここで謎の美女、ダブルラリアット――っ!左右の腕に乱入者の男女の首がかかって直撃している!これは間違いなく効いています!!』

そしてリング上から、懐から取り出した黄金に輝く杖を高く掲げた。

【ベンキマンよ、これが我がサーヴァントとして現界した際に得た宝具の一、『素晴らしき礎、此処に在り《タパク・ヤウリ》』。我が父なる神から賜った文明を拓く王の証であり、クスコを開く礎】

リング外でインカの王の姿に見入るベンキマンに、マンコは念話で語りかけてくる。

【この宝具のおかげで、我はあらゆるスキルを瞬時に会得することができ、授けることもできるのだ。それはベンキマン、超人レスラーとしてのパワーとテクニックも例外ではない】

マンコは念で話しつつも、足元で何とか抵抗しようと魔力を集中させていたキャスターの片足を掴み、なんとサーヴァントの筋力を全開にして頭上でプロペラの如く振り回した。

「きゃあああああぁぁぁ!?!?」

『そして乱入者の女の片足を掴んでブンブンと振り回す―――!流石にこれには耐え兼ねて悲鳴を漏らしています!振り回す振り回すどんどん振り回す!振り回すスピードが早すぎて空まで飛んでしまった―――!』

サーヴァントが振り回しているだけあってミスミスミスミス…という奇妙な風を斬る音が生まれた上、
その回転速度のあまりの速さにマンコは竹トンボのようにキャスターごと上昇、その遠心力に合わせてキャスターの臓器は細胞分離機の如く圧迫されていく。

【我は父なる神に遣わされて無秩序だった地上の人間に知恵と文明を齎した過去があってな。この能力は言わば文明の始祖の特権、支配者たる皇帝の特権というわけだ】

キャスターを濡れたタオルのように振り回しているという異様な光景ながらも、マンコはあくまで堂々とした様子だ。
その視線は勿論ベンキマンに行っていた。

「ところで知っているか?女の肉体は男とは違って硬い筋肉組織が少なく、逆に脂肪が多いという。これが何を意味するかわかるか?」

マンコはキャスターをプロペラにして会場を上昇し続けるも、その問いへの答えは帰ってこない。
応える余裕がキャスターには残されていないのだ。

「柔らかいのだ、女の肉体は!そして貴様は今、殆どの内蔵が遠心力によって上半身へと追いやられていることだろう。下半身はほぼ最低限の筋肉と脂肪しかない!つまり、極限まで柔らかくなっているということだっ!!」

【今から見せてやろう、ベンキーヤの。その超人レスラーのスキルから編み出した我がフェイバリットホールドを】

そしてマンコは十分な高度まで上昇したことを確認すると、空中でそのままキャスターの身体を抱え込み、
腕でキャスターの両手を掴み、腰をほぼ¬の型で背骨が折れるかという所まで逸らし、両足を掛けてキャスターを180度以上開脚させ、そのままの態勢でキャスターを下にして猛スピードでリングの床へと落下していった。






「『開国の分娩台』―――!!!!!!」






「…がはぁっ!?!?!?」

リングに叩きつけられたキャスターの口からはおおよそ女の声とは思えない苦悶の声が響く。
それとは対照的に、観客からは敵の一人を倒したことと派手な必殺技を見れたことから、先ほどの恐怖から解放された歓声と拍手喝采が起こった。
叩きつけられてからキャスターは解放されるものの、もはや息をしておらず、口から血を流して身体を構成している魔力が霧散していった。

『ここでK.O.―――!エラードマンに加勢した謎の美女、気付けば圧倒的な強さで乱入者の女に勝利―――!我々にはもはや救いはないのかと諦めかけましたが、確かにここにヒーローはいた―――!!本当によかった…!』

カーンカーンカーンとけたたましくゴングが鳴る中、マンコは誇らしげに拳を天に突きあげる。

【ベンキマンよ、やはり文明というものはいいな。単に知るだけじゃなく自分も使ってみてかけがえのない価値に気づける…プロレス、もとい超人プロレスも素晴らしいモノであった。またこのスキルを聖杯戦争でも使いたいものだな】
【王マンコ…】
【して、ベンキマン。お前は我のマスターとなったわけだが、聖杯戦争でお前はどうしたいのかをまだ聞いていなかったな】
【私は…】

