【希望崎学園】SSその2

最終更新:

dngssd

- view
管理者のみ編集可

【希望崎学園】STAGE 試合SSその2


Round 1 『青春のパラダイス』


キーンコーンカーンコーン!
「こ、ここはどう見ても学校! あーっ、あれは教科書ってやつでは!?」
「落ち着け。……聞いちゃいねぇな」

ようこそ、ここは誰がどう見ても希望崎学園!
初めて入った学校施設というものに、エリのテンションもうなぎ上り!

「出席を取ります!にょろにょろさん!……元気がないからもう一回!」
「だからはしゃぐなっての……」

消火栓のボタンを押さないように撫でてみたり、教室の下の方にあるなんか小さい窓を潜ってみたり。

「学校楽しいです!」


五分後!


「ヒャッハー!」「ヒーヒヒヒ!」
「ひええええっ、おっおじちゃん、おい、追いつかれる!」
「黙ってろ!舌噛むぞ!」

そこにはエリを背負って廊下を全力疾走する島津の姿があった!
さらにその背後から、モヒカンの操縦する暴走バイクが迫ってくる!!

「学校怖い!学校怖い!」

ようこそ、ここは誰がどう見ても希望崎学園!
この先DANGEROUS!命の保障なし!

先程までの和やかなムードは霧散し、エリの口からは悲鳴が漏れる。島津にしがみつく手に力がこもる! だが!

「クソがっ……!」

だ、駄目だ! 島津より暴走バイクの方がちょっと速い! このままだと追いつかれるぞ!

「なにか、なにか、えっと!」

がんばれ! がんばって活路を見出すのだ……!


◆◆◆


爆発音が響く。

「かっ……カレン! 今1回消費しました! 残り2回! 2回です!」
「ッハァァアア!? ふっざけんなよザコ悪魔!! 『対戦相手に見つからずに接近できるルート』じゃねえのかよ!!」

一方のこちらはアテが外れて大惨事!
思わぬ部外者の襲撃に痛手を負いながら、慌てて防衛に回る!

「ああカレン、カレンなら馬鹿狼と違って理解しているでしょう。今通りすがりに爆弾を投げつけていった者は、対戦相手ですらありません……!」
「あぁ!? そんな物騒な通行人がいてたまるか!!」
「ヒャッハー! 廊下で爆弾投げるのが生きがいだぜーっ!」
「いんのかよ!!」
「ヒャッハー!」「ヒャッハー!」「ヒャッハー!」「ヒャッハー!」「ヒャッハー!」
「うるせっ……多いなテメェら!?」

突っ込みながら箒が一閃! 周囲のモヒカンの首がまとめて飛んだ!

「ヒ「ヒ「ヒ「ヒ「ヒ「ヒ「ヒ「ヒ「ヒ「ヒ「ヒ「ヒャッハー!」」」」」」」」」」」」

「ちっ、キリがねぇな!」
「こりゃもう見つからないルートなんて言ってる余裕無いよね……! シアラン、目標変更。『対戦相手の居場所』を探して!」

一度ランタンが跳ね、新たな方角を指し示した。
それを確認すると、カレンは箒に跨り飛び上がる。

『風渡り、秘儀の枝、エーテルを掴め』

廊下は狭いが、構わない。交通事故だけ警戒し、天井すれすれを高速で駆けた。


◆◆◆


「……見つけたっ!」

曲がり角を抜けた先で、炎の反応が一際大きくなる。長い廊下、視線の先には二つの人影!

「おい、待ったカレン! 後ろからまた群れが来た! このまま様子を見るぞ!」
「ありがと、了解!」

浮遊するカレンの下をモヒカンの大群が通り抜けていく。それはさながらヌーの大移動が如し!
そのまま人影へと迫り……轢殺するのか……!? はたまた鏖殺されるのか……!?


◆◆◆


という感じで帰ってまいりましたエリ陣営!
大挙するモヒカン! ヒャッハーの声がこだまする!

「来たぞエリ! さっきのもう一回だ!」

島津が、肩に乗せたエリに合図を送る。
そして威圧的な高所アドバンテージを持つエリの両肩には……おお、見よ……!
無辜のモヒカンから略取したトゲ付き肩パッド……!

