野犬・前編

800 名前:野犬 (ワッチョイ 6a01-k6Q8)[sage] 投稿日:2017/07/28(金) 23:32:50.54 ID:dudPMsnk0 [1/9]
「ずいぶん大きくなったのだぁ」
アライさんは大きくなったお腹を撫でながら一人呟いた

「もう少しすると、アライさんの子供が産まれるのだ」
「アライさんの子供だから、きっと元気で賢い子なのだ、無敵なのだ」

「うう、痛いのだぁ」
「もうすぐなのだ」

「いたいの…だぁ!」
アライさんは耐え切れず大きな声をだした
思えばこれが良くなかったのかもしれない

「のだー!、の…のだぁ」

「ちびが出てきたのだ、かわいいのだぁ」
「まだ産まれるのだぁ」
アライさんは喜びの中に居た


801 名前:野犬 (ワッチョイ 6a01-k6Q8)[sage] 投稿日:2017/07/28(金) 23:33:54.55 ID:dudPMsnk0 [2/9]
アライさんが、ちびアライさんを抱えようと腕を伸ばした
その時

ウーーー、低い唸り声が聞こえた
子供を産み落としたばかりのアライさんの前に野犬が現れた

アライさんは咄嗟に後ずさったが、体の自由は利かず結果として
生まれたばかりの、ちびアライさんを前に見ることになった

「近づくんじゃないのだぁ!」
「アライさん今たいへんなのだ、あっちへ行くのだ!」

アライさんは悲鳴のような声を上げたが、
そんな事をいっても、野犬が聞く訳がない
ひと嗅ぎすると近づき、ちびアライさんを咥えた
野犬にとっては、やわらかい、ご馳走でしかなかった

「やめるのだ、やめるのだぁーー!アライさんの大事な子供なのだぁ」
アライさんの願いもむなしく


802 名前:野犬 (ワッチョイ 6a01-k6Q8)[sage] 投稿日:2017/07/28(金) 23:34:36.25 ID:dudPMsnk0 [3/9]
グチャリ 野犬はちびアライさんの首筋を一噛みした

「のだーぁ」
ちびアライさんは、力なく声を上げるのが精一杯だった

「ちびっ!」
アライさんは叫んだが何か出来る訳ではない

「ちび!、ちびー!」

グチャ、クチャ 噛み咀嚼する音が聞こえた
しばらくすると首を高く上げ最後の部位を飲み込んだようだ

「ああっ、」
「ちびが、アライさんの子供がぁ」
「酷いのだぁ、酷いのだあ!」


803 名前:野犬 (ワッチョイ 6a01-k6Q8)[sage] 投稿日:2017/07/28(金) 23:35:24.53 ID:dudPMsnk0 [4/9]
「うっ痛っ!」
ショックを受けているアライさんだが、お産の真っ最中である
アライさんに次の子が生まれようとしていた
なんということか、ちびアライさんを襲った野犬の前で

「ああっ、ちび 待つのだ」
「まだ産まれちゃだめなのだ」

「のだぁ!」
「のだ?」
「のだぁー」
アライさんの希望に反し、
産まれ易くなっていたのだろう、続けて新しい命が産まれた

「まだだめなのだぁ!」
アライさんは叫ぶが、どうしようもない
産まれた子供を戻すことなど出来ないのだから


804 名前:野犬 (ワッチョイ 6a01-k6Q8)[sage] 投稿日:2017/07/28(金) 23:36:06.43 ID:dudPMsnk0 [5/9]
野犬が吠え出した

「うるさいのだぁ、お前なんかさっさとどこかに行くのだぁ」
アライさんは声を上げ牽制するが出産の痛みと疲労で身動きがとれない

そこに、さらに不幸が襲った
もう一匹野犬がやって来たのである
野犬の家族、パートナーといった所だろう

「こっちに来るんじゃないのだあ」
「やめるのだあ、やめるのだあぁぁぁーーーーー!!」

アライさんは泣き叫ぶが、
野犬達はそれぞれにちびアライさんを咥えた

「ちびぃー!!」

「のだぁ!」
「のだぁ?」
アライさんの叫びに、ちびアライさんも応えアライさんを見る


805 名前:野犬 (ワッチョイ 6a01-k6Q8)[sage] 投稿日:2017/07/28(金) 23:36:53.06 ID:dudPMsnk0 [6/9]
グチャ、クチャ

「のだーー!!」
「のだぁ!」
噛まれる刹那、ちびアライさんは声を上げた
それは悲鳴なのか、あるいは母 アライさんを呼ぶ声だったのか

「ちびぃーー!!!」
「ああ、酷いのだあ、アライさんなにも悪くないのだぁ」

唯一残った、ちびアライさんは

「のだ?のだぁ???」
何が起きているのか理解できていないようだった

ガッガツ、クッチャクチャ 野犬達の咀嚼する音が響く

「あのちびだけでも助けないと」
「アライさんの子供が全滅してしまうのだぁ」
アライさんは重い体に鞭打って、ちびアライさんを保護すべく
身を動かした


806 名前:野犬 (ワッチョイ 6a01-k6Q8)[sage] 投稿日:2017/07/28(金) 23:37:39.71 ID:dudPMsnk0 [7/9]
タイミングを合わせた様に、後から来た野犬が動き出した
まだ食い足りなかったのだろう

「まつのだ!、アライさんのだいじな子供なのだ、ちびなのだあ!!」

だが、一歩遅かった

「ちびをはなすのだあ」
アライさんも必死で、ちびアライさんを取り戻そうとしていた
アライさん自身も噛まれながら何とかちびアライさんを守ろうと

アライさんの抵抗が功を奏し野犬は離れていった

「アライさんが勝ったのだ、ちび無事なのだ?」
「ちび?」


807 名前:野犬 (ワッチョイ 6a01-k6Q8)[sage] 投稿日:2017/07/28(金) 23:38:18.41 ID:dudPMsnk0 [8/9]
ちびアライさんは、首筋から胸にかけて深く噛まれており
すでに虫の息だった。

「のだぁ…」
弱弱しく声をあげたが

「ちび、しっかりするのだ」
「アライさんの子供なのだ、しっかりするのだぁ!!」
「アライさんはすごいんだぞ、だからちびだってがんばるのだ!」

「の… だぁ」

「ちび、ちび!」
「アライさんが助けたのだ、死んじゃだめなのだ!」

だが、もう応えはなかった
ぴくぴくと痙攣しているのみだった


808 名前:野犬 (ワッチョイ 6a01-k6Q8)[sage] 投稿日:2017/07/28(金) 23:38:56.46 ID:dudPMsnk0 [9/9]
「ちび」
アライさんはそう呟いた後、倒れこんでしまった
必死で抵抗したアライさんだったが自身も酷い疲労と痛みで
動ける状態ではなかった

「ちび」
微かに動く、ちびアライさんを何も出来ずにただ見つめることになった
結果は明らかだった

「酷いのだ、ひどいのだぁ、アライさんがかわいそうなのだぁ」
「アライさんの家族が、ちびたちがぁ…」

アライさんは泣き伏していた
ちびアライさんに与える筈だった母乳、張った胸の痛みを感じながら

END


続き (後編は前編とは書かれた方が異なります)


最終更新:2018年04月02日 23:59