マンコの問いにベンキマンが答えようとした時、ベンキマンはリングに倒れていたマスターが起き上がろうとしていることに気付く。

「認めん…認めてたまるか…これで終わりなどぉぉぉ―――!!」
「させるかっ!」

キャスターのマスターは自身の敗北が認められず、暴走して強化魔術を自身の肉体に過剰に付与、自壊も厭わないほどに筋肉を膨張させてマンコに殴りかかる。
それを、咄嗟にリングインしたベンキマンが阻止。ベンキマンの2倍以上の面積となったマスターの突進を、ベンキマンは何とか食い止める。

「…王マンコ」

震える手でマスターを食い止めながら、ベンキマンは後ろにいるマンコに振り返る。

「私はかつて警護超人でしたが…今は正義超人です」

グググ…とマスターの加えてくる圧力が強くなる。ベンキマンは徐々に押し合いに劣勢になっていき、踏ん張っている足が後方へと押しやられる。

「もちろんかつてスペインの侵攻から守れなかった皇帝もお守りしたい気持ちもある…しかし、正義超人となった今の私には更に多くの救うべき者ができた…」

ベンキマンの言葉を、マンコは静かに聞き入れる。

「王だけではありません…ここにいる観客の皆のような人間…そして私と共にいてくれる友…きっと聖杯戦争では多くの民が襲撃してきた主従のような殺し合いに乗る輩の牙に晒されるでしょう。私は正義超人として、そんな者達から皆を守りたい」

ベンキマンは語気を強くしていく。それに比例してマスターを押し返す力も強くなり、ついにベンキマンが優勢になる。

「どんな状況でも、正義超人の魂を貫きたいっ!」

そしてベンキマンは咄嗟に胴体の便器についているレバーを操作して水流を逆噴射し、その水流の勢いに乗せてキャスターのマスターを遥か空中へと打ち上げる。
ベンキマンも追うように飛び上がって筋肉で膨れ上がったマスターの肉体を上下逆の態勢にして掴む。






「『ボットン便所落とし』―――!!」






そのままマスターの頭を下にして、ベンキマンは高空からパイルドライバーを炸裂させ床に叩きつける。
脳という中枢機能へ再度ダメージを受けたキャスターのマスターはリングの上にダウンし、起き上がれない。

「食らえ―――っ!アリダンゴ―――ッ!!」

間髪入れずにベンキマンはのびているマスターの肉体をこねくり回していく。

「たとえ他の主従に気づかれても、背中を狙われようとも、どこかで襲撃されても!私は目の前で苦しんでいる人達を見捨てたくない!
聖杯戦争のセオリーが何だ!私は正義超人として、人の危機あるところに駆けつけてこの力を振るい、戦い、救う!そうありたい!」

マスターの巨大化した肉体はベンキマンが話しているうちに団子状に丸められていき、やがて綺麗な球体となってしまった。

「そしてこの狂った催しの根源、この聖杯戦争に巣食っている悪を、全て洗い流す!」

そしてキャスターのマスターが変化した球体の団子を自身の便器にはめ込み、レバーを押す。






「『恐怖のベンキ流し』―――!!」






『あ――っと、残された乱入者の男、一時は巨大化してどうなるかと思いましたが、エラードマンの咄嗟の活躍によって団子状に丸められ、たった今、流されていく―――っ!!』

ベンキマンの便器を怒涛の水流が流れ、球体化したキャスターのマスターは便器の奥底へ消え去っていった。
しばらくして、便器の奥にあった生命の気配は完全に消えた。

「観客のみんな――っ!私は今日よりエラードマンではない!古代インカ超人ベンキマンと呼んでくれ―――!!」

「「「「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」」

「ベンキマン!」「ベンキマン!」「ベンキマン!」「ベンキマン!」

それを聞いた観客は一拍子置いて今日一番の規模の歓声を挙げ、惜しみないベンキマンコールが湧き上がった。
それに応えるように、ベンキマンは胸の便器に手を当ててリングに跪く。
無表情だった顔には、クールながらも嬉しそうな笑みがこぼれていた。

「ベンキマン!」「ベンキマン!」「ベンキマン!」「ベンキマン!」

『投げないでください!』

ただの嫌われ者や訳ありの応援ではない、自分達の命を救ってくれたヒーローとして、観客はベンキマンを称えるのであった。

『ウンコを投げないでください!』『ウンコを投げないでください!』

そしてそのファンの証として、どこから取り出したのか、リングにはとぐろを巻いた大便が方々から投げ入れられていた。

『他のお客様のご迷惑になります!』

マンコは跪くベンキマンの肩に手を置き、満足げに微笑む。

「正義超人…この上なく素晴らしい文明じゃないか。インカの皇帝として、誇らしいよ」
「王マンコ、申し訳ありません。私は警護超人ではいられません」
「いいんだ、そんなこと!むしろ、私も正義超人の仲間入りをさせてくれないか?お前と一緒に聖杯戦争を戦いたい。それも皇帝と警護超人じゃない…対等な友として」
「王マンコ…!」

古代インカの主従、ここに復活――。
古代インカの友情、新なる覚醒《めざめ》――。










≪後日談≫

なお、この出来事はマンコの計らいにより、マンコが宝具で暗示魔術スキルを会得した上でベンキマンとマンコ以外のNPCは皆暗示をかけられ、一部始終を忘れている。
他の主従に存在が露呈することを恐れたのではなく、目の前で殺人が起きたことによるショックとその時に味わった死の恐怖の心理的な影響を考えてのことである。
また、聖杯戦争は未だ準備期間。大量虐殺未遂があったことが暴露されれば、
プロレス団体のチャンピオン決定戦を観に行っていたNPCに危険が及ぶかもしれないことを考慮した上での判断だった。

さらに余談だが、この日であった出来事は『ベンキマンと改名したレスラーのファンになった観客が大便を投げ入れた』という珍事として処理され、ニュースに取り上げられた。
下品な行いをしたとして、ベンキマンはプロレス団体から無期限の謹慎処分を受けた。
これに関してはベンキマン、マンコ共々気にしておらず、むしろロールに縛られることなく活動できるので幸いと感じている部分も多いが、
報じられたニュースがあまりに異様な珍事であるため、そのニュースを見た聡い主従からは早々にベンキマンはマスター候補として挙げられてしまうのであった。
しかし、そんな主従の大半はこう思ったという。

(コイツには関わらないようにしよう…)




【クラス】
ライダー

【真名】
マンコ・カパック@インカ神話、古代インカ帝国

【性別】
不明

【身長・体重】
175cm・69kg

【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷B 魔力A++ 幸運A+ 宝具A+

【属性】
秩序・中庸

【クラススキル】
対魔力:A+
魔術に対する抵抗力。
父なる神々の加護により、その抵抗力は破格の域にまで達している。

騎乗:B++
乗り物を乗りこなす能力。
Bランクならば大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、幻想種あるいは魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。
ただし、マンコの場合は宝具によってスキルを上書きして獲得することで本来乗りこなせない物まで乗りこなすことができる。

【保有スキル】
カリスマ:B
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。

神性:A
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされ、より肉体的な忍耐力も強くなる。「粛清防御」と呼ばれる特殊な防御値をランク分だけ削減する効果がある。
また、「菩提樹の悟り」「信仰の加護」といったスキルを打ち破る。
太陽神インティの子とも、創造神ビラコチャの子ともされ、自身も神として崇拝されていた。

神々の加護:A
太陽神インティと創造神ビラコチャからの加護。
対魔力をランク分押し上げるだけでなく、危機的な局面において優先的に幸運を呼び寄せ、マンコの行動の成功率を上昇させる。
また、陣地或いは太陽の下にいる間は全ステータスが1ランク上昇する他、魔力・ダメージの常時回復効果が得られる。

両性:C
男性と女性の特徴の両方を同時に有していることを示すスキル。
しかしそれは「男でも女でもない」ため、性別に依存する干渉能力全般を無効化する。
マンコの場合は元々男性なので本来持っているスキルではなく、京都及び日本に召喚されたことにより女性の側面も付加されたことで得たもの。
マンコ自身は日本の文化に影響された結果だと考察しているが、マンコのナニが影響されたのかは不明。