「がんばれ肩パッド! きみならきっとできるぞ!」

エリの声援を受けたトゲ付き肩パッドが、がんばる……! いけ! そこだ!
ファイト! ファイト!
あっちょっと伸びた! よし! トゲが伸びた! えらいぞ!!!

「ヒャッハ……あっトゲが長い!」
「あァーン!? ナマ言ってんじゃねェーっ! オレ様の方が……あっほんとだちょっと長い」
「ちょっと長い」「ちょっと長い」「だいぶ長い」「やや長い」「ここ10年で一番の長さ」

トゲの長さを確認したモヒカンたちが一礼して脇を駆け抜けていく! ちなみにこれを既に数回繰り返しているぞ!

訪れる静寂……そして、開ける視界。
この場に残るは三人のみ。エリ、島津、そして今箒から降り立つ、カレンだ。

戦いの火蓋は切って落とされる――。


Round 2 『東京ブルース』


「柏木エリです!」

島津の肩から軽やかに飛び降りて、エリが元気よく名乗りをあげる。
肩には、少女の容貌に似つかわしくないトゲ付き肩パッド。
よくわからないが、とにかくこの両名はアレでモヒカンを凌いでいるらしい。

「……えっ待って待って、そんなんでどうにかなるものなの……? えっ何……?」
「いやそもそもあの群れは何なんだよ。日本の低級悪魔かなんかか……?」
「たてがみがそっくりですよね、貴方の親戚では?」
「あァ!? どこがそっくりだ眼ェ腐ってんのか!!」
「声の大きさと品の無さも瓜二つかと」

向こうは名乗ってるのに! 失礼だぞ!
でもまあ初めての日本、初めてのモヒカンザコだもんね。今回だけだよ。

「……柏木エリです!! よろしくお願いします!!」

ハイ2発目! ちゃんと見て!

「あっ、ご、ごめんね。えっと、私、カレン。魔女だよ。よろしく」

よしOK!

「二人連れなんて不思議だね。シアラン、対戦相手本人はどっち?」

カラン、と音を立て、炎がエリを指す。

「うん、そうだよね。多分私と同じような事情かな? それなら、弱そうな子が本体と考えるのが自然だもん」
「隣のでけえのは、死体だなありゃ。生きてる匂いがしねぇ」
「なるほど。ネクロマンシーみたいなものかな」

対戦相手の値踏みを済ませ、箒を構える。
応じるようにして、島津が前に踏み出した。

「エリ、自分の身を守っとけ」

言われるがままに、エリは僅かに距離を置く。
咄嗟に走り出せるよう身を低くし、頭にはにょろにょろさんを乗せた。これで無敵。

島津が、長ドスを手に持ち駆けだした。考えるより速く、ただ思い切り振り下ろす。
木製の箒がそれを阻み、甲高い金属音が辺りへ響き渡った。

「そんななまくらで、俺が切れるかよッ!」
「また喋るおもちゃかよ」
「誰がおもちゃだコラァ!」

そのまま、グレイタウルとカレンの猛攻が迫る。
華奢な体躯を忘れさせるような、重い連撃が島津を襲った。

「なるほど、な」

だが、慮外の強さではない。受ければ受けられるだけの攻撃に、島津は少しばかりの安堵を覚えた。これであれば、『戦い』が出来る。
叩き込まれる箒を力任せに捌き、隙を見てはこちらの一撃も織り交ぜる。

