劣等分の過負荷◆3nT5BAosPA
「たっ、大変だ! 病院に連れて行かないと!」
そう言った後で、上杉風太郎は自分がいかにこの場にそぐわない発言をしたのかに気が付いた。
現在彼が居る場所は砂漠だ──バトルロワイアルの最中の砂漠である。
そんな、人の死を回避するどころか、人の死が推奨されるような場所で『病院に連れて行かないと』と叫ぶとは……場違い極まりない。
しかし、殺し合いなどという非日常とは無縁な一般人である風太郎が、そんなことを言ってしまうのも仕方ないことなのかもしれなかった。
何せ、彼の視線の先に転がっているのは、全身が焼け焦げていて、五指は跡形もなく消えており、関節が妙な方向に折れ曲がっている人間なのだから。
明らかな重傷者だ。
風太郎がこんなペイシェントに遭遇するまでに、どんな経緯があったのだろうか? ──それを説明するには、時を数分前まで巻き戻す必要がある。
現在彼が居る場所は砂漠だ──バトルロワイアルの最中の砂漠である。
そんな、人の死を回避するどころか、人の死が推奨されるような場所で『病院に連れて行かないと』と叫ぶとは……場違い極まりない。
しかし、殺し合いなどという非日常とは無縁な一般人である風太郎が、そんなことを言ってしまうのも仕方ないことなのかもしれなかった。
何せ、彼の視線の先に転がっているのは、全身が焼け焦げていて、五指は跡形もなく消えており、関節が妙な方向に折れ曲がっている人間なのだから。
明らかな重傷者だ。
風太郎がこんなペイシェントに遭遇するまでに、どんな経緯があったのだろうか? ──それを説明するには、時を数分前まで巻き戻す必要がある。
BBチャンネルが終了し、風太郎の視界に再び映ったのは、見渡す限りの砂漠だった。人工的な建造物によって形成されている光景は、地平線付近にちょっぴり見えるくらいしかない。
とりあえず夜間で冷える砂漠から脱出し、人工物の温かみに触れようと歩きだした彼は、足を進めながら思考を巡らせた。
上杉風太郎は学業の方面で言えば、人よりも遥かに多くを知っている秀才である。しかし、そんな彼がどれだけ頭を捻っても、先ほど視界に映った悪趣味な番組がどのような原理で放送されたのか全く分からなかった。幻覚の類だと思いたくなったが、網膜に焼き付いている少女が爆死した瞬間の映像が、そんな現実逃避を許さない。
見ず知らずの環境に放り込まれ、スナッフフィルム宛らのグロテスクな映像を見せられ、殺し合いを強要されるという異常事態の連続で、流石にこれ以上驚かされることは無いだろうと思っていた彼だが、支給品にあった名簿を見た瞬間、その予想は儚く崩れ去ることになった。
とりあえず夜間で冷える砂漠から脱出し、人工物の温かみに触れようと歩きだした彼は、足を進めながら思考を巡らせた。
上杉風太郎は学業の方面で言えば、人よりも遥かに多くを知っている秀才である。しかし、そんな彼がどれだけ頭を捻っても、先ほど視界に映った悪趣味な番組がどのような原理で放送されたのか全く分からなかった。幻覚の類だと思いたくなったが、網膜に焼き付いている少女が爆死した瞬間の映像が、そんな現実逃避を許さない。
見ず知らずの環境に放り込まれ、スナッフフィルム宛らのグロテスクな映像を見せられ、殺し合いを強要されるという異常事態の連続で、流石にこれ以上驚かされることは無いだろうと思っていた彼だが、支給品にあった名簿を見た瞬間、その予想は儚く崩れ去ることになった。
「一花……二乃、三玖、四葉、それに五月……! なんであいつらまでここにいるんだ!?」
名簿に記されている自分の名前。その後ろには、彼がよく知る五つ子の名前がはっきりと書かれていた。見間違えるはずもない。風太郎は、これまで家庭教師の小テストやプリントの名前欄で、彼女たちの名前を何度も目にしてきたのだから。
まさかこんな状況においても『五人は常に一緒』の法則が適用されるとでも言うのか? このバトルロワイアルでは、最後のひとりしか生き残ることを許されないのに?
