本裁判(平成30年特(わ)1799号)は31日の判決をもって終了をみました。全部で公判は5回行われ、4回目の公判(論告求刑)は傍聴券の抽選に外れてしまったため傍聴は叶いませんでしたが、この裁判を通して感じたことなどを書き記しておきたいと思います(2月1日追補)。

 なお、ここでは公判でのルールに沿って、被害者の実名は書かずAと表記しています。

 公判全体を振り返って思うのは、なんとも救いようのない裁判だったということです。

 裁判に参加された被告人・大西秀宜(以下、大西被告)を除く、全ての関係者は今日まで大変な労力を重ねてこられたことと思っています。しかし裁判の中身を見れば、被告人側は検察側の指摘した事実関係については一切争わず、それがストーカー行為ではないと主張するというものでした。

 しかもその否認理由に少しでも理があればまだマシだったのですが、いざ被告人に問い質してみても、なんとも合理性のない妄想にも似た一方的な主張のオンパレードで、これを弁護しなければならなかった国選弁護人の苦労は相当なものだったと思います。いくら仕事とはいえ、さすがに同情せざるを得ないものがあり、第3回公判の終了時にエレベーターの中で鉢合わせになったときに思わず「お疲れ様でした」と声をかけてしまったほどです。一方で公判中に色々と手際の悪い部分が目立ったのはいただけないものでしたが。

 やるせない裁判でしたが、一連の行為がストーカー行為だと認められ被告人に有罪判決が下った点は、もちろん大いに意義深いものです。

 長年のストーカー被害を考えれば、懲役4カ月、未決勾留60日参入で、保護観察付きとはいえ執行猶予3年という判決は、いかにも甘いと思われるかもしれません。私も大いにそう思っていますが、しかし判決理由の中でも述べられている通り、初犯ということで、検察側も考えうる最大の懲役を求刑したのでしょう。そしてほぼ満額の判決となりました。加害者に甘いこの現状を変えるには、国民の幅広い支持が必要となります。こうした被害を無にせず、広く国民の間で厳罰化を求める声が高まることを願っています。

 そういった意味で、Aがかつて所属していたアイドルグループの姉妹グループにおいて発覚した、昨今世間を騒がせている事件と深刻度を比較するような意見がネット上で散見されるのは大変残念に思っています。いずれも大変な人権侵害が行われてしまった事件だと理解するべきで、ここの理解が進まなければ、なかなか根本的な解決は難しいでしょう。

 さて、先程述べたように大西被告の主張は一連の行動はストーカー行為に当たらない、というものだったのですが、実はもう一つ、あまりに荒唐無稽な内容なのでほぼスルーされていますが(判決の際にもほぼ触れられていないと思います)、個人的には重大だと思える主張をしています。

 それは、第2回公判の証人として尋問を受けた、被害者Aについてです。裁判の性格上、Aは別室におり、法廷内の傍聴人には声しか聞こえませんでしたが、それを聞く限りでは間違いなくA本人のものでした。しかし大西被告は第3回公判にてあれはAではなく「Aに似せた別人」「別人が音声変換技術を使った」と主張しているのです。その点は執行猶予となり外に出てきた後も変わっていません。

 これのどこが重要な主張なのか? それは、証人尋問を開始する前に証人は宣誓を行っているのですが、虚偽の証言をした場合は刑法169条により偽証罪に問われるのです。つまり、大西被告の主張が正しければ、自らをAと名乗った証人は偽証したことになるのです。しかもその証人を法廷に呼び出したのは東京地裁なのですから、本当に自らの主張が正しいと思っているのなら、証人並びに東京地裁を訴えるということになります。何しろこのときの証言内容が有罪判決に至った理由に使われているのですから当然のことで、被告人の言動の一貫性にも関わってきます。

 大西秀宜は出所後に控訴すると主張していますが、この証人に対する告発も含めてどうするつもりなのか、事態を注視していきたいと思っています。

 そして最後に被害者Aについて。大西秀宜の存在など脳裏から消し去りたいところであるだろうに、しかし裁判で動きがあるたびに広く報じられ否が応でも目に入り、挙句の果てに証人尋問に出廷しなければならなかった苦痛は想像を絶するものだったでしょう。しかも被告人からはあれはAではない別人だなどと言われているのですから、通常であれば激怒するところです。しかしこの件について長期間耐え忍び、常に冷静さを保ってきたAの姿勢には尊敬の念しかありません。中身はともかく、有罪判決は下りました。今後、事態が少しでも改善に向かい、活躍の場をさらに大きく広げられることを、心から願ってやみません。



文責、サイト管理者:A情報局の中の人

平成31年1月31日 記
(同2月1日 追補、同2月20日 有罪判決確定を受け被告人の氏名をイニシャルから実名に変更)

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最終更新:2019年02月20日 22:21