その部屋のインテリアには機械的なまでに色がなかった。
白いシーツと毛布、本棚に収まるのは古ぼけ黒ずんだ魔術書。
ピンナップ一つない、真っ白な壁紙。
灰色のデスクに、その上に乗った白いパソコン。
暗くなってきたが電灯は付けず、窓から入ってくる赤い夕日の色に染まっていた。

ーーRUM
実行コマンドを打ち込まれたパソコンは、
ディスクを唸らせ、画面に異様な文字を走らせる。

黒い学ランを身につけた茶髪の少年、中島朱実はその端正な顔に焦りの表情を浮かばせながら、
そのパソコンのディスプレイを食いいるように見ていた。

数分後、室内に異常を知らせるビープ音が鳴り響き、ディスプレイに「error」が表示されるとともに、少年の顔は落胆に沈んだ。

「なんで来ないんだ…!この時代の星の動き、パソコンのスペックに合わせてプログラムを最適化したのに…!!
 星の動きや地理以外にも変数が…?いや、しかし…」
「どうした、貴様の仲魔とやらはまだこないのか?まあいい、大した問題ではないだろう、どのみち…」

「この王が聖杯を手にするのだからな」

中島は後ろへ向き直る。
背後から声をかけたのは様子を伺っていた、ロックミュージシャンを模したような赤い服の男、
しかしロックミュージシャンとは違うことはその腰につけた一振りの剣を見ればわかるだろう。

「セイバー、たとえお前がどれだけ強かろうと、お前一人だけで聖杯が取れるのか?」

「人間一人がいようがいまいが何も変わらん」

王を自称する通り、彼の世界では魔族の王であり、その尊大な発言にあった強大な力を持っているという、
当然、マスターである中島もそれが事実であることは把握している。

(確かにこの男は強い、この聖杯戦争で勝ち残るためにも必要だろう、しかし…危険だ)

彼の世界では魔族の王であったという、このサーヴァントが強力なのは間違いない、
しかし、かつて対峙した魔族の王ロキ、セトと同じくする身の毛のよだつ邪気をこのサーヴァントから感じていた。

(せめてケルベロスさえ呼ぶことができれば…)

パソコンに目を落とす。かつて共に戦った魔獣ケルベロス、
それがいれば確かに聖杯戦争でも優位に立てるだろう、
しかし、中島の目的は己のサーヴァント、セイバーの抑制であった。
このサーヴァントを制御するには、令呪だけでは心許ない。
そう考え悪魔召喚プログラムを再設計した中島であったが、ケルベロスは喚ばれない。

令呪の刻まれた右手をセイバーに向ける。

「思い上がるんじゃない、僕がこれを持つのを忘れるなよ」
「ふっ、それを使って命令するつもりか?やってみせろ…その瞬間貴様は死ぬ」

セイバーの殺気が少年を貫いた。
その瞳に嘘の色はなく、ただ、下等な種族ーー人間である少年を見下していた。

本気だ、本気で命令の前に自分を殺し、その上でその他の主従を滅ぼし聖杯を掴むという圧倒的な自信を少年は感じた。


一触即発の場となった部屋で、少年とセイバーはどちらも睨み合ったまま動かずにいた。
その時、部屋の外から玄関の扉が開く音が聞こえた。

「ただいまー」

母だ、それに気がついた中島は驚いた。
こんなに早く帰ってくるなんて、いつぶりだろうか。
それに気を取られたのか、自然と右手は降りた。

「まあいい、貴様が俺にひれ伏すならば
 貴様の願いも叶えてやっていい」

今ので場が白けるのを感じたのか、緊張は緩み
セイバーは所在なさげにガラス越しの夕日を見つめた。

席を立つ、母がこんなに早く帰ってくるなんて珍しい、
この冬木市と東京での仕事の量は違うのかもしれない。
セイバーの横を抜け、扉のノブに手をかける。

「そうだ、まだ聞いていなかったか」

突然の質問にノブを回した手を止め、セイバーの方へ振り返る、
セイバーは未だ夕日を見つめていた。

「貴様が聖杯に願う願いは、なんだ」

「……お前には教えないよ」

そのままノブを引き、暗くなってきた廊下へ出てリビングに居る母の元へ向かった。


(不便な時代に来てしまったな)

自室の扉を締めた後、溜息をつく。
自室より暗い廊下の途中で、壁にかけられたカレンダーが、ふと彼の目に入った
時は1980年、中島朱実が生きていた時代から6年前であった。
かつてハンドヘルドコンピュータに収まったケルベロス召喚プログラムも、
据え置き型コンピュータでなければ収まらず、当時のプログラム言語にも対応してなかったためかなり手間がかかった。
しかしその苦労も報われずケルベロスは喚ばれなかった、なぜか。
やはりこの時代のCPUでは再現できぬ部分もあったのか、
既に英霊の座からサーヴァントを召喚している冬木市という立地により弾かれてしまうのか、
あるいは

(もう僕にお前の主人の資格はないということか)