「ったく、当たり前みたいに受けやがってよぉ!」
「うーん、これは使い手の力量が響くかな……! ごめん、一旦引こう!」

カレンは、決めたら早い。大きく一歩下がり、そのまま箒に跨る。

「『風渡り、秘儀の枝、エーテルを掴め』。シアラン、お願い」

ランタンの炎に導かれるまま、カレンは戦線を離脱した。

島津は、エリを振り返る。
……真剣な面持ちで箒に跨っている。

「何してんだお前」
「こ、こっちも背伸びしたら飛べないかなって!」
「……そうか」

連れて行くのは危険だが、一人残すべきでもない。逡巡する。

「着いてこい。あまり離れるな」
「うん!」

エリは、走る島津の後をちょっと浮きながら追った。


Round 3 『うそ』


カレンを追い、島津とエリは食堂に辿り着いた。
辺りは不気味なほど静まり返っている。

「エリ、離れて待ってろ。何かあったら逃げろ。お前がやられたら、それで終わりだ」
「何かお手伝いできることは!」
「……悪い、思いつかん」

そう言って、島津は扉に手をかけた。
何が待っているかは分からないが、何が待っていてもやることは変わらない。
躊躇わずに開け放ち、足を踏み入れる。

中は惨憺たる状況だった。
調理台はその尽くが壊され、調味料や食材がそこかしこにばら撒かれている。納豆、くさやに特濃ボトルのキムチの素……ゲテモノ料理でも作っていたのだろうか。
そして、部屋の奥にはカレンの姿があった。箒もランタンもその手にはなく、帽子だけを被っている。

「料理って難しいですね〜! 失敗しちゃいました!」
「……白々しいったらねぇな、ったく」
「お兄さんは好きな料理ありますか? 私はシュトーレン! 3日は平気で食べられちゃうくらい、大好きです!」

応じず、島津は様子を窺う。

「あの子は来ないんですね。どうして代わりに戦うんですか? 脅されてる? 大切な人? あ、変な契約に騙されちゃったとか」
「素人くせぇ時間稼ぎだ」

島津には、大体の察しはついていた。
ばら撒かれた食材は、臭いを誤魔化すため。下らない話を振るのは、音を誤魔化し、時間を稼ぐため。
カレンの狙いは、十中八九ガス爆発だ。

ならば、カレンをここから逃がさなければいい。
ここにカレンがいる限り、爆発は起こせない。エリのいないこの部屋では、共倒れさえ狙えない。
島津には、甘やかしの悪魔の能力は未だ知るところではなかった。
カレンの選択肢を奪うため、更に一歩を踏み出す。

「ところで私、箒とランタン今手元にないんですけど。どうしてだと思います?」
「…………っ」

瞬間、島津は敵を視界から外し、エリを残した入口側へと振り返る。

「ようやく動揺してくれた。優しい人なんですね」

カレンはくすりと笑った。

「魔女は、うそつきなんです」

コンロに着火し、爆発が起きた。



Origin:『冬知らずの魔女、カレン』



魔女は、うそつきである。

原門りんごとの初戦を終えた後。
カレンは大魔女を思わせる微笑みを返して、その真実を、白状した。

カレンは、大魔女ヴェナリスの娘ではない。

ヴェナリスが『最初の魔法使い』へ挑むため残した復元装置。
現代社会の言葉を借りるなら、バックアップ、或いは圧縮ファイルと呼ばれるもの。
カレンに期待された機能は、ただ一つ。ヴェナリスが敗北した際、『再統合の魔法』を用いて、それを回収、上書きし、復元する。

だから、『魔人堕ち』は予期せぬ事態だった。
唯一のアイデンティティを、割り当てられた役目を、カレンは取り戻さなくてはならない。

カレンは、1年だって生きてはいない。
白く漏れる吐息を、ゆるりゆるりと舞い降りる雪を――冬を、彼女は知らなかった。





「かわいいカレン。残りはあと1回です」

爆発により壁面が剥がれ、そこかしこが燃え盛る食堂。煤だらけの服もそのままに、カレンは頑強な大型冷蔵庫からグレイタウルとシアランを取り出した。

「シ、シシ、シアラン……お前、意外とあったけぇやつだったんだな……」

箒がランタンに覆いかぶさって小刻みに震えていた。

「グレイタウルさん……」
「はっ、か、カレン! 助けに来てくれたのか!」
「……グレイタウルさん……」

一方の島津は、全身を黒焦げにして倒れ伏していた。
ゾンビを倒すには、焼くのが最も都合が良い。筋肉を焼き、関節を焦がせば、体を動かすのは困難となる。
島津の様子を一瞥して、カレンが伸びをする。