【宝具】
『素晴らしき礎、此処に在り(タパク・ヤウリ)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
マンコの父なる神から授けられた金の杖。
太陽神からこの杖が地面に沈む地に神殿を作るようにと授けられたという逸話から、この杖で地面を突くことによってどこでも瞬時に神殿クラス以上の陣地を作成することができる。
この杖が沈む地とは、後にインカ帝国の首都となる『クスコ』のことを指すが、此度の聖杯戦争ではあらゆる地点がこの杖を起点に『クスコ』となり得るのである。
また、この杖は支配者の象徴ともされており、所持者のマンコが主張すれば、
素養がなくとも本来持ちえないスキルをAランク以上の習熟度で獲得できるという皇帝特権の宝具版ともいえる効果を持つ。
騎乗を獲得すれば幻想種の生物すら手名付けてしまうし、道具作成を獲得すれば魔術器具は勿論、古代インカの兵士の召喚やプロレスやボクシングをするためのリングを即席で作ることもできる。
さらに、マンコは無秩序だった地上の人間に文明をもたらし、インカ文明の創始者となった逸話から、
他者にも所持しえないスキルを獲得させることができ、マスターや味方をサーヴァント以上の強さへと強化することも可能。

『新なる世界、水流と共に(ウヌ・パチャクチ)』
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
創造神ビラコチャが、世界を新たにやり直すべく、大洪水を起こして人々を滅ぼした逸話の具現。
その際にビラコチャはマンコとその妻ママ・オクリョをやり直した世界に文明を広げるために助けている。
マンコも人々に文明を広げることに関わり、自身も最高格の神の化身とされていたことから、この宝具を使える。
巨大な洪水を起こし、レンジ内のモノを全て呑み込む。その規模は辺りの都市一帯を沈めてしまうほどで、全てを水に流してしまう。
水といえど広大な「面」で相手に襲い来る波は神の槌の如き威力を誇り、旧い人類を破壊し尽くすには十分な破滅の奔流といえる。
ただし、その威力に見合うだけの膨大な魔力が必要であり、乱発は禁物。
なお、先述の逸話から洪水は『素晴らしき礎、此処に在り』によって作成された陣地を避けて流れていくため、その領域内にいる者は洪水の影響を受けなくて済む。

【weapon】
普通に戦う時は槍を用いるが、宝具により槍以外の武器でも十全の状態で戦える。
その気になれば、マスターと同じくリング上でサーヴァント超人としてプロレスなどの格闘技で戦うことも可能。

【サーヴァントとしての願い】
ベンキマンと共にNPCや弱き者を救う傍ら、自分の知らない世界や文明を知りたい。

【人物背景】
インカ神話におけるクスコ王国――後のインカ帝国の初代皇帝。ケチュア語で「素晴らしき礎」を冠する名を持つ。
太陽神から金の杖を与えられ、その杖が地面に沈む地に太陽の神殿を作るように言われて兄弟達と共に送り出され、旅の果てに金の杖が沈む地・クスコに到達。
マンコはそこに太陽神インティを讃える神殿を建設してクスコ王国を築き、その王となった。
そして開かれたクスコ王国は、後代にまで伝えられる栄えあるインカ帝国として語り継がれることになる。

マンコが生きていた時代はビラコチャが幾度目かの世界をやり直す前――創造神ビラコチャが人間を創ったものの、彼らの生活に文明もなく、宗教も政治も知らず、そればかりか衣服も身に付けずに獣同然の暮らしをしていた時代。
彼は太陽神インティの(一説によると創造神ビラコチャの)息子であったが、兄弟と共に地上のパカリ・タンプの洞窟で暮らしていた。
しかし、ビラコチャは地上に人間を創ってからというもの、一向に文明を持たず、あまつさえ争って命を奪い合う人間達を“失敗作”と断じ、大洪水を起こして滅ぼしてしまう。
その際に、ビラコチャは新しく人類を創り直す傍ら、インティと縁のあるマンコとその兄弟を滅んだ人間達の中から助け出す。
その目的はマンコ達に次なる世界の人類に文明をもたらす指導者となって導かせるためであり、
ビラコチャとインティから金の杖を授かったマンコ達は新しい世界の地上にパカリ・タンプの洞窟を通じて(一説にはチチカカ湖の底から)降り立つ。
マンコ達は父なる神の期待に応えて各地にいる人間に様々な生存術・技芸・宗教といった知識を授け、やがてクスコに王朝を開き、マンコは王マンコとなったのである。