かつての仲間か、武器さえあればあのセイバーとも対等にやりあう自身はあった、
しかし、ロキの魔の手から救ってくれた弓子はいない、
イザナミから与えられたヒノガグツチの剣もない、
ケルベロスも、喚ばれてきてはくれなかった。

オカルトの知識とこの時代にも通じるプログラムの技能、
そしてイザナギの転生であるこの身、それだけを使ってあのセイバーを制御しなければならなかった。
過ちを繰り返さず、この聖杯戦争で勝ち残るために。

167 :中島朱実&セイバー  ◆VJq6ZENwx6:2016/07/03(日) 12:07:02 ID:U9bF7PmQ0
リビングに入ると、急に目に飛び込んだ電灯の眩しさが目に染みた。
この部屋は朱美の部屋とは違い色にあふれていた。
木材に薄くニスを塗った柔らかい色のリビングテーブル。
その上に乗った観葉植物。
そしてその近くの椅子に座った、朱美に似て細顔で茶髪の女性、
1986年と寸分違わない朱美の母親が受話器の向こうと楽しそうに談笑していた、
リビングに入ってきた朱美に気がつくと母は会話を切り上げ、朱美の方へ向き合った。

「あ、帰るの遅れちゃってごめんね、急に会議が入っちゃって」
「いや、ぜんぜん大丈夫、むしろ帰ってくるの早いほうだと思ったよ」
「やだもう、まだまだデザイナーの方はそこまで忙しくないわよ」
「えっ、そうかな?」
「そうよ。そんなことより今お父さんと電話してたんだけど、
 今日お父さん帰りが早いみたいだから一緒に外食にでもいかない?」
「父さん、ロサンゼルスから帰ってくるの?」
「何言ってるのよ、お父さんロサンゼルスに出張なんて行ったこと無いじゃない」


デザイナーとして脂が乗っていた母が、こんなに早く帰ってくることは最近なかった、
父さんは今ロサンゼルスに単身赴任しているはず…
朱美はそう思ったが、だんだんと頭の中に
「母は日が暮れる前には帰ってくる」
「父は現在同じマンションに住んでいる」
というイメージが蘇ってきた。

(そうか、ここではそういうロールだったか)

年代がさほど変わらないため、この1980年の冬木と1986年の東京を重ねていた故に、
ここでの家族の役割を忘れてしまっていた。
この場所では1986年の東京に住んでいた時の再現に無理があるのか、
(両親の仕事の忙しさと時代が関係してた可能性がある
 あまり興味がなかったので自信はないが)
両親が忙しかった1986年頃ではなく、
まだ両親が忙しくなかった、1980年頃を再現されたようだ。

(この時代も悪くはないな)

両親と一緒にご飯なんていつぐらいだったか、
自然と温かい気持ちになる。
そう、自分の願いは父が居て、母が居て、自分が居て、そしてその隣には
(弓子…)

己の行いを全てを精算して、無くなってしまったものを全て取り戻す、
それが聖杯に願う自分の願いだ。
温かい気持ちに包まれながら、そう強く決意しなおした。

「さっ、ぼーっとしてないで服着替えてきたら?」
「わかったよ」

リビングから廊下に戻った時に気がつく、
監視のためにあのセイバーも外食に連れて行かねばならないことに、
(良いことばかりじゃなかったなあ…)
肩を落とす、仮に見ていない場所で人を襲わずとも、
他のサーヴァントと遭遇することも考えて連れて行かねばならないだろう。
家族の為でもある、仕方ないと己を宥めると同時に気づく、

(そう言えば、セイバーは聖杯に何を願うんだろうか)
まあいい、魔族の願いと相容れることはないだろう、そう思い直し、
私服に着替え、セイバーを連れ出すため己の部屋へ向かった。

夕日の光が入ってきた殺風景な部屋、
中島が出て行った後、セイバーはカーテンを閉じ、部屋をより闇で満たす。
そしてその中で唯一光るパソコンに目を落とす。

「デタラメではないようだな」

奴は気づかなかったようだが、
このプログラムが実行された時、まるでサーヴァントが召喚されるかのように魔力が迸り、
底知れぬ空間への扉が叩かれたような、そんな感覚がした。
叩く力が弱かったのか、向こうに開ける気がなかったのか、それとも空洞を叩いただけなのか、
何も召喚こそされなかったが収穫は十分あった。
あの異界の扉を叩く膨大な魔力、わざわざこの世界の有象無象のライフエナジーを啜らずとも、十分な魔力が供給されることは想像に難くない。

思わず舌をなめずる。
そうだ、わざわざ有象無象を食らわんでも、あいつ一人からライフエナジーを奪えば十分だろう。
食にはあまり関心はない方のはずだが、やつの色を、ライフエナジーを奪い吸収したいという欲望が生まれる。
腰に帯びた剣、かつては捨てた世界最強の剣に手をかける。
(これのせいか)
剣もなんの憂いも無く戦える魔力に喜ぶように手に吸い付く。
思えば、愛を否定するため、この剣を捨てたことが過ちの始まりであったように思える。