「っはー、緊張したぁ……! これで、とりあえずは良し。次はあの子を探さないとね」

ランタンがキィキィと声を上げ、次なる目標を――

「おじちゃーん! 大丈夫!?」

探すまでもなく、消火器を持ったエリが燃え盛る食堂に飛び込んでくる。
ホースからは、通常よりも勢いよく出る消火剤。辺りは瞬く間に鎮火され、島津の体を包む炎もたち消える。

「消火器さん、ナイスガッツ! ありがとう!」
「ありゃ、向こうから来ちゃったか。……悪く思わないでね」

カレンはエリに近づき、箒を掲げる。この一振りで、終わり。そう思っていた。
黒焦げの塊が、勢いよく起き上がった。
傍に座るエリに目もくれず、剥き出しの眼球が真っ直ぐにカレンを見据える。

「その帽子……、あと一回と……言ったな……」

迫力に気圧され、カレンが一歩飛び退く。島津は、瓦礫に肉の焼け落ちた手を置きながら身を起こした。

「おじちゃん! 大丈夫なの」
「お前……何かあったら、逃げろっつったろ……」

人体は、皮膚が炭化している状態で動けるようにはできていない。
それでも、島津は立ち上がる。
根性をキメているからだ。

「おいおい……マジかよコイツ」
「すごいね。けど、流石に限界……だと、思う」

自らを奮い立たせるが如く、島津が咆哮する。だが、殆ど動けていない。
これなら倒せる。カレンの箒が、とどめを刺すべく振るわれる。

「……やめて!」

その一撃は、島津には届かなかった。
エリの体重を乗せた消火器が、カレンの箒を弾く。

「やめてって、言った」

島津を庇い、飛び出したエリ。
口を突いて出た言葉は、カレンに向けられたものではなかった。

「私の為に動かなくなるのは、やめてって、言った!」


◆◆◆


守られるだけの存在に見えていた。
この年頃の少女ならば、きっとそれが普通なのだろうと思っていた。いや、まさかこんな場所でそうも普通の少女に出会うとは、想像もしていなかったが。

非合理の極み。
一回戦で相対した原門りんごは、自身の在り方を再定義するために、このダンジョンでの戦いに臨んだ。グレイタウルは、それを「こころがけ次第のくだらない願いだ」と言った。
今目の前にいる柏木エリは、この場に似つかわしい戦闘者には見えなかった。大した力も無いままに飛び出して、多分、このままやり合えばそれでおしまいだ。

「グレイタウルさん。この子、どう思う?」
「あァ? ……どうもこうもねぇだろ。都合がいいだけだこんなもん、興醒めだ。早く終わらせろよ」

うん。そうだよね。
それが、悪魔の、魔女の感覚なんだと思う。

「でも、私。嫌いじゃないよ。……ううん、嫌いじゃないっていうか……」

誰かの為に、自分の身を顧みず。
思いのままに、非合理へと身を投じる愚かな少女の姿を見て。

昂ぶらずには、いられなかった。



Origin/B side:Now loading...



さてさて。
カレンに搭載された機能は、実のところ、再統合のみに終わらなかった。

カレンが必要とされる事態。
その意味するところは、『完成された大魔女の不足』である。
故にカレンには、ヴェナリスの復元機構でありながら、本来持ち得ないものが後天的に植え付けられていた。

魔女とは、策を巡らせ、合理を良しとする生き物である。
魔法の世界とは、そうあらねば食い荒らされる、冷徹の極限だった。
故に、まずはじめに非合理を廃した。
そうすることで、合理を愛すと決めた。

本来、魔女が探求の入り口で置き去りにしたもの。
ここに在って、カレンが自覚した魔女としての不完全。
それが実のところ『魔女』と『魔人』を決定的に隔てるものだったことは、大魔女にとっても誤算ではあったのだが――

それこそは、もう一つの『冬知らず』。
非合理と称されうち棄てられたものの行き着く最果て。


それを指す本当の名は――


――『めちゃくちゃ熱い魂』である!!



Rec6-2『めちゃくちゃ熱い魂を持つ魔女、カレン』



「……そう! めちゃくちゃ熱いよね! そういうの、大好き!」
「カレン!? 急にどうした!?」
「シアラン! 私と彼女の、戦場を指し示して!」
「キキッ!」

ランタンが弾かれたように飛び上がり、周囲の瓦礫を、炎を、吹き飛ばす!

ウム~ッ!?
炎が二人を中心に正方形をかたちづくって……こ、これはまるで天然のリングではないか~っ!!

「あれは……炎陣武闘の儀!」

「知っているのですか、狼!」

「昔……すげえ昔に、同じような殺陣武闘を聞いた覚えがある。ギリシアだかどっかで! 炎で囲まれたリングの中で、死ぬまで殴り合うという鬼の遊戯だ。サーカスで行われる火の輪潜りの源流って説もあるぜ!」

「なんと……そんな過酷な戦いに、かわいいカレンは挑もうというのですか~っ!」

「だろうな……見やがれ、あの顔を!」

カレンは歯を剥き出しにして笑っていた。その顔に、もはや大魔女の面影はない!

「おお、かわいいカレン……いや、めちゃくちゃ熱き魂を持ったカレン。あなたはもう、私に守られるだけの子どもではないのですね! うおおおお!」

フェリテが、目をかっぴらき、自らの形を変える。共に前へ出て戦う意志! 新たなフォルムはグローブである!

「ちっ……てめえみてえなバカ魔女を倒すのは、俺だ! 勝手に負けるんじゃねえぞ!」

グレイタウルが吐き捨てて、自らの形を変える。友の成長を支える意志! 新たなフォルムはシューズである!

「シアラン、フェリテ、グレイタウル……。ありがとうっ!!!」

ローブの裾を迷いなく引き裂き、十字にたすき掛ける。
軽やかなステップで、鋭いシャドーボクシング。その姿はまさしく、”リング上の魔術師”……!

「……エリ、準備だ!」
「お、おじちゃん……うん、任せて!!」

炭と化した島津がエリのセコンドへ就く!
再起不能に見えた島津だが、なるほど……戦い方は一つではない!

エリは、にょろにょろさんを体に巻き付ける。これは一回戦で見せたあの究極二人羽織、へびにんげん……? いや、違う!
以前は顔にぐるぐる巻いていたから前が見えなかったが、今は全身に巻き付けることで視界を完全に確保している!
これこそは真の姿! へびにんげん(二代目)だ!

「準備はできたみたいだね」

カレンは、左手を前に構え前後にステップを踏む、オーソドックススタイル!
エリは、右手を前に垂らしヘビの如くくねらせる、ヒットマンスタイルだ!

「負けないぞ! へびにんげん発進!」

二人の声に反応するかのように、シアランが四隅の炎を勢いよく噴き上げた。それはさながら、運命のゴング。
今、戦いの最終章は幕を開ける……!

「立て~! 立つんだエリィ~!」

まだ早い!


◆◆◆


エリが右腕をくねらせ、腰を入れたジャブを放つ。フリッカージャブはリーチが長い! 見た目以上の間合いから、カレンの頬を切り裂いた!

「きゅ~」

にょろにょろさんの長さが可能にした魔技!

「エリィ! 後のことなんざ考えんな! 打って打って打ちまくれ!」
「うん、おじちゃん!」
「きゅきゅきゅきゅきゅ~」
「ジャブの刺し合いは不利だね。最初から、トップスピードで行くよ!」

前後左右、変幻自在に右のジャブを打つエリ。しかし、カレンも負けてはいない。頭を振って、避ける! 避ける!
それを支えているのは、グレイタウルシューズだ。ジャブの雨嵐を素早いステップで、軽やかにかわしていく。

「いてえいてえいてえ! 地面と擦れてめっちゃ痛いこれ!」
「めちゃくちゃ熱き魂を持ったカレン! チャンスは一瞬ですよ!」
「わかってるよ、フェリテ!」

ダッキングを繰り返し、にょろにょろさんのリーチを殺した至近距離まで辿り着く。ここは、カレンの間合いだ。

「エリ! 来るぞ、狙えーっ!」

エリは、目を逸らさなかった。
右ストレートに合わせ、左ストレートを放つ。
カレンの右を頬で受けながら、それでもエリの拳はカレンの顔面に突き刺さった。

「ただでさえカウンター・パンチは相手のいきおいづいた出鼻を打つだけに、相手の突進プラス自分のパンチ力..….と威力は倍増する。ましてやクロスさせた場合、相手の腕の上を交差した自分の腕がすべり、必然的にテコの作用をはたして、三倍……いやさ四倍! 思うだに身の毛もよだつ威力を生みだす!」

セコンドの島津、解説ありがとう!
クロスカウンター! 決定力に乏しいエリの、必殺の活路である!
当然エリのダメージも大きいが、それ以上にカレンのダメージは甚大なはずだ!
ああ、だが!

「残り、0回です! うおおお!」

無情にも、カレンはここで残機を切る。
対するエリは、糸が切れた人形の様にたたらを踏む。
カレンはこの期を逃さない。最後の一撃を見舞うべく、右拳を振り上げた。

「これで……決める!!」

……ああ、だが。
不可思議にも、カレンの拳は空を切る。

(消えた?)

いや、そうではない。カレンは見た。
今さっきまで戦っていた相手に瓜二つの、小さな幼子の姿を。

「まけ……ない!」

そのまま弾丸の如き速度で跳び上がった童女の頭が、無防備なカレンの顎を撃ち抜いた。
カレンの意識が宙に浮かぶ。思考が加速する。


何故当たらなかった

戦っていた相手は

どこへ消えた

この幼子は

小さい?

縮んだ

いや


この子の能力は、多分――


カレンの思考がそこまで辿り着いた時、後ろからがっしりと腰をホールドされた。

「よくやった、エリ」

炎のリングを乗り越え、もはやほぼ煤けた骸骨と化した島津が、カレンの背後を取ったのだ。

「ちょちょちょ、それは反則じゃ……!」
「お前も悪魔使ってんだろ!!」

正論! 島津が、カレンを腰からぶっこ抜く。渾身のBGS(バーニング・ジャーマン・スープレックス)が、脳天を地面に突き刺した!






【STAGE:希望崎学園】
勝者……柏木エリ
敗者……めちゃくちゃ熱い魂を持つ魔女、カレン





Ending 1 『男はつらいよ』


「ふー……」

希望崎学園を抜け辿り着いた洞窟内で、島津が煙草をくゆらせる。
エリに背伸びさせた煙草は美味い。格段に美味い。

「エリ」
「はい」
「なんだか……夢を見てたみてぇだ……」
「はい……」

エリに背伸びさせた煙草は本当に美味いな……美味い……。

「おじちゃん」
「ん?」
「……せのび、できなくなっちゃった」

エリを見下ろす。
そこに、背丈の伸びた少女はもういない。
出会った時と変わらぬ、小さな姿。

「俺はそんな事しねぇでいいって、はじめに言っただろ」
「でも、ちょっとでも力になりたかったんだもん。おとなのほうが、いっぱいがんばれるので!」
「……そうか」

どっちにしたって、ガキにしか見えねぇけどな。

煙草の火を、岩壁に押し付けて揉み消した。
小さく音を上げて、赤は黒へと輝きを失う。
吸い殻を落とす。

「あっおじちゃん、ポイすてだめなんだよ!」
「ああ、悪りぃ。……拾ってくれるか」

エリがにょろにょろさんからゴミ袋を取り出し、手早く拾い上げる。
向き直りVサインを掲げるので、適当にあしらっておく。

……落とすつもりは、なかった。


Ending 2 『いつでも夢を』


長野県某市! SSダンジョン出口!

「いやあ、負けちまったぜ!」
「めちゃくちゃ熱き魂を持つカレン! これからどうしましょう! うおおお!」
「カランカラン!!カラララララララランッッ!!」
「そうだね……でも、大丈夫! 今の私には、めちゃくちゃ熱い魂があるのだから!」

切り立った崖から、助走をつけて飛び出したカレン。
シアランの炎のレールが、今なお迫り続ける大魔女へ向けて一直線に伸びる。
箒に跨る。
本日は快晴。頬を撫でる風が心地よい。
カレンの瞳に不安はなく、ただ、めちゃくちゃ熱い灯火が宿っていた。

「シアラン! フェリテ! グレイタウル! ……行こうぜ。最期の、決戦の時だ!」


☆ご愛読ありがとうございました!仁木克人先生の次回作にご期待ください!

目安箱バナー