【容姿・特徴】
褐色肌で、インカの民族装束を露出度高めに着ていて赤いマントを羽織っている。頭には降ろした長髪の黒髪の上にインカの王の証である冠を着けている。
本来は男性だが、仮の舞台とはいえ日本に現界したことで女性の側面を付与されたせいで顔立ちは中性的な容貌。
男装の麗人風、Fate/Grand Orderのオジマンディアスを女体化した風体と言った方がわかりやすいだろうか。
性別はあくまで不明。一方、人格はれっきとした男性で、王の威厳を感じさせる堂々とした口調をしている。
寛大でノリのいい性格をしており、インカ帝国とは異なる文明に興味を抱くこともしばしば。
ただし既に素晴らしい文明の発展を遂げた人間を滅ぼすことには否定的で、それもあって『新なる世界、水流と共に』の使用には消極的。





【マスター】
ベンキマン@キン肉マン

【マスターとしての願い】
正義超人として、聖杯戦争に乗る主従から皆を守り、救う
聖杯戦争を止め、それに巣食う悪を倒す

【weapon】
基本的に素手や便器の身体で戦うが、武器として便器ブラシ、デッキブラシ、スッポンを、飛び道具としてとぐろを巻いた大便やトイレットペーパーも使うことがある。汚い。
また、頭に乗っているとぐろを巻いた大便のオブジェは非常に硬く、巨大なギヤに巻き込まれても逆にその動きを無理矢理止めてしまう。
それを回転させて敵を頭突くエラードスピンは単純ながらも強力。だが汚い。

【能力・技能】
  • 超人
人間の能力を遥かに超えた存在。その出自や強さは多様であり、生命力も傷の回復力も人間のそれを遥かに上回る。
ベンキマンは便器の超人で、肛門を持たない、腹の便器の奥に下水が存在するなど人間と身体構造が全く異なり、その身体に持つギミックを戦闘でも利用する。
器物そのものの超人のため性格は常に冷静で、超人レスラーとしては知恵とテクニックに優れる技巧派。

  • 秘技 アリダンゴ
ベンキマンは立ち技や組み技よりも寝技を得意としており、原理は不明だが相手を高速でこねくり回し、強制的に球体化させて団子状に丸めてしまう。
巨体を持つ相手を恐怖のベンキ流しで流せるサイズまで小さくする際に有効。

  • 恐怖のベンキ流し
ベンキマンの得意技であり、相手を自身の便器で流してしまう荒技。
流された者がどうなるのかはベンキマンも原作者にもわからないが、一応この聖杯戦争では脱落扱いになるらしい。

  • 火事場のクソ力
窮地にて、仲間への思いが高まると同時に全身が発光して発揮される奇跡的な力であり、潜在能力。
発動中は戦況を根本から覆し得る強大な力を発揮する。
ベンキマンの場合、ギヤマスター戦でこれを発動。劣勢からその力を以てギヤマスターを追いつめた。

【人物背景】
胴体が和式便器、頭にとぐろを巻いた大便のオブジェを頂く超人。2000歳。超人強度は40万パワーで、「全てを水に流す男」の異名を持つ。
出身国は古代インカ帝国。
当初は過去の記憶を失ったまま、超人レスラー「エラードマン」として活躍していたが、病床の祖父から自分が「ベンキーヤ一族」に属する水洗トイレの超人で、
さらに古代インカ帝国皇帝直属の警護超人だったこと、スペインが古代インカを侵略した際に両親を殺され、自らも記憶を失ってしまったことを教わる。
その後、古の記憶に従い、超人オリンピックペルー予選決勝戦の相手・ヒガンテマンを「恐怖のベンキ流し」で撃破。
超人オリンピック・ペルー代表の座を手にすると同時に、ベンキマンを名乗るようになった。

【方針】
NPC・弱者・仲間を聖杯狙いの主従や危険から守る。
他の主従やNPCに正体を晒すことになるのも厭わない。

【把握情報】
ベンキマンはキン肉マンでもかなりニッチなキャラクターなので、最低限の把握だけならベンキマンが主人公の外伝が掲載されている「キン肉マン 読み切り傑作選2011-2014」だけを読んでいればOK。
他の登場巻は、初登場のキン肉マン7巻及び8巻、38巻の初期にかませ犬として出演、現行の最新シリーズでも登場しておりついに活躍したものの、まだ単行本化はされていない。
とはいえ、感想サイト等である程度の内容は把握できる。ギヤマスター戦のベンキマンは必見。

また、キン肉マンの世界観としてプロレスが世界観の中心に組み込まれていたリ規模が宇宙まで広がっていたリと困惑することもあるが、『そういうもの』としてふわふわに捉えておけばOK。作者が作者なので。

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最終更新:2018年02月26日 04:37