「真夜…」

いや、この剣を手放した時点で愛を認めていたようなものではないか。
あの時、俺がやるべきことは己の愛を否定し、剣を手放すことではない。
この剣で真夜か紅音也を切り捨ることだった。
腰に帯びた最強の剣ーーザンバットソードが今も未来も囁く、全て切り捨てろと、
それに呼応するように剣の柄を強く掴む、もう手離すことはあるまい。

「待っていろ真夜…」

古事記曰く、イザナギは死した愛するイザナミを地上へ連れ戻すべく、黄泉の国へ向かった。
しかし、そこに居たのは死して腐敗して、二目見られない醜い姿となった、イザナミであった。
そして今度はイザナギは追って来るイザナミから逃げ、黄泉比良坂で互いに袂を分かったという。

互いに再び相まみえる事はできたが、
再び別れ、残ったのは悲しみだけだっただろう。

生者と死者が交わる聖杯戦争という黄泉平坂。
神と魔は愛する者を取り戻せるのか、
あるいはイザナギとイザナミの様に悲しみに暮れるだけか。
答えを知るはこの宇宙のすべてを知る、最高神のみだろう。

【クラス】セイバー
【真名】暁が眠る、素晴らしき物語の果て(キング)
【出典】仮面ライダーキバ
【性別】男性
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:A+ 耐久:B- 敏捷:B 魔力:B+ 幸運:E 宝具:A

【クラススキル】

対魔力:C
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。


【保有スキル】
吸血:Ex
吸血行為と血を浴びることによる体力吸収&回復。
ファンガイアであるキングは複数の吸命牙により多数のライフエナジーを同時に吸収可能。

貴族の名:B
真名秘匿スキル。
Bランク以下の真名看破を無効にする。

狂化:E
ザンバットソードの強大な魔皇力により付与されたスキル。
これによって感情の抑制が難しくなり、直情的な行動を取りがちになる。


【宝具】
『命啜る魔の皇剣(ザンバットソード)』
ランク:B+ 種別:対ファインガイア宝具 レンジ:- 最大補足:-
ファンガイアのキングが代々受け継いできた魔剣。
世界で最強の剣とされるが選ばれた者以外には扱えず、
選ばれた者ですら気を抜くと強大な魔皇力によって意識を乗っ取られてしまう凶悪な剣。
この剣を持っている間、所持者に狂化:Eを付与する。


『キバットバットⅡ世』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
コウモリのモンスターであるキバット族、由緒正しき名門キバットバット家のニ代目。
肌を噛み、ベルトとして取り付くことで、その者の魔皇力を活性化させ、「闇のキバの鎧」を纏わせる。
かつてはキング共にレジェンドルガ族の封印、他魔族の全滅活動を行っていたが
キングのクイーンに対する仕打ちにより決別する。
この聖杯戦争の舞台においてもキングの意志により、顕現は可能だが彼に手を貸すことはないだろう。


【人物背景】
1986年の世界最強の魔族、ファンガイア族の王。
かつては闇の牙を用い、レジェンドルガ族の封印などをした優秀な王であったが、
独自の価値観を持ち、それによってクイーンである真夜が人間である紅音也を愛するきっかけにもなってしまう。
真夜が戻らなければ息子である太牙を殺そうとするなど歪んだ愛情を持ち、
最終的には紅音也と、未来からやってきた紅音也と真夜の息子、紅渡に敗北してしまう。



【サーヴァントとしての願い】
紅音也とその息子を殺し、真夜を己のものにする。

【マスター】

中島朱実@デジタル・デビル・ストーリー

【マスターとしての願い】

過去の罪を清算し、日常を取り戻す。

【weapon】
無し

【能力・技能】
悪魔召喚プログラムにより、古の召喚魔術を正確にエミュレートし悪魔を召喚可能。
しかし、1980年のPCの性能では不可能に近く、
ハンドヘルドPCに収まっていたケルベロスも現在召喚不可能である。

【人物背景】
好奇心により悪魔召喚プログラムを制作し、世界を大混乱に陥れた張本人。
イザナミの転生である弓子、なぜか付き従うケルベロスの力を借り、
悪魔召喚プログラムより呼びだされたロキ、セトを倒すが
最終的には悪魔召喚プログラムを用いないルシファーの策略により、
人の手で処刑されることになり、罪の意識とその場で暴徒に父親が殺されたことで暴走。
弓子を手に掛けようとしたところでイザナミに殺される。
イザナギの転生であり、この世で最初に悪魔召喚プログラムを成功させたのはその力も大きいようだ。


【方針】

聖杯を手にする、できれば一般市民に被害を加えたくはない。


【把握媒体】
セイバー(キング):
 DVDおよびネット配信。この聖杯における彼を把握するならDVD9~12巻、(36~46話)までで可能。

中島朱実:
小説媒体。デジタルデビルストーリー1~3巻、或いは新装版1巻で把握可能。

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最終更新:2016年07月27日 17:51