アライさんと僕 2

262 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ガラプー KKd9-34vi)[sage] 投稿日:2017/11/16(木) 19:40:55.41 ID:A6trKez/K [2/3]
アライさんと僕2

「おはようございまーす!」

僕の職場は町中にあるフレンズショップ。店長の個人経営の小さなお店だが綺麗で自家繁殖で産まれたフレンズは飼いやすいと評判だ。

「先輩おつかれさまです」
後輩の女性スタッフと挨拶を交わし、店長の元へ挨拶に向かうとフェネックを手入れしているところだった。

「おはよう。フェネックがね昨日新しいオーナーさん決まったんだ」
「へえ!それはよかったです。新しいおうちで可愛がってもらいなよフェネックちゃん」
「はいよー」

朝の清掃を済ませ建物裏にゴミを出しに向かうのが僕の朝一番の仕事だ。でも今日はいつもと違った。

「ようやく出てきたのだ!アライさんのヘネックを返すのだ!」

まただよ…今日は朝から二回も出くわすなんて。

「聞こえたんだぞ!ヘネックをとじこめてるだけじゃなくて売り渡すなんて許さないのだ!」
「は?」

換気窓のガラスはアライさんが耳をつけていたであろう垢で白く濁っていた。

確かに昨日フェネックがガラス越しに何かしてるのは気がついてたが、あの時僕はカワウソの石を洗っててそのままだった。
大昔はアライさんとフェネックはペアだったという記述があったが今はまったく接点もない別モノ。
フェネックは行儀よく落ち着きがあり友愛に満ちた飼いやすいフレンズとして定着している。
害獣認定されたアライさんとはもう次元の違う存在だ。あっちは野生生活している分昔の本能もある程度残っているのだろうか?

うちのフェネックは生まれからからして店長の愛情たっぷりに育ったから野生なんて無い。
きっと僕らの真似して笑顔で接客していたつもりだったのだろう。
考えているとアライさんの手にはボロいひもや、ゴミが握られているのに気づいた。
今朝店の前に何かの残骸やゴミが散らばってたなた。あれはアライさんがフェネックを助ける為に色々やってたのか。
消毒する以外被害はないけど。

そんなことより今はこのアライさんだ。
近隣のアライさん苦情がうちに来ることがあり、保健所よりもうちに言うのはまあ仕事柄しかたないのかもしれない。
普段は今朝のようにてきとうにあしらうが、職場は別。逃げられないよう取り合えずかまっておかないと。

「なにしにきたの?ゴミ捨てるのやめてね」
「ゴミじゃないのだ!あれは…あれは…」

唇を噛み締め、その目に涙を浮かべ勝手に語り始めたのを確認し、僕は携帯を取り出す。

「アライさんはヘネックと二人でパークに帰(中略)人さんは泥棒なんだぞ!ヘネックを返すのだ!!」
「はいお願いします。……え?」

電話しつつゴミを分別で上の空だったが、アライさんは涙を流し息も荒くその瞳は深い悲しみに満ちていた。


263 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 (ガラプー KKd9-34vi)[sage] 投稿日:2017/11/16(木) 19:43:27.72 ID:A6trKez/K [3/3]
僕が携帯をしまった時アライさんは必死にドアノブへジャンプし始めていた。
ちなみにセーフティで僕のリストバンド内蔵センサーが無いと外から開かない。

「そこからあくのだ!!ヘネック……今…今助けるのだ…!」

何度もジャンプしドア面にぶつけた爪からは血がしたたっており、もともと汚かった手もボロボロだ。
また消毒する場所が増えてしまった。

僕はゴミ箱備え付けのアライさん捕縛ネットをアライさんにひっかけると、もちろんドッタンバッタン大騒ぎ。

「へねっくぅ~ヘネックゥゥゥ!!!!」


ほどなくして
開店と同時に店の前と店の裏に車がそれぞれ停まった。

「店長さんお世話になりましたー。おねえさんありがとー」

見送りの店長と女性スタッフに手をふり、フェネックは優しそうな初老の女性の元へ行った。

そんな見送りとは逆に僕はアライさんを保健所おじさんへ引き渡し手続き。
そんな時、アライさんが声に気づいたのか所謂ゴキガイジムーブという走法でフェネックの乗る車に向かいだした。

「へネック~!へネ゛ッグゥー!!アライさんもいくのだ!」

まずい、うちの清潔なイメージが。必死に網を引っ張り阻害したが、遠目でも気がついたフェネックはアライさんを一瞥すると二、三回手を振るだけだった。

「どうして…どうしてそのバス(車)から降りないのだ!一緒にいグエェッ」
「この野郎!騒ぐんじゃねえ!」
「いたい、いたいのだ!やめて…やめ……」

保健所おじさんのサスマタの束で何度も叩かれると頭を抱え身を丸くし震えだした。

「じゃあ連れてきますわ。まったく、たまにフェネックを付け狙うアライさんがでるんだよなあ、まあその本能もそのうち無くなるだろ」
ゴミを投げ込むような動作でアライさんは保健所の車につめこまれた。

車が二台発車し、表と裏から引き離されるフェネックとアライさん。二匹のフレンズはそれぞれ別な場所に迎っていく。
僕はフェネックの未来を嬉しくもあったが、アライさんのおかげでどこか気は晴れなかった。

「あ、消毒しなきゃ…」
どんよりとした雲が覆った






最終更新:2018年04月06日 02:11