獣が嗤うこの街で ◆7WJp/yel/Y
愛月しの、十四歳。
いわゆる、『デスゲーム』に巻き込まれるのは二度目だ。
一度目は『ラブデスター実験』、真実の愛を証明するためにモルモットの生命を消費する恐るべき証明実験。
いや、正確に言うならば一度目というのは語弊があるかもしれない。
しのはラブデスター実験の実験体として観察経過中だったからだ。
『ラブデスター実験』の最中に、この二度目のデスゲームとなる『バトル・ロワイアル』に巻き込まれたのだ。
しのが生まれる前か生まれた直後か、それと同時に社会現象にまでなり国会でも話題となった作品。
中学生の少年少女が政府の命令で殺し合う、そんなバイオレンス小説だ。
このデスゲームはそれに酷似している。
しのは二度目のデスゲームの最中なのだ。
当初は、緊張で顔をしかめていた。
いわゆる、『デスゲーム』に巻き込まれるのは二度目だ。
一度目は『ラブデスター実験』、真実の愛を証明するためにモルモットの生命を消費する恐るべき証明実験。
いや、正確に言うならば一度目というのは語弊があるかもしれない。
しのはラブデスター実験の実験体として観察経過中だったからだ。
『ラブデスター実験』の最中に、この二度目のデスゲームとなる『バトル・ロワイアル』に巻き込まれたのだ。
しのが生まれる前か生まれた直後か、それと同時に社会現象にまでなり国会でも話題となった作品。
中学生の少年少女が政府の命令で殺し合う、そんなバイオレンス小説だ。
このデスゲームはそれに酷似している。
しのは二度目のデスゲームの最中なのだ。
当初は、緊張で顔をしかめていた。
「禰豆子ちゃんは可愛いねぇ」
なのに、今となっては顔をだらしなく緩めて、一人の童女に夢中になっていた。
スリスリと頬ずりをしながら、眠たげに目を細めている童女に語りかける。
その少女の名前は竈門禰豆子。
竹筒で口枷をしていた、美しい顔立ちをした童女で、大きくなれば大層な美女になるだろうと予感される童女だった。
多くの少女の例にもれず、しのもまた『可愛い』が大好きだ。
手足の短く、ツヤツヤとした禰豆子自身の身長ほどもある長い黒髪。
クリクリとした瞳で見つめられるだけでしのの心は魅了されてしまう。
スリスリと頬ずりをしながら、眠たげに目を細めている童女に語りかける。
その少女の名前は竈門禰豆子。
竹筒で口枷をしていた、美しい顔立ちをした童女で、大きくなれば大層な美女になるだろうと予感される童女だった。
多くの少女の例にもれず、しのもまた『可愛い』が大好きだ。
手足の短く、ツヤツヤとした禰豆子自身の身長ほどもある長い黒髪。
クリクリとした瞳で見つめられるだけでしのの心は魅了されてしまう。
「ハハッ、愛月さんは禰豆子ちゃんに夢中ですね」
「だって、可愛いですから。前園さんもそう思わないですか?」
「だって、可愛いですから。前園さんもそう思わないですか?」
そう語りかけるのは前園甲士。
優しげで爽やかな、清潔さのある人物だった。
また、挙動の一つ一つが落ち着いている。
未だ女子中学生で未成熟なしのとは違う、いわゆる知的な大人と言った印象を与える男であった。
優しげで爽やかな、清潔さのある人物だった。
また、挙動の一つ一つが落ち着いている。
未だ女子中学生で未成熟なしのとは違う、いわゆる知的な大人と言った印象を与える男であった。
しのが禰豆子と前園に出会ったのは、先程のことだった。
禰豆子を抱きかかえている前園を偶然発見したしの。
支給品であった拳銃を無意識に構えるしのに対して、前園は真剣な表情で殺し合いに乗っていない意思を伝えてきた。
禰豆子を抱きかかえている前園を偶然発見したしの。
支給品であった拳銃を無意識に構えるしのに対して、前園は真剣な表情で殺し合いに乗っていない意思を伝えてきた。
『待ってくれ、私は殺し合いには乗っていない!』
そして、自身の背中で眠っている童女の禰豆子の存在。
こんな生命の奪い合いというおぞましい会場で、なお、他者のことを気にかける。
そんな在り方に、しのは自身の幼馴染を幻視した。
衝動的と言ってもいいほどに、しのは前園を信用した。
銃をおろし、すぐ近くの民家へと入るよう提案した。
それから、禰豆子が目を覚ます。
そこで名前を聞こうとしたが、禰豆子はどうやら言葉が話せないようだった。
困ったところで名簿を見せる。
しかし、童女に漢字などわからないだろうと思ったが、不思議なことに竈門禰豆子という名前を指さした。
ひょっとすると見当違いの名前かもしれないが、ひとまず、しのと前園は彼女のことを禰豆子と呼ぶことにしたのだ。
そこから、禰豆子も目覚めたし、なにかを食べようかという話になったのだ。
そこからのしのは禰豆子に夢中だった。
こんな生命の奪い合いというおぞましい会場で、なお、他者のことを気にかける。
そんな在り方に、しのは自身の幼馴染を幻視した。
衝動的と言ってもいいほどに、しのは前園を信用した。
銃をおろし、すぐ近くの民家へと入るよう提案した。
それから、禰豆子が目を覚ます。
そこで名前を聞こうとしたが、禰豆子はどうやら言葉が話せないようだった。
困ったところで名簿を見せる。
しかし、童女に漢字などわからないだろうと思ったが、不思議なことに竈門禰豆子という名前を指さした。
ひょっとすると見当違いの名前かもしれないが、ひとまず、しのと前園は彼女のことを禰豆子と呼ぶことにしたのだ。
そこから、禰豆子も目覚めたし、なにかを食べようかという話になったのだ。
そこからのしのは禰豆子に夢中だった。
「なんで竹筒なんて加えていたのかな? こんなにも可愛い顔が台無しだよ」
「………………恐らく」
「………………恐らく」
その当然の疑問に対して、前園は先程のにこやかな笑みを潜める。
同時に少し俯き、逆光に輝くメガネで瞳が見えなくなる。
同時に少し俯き、逆光に輝くメガネで瞳が見えなくなる。
「虐待でしょう」
「虐待……?」
「お仕置きと称して、禰豆子ちゃんに竹筒を加えさせる。
きっと、食事中の行儀が悪かったか、または食べてはいけないものを飲み込んでしまったからか……」
「そんな……」
「ひどいことです……その最中にあのBBなる人物に拉致されたのでしょう」
「虐待……?」
「お仕置きと称して、禰豆子ちゃんに竹筒を加えさせる。
きっと、食事中の行儀が悪かったか、または食べてはいけないものを飲み込んでしまったからか……」
「そんな……」
「ひどいことです……その最中にあのBBなる人物に拉致されたのでしょう」
前園の怒りは本物のように見えた。
もしも、これが演技ならば前園は十年でも二十年でも人を騙し通せるほどの役者だろう。
もしも、これが演技ならば前園は十年でも二十年でも人を騙し通せるほどの役者だろう。
「許されることじゃない……子供は、子供は自由に生きなければいけないっ!」
「前園さん……」
「禰豆子ちゃん」
「前園さん……」
「禰豆子ちゃん」
そう言って前園は禰豆子と視線を合わせるために膝を地面につけた。
優しげな笑みを浮かべて、禰豆子のまぁるい瞳と視線をまじ合わせる。
優しげな笑みを浮かべて、禰豆子のまぁるい瞳と視線をまじ合わせる。
「いっぱい食べなさい、私も愛月さんも叱りはしない。
ハンバーグ、ごちそうだよ?」
ハンバーグ、ごちそうだよ?」
「こうするんだよ、禰豆子ちゃん。
はい、いただきます」
はい、いただきます」
食材となった生命に感謝を込めて。
手と手を合わせて、いただきます。
禰豆子はしのの見よう見まねで手と手を合わせ、そして、ナイフとフォークを持つ。
そこにはハンバーグと刻まれたキャベツが乗っているだけの食事。
それでも、ソースのかかったハンバーグは非常に食欲をそそるものだった。
手と手を合わせて、いただきます。
禰豆子はしのの見よう見まねで手と手を合わせ、そして、ナイフとフォークを持つ。
そこにはハンバーグと刻まれたキャベツが乗っているだけの食事。
それでも、ソースのかかったハンバーグは非常に食欲をそそるものだった。
「いいんですかね、こんな時にこんなごちそう……」
「愛月さん、食べれる時に食べていてください。次はいつ食べれるかもわからないかもしれませんからね」
「あっ、そ、そうですね! えっと、前園さんは?」
「愛月さん、食べれる時に食べていてください。次はいつ食べれるかもわからないかもしれませんからね」
「あっ、そ、そうですね! えっと、前園さんは?」
その言葉に、前園さんは眼鏡のズレを直す。
そして、やはり笑顔でこちらを向いて答えた。
そして、やはり笑顔でこちらを向いて答えた。
「……私は、少し見回りした後に食べますよ。お先にどうぞ」
「でも、悪いですよ」
「いえいえ、それに愛月さんが食べないと禰豆子ちゃんも食べれませんよ」
「そ、そうですね! じゃあ、いただきます!」
「んっ!」
「でも、悪いですよ」
「いえいえ、それに愛月さんが食べないと禰豆子ちゃんも食べれませんよ」
「そ、そうですね! じゃあ、いただきます!」
「んっ!」
そう言って、しのはナイフをハンバーグに食い込ませる。
まるで豆腐のようにハンバーグは切れる。
なんて柔らかいお肉なんだろう。
ソースとは異なるお汁、すなわち肉汁がお皿に広がる。
ゴクリ、と思わず唾を飲んでしまう。
まるで豆腐のようにハンバーグは切れる。
なんて柔らかいお肉なんだろう。
ソースとは異なるお汁、すなわち肉汁がお皿に広がる。
ゴクリ、と思わず唾を飲んでしまう。
禰豆子もグー握りのまま、しのを真似でナイフを切り取る。
そんな微笑ましい様子と美味しそうな料理に囲まれて、場違いにも楽しい気持ちになってしまうしの。
罪悪感と同時に、じっとこちらを眺めてくる禰豆子に、自分が食べなければ禰豆子も食べないだろうということに気づく。
虐待という言葉がよぎる。
恐らく、親が食べるまで自分が食べることは許されなかったのだろう。
いたたまれない気持ちになりながら、しかし、気持ちを切り替えてフォークを切り分けたハンバーグに突き刺す。
同じように、グー握りのフォークで禰豆子がハンバーグにフォークを突き刺した。
そんな微笑ましい様子と美味しそうな料理に囲まれて、場違いにも楽しい気持ちになってしまうしの。
罪悪感と同時に、じっとこちらを眺めてくる禰豆子に、自分が食べなければ禰豆子も食べないだろうということに気づく。
虐待という言葉がよぎる。
恐らく、親が食べるまで自分が食べることは許されなかったのだろう。
いたたまれない気持ちになりながら、しかし、気持ちを切り替えてフォークを切り分けたハンバーグに突き刺す。
同じように、グー握りのフォークで禰豆子がハンバーグにフォークを突き刺した。
「はい、あーん……!」
しのがそのまま口元に肉を持っていくと、禰豆子もまたフォークを口元へと持っていく。
笑みを維持したまま、しのは。
笑みを維持したまま、しのは。
「パクリッ!」
その言葉と同時に、禰豆子と共に肉を口に含み、飲み込んだ。
「禰豆子ちゃん、美味し……………っ!?」
突然、しのはうずくまる。
突如として、本当に突如としか言い切れないタイミングで、しのは底知れない嫌悪感に襲われたのだ。
世界がゆがむ、視界が定まらない。
ハァハァ、と苦しさを整えるために荒い呼吸を繰り返すが、それは逆効果にしかならない。
息をすればするほど、酸素を取り入れれば取り入れるほどに苦しみが増す。
可憐な少女がするはずのない切迫した表情のまま、可憐な少女がするはずのない激しさで倒れ込んだ地面をのたうち回る。
突如として、本当に突如としか言い切れないタイミングで、しのは底知れない嫌悪感に襲われたのだ。
世界がゆがむ、視界が定まらない。
ハァハァ、と苦しさを整えるために荒い呼吸を繰り返すが、それは逆効果にしかならない。
息をすればするほど、酸素を取り入れれば取り入れるほどに苦しみが増す。
可憐な少女がするはずのない切迫した表情のまま、可憐な少女がするはずのない激しさで倒れ込んだ地面をのたうち回る。
「ふん、やっと食べたか」
そんな時だった。
前園が、先程までの爽やかな雰囲気など一切存在しない様子で、むしろ下卑た笑顔を浮かべながらしのの前に現れた。
そして、時計を見ながら、テーブルの上にある料理を見る。
その料理がしっかりと食べられていることを確認して、さらにその下品な笑みを深くした。
前園が、先程までの爽やかな雰囲気など一切存在しない様子で、むしろ下卑た笑顔を浮かべながらしのの前に現れた。
そして、時計を見ながら、テーブルの上にある料理を見る。
その料理がしっかりと食べられていることを確認して、さらにその下品な笑みを深くした。
「俺も食べないか、だと?
ハハッ、食べるわけないに決まってるじゃないか」
ハハッ、食べるわけないに決まってるじゃないか」
前園は嘲笑った。
嘲笑だというのに、どこか爽やかな笑みだった。
嘲笑だというのに、どこか爽やかな笑みだった。
「人肉のハンバーグだよ、こいつは。人間の俺がこんなものを食べられるわけがないだろう?
道徳や倫理は学校で習わなかったのかな?」
道徳や倫理は学校で習わなかったのかな?」
しのの顔が絶望に染まる。
人の肉を、食った。
体の苦しみと、心の苦しみが同時に襲いかかっているのだ。
人の肉を、食った。
体の苦しみと、心の苦しみが同時に襲いかかっているのだ。
「俺の信頼を勝ち取るために生かしておいても良かったが、女子供なんて所詮はお荷物だ。
同じお荷物ならお前ら二人のデイパックの方が担ぎたいからな」
同じお荷物ならお前ら二人のデイパックの方が担ぎたいからな」
前園はそう言った。
前園の支給品は人肉ハンバーグと青酸カリの毒殺セットで二枠が埋まっている。
青酸カリは強力な武器ではあるが、もっと多様性に優れた武器を欲するのは当然の思考だった。
前園の支給品は人肉ハンバーグと青酸カリの毒殺セットで二枠が埋まっている。
青酸カリは強力な武器ではあるが、もっと多様性に優れた武器を欲するのは当然の思考だった。
「銃、こいつが欲しかったんだよ」
そう、銃というしのに与えられた支給品を欲したのだ。
ベレッタM92、オーソドックスな拳銃だ。
より強力な武器を欲するのは、この殺し合いで生きるためには当然のことと言える。
ベレッタM92、オーソドックスな拳銃だ。
より強力な武器を欲するのは、この殺し合いで生きるためには当然のことと言える。
「じゃあな、そこでしっかり最後の一秒まで苦しむんだな」
その言葉と同時に、激しい音が響き、同時にしのは意識が散漫となった。
だから、気づかなかった。
だから、気づかなかった。
――――同じく毒入りの、『人肉ハンバーグ』を食べた禰豆子が、血走った目で立ち上がったことに。
.
◆
――――なんだ?
前園は目の前の出来事をうまく飲み込むことが出来ない。
前園がしのと禰豆子を殺すために使った毒薬は青酸カリ、シアン化カリウムだ。
致死量は300mg。
300gではない、300mgだ。
それをしっかりと濃いめのソースに混ぜて食べさせた。
独特の香りが感じただろうが、それでも食べたのだ。
それを目視で確認した。
前園がしのと禰豆子を殺すために使った毒薬は青酸カリ、シアン化カリウムだ。
致死量は300mg。
300gではない、300mgだ。
それをしっかりと濃いめのソースに混ぜて食べさせた。
独特の香りが感じただろうが、それでも食べたのだ。
それを目視で確認した。
「ぐるるるるぅ…………!!」
なのに、なぜ、この子供は生きて犬歯を向いている。
いや、犬歯なんて話ではない。
牙だ。
皮膚の上から肉を貪るために存在する牙が生えている。
退化した人間は持ちえない牙を生やしている。
いや、犬歯なんて話ではない。
牙だ。
皮膚の上から肉を貪るために存在する牙が生えている。
退化した人間は持ちえない牙を生やしている。
「なにが、起こっている……?」
それだけでは終わらない。
禰豆子の童女らしい短い手足が急激に長くなり、肉付きもよくなる。
対象的にその胴は絞られ、女性らしい凹凸が生まれる。
丸い顔は魅力的な細面に変化していく。
そう、童女から突然に成人女性へと成長したのだ。
起こるわけがない、謎すぎる現象。
禰豆子の童女らしい短い手足が急激に長くなり、肉付きもよくなる。
対象的にその胴は絞られ、女性らしい凹凸が生まれる。
丸い顔は魅力的な細面に変化していく。
そう、童女から突然に成人女性へと成長したのだ。
起こるわけがない、謎すぎる現象。
「この、化物めっ!」
しかし、それでも前園の反応は早かった。
二発。
パンパンと銃を撃ち、その銃弾は禰豆子の膝を的確に破壊する。
二発。
パンパンと銃を撃ち、その銃弾は禰豆子の膝を的確に破壊する。
「うぅっ!」
禰豆子はうめき声を上げるが、それだけだ。
長くなった二本の脚でしっかりとその大地を踏みしめている。
当然だ。
禰豆子は、『鬼』なのだ。
鬼には拳銃の銃弾を膝に食らった程度で倒れない。
鬼には毒などで死に至らない。
鬼は、生命体として人間を始めとする動物を大きく凌駕しているのだ。
まずい。
前園は死の予感を感じ取り、恥も外聞もなく銃を握りしめたまま、振り返って走り出す。
長くなった二本の脚でしっかりとその大地を踏みしめている。
当然だ。
禰豆子は、『鬼』なのだ。
鬼には拳銃の銃弾を膝に食らった程度で倒れない。
鬼には毒などで死に至らない。
鬼は、生命体として人間を始めとする動物を大きく凌駕しているのだ。
まずい。
前園は死の予感を感じ取り、恥も外聞もなく銃を握りしめたまま、振り返って走り出す。
「があぁぁぁっ!!!」
だが、『鬼』である禰豆子の方が段違いに速い。
『走る』のではなく、『跳んで』前園の前方へと降り立った。
傷が、消えている。
再生しているのだ。
そのまま前園はデイパックに手を突っ込み、何かを確かめることもなく、その掴んだ物体を禰豆子へと投げつけようとする。
だが、それよりも速く禰豆子は前園へとのしかかり、肩を抑えて体を固定させる。
『走る』のではなく、『跳んで』前園の前方へと降り立った。
傷が、消えている。
再生しているのだ。
そのまま前園はデイパックに手を突っ込み、何かを確かめることもなく、その掴んだ物体を禰豆子へと投げつけようとする。
だが、それよりも速く禰豆子は前園へとのしかかり、肩を抑えて体を固定させる。
「クソがっ!」
前園は完全に腕の動きを拘束される前に、破れかぶれといった様子でその握った冷たい鉄片らしきものを禰豆子の脚へと刺しつける。
銃で脚を破壊されても化物にこんなものが役に立つとは思えないが、それでもどうしても行ってしまう生理的な防衛反応だった。
銃で脚を破壊されても化物にこんなものが役に立つとは思えないが、それでもどうしても行ってしまう生理的な防衛反応だった。
「ぐぅぅぅぅ!!!」
前園の想定とは裏腹に、禰豆子は苦しげにうめき声を上げた。
効いている。
理由はわからないが、この鉄片、いや、苦無は化物に有効なようだ。
ならば、この苦無で仕留めようとするが。
効いている。
理由はわからないが、この鉄片、いや、苦無は化物に有効なようだ。
ならば、この苦無で仕留めようとするが。
「がああああああああああっ!!!」
ウォークライ、咆哮を上げる禰豆子に対してビクリと体が震える。
効いている、効いているが……どこまで効いているかがわからない。
この苦無は禰豆子を殺し得る獲物かもしれないが、同時に数秒だけ動きを止めるだけのものかもしれない。
前園はのしかかる禰豆子の腹部を思い切り蹴り上げる。
効いている、効いているが……どこまで効いているかがわからない。
この苦無は禰豆子を殺し得る獲物かもしれないが、同時に数秒だけ動きを止めるだけのものかもしれない。
前園はのしかかる禰豆子の腹部を思い切り蹴り上げる。
「ぅっ!」
禰豆子の体が僅かに浮き、弱まった拘束を振りほどいて逃げ出す。
ここは逃げるに限る。
眼の前の化物は、明らかに知性が低い。
自身の毒殺が漏れる可能性は低い。
ならば、この化物を殺し得る者――――例えば、ナノマシンによって異能を得た円城周兎のようなものと出会うしかない。
ここは逃げるに限る。
眼の前の化物は、明らかに知性が低い。
自身の毒殺が漏れる可能性は低い。
ならば、この化物を殺し得る者――――例えば、ナノマシンによって異能を得た円城周兎のようなものと出会うしかない。
「おっと……!」
だが、同時にデイパックを回収するのを忘れない。
自身のデイパック、しののデイパック、禰豆子のデイパック。
三つのデイパックを抱え、苦しんでいる禰豆子へと全力で遠ざかっていく。
前園甲士の立ち上がりは散々なものだった。
自身のデイパック、しののデイパック、禰豆子のデイパック。
三つのデイパックを抱え、苦しんでいる禰豆子へと全力で遠ざかっていく。
前園甲士の立ち上がりは散々なものだった。
「だが、俺は生き残る……自分の命よりも大事なものなんて存在しない……!」
眼鏡の奥で貪欲に欲望の炎を燃やしながら、前園は夜の闇の中を駆けていった。
◆
『駄目よ、禰豆子。それだけは駄目』
声がする。
朦朧とした、眠ったような意識の中で、はっきりと声がする。
朦朧とした、眠ったような意識の中で、はっきりと声がする。
『姉ちゃん、やめてくれよ。そんなことしないでくれよ』
声がする。
懐かしい、泣きたくなるような、泣きそうな声がする。
懐かしい、泣きたくなるような、泣きそうな声がする。
『やめてくれよ、姉ちゃん! お願いだよっ!』
『お姉ちゃん、それだけは食べちゃいけないよ!』
『お姉ちゃん、それだけは食べちゃいけないよ!』
声がする。
ああ、どこで聞いたのだっけ。
ああ、どこで聞いたのだっけ。
『お姉ちゃん、なんでも食べるから! もう、好き嫌いしないから、それは食べないでよぉ!』
声がする。
そうか、私は何かを食べていて、これは食べてはいけないものなのか。
そうか、私は何かを食べていて、これは食べてはいけないものなのか。
『……すまないな。気づかぬうちに、いつもいつも、お姉ちゃんだからと我慢を強いていたんだな』
声がする。
ああ、ああ、でもね。
ああ、ああ、でもね。
『でもね、それだけは駄目なんだよ……禰豆子』
――――こんな美味しいもの、初めて食べたんだ。
.
◆
苦しい。
痒い。
気持ち悪い。
しのはぼんやりとする気持ちを抱え込んだまま、そのまま嘔吐を続ける。
それはシアン化カリウムの
青白い顔のまま、一人の少年の顔が思い浮かんだ。
痒い。
気持ち悪い。
しのはぼんやりとする気持ちを抱え込んだまま、そのまま嘔吐を続ける。
それはシアン化カリウムの
青白い顔のまま、一人の少年の顔が思い浮かんだ。
「ミク……ちゃん……」
若殿ミクニ、大事な幼馴染。
ある時期から自分に対して冷たくなった、この世に三人だけの大事な大事な幼馴染。
それが、気づけば幼馴染というだけでは抱かない感情を抱くようになったのは何時だっただろうか。
愛している。
愛月しのは若殿ミクニに夢中なのだ。
恋をしていた。
二人で幸せになりたいと、そう願っていた。
だから、忘れたのだ。
幸せが壊れるのは、いつだって急のことなんだ。
でも、思えば共通点があった気がする。
幸せが壊れるときには、そうだ。
ある時期から自分に対して冷たくなった、この世に三人だけの大事な大事な幼馴染。
それが、気づけば幼馴染というだけでは抱かない感情を抱くようになったのは何時だっただろうか。
愛している。
愛月しのは若殿ミクニに夢中なのだ。
恋をしていた。
二人で幸せになりたいと、そう願っていた。
だから、忘れたのだ。
幸せが壊れるのは、いつだって急のことなんだ。
でも、思えば共通点があった気がする。
幸せが壊れるときには、そうだ。
「ぅぅぅるるる……」
獣のうめき声が聞こえる。
それが何なのかもわからない。
腹部になにかぼんやりとした感覚が走るが、それがなにかもわからない。
もはや、しのは痛みもわからないのだ。
だから、気づかない。
禰豆子が鬼になってしまったことも。
人肉の味を覚えてしまい、傷を追った禰豆子が我慢できなくなっていることも。
禰豆子が、自身を、食べていることにも気づかないのだ。
それが何なのかもわからない。
腹部になにかぼんやりとした感覚が走るが、それがなにかもわからない。
もはや、しのは痛みもわからないのだ。
だから、気づかない。
禰豆子が鬼になってしまったことも。
人肉の味を覚えてしまい、傷を追った禰豆子が我慢できなくなっていることも。
禰豆子が、自身を、食べていることにも気づかないのだ。
ああ、そうだ、幸せが壊れるときには何時だって。
「じゅるっ……ぅるるる……はむっ……んっ!」
――――血の匂いがするんだ。
【愛月しの@ラブデスター 死亡】
【C-1・民家/1日目・深夜】
【竈門禰豆子@鬼滅の刃】
[状態]:健康、鬼
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:不明。
1:眼前の肉を食べる。
[備考]
※人肉を食いました。
[状態]:健康、鬼
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:不明。
1:眼前の肉を食べる。
[備考]
※人肉を食いました。
【前園甲士@ナノハザード】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~6、ベレッタM92F@現実、青酸カリ@現実、
人肉ハンバーグ@仮面ライダーアマゾンズ、藤の花の毒付きの苦無@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:人を殺してでも生き残る。
1:この場から離れる。
2:人間よりも強い『超人』を利用して禰豆子と殺し合わせる。
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~6、ベレッタM92F@現実、青酸カリ@現実、
人肉ハンバーグ@仮面ライダーアマゾンズ、藤の花の毒付きの苦無@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:人を殺してでも生き残る。
1:この場から離れる。
2:人間よりも強い『超人』を利用して禰豆子と殺し合わせる。
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。
【支給品紹介】
【ベレッタM92F@現実】
愛月しのに支給された。
オーソドックスなスライド式の拳銃。
愛月しのに支給された。
オーソドックスなスライド式の拳銃。
【青酸カリ@現実】
前園甲士に支給された。
シアン化カリウム、猛毒。
致死量は150~300mgで摂取すれば十五分以内には死ぬ。
運が良ければ十五分ほどは持ちこたえる。
前園甲士に支給された。
シアン化カリウム、猛毒。
致死量は150~300mgで摂取すれば十五分以内には死ぬ。
運が良ければ十五分ほどは持ちこたえる。
【人肉ハンバーグ@仮面ライダーアマゾンズ】
前園甲士に支給された。
カニアマゾンが経営していたレストランで振る舞われていた人肉で作られたハンバーグ。
前園甲士に支給された。
カニアマゾンが経営していたレストランで振る舞われていた人肉で作られたハンバーグ。
【藤の花の毒付きの苦無@鬼滅の刃】
音柱・宇髄天元の嫁の一人である雛鶴が使用していた苦無。
鬼にとって唯一の毒である藤の花で作られた毒が塗られている。
この苦無を使うことで、鬼を殺すことは叶わずとも動きを制限することが出来る。
音柱・宇髄天元の嫁の一人である雛鶴が使用していた苦無。
鬼にとって唯一の毒である藤の花で作られた毒が塗られている。
この苦無を使うことで、鬼を殺すことは叶わずとも動きを制限することが出来る。
前話 | お名前 | 次話 |
Debut | 愛月しの | Eliminated |
Debut | 竈門禰豆子 | 禰豆子/業苦 |
Debut | 前園甲士 | FILE01「一大実験! 人喰い鬼 撃滅作戦」 |