名簿という、言ってしまえば殺し合う相手の名前が書かれたリストに、よく知る相手の名前があったことで、これまでに無いくらいの動揺を見せる風太郎。
まさかこんな状況においても『五人は常に一緒』の法則が適用されるとでも言うのか? このバトルロワイアルでは、最後のひとりしか生き残ることを許されないのに?
名簿という、言ってしまえば殺し合う相手の名前が書かれたリストに、よく知る相手の名前があったことで、これまでに無いくらいの動揺を見せる風太郎。
──……いや、俺以上にあいつらの方が動揺しているはずだ。一花は長女として場の状況を把握できる目を持っている分、このバトルロワイアルの恐ろしさをより理解していそうだし、姉妹愛が人一倍強い二乃が、姉妹を巻き込んでの殺し合いにどう反応するかなんて見なくてもわかる。三玖は気が弱いからな……今頃一人で泣きそうになっているかもしれん。いくら元気が取り柄の四葉でも、こんな状況でも元気いっぱいな訳がない。五月のような真面目な奴は殺し合いなんて催しとは相性が最悪だ。
だったら。
──ここは俺がしっかりするしかないだろ……!
そんな使命感にも似た考えから、パニックになりそうな思考を正常に戻す風太郎。彼の頭にこの殺し合いから脱する算段は未だに無いが、彼はとりあえず知り合いである五つ子との合流を目的とすることに決めた。
名簿の他に入っていた地図を開くと、砂漠からそう遠くはない位置に、かつて風太郎が家庭教師として毎日のように通っていた、五人姉妹が住まうマンションと同名の建物が確認できた。
この島の何処かにいる彼女たちも地図を見ていれば、この建物に注目するのは間違いないだろう。他の姉妹がいる事を期待して、あるいはバトルロワイアルという非日常に紛れ込んだ日常の残滓を懐かしんで、訪れる者がいるかもしれない。ならば風太郎が、ここを目的地として動くのは十分にアリだ。
今後の予定が決定し、砂漠を踏み進める速度が上昇する。
次はBBが言っていたランダムアイテムの確認をしようかと、風太郎はリュックサックに手を突っ込んだ──その時になって、彼は視界の先で動く何かを発見した。
人影だ。人がいる。
その人物は黒い服を着ていて、夜の暗闇に溶け込んでいるので、風太郎はこれまでその存在に気づけなかったのだ。
黒服はその場でしゃがみこみ、支給されたリュックサックを漁っていた。
名簿の他に入っていた地図を開くと、砂漠からそう遠くはない位置に、かつて風太郎が家庭教師として毎日のように通っていた、五人姉妹が住まうマンションと同名の建物が確認できた。
この島の何処かにいる彼女たちも地図を見ていれば、この建物に注目するのは間違いないだろう。他の姉妹がいる事を期待して、あるいはバトルロワイアルという非日常に紛れ込んだ日常の残滓を懐かしんで、訪れる者がいるかもしれない。ならば風太郎が、ここを目的地として動くのは十分にアリだ。
今後の予定が決定し、砂漠を踏み進める速度が上昇する。
次はBBが言っていたランダムアイテムの確認をしようかと、風太郎はリュックサックに手を突っ込んだ──その時になって、彼は視界の先で動く何かを発見した。
人影だ。人がいる。
その人物は黒い服を着ていて、夜の暗闇に溶け込んでいるので、風太郎はこれまでその存在に気づけなかったのだ。
黒服はその場でしゃがみこみ、支給されたリュックサックを漁っていた。
「…………」
閉じていた口を更に閉め、息を殺す。こんな場所で会う人間など、殺し合いの参加者以外にあり得まい。体格を見たところ、風太郎と同年代の男子らしい。尋ね人である五つ子の誰かという可能性もなかった。
黒服と風太郎の距離はかなりあるし、向こうが風太郎に気づいた様子も見られない。だが用心に越したことは無いだろう。風太郎はその場から一歩、二歩と後退し、黒服から距離をあけた。相手が銃のような遠距離の武器を持っていたらこの程度の距離は意味がないが、離れないよりはマシである。
彼が十歩目の後退をした、その瞬間──
彼が十歩目の後退をした、その瞬間──
「あれ? ……手元が、光っ──?」
──閃光。轟音。衝撃。
リュックサックを漁っていた黒服の手元が光った途端、そこを中心として大きな爆発が起きた。
砂漠の砂が吹き飛ばされ、クレーターを形成する。
風太郎は爆発の直撃こそ受けなかったものの、尻餅をつくように倒れた。
リュックサックを漁っていた黒服の手元が光った途端、そこを中心として大きな爆発が起きた。
砂漠の砂が吹き飛ばされ、クレーターを形成する。
風太郎は爆発の直撃こそ受けなかったものの、尻餅をつくように倒れた。
──なんで急に爆発が? あいつの首輪が作動したのか? いや、それにしては放送より威力が強すぎるだろ。オーバーキルってレベルじゃねえ!
まともに受けてしまえば首どころか全身にダメージが及ぶに違いない爆発を見て、腰を抜かす風太郎。
爆発から少し遅れて、ひゅるるる、ずどん、と何かが砂上に落下する音がした。すぐ傍から聞こえた音だ。
目を向けるとそこには人間の体があった。
全身が焼け焦げていて、五指は跡形もなく消えており、関節が妙な方向に折れ曲がっている、重傷の体だった。
時系列は今に戻る。
どう考えても爆発でここまで飛んできた黒服の成れの果てである重傷者を目にして、場にそぐわない発言をしてしまった風太郎は、焦げ臭い臭いがするそれから、微かに呼吸音が聞こえることに気が付いた。
よく見てみると、黒服の首輪は爆発しておらず、頭と胴体はくっついたままである。
爆発から少し遅れて、ひゅるるる、ずどん、と何かが砂上に落下する音がした。すぐ傍から聞こえた音だ。
目を向けるとそこには人間の体があった。
全身が焼け焦げていて、五指は跡形もなく消えており、関節が妙な方向に折れ曲がっている、重傷の体だった。
時系列は今に戻る。
どう考えても爆発でここまで飛んできた黒服の成れの果てである重傷者を目にして、場にそぐわない発言をしてしまった風太郎は、焦げ臭い臭いがするそれから、微かに呼吸音が聞こえることに気が付いた。
よく見てみると、黒服の首輪は爆発しておらず、頭と胴体はくっついたままである。
──じゃあ、さっきの爆発は何だったんだ?
首を傾げる風太郎。ついでによく観察してみれば、男が来ている黒服は学ランだった。やはり、風太郎と同年代なのだろうか。
見た目から即死していてもおかしくないが、呼吸音から考えるに、どうやら彼はまだ生きているらしい。もっとも、たとえ生きているとしても、これだけの怪我を負ってしまっては、あと数分も持たないように思われるが。
目の前で消えようとしている命に何もできないことに、風太郎は無力感を抱く。
しかしその時、彼の鼓膜に声が響いた。
それは、学ランの男の方から聞こえた声だった。
見た目から即死していてもおかしくないが、呼吸音から考えるに、どうやら彼はまだ生きているらしい。もっとも、たとえ生きているとしても、これだけの怪我を負ってしまっては、あと数分も持たないように思われるが。
目の前で消えようとしている命に何もできないことに、風太郎は無力感を抱く。
しかしその時、彼の鼓膜に声が響いた。
それは、学ランの男の方から聞こえた声だった。
『「大嘘憑き(オールフィクション)」』
風太郎の鼓膜が受けた振動が電気信号に変換され、脳の聴覚野に届いた頃にはすべてが終わっていた。
いや。
すべてが『戻って』いた。
いや。
すべてが『戻って』いた。
「嘘、だろ……?」
バトルロワイアルに参加させられたと知った時以上に、参加者に五つ子たちがいると把握した時以上に、そして目の前で爆発が起きた時以上に、風太郎は動揺する。
そんなリアクションをとってしまうのも、仕方あるまい。何せ、彼の目の前で死体同然の姿を晒していた学ランの男が、一瞬のうちに傷一つない健康体になっていたのだから。
まるで、先ほどの惨状が嘘だったかのような戻り方だ。
そんなリアクションをとってしまうのも、仕方あるまい。何せ、彼の目の前で死体同然の姿を晒していた学ランの男が、一瞬のうちに傷一つない健康体になっていたのだから。
まるで、先ほどの惨状が嘘だったかのような戻り方だ。
『嘘じゃないよ。大嘘さ──爆発で負ったダメージを、なかったことにした』
嘘っぽくて作りものみたいな口調で、学ランの男は──球磨川禊は、起き上がりながらそう言った。
X X X X X
『あはははは、まさか支給されたアイテムの中に爆弾があって、鞄を漁っている最中にうっかり起爆させてしまったとはね』
自分が死にかけた経緯をへらへら笑いながら説明する球磨川に、風太郎は頬を引きつらせた。
二人は今、風太郎の当初の目的地であった砂漠沿いの住宅地に向かって並んで歩いている。
二人は今、風太郎の当初の目的地であった砂漠沿いの住宅地に向かって並んで歩いている。
『あんな危険アイテムを支給品として渡すなんて、どうやらBBちゃんは相当性格が悪いらしい。安心院さんほどじゃあないけどね』
「俺にはそんな危険アイテムをうっかりで起爆できるお前が危険人物のように思えるが……とんだ災難だったな」
『本当に災難だったよ。まあ、そのおかげで僕は心配して駆けつけてくれるほどに親切な上杉くんと衝撃的な出会いを果たせたんだけどさ』
「俺にはそんな危険アイテムをうっかりで起爆できるお前が危険人物のように思えるが……とんだ災難だったな」
『本当に災難だったよ。まあ、そのおかげで僕は心配して駆けつけてくれるほどに親切な上杉くんと衝撃的な出会いを果たせたんだけどさ』
衝撃的って。
文字通りの意味だな。
そう考えながら、風太郎は横を歩く球磨川に目を向ける。
目を向けたくないが、『向けなければ』という意志を持って、無理矢理に目を向ける──そうでもしないと目を逸らしてしまいそうなほどに、球磨川の存在は醜悪だった。
別に、容姿が醜いというわけではない。普通の顔だ。寧ろ、球磨川と風太郎で容姿を比べれば、目つきが悪い風太郎の方が低評価を受けそうだ。
しかし、それでも球磨川に対して汚泥を捏ねて作り上げた人形を見るような不快感を抱いてしまうのは事実だった。まだ原型が残っていなかった分、先ほどの死にかけの状態の方が見るに堪えられたくらいである。
文字通りの意味だな。
そう考えながら、風太郎は横を歩く球磨川に目を向ける。
目を向けたくないが、『向けなければ』という意志を持って、無理矢理に目を向ける──そうでもしないと目を逸らしてしまいそうなほどに、球磨川の存在は醜悪だった。
別に、容姿が醜いというわけではない。普通の顔だ。寧ろ、球磨川と風太郎で容姿を比べれば、目つきが悪い風太郎の方が低評価を受けそうだ。
しかし、それでも球磨川に対して汚泥を捏ねて作り上げた人形を見るような不快感を抱いてしまうのは事実だった。まだ原型が残っていなかった分、先ほどの死にかけの状態の方が見るに堪えられたくらいである。
──こんな状況で疑心暗鬼になっているから、そう思ってしまうのか?
心中に渦巻いているマイナスな感情をそう分析しつつ、風太郎は球磨川を観察した。
黒い学ランを更に黒く焦がしていた火傷は消え失せ、吹き飛んでいた五指は綺麗に生え揃っており、妙な方向に折れ曲がっていた関節も生物学的に正しい曲がり方に戻っている。薄皮一枚から髪の毛一本に至るまで、損傷らしい損傷は残っていない。重傷から程遠い肉体だ。
黒い学ランを更に黒く焦がしていた火傷は消え失せ、吹き飛んでいた五指は綺麗に生え揃っており、妙な方向に折れ曲がっていた関節も生物学的に正しい曲がり方に戻っている。薄皮一枚から髪の毛一本に至るまで、損傷らしい損傷は残っていない。重傷から程遠い肉体だ。
「なあ球磨川、単刀直入に聞かせてもらうけど、お前がさっき言った『大嘘憑き(オールフィクション)』って何なんだ? 俺にはそれが怪我を回復させるキーワードだったように思えたが」
戦いの場において自分の手の内をそう簡単に教えてくれないことは重々承知した上でそう質問した風太郎だが、球磨川は隠すそぶりも見せずに答えた。
『僕が持ってる能力の名前だね。「大嘘憑き(オールフィクション)」──「現実(すべて)を虚構(なかったこと)にする」スキルだよ。回復(ヒール)よりは消去(リセット)の方が概念的に近いかな』
「……?」
「……?」
言っている意味が分からない。いや、意味自体なら分かる。すべてをなかったことにする能力で、爆発のダメージをなかったことにした。実に分かりやすい使い方だ。だが、そんな能力を持っている人間がいるのか? 信じがたい能力だが、目の前で実演された以上、信じるしかなかった。
「……ここに来てから非現実的なものを目撃しっぱなしだな。これまで学んできた人類の叡智を疑いそうになってきたぜ」
『知らないのも無理はないさ。僕らがいるインフレ上等シュール系能力バトルの世界とは無縁って感じだもんねえ、上杉くんは』
「それにしても『すべてをなかったことにする』か……それが本当なら、死を『なかったこと』にして、死人を蘇らせることも出来るのか?」
『知らないのも無理はないさ。僕らがいるインフレ上等シュール系能力バトルの世界とは無縁って感じだもんねえ、上杉くんは』
「それにしても『すべてをなかったことにする』か……それが本当なら、死を『なかったこと』にして、死人を蘇らせることも出来るのか?」
BBチャンネル中で爆死した少女と、そしてこれからのバトルロワイアルで生まれるであろう死人のことを思いながら、風太郎は言った。
しかし、球磨川は残念そうに首を横に振った。
しかし、球磨川は残念そうに首を横に振った。
『さっき「大嘘憑き(オールフィクション)」と言ったけど、実は今の僕が使っているスキルはそれっぽい紛い物でね、正確には「劣化大嘘憑き(マイナスオールフィクション)」というんだ。これが「強い思いが込められたもの」はなかったことにできないという制限がかかっているスキルでさあ……どうやらそういう脆弱性を、BBちゃんから突かれたらしい。今では元からあった制限以外にも色々とロックがかかっているよ』
「だから死を『なかったこと』にはできないと」
『そういうことだね。ついでに言うと、「このバトルロワイアル自体をなかったこと」にもできない』
「試してみたのか?」
『試してはいないよ。だけど、僕のスキルなんだし、かかっている制限は僕自身がよく分かっているのさ』
「だから死を『なかったこと』にはできないと」
『そういうことだね。ついでに言うと、「このバトルロワイアル自体をなかったこと」にもできない』
「試してみたのか?」
『試してはいないよ。だけど、僕のスキルなんだし、かかっている制限は僕自身がよく分かっているのさ』
そういうものなのだろうか。スキルを持っていないどころか、その存在すら知らなかった風太郎には分からない感覚だ。
『ともあれ、支給品の中に僕が愛用している螺子があったのは喜ばしいね。まったく、僕に対して不親切なのか親切なのか……そういうところも含めて安心院さんみたいだぜ』
球磨川はどこからともなく螺子を取り出した。それも、普通の螺子ではない。片手全体を使ってようやく掴めるくらいに大きいサイズをしている螺子である。服の中に仕舞えるような大きさではない。いったい、どこから取り出したのだろうか。
『螺子がない僕なんて『スタープラチナがない空条承太郎』や『銃を持っていない冴羽獠』みたいなものだからね。支給されていて助かったよ』
「もしかして、それで戦うのか?」
『え? そうだけど?』
「……………」
『あっ、そうそう、支給品と言えばあと一つランダムアイテムを確認し忘れていたんだよね。ついでだし、今確認しちゃおうか』
「……また爆弾だったってオチは勘弁してくれよ?」
『あははは、流石にそんな展開はないって』
「もしかして、それで戦うのか?」
『え? そうだけど?』
「……………」
『あっ、そうそう、支給品と言えばあと一つランダムアイテムを確認し忘れていたんだよね。ついでだし、今確認しちゃおうか』
「……また爆弾だったってオチは勘弁してくれよ?」
『あははは、流石にそんな展開はないって』
そんな展開があり得るのが、球磨川という幸運とは真逆の概念が学ランを着た男なのだが……それはさておき。
歩きながら鞄を開き、中身を確認した球磨川であったが、幸いなことに、彼の第三のランダムアイテムが第二の爆弾だったという最悪の展開はなかった。
歩きながら鞄を開き、中身を確認した球磨川であったが、幸いなことに、彼の第三のランダムアイテムが第二の爆弾だったという最悪の展開はなかった。
『んー? 刀?』
「の柄と鍔だけだな。刃はない」
「の柄と鍔だけだな。刃はない」
奇妙な物体を取り出した球磨川。その時、一緒に紙片が鞄から落ちた。気づいた風太郎が拾って見てみると、それは説明書だった。
「『誠刀・銓──誠実さに主眼を置いて作られた刀であり、人を斬るのではなく、持ち主の価値を測る』……らしい。これにそう書いてある。どこまで本当かは分からないけどな」
『へー、そうなん』
『へー、そうなん』
だ。
と言った瞬間、誠刀は、木っ端微塵に砕け散った。球磨川が力を込めた様子はない。勝手に壊れたのだ。まるで、持ち主が有する不誠実の重みに耐えきれなくなった刀が自殺したかのようだった。
と言った瞬間、誠刀は、木っ端微塵に砕け散った。球磨川が力を込めた様子はない。勝手に壊れたのだ。まるで、持ち主が有する不誠実の重みに耐えきれなくなった刀が自殺したかのようだった。
『そういえば上杉くんはこの後の予定ってある?』
何事もなかったかのように球磨川は話題を変えた。
まるで、放課後のスケジュールを尋ねる同級生みたいに気軽な言い方だった。
まるで、放課後のスケジュールを尋ねる同級生みたいに気軽な言い方だった。
「地図にPENTAGONって建物があるだろ? ひとまずはそこを目指してみようかと思っている」
そう答える風太郎だったが、一時間にも満たない砂漠横断ですら疲労を訴えてきている自分の足が、はたして目的地までもつか不安になっていた。
「球磨川。そう言うお前はどうなんだ?」
『残念ながら上杉くんとは別れることになっちゃうね。僕は真逆の方向に目的地があるんだ』
「ん? そうなのか」
『残念ながら上杉くんとは別れることになっちゃうね。僕は真逆の方向に目的地があるんだ』
「ん? そうなのか」
目的地どころか目的を持って生きているのかすら怪しい言動をしている球磨川がそんなことを言ったので、風太郎は彼が何処に向かうのか気になった。
だから質問した。何処に行くのかを。
球磨川は次のように答えた。
だから質問した。何処に行くのかを。
球磨川は次のように答えた。
『病院に行くのさ。箱庭総合病院へ──僕が勝ちたくて勝ちたくてたまらない相手と、僕のかわいいかわいい後輩が行く可能性は、そこが一番高いからね』
【C-8・砂漠/1日目・深夜】
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]:健康、『劣化大嘘憑き』に制限
[装備]:螺子@めだかボックス×たくさん
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:自由気まま好き勝手に動く。
1:『めだかちゃんたちに会いたいな』
2:病院を目指す。
[備考]
※『劣化大嘘憑き』獲得後からの参戦。
[状態]:健康、『劣化大嘘憑き』に制限
[装備]:螺子@めだかボックス×たくさん
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:自由気まま好き勝手に動く。
1:『めだかちゃんたちに会いたいな』
2:病院を目指す。
[備考]
※『劣化大嘘憑き』獲得後からの参戦。
【上杉風太郎@五等分の花嫁】
[状態]:健康、球磨川禊に形容しがたい不快感
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出、生還。
1:一花、二乃、三玖、四葉、五月との合流。
2:PENTAGONを目指す。
[備考]
[状態]:健康、球磨川禊に形容しがたい不快感
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出、生還。
1:一花、二乃、三玖、四葉、五月との合流。
2:PENTAGONを目指す。
[備考]
爆弾@ラブデスター
皇城ジウが神居クロオの殺害に使用した爆弾。スイッチ式なので、間違えて押すと本作のような展開になる。
皇城ジウが神居クロオの殺害に使用した爆弾。スイッチ式なので、間違えて押すと本作のような展開になる。
螺子@めだかボックス
球磨川禊のメインウェポン。これをもって対戦相手を螺子伏せる。
球磨川禊のメインウェポン。これをもって対戦相手を螺子伏せる。
誠刀・銓@刀語
誠実さに主眼を置いて作られた刀。人ではなく、持ち主の価値を測る。戦闘には役に立たない。木っ端微塵に砕け散った破片が砂漠に置き去りにされている。
誠実さに主眼を置いて作られた刀。人ではなく、持ち主の価値を測る。戦闘には役に立たない。木っ端微塵に砕け散った破片が砂漠に置き去りにされている。
前話 | お名前 | 次話 |
Debut | 球磨川禊 | たりないふたり |
Debut | 上杉風太郎 |