あらがうものたち ◆Mti19lYchg
1.
鬼であり、修羅である猗窩座。
人であり、虎である宮本武蔵。
二人の戦いは終局を迎えようとしていた。
人であり、虎である宮本武蔵。
二人の戦いは終局を迎えようとしていた。
今まで左構えだった猗窩座は、逆に左足を前に出し、左掌を突き出し、右拳を腰に沿えた。
猗窩座の足元には、雪の結晶の様な図が浮かび上がっている。
相手の闘気の方向、位置、強弱をレーダーのように読み取る、猗窩座の攻防一致の戦いを支える血鬼術。
猗窩座の足元には、雪の結晶の様な図が浮かび上がっている。
相手の闘気の方向、位置、強弱をレーダーのように読み取る、猗窩座の攻防一致の戦いを支える血鬼術。
――破壊殺・羅針
対する武蔵。元からある刃こぼれだらけの刀は右手に構え、永井圭より渡された刀を左手に持つ。
その刀は鍔が無く、熱したように赤い刀身をしている。鍔元から上には"悪鬼滅殺"の文字が刻まれている。
その刀は鍔が無く、熱したように赤い刀身をしている。鍔元から上には"悪鬼滅殺"の文字が刻まれている。
「まさかこの場で、杏寿郎の日輪刀を拝めるとはな。天命、と呼ぶにはいささか出来すぎだな!
その刀の持ち主、煉獄杏寿郎は俺の全力を受け切れなかったが、武蔵、貴様はどうかな!?」
その刀の持ち主、煉獄杏寿郎は俺の全力を受け切れなかったが、武蔵、貴様はどうかな!?」
武蔵は左の刀を垂直に立て、右の刀を真一文字にし、切っ先を組み合わせ、両刀で十字の形を作り構える。『円極の構え』である。
全身のつま先から刀の切っ先まで闘気を満たし、猗窩座の放つ技を迎え撃たんとする。
全身のつま先から刀の切っ先まで闘気を満たし、猗窩座の放つ技を迎え撃たんとする。
――観えるか、武蔵。見切れるか、技の『起こり』。
『起こり』とは、技を打つ前の予備動作、予兆のことを指す。
本来なら、このようなわかりやすい突きの構えなど、肩の、肘の、足の動きで簡単に『起こり』を読める。
だが、猗窩座の武は尋常ではない。武蔵がその孤剣で最重要視する『拍子』を読ませない一撃を放つやもしれない。
本来なら、このようなわかりやすい突きの構えなど、肩の、肘の、足の動きで簡単に『起こり』を読める。
だが、猗窩座の武は尋常ではない。武蔵がその孤剣で最重要視する『拍子』を読ませない一撃を放つやもしれない。
――相打ちではいかん。相打ちでは。
相打ちなら狙えるし出来るだろう。だが成功したとしても、あくまで人の武蔵は死に、鬼の猗窩座は生き残る。それでは意味がない。
――狙うは『後の先』。打つは一点。己の剣を信じよ、武蔵!
攻めの気を発する猗窩座。それを受け止める武蔵。
互いの意識、時間の感覚は極限まで引き延ばされ、一瞬が一刻にも二刻にも思える。
何時までこの状況は続くのか。互いに不明な中、猗窩座の『羅針』に微かな揺れが生じた。
ほんの僅かだが武蔵の『闘気』が緩んだ。そう見た瞬間、猗窩座は、武蔵に向かい爆発するように『跳んだ』。
互いの意識、時間の感覚は極限まで引き延ばされ、一瞬が一刻にも二刻にも思える。
何時までこの状況は続くのか。互いに不明な中、猗窩座の『羅針』に微かな揺れが生じた。
ほんの僅かだが武蔵の『闘気』が緩んだ。そう見た瞬間、猗窩座は、武蔵に向かい爆発するように『跳んだ』。
抜重によって落ちる勢いを、後ろ足の踵で受け止め、前足の膝の力を抜くことで全身を急加速。
深層筋である大腰筋、小腰筋を使って後ろ足を引き抜き、前足に腸骨筋の力を載せてさらに加速させ、不可視の域へ。
勢いを殺さず武蔵の間合いに入り、地面を砕く踏み込みで、重量を数倍に増やす。
増えた重量を余さず踵から腿、腰、背中、胸、肩、肘、手首に伝えつつ、流れる重量に合わせ筋力を連動させ、拳を大砲の如く弾き出す。
深層筋である大腰筋、小腰筋を使って後ろ足を引き抜き、前足に腸骨筋の力を載せてさらに加速させ、不可視の域へ。
勢いを殺さず武蔵の間合いに入り、地面を砕く踏み込みで、重量を数倍に増やす。
増えた重量を余さず踵から腿、腰、背中、胸、肩、肘、手首に伝えつつ、流れる重量に合わせ筋力を連動させ、拳を大砲の如く弾き出す。
ただの順突きが、鬼の膂力を持ちながらも、それに奢らず数百年の武功を積んだ猗窩座が放てば、それは必滅の刃と化す。
――破壊殺・滅式!
2.
永井圭にとって、その攻防はほんの数秒の出来事でしかなかった。
武蔵に向かい刀を投げ、武蔵はそれを受け取った。
日本の刀を十字に組み合わせたその数秒後に、猗窩座が突進した。
二人の衝突で、猛烈な爆音が鳴り、土煙が上がる。
数秒後、圭が見えてきた光景は。
武蔵に向かい刀を投げ、武蔵はそれを受け取った。
日本の刀を十字に組み合わせたその数秒後に、猗窩座が突進した。
二人の衝突で、猛烈な爆音が鳴り、土煙が上がる。
数秒後、圭が見えてきた光景は。
突きを武蔵に放ったまま、静止している猗窩座。
両刀を降ろしたまま、やはり静止している武蔵。
ただ、武蔵は後ろに三間以上、地面を削り後ずさっている。
その理由は――武蔵は、猗窩座の滅式に、腕が伸び切る寸前、両刀を叩き付け、撃ち落としたのだ。
鬼の牙に、虎の牙を食い込ませ、止めていた。
両刀を降ろしたまま、やはり静止している武蔵。
ただ、武蔵は後ろに三間以上、地面を削り後ずさっている。
その理由は――武蔵は、猗窩座の滅式に、腕が伸び切る寸前、両刀を叩き付け、撃ち落としたのだ。
鬼の牙に、虎の牙を食い込ませ、止めていた。
「……素晴らしい」
猗窩座が万感の意を込めて呟いた。
「素晴らしいぞ、武蔵! 俺の絶式を撃ち落とすという着想と胆力!
威力が乗り切らず、尚且つ拳の軌道を変えられない瞬間、その刹那の拍子を捕らえる機眼!
針の穴を通す正確無比な太刀筋! 正しく神技!」
猗窩座が万感の意を込めて呟いた。
「素晴らしいぞ、武蔵! 俺の絶式を撃ち落とすという着想と胆力!
威力が乗り切らず、尚且つ拳の軌道を変えられない瞬間、その刹那の拍子を捕らえる機眼!
針の穴を通す正確無比な太刀筋! 正しく神技!」
「――恐悦!」
武蔵は返答しながら、左の刀で猗窩座の腕を押さえ、右の刀を外し、猗窩座の首に向けて横に薙ぐ。
武蔵は返答しながら、左の刀で猗窩座の腕を押さえ、右の刀を外し、猗窩座の首に向けて横に薙ぐ。
武蔵もまた、猗窩座の武に感嘆していた。
あの突きは、鬼の膂力に頼ったものではない。力の入れ具合、抜き方、踏み込み。
全身の動きが完全に突きの一点のみに連動したがゆえの絶技。
人に仇名す鬼とはいえ、目の前の相手は拳術に全てを捧げ尽くした男だ。同じ兵法者としてある種の共感さえ覚える。
あの突きは、鬼の膂力に頼ったものではない。力の入れ具合、抜き方、踏み込み。
全身の動きが完全に突きの一点のみに連動したがゆえの絶技。
人に仇名す鬼とはいえ、目の前の相手は拳術に全てを捧げ尽くした男だ。同じ兵法者としてある種の共感さえ覚える。
故に敬意を払って、首を落とす!
猗窩座は刃こぼれした日輪刀が頸部に斬り込まれた瞬間、歯を食いしばり、膨らんだ首の筋肉で刀を締め付け、さらに左手で掴み止めていた。
――首の切断を防ぐは、死を恐れるが故。
武蔵は確信した。この鬼は、猗窩座は頭を射抜かれても首を断たれても死ななかった、あの不死身の鬼どもとは違う。
猗窩座が日輪刀と呼んだこの刀で、首を断てば死ぬのだ。
猗窩座が日輪刀と呼んだこの刀で、首を断てば死ぬのだ。
「オオオオオオ!!」
猗窩座が吼える。刀に銜え込まれた右手を外そうとし、左手と首の筋肉で頭を断たんとする日輪刀を押さえる。
猗窩座が吼える。刀に銜え込まれた右手を外そうとし、左手と首の筋肉で頭を断たんとする日輪刀を押さえる。
「ぬおおおお!!」
武蔵もまた、吼える。左の刀で猗窩座の腕を押さえつつ、首に食い込んだ右の刀で押し斬らんとする。
ここを逃せば最早勝機は無い。
徐々に、だが確実に日輪等が猗窩座の首を押し斬っている。
武蔵もまた、吼える。左の刀で猗窩座の腕を押さえつつ、首に食い込んだ右の刀で押し斬らんとする。
ここを逃せば最早勝機は無い。
徐々に、だが確実に日輪等が猗窩座の首を押し斬っている。
猗窩座は右手から刀を外そうと試みる。
だが、外れない。どんなに力を入れても、押しても引いても、まるで縫い止められ、一体化したかのように刀が動かない。
だが、外れない。どんなに力を入れても、押しても引いても、まるで縫い止められ、一体化したかのように刀が動かない。
武蔵は猗窩座の加える力に合わせ、武蔵が力で受け、あるいは力を抜いて流し、動きを制御している。
それは中国拳法でいう『聴勁』。あるいは馬庭念流でいう『即位付』に似ていた。
練った米で作った糊が粘りつくが如く、外観からは見えない動きで、武蔵の剣が猗窩座の右腕を止めている。
左腕の柔、右腕の剛。虎の力に人の技。その完全な融合。
常の猗窩座なら賞賛していただろうが、最早その余裕はない。
同じく、見た目ほど武蔵に余裕はない。疲労、負傷ともに限界に近い。頚骨を切断できるか怪しい。
二人とも焦る中、圭が二人が組み合う中に走ってきた。
それは中国拳法でいう『聴勁』。あるいは馬庭念流でいう『即位付』に似ていた。
練った米で作った糊が粘りつくが如く、外観からは見えない動きで、武蔵の剣が猗窩座の右腕を止めている。
左腕の柔、右腕の剛。虎の力に人の技。その完全な融合。
常の猗窩座なら賞賛していただろうが、最早その余裕はない。
同じく、見た目ほど武蔵に余裕はない。疲労、負傷ともに限界に近い。頚骨を切断できるか怪しい。
二人とも焦る中、圭が二人が組み合う中に走ってきた。
――この状況なら猗窩座の首を落とすのに、刀を押すくらいなら出来る。
「オオォオァッ!!」
迫る圭を見た猗窩座はなりふり構わず右手を暴れさせ絶叫し、遂に骨を削り刀から右腕を外すことに成功。頚骨まで迫らんとしていた刀の側面を打ち、へし折った。
そこまで焦った理由は圭が理由ではない。圭が迫ってきた東の方向を見、空が白みがかっている事に気づいたからだ。
もう日の出が近い、限界だ! 武蔵を殺す時間はない!
迫る圭を見た猗窩座はなりふり構わず右手を暴れさせ絶叫し、遂に骨を削り刀から右腕を外すことに成功。頚骨まで迫らんとしていた刀の側面を打ち、へし折った。
そこまで焦った理由は圭が理由ではない。圭が迫ってきた東の方向を見、空が白みがかっている事に気づいたからだ。
もう日の出が近い、限界だ! 武蔵を殺す時間はない!
「白銀、退け!!」
叫ぶと同時に、猗窩座は武蔵より全速力で離れた。
武蔵は大きく息をつくと、膝をついた。追う気力も無い程に限界だった。
それが二人の決着だった。
叫ぶと同時に、猗窩座は武蔵より全速力で離れた。
武蔵は大きく息をつくと、膝をついた。追う気力も無い程に限界だった。
それが二人の決着だった。
3.
善吉と白銀の戦いは、先程とは逆に、善吉が一方的に攻めていた。
攻めなければ逆に追い込まれる。そう善吉が判断したからだ。
攻めなければ逆に追い込まれる。そう善吉が判断したからだ。
膝へ踏みつけるようなローキックで動きを止め、そのまま胴へ突き蹴り。
白銀が呻いた瞬間、足を降ろさずに顎へのつま先蹴り。
さらに放たれる回し蹴りを白銀は防御とも呼べない、腕で顔をただ覆って防ごうとする。
それでも鬼の膂力なら止められるが、善吉は防がれた足の踵を伸ばし、つま先を白銀の頭に突き刺した。
白銀が呻いた瞬間、足を降ろさずに顎へのつま先蹴り。
さらに放たれる回し蹴りを白銀は防御とも呼べない、腕で顔をただ覆って防ごうとする。
それでも鬼の膂力なら止められるが、善吉は防がれた足の踵を伸ばし、つま先を白銀の頭に突き刺した。
先程は戦いを知らないが故に圧倒していた白銀は、今度は知らないが故に不利に立たされていた。
攻撃の仕方を知らないという事は、防御の方法も知らないという事。
天性、何の格闘技も学ばず喧嘩の強い人物は存在するが、そのほぼ全ては攻撃の当て感に優れた者であって、防御は頑健さに頼ったものだ。
防御にはどうしても攻撃に応じた経験と訓練が必須なのだ。
白銀は簡単なフェイントにも引っかかり、上段、下段につま先からかかとまでを使った流れるような連続攻撃にまるで対応できなかった。
攻撃の仕方を知らないという事は、防御の方法も知らないという事。
天性、何の格闘技も学ばず喧嘩の強い人物は存在するが、そのほぼ全ては攻撃の当て感に優れた者であって、防御は頑健さに頼ったものだ。
防御にはどうしても攻撃に応じた経験と訓練が必須なのだ。
白銀は簡単なフェイントにも引っかかり、上段、下段につま先からかかとまでを使った流れるような連続攻撃にまるで対応できなかった。
白銀の頭へ後ろ回し蹴りが入る。
白銀は、たまらず頭を両腕で覆い、閉じこもったように防御する。
善吉は隙だらけの胴体に、空手で言う三日月蹴りを全力で放ち、白銀の肝臓をつま先で突き刺した。
呻き、涎を流す白銀。だがその顔は笑みを浮かべていた。
白銀は善吉の蹴りを受け続ける事で、ようやく鬼の利点に気づいた。どんな攻撃を受けても、痛みを感じても、一瞬で回復する。
だから、この人間なら悶絶する肝臓蹴りも、鬼の身体にとっては何という事も無い。
無論、怯えたように頭をかばったのはわざとだ。胴体を狙わせるためにだ。
この突き刺した状態なら、足を引くまで僅かに時間がかかる。そして、回し蹴りよりはるかに掴みやすい。
白銀は捕食者の笑みを浮かべ、善吉の踵を掴んだ。
白銀は、たまらず頭を両腕で覆い、閉じこもったように防御する。
善吉は隙だらけの胴体に、空手で言う三日月蹴りを全力で放ち、白銀の肝臓をつま先で突き刺した。
呻き、涎を流す白銀。だがその顔は笑みを浮かべていた。
白銀は善吉の蹴りを受け続ける事で、ようやく鬼の利点に気づいた。どんな攻撃を受けても、痛みを感じても、一瞬で回復する。
だから、この人間なら悶絶する肝臓蹴りも、鬼の身体にとっては何という事も無い。
無論、怯えたように頭をかばったのはわざとだ。胴体を狙わせるためにだ。
この突き刺した状態なら、足を引くまで僅かに時間がかかる。そして、回し蹴りよりはるかに掴みやすい。
白銀は捕食者の笑みを浮かべ、善吉の踵を掴んだ。
――ようやく捕った。このまま足を――
へし折る、ねじ切る。白銀がそれを実行しようとした瞬間。
「そう来ると思ってたぜ!」
善吉の声が、頭上から聞こえた事で、白銀の意識は混乱をきたした。
白銀が上を見上げると、高々と宙を飛ぶ善吉の姿。
「そう来ると思ってたぜ!」
善吉の声が、頭上から聞こえた事で、白銀の意識は混乱をきたした。
白銀が上を見上げると、高々と宙を飛ぶ善吉の姿。
これは雅との戦いで蹴り足を掴まれた経験を生かした策だ。
善吉は白銀の腹に食い込んだつま先と、とられた踵を踏み台にし、一気に跳躍したのだ。
しかし、この策は善吉にとって賭けだった。一歩間違えれば足をへし折られるだろうという恐怖があった。
その恐怖を覚悟でねじ伏せ、善吉は賭けに勝った。白銀が人間の感覚を色濃く残し、鬼の身体にまだ慣れてなかったから成功したのだ。
善吉は空中で、靴を前提としたサバットの蹴り技の中で、最も威力のある蹴りを放つ。
善吉は白銀の腹に食い込んだつま先と、とられた踵を踏み台にし、一気に跳躍したのだ。
しかし、この策は善吉にとって賭けだった。一歩間違えれば足をへし折られるだろうという恐怖があった。
その恐怖を覚悟でねじ伏せ、善吉は賭けに勝った。白銀が人間の感覚を色濃く残し、鬼の身体にまだ慣れてなかったから成功したのだ。
善吉は空中で、靴を前提としたサバットの蹴り技の中で、最も威力のある蹴りを放つ。
――下段踵蹴り!
善吉の踏み付けが、白銀の脳天に直撃した。白銀の目が眩む。
さらに善吉は空中で身を半回転させ、踵を白銀のこめかみに叩きこんだ。
サバットの代名詞的技、ローリングソバットである。
二度の脳を揺らす打撃で、白銀は目を廻し、地面を転がった。
さらに善吉は空中で身を半回転させ、踵を白銀のこめかみに叩きこんだ。
サバットの代名詞的技、ローリングソバットである。
二度の脳を揺らす打撃で、白銀は目を廻し、地面を転がった。
「こいよ、チュートリアルバトルでゲームオーバーになるゲームなんて、珍しくないんだぜ。
特にお前のような初心者ならな!」
怒りの表情ですぐさま立ち上がる白銀。体中の痛みを気合で押さえる善吉。
二人の思いは同じ。
絶対に負けない! この男にだけは負けたくない!
特にお前のような初心者ならな!」
怒りの表情ですぐさま立ち上がる白銀。体中の痛みを気合で押さえる善吉。
二人の思いは同じ。
絶対に負けない! この男にだけは負けたくない!
――白銀、退け!
白銀は一瞬、憎悪を込めた目で善吉を睨みつけたが、猗窩座に従い、同じ方向に行った。
善吉はぜいぜいと息を切らし、前かがみになった。
現界だった。
これが二つ目の人と鬼の決着だった。
現界だった。
これが二つ目の人と鬼の決着だった。
呼吸が落ち着いた武蔵と善吉は合流した。
「永井よ、感謝する。猗窩座を退けられたのはお主の投げた刀のお蔭だ」
「え、あれ!? 無事だったのか、永井!? ていうか、なんで傷一つないんだ!?」
圭の姿を見て、驚きと疑問を隠せない善吉。
「そうだ、永井。お主に恩義はある。だがまずは話してもらおう。お主の身体の秘密、その全てを包み隠さずな」
殺気混じりの視線を、武蔵は圭に向けた。
「え、あれ!? 無事だったのか、永井!? ていうか、なんで傷一つないんだ!?」
圭の姿を見て、驚きと疑問を隠せない善吉。
「そうだ、永井。お主に恩義はある。だがまずは話してもらおう。お主の身体の秘密、その全てを包み隠さずな」
殺気混じりの視線を、武蔵は圭に向けた。
――それについては、我もぜひ聞かせてほしいな。
唐突に、涼やかで美しく澄んだ声が、玲瓏として響いた。
4.
三人がいる場所から僅かに離れた位置に立っている木から、何者かが優美に宙を舞い、地面に降り立った。
それは紅毛の青年だった。身に纏うは派手な袴に、襟に真紅の薔薇が描かれた白い羽織。
唇は女のように赤くて薄く、目は煌々と生命力を主張している。
体つきは間違いなく男のそれなのに、胸には膨らんだ乳房がある。
だが、この者にはそれが三人に異形の持ち主と思わせない。猛々しさと華麗さが見事に調和した絶世の美と感じさせる。
ただ立つ姿勢、歩く動きがそれだけで美しいと三人は感じる。
その中で武蔵は、その美しさの要因は、歩みに正中線のブレが無く、鍛え上げられた体幹によるものと見切った。
「ただならぬ技量の持ち主と観た、何者か!?」
武蔵が問うと、その者は落ち着いた涼やかな声で答えた。
「我が名は波裸羅。人は呼ぶ。『現人鬼』」
それは紅毛の青年だった。身に纏うは派手な袴に、襟に真紅の薔薇が描かれた白い羽織。
唇は女のように赤くて薄く、目は煌々と生命力を主張している。
体つきは間違いなく男のそれなのに、胸には膨らんだ乳房がある。
だが、この者にはそれが三人に異形の持ち主と思わせない。猛々しさと華麗さが見事に調和した絶世の美と感じさせる。
ただ立つ姿勢、歩く動きがそれだけで美しいと三人は感じる。
その中で武蔵は、その美しさの要因は、歩みに正中線のブレが無く、鍛え上げられた体幹によるものと見切った。
「ただならぬ技量の持ち主と観た、何者か!?」
武蔵が問うと、その者は落ち着いた涼やかな声で答えた。
「我が名は波裸羅。人は呼ぶ。『現人鬼』」
『また鬼か。もういい加減にしてくれ』
善吉は疲労困憊、深い負傷で気力が萎えかけていた。
圭もまた、疲労、負傷こそ先程の死亡で消えているが、魔人ばかりのこの殺し合いに精神的な疲労で身体を重く感じていた。
ただ一人、武蔵だけは疲労、重傷を無視し、波裸羅に斬りかかった。
善吉は疲労困憊、深い負傷で気力が萎えかけていた。
圭もまた、疲労、負傷こそ先程の死亡で消えているが、魔人ばかりのこの殺し合いに精神的な疲労で身体を重く感じていた。
ただ一人、武蔵だけは疲労、重傷を無視し、波裸羅に斬りかかった。
一度剣を持てば、武蔵の全ての身体の機能は戦いのみに特化する。流れる血流が変化する。筋肉も戦闘用に特化する。内臓も戦闘用に機能が作り替わる。
武蔵が放つ袈裟切りを躱し、波裸羅が宙に舞った。
空中で蹴足を瞬時に三連撃。つま先蹴り、回し蹴り、そこから独楽のように回転しての踵落とし。
武蔵は二撃は躱したが、最後の踵落としは躱しきれず、頬に線が刻まれた。
空中で蹴足を瞬時に三連撃。つま先蹴り、回し蹴り、そこから独楽のように回転しての踵落とし。
武蔵は二撃は躱したが、最後の踵落としは躱しきれず、頬に線が刻まれた。
波裸羅の蹴りは容易く筋骨を断ち、熟した瓜を砕くが如く人体を苛む。
――旋風美脚『塾瓜(ほそぢ)』。
さらに空中で繰り出される波裸羅の蹴りを武蔵は柄で受け止め押し返した。
波裸羅は宙で開脚して回転し、地面に降り立ち、二人は間合いを取る。
波裸羅は宙で開脚して回転し、地面に降り立ち、二人は間合いを取る。
善吉に戦慄が走った。同じ足技を主体とする武術を学んでいるからこそ分かった。
足技の冴え、威力、速さ、柔軟性、安定した体幹、軸のブレの無さ。
どれをとっても尋常ではない。純粋な武術として善吉のそれをはるかに上回っている。
足技の冴え、威力、速さ、柔軟性、安定した体幹、軸のブレの無さ。
どれをとっても尋常ではない。純粋な武術として善吉のそれをはるかに上回っている。
武蔵もまた戦慄した。
鬼の膂力があれど、これは純粋な武芸による蹴足。猗窩座に劣らぬ武。上の上!
猗窩座が数百年の武功をつんだ者ならば、この者は数百年、否、千年に一人の天稟!
鬼の膂力があれど、これは純粋な武芸による蹴足。猗窩座に劣らぬ武。上の上!
猗窩座が数百年の武功をつんだ者ならば、この者は数百年、否、千年に一人の天稟!
――ならば武蔵、勝たねばならぬ! 千年の後にうたわれる武芸者として!
互いに闘気満ち、波裸羅と武蔵の間に覇気が充満する中、波裸羅は一方的に構えを解き、武蔵に向かって微笑んだ。
「案ずるな、武蔵。波裸羅に手負いの獣を嬲る趣味などない。
だからそう撫でてくれるな、いきり立ちそうではないか。お前の奥ひだを味わってみたくなるではないか」
だからそう撫でてくれるな、いきり立ちそうではないか。お前の奥ひだを味わってみたくなるではないか」
「カッ、そう簡単に俺達がやられるもんかよ!」
善吉が吼える。
その瞬間、波裸羅は無表情になり、三人に向かいゆるりと進んだ。
その様子に気を張り詰めた武蔵以外の二人は、ただ茫然としていたが、善吉は目の前まで波裸羅が迫った事でようやくハッとした。
突然、パン、と音が鳴った。波裸羅が善吉に平手打ちしたのだ。
「善吉。貴様は今、三人が手を合わせれば何とか、と考えたな。
武蔵が瞬殺を免れたなら、加勢により何とかなるだろうという愚かしき、浅ましき、人に背負ってもらおうとする考え」
波裸羅はさらに互いの唇が触れるほどに近づき、善吉の股間を撫でた。
「摘み取ってやろうか、つくしの先を。掻き出してやろうか、蕾の奥を」
波裸羅の優しげ且つ獰猛な笑みを浮かべ、変わらず涼やかな声で囁きかける。何より、何とも言えない良い香りが善吉の鼻腔をくすぐる。
その様は雅や猗窩座の様な鬼らしき鬼よりさらに恐ろしく善吉は感じ、身体は震え、汗が噴き出た。
「震えるな善吉! 先程の啖呵はどうした。あの根性はどこにいった!?」
武蔵も圭も動けない。この意図が不明な鬼は、少しでも動けば言葉通りに善吉の股間をえぐる。そう確信したからだ。
「よっく聞け、小僧! 死の覚悟、地獄に堕ちる覚悟ない男子が、この波裸羅に同等口(ためぐち)叩くまいぞ!」
波裸羅は柳眉を逆立て、善吉に怒鳴りつけた。
「つ、つくしって……お、俺たちを喰う気か?」
わけのわからない善吉は、それしか言えなかった。鬼なら人を喰うのではないかというやはり深い考えなしの言動。
「愚か者め。飢饉の際の悍ましき民草でもあるまいに、この波裸羅が人など喰らうか」
善吉から離れ、侮蔑もあらわに波裸羅は言い切った。
「もとより波裸羅は、この催しに乗り気では無い。興味があるとすれば、この場に集う猛者共と、それ以外の者たちの生き様と死に様よ」
「ならば、波裸羅よ。何故善吉に張り手など。お主なら首を飛ばすなど朝飯前であったろうに」
「武蔵の様な虎が強きは当たり前。だが善吉は凡人でありながら、根性で鬼との差を埋めて見せた。その意気やよし。
その根性に陰りが見えたので、少し喝を入れてやったまでよ」
善吉が吼える。
その瞬間、波裸羅は無表情になり、三人に向かいゆるりと進んだ。
その様子に気を張り詰めた武蔵以外の二人は、ただ茫然としていたが、善吉は目の前まで波裸羅が迫った事でようやくハッとした。
突然、パン、と音が鳴った。波裸羅が善吉に平手打ちしたのだ。
「善吉。貴様は今、三人が手を合わせれば何とか、と考えたな。
武蔵が瞬殺を免れたなら、加勢により何とかなるだろうという愚かしき、浅ましき、人に背負ってもらおうとする考え」
波裸羅はさらに互いの唇が触れるほどに近づき、善吉の股間を撫でた。
「摘み取ってやろうか、つくしの先を。掻き出してやろうか、蕾の奥を」
波裸羅の優しげ且つ獰猛な笑みを浮かべ、変わらず涼やかな声で囁きかける。何より、何とも言えない良い香りが善吉の鼻腔をくすぐる。
その様は雅や猗窩座の様な鬼らしき鬼よりさらに恐ろしく善吉は感じ、身体は震え、汗が噴き出た。
「震えるな善吉! 先程の啖呵はどうした。あの根性はどこにいった!?」
武蔵も圭も動けない。この意図が不明な鬼は、少しでも動けば言葉通りに善吉の股間をえぐる。そう確信したからだ。
「よっく聞け、小僧! 死の覚悟、地獄に堕ちる覚悟ない男子が、この波裸羅に同等口(ためぐち)叩くまいぞ!」
波裸羅は柳眉を逆立て、善吉に怒鳴りつけた。
「つ、つくしって……お、俺たちを喰う気か?」
わけのわからない善吉は、それしか言えなかった。鬼なら人を喰うのではないかというやはり深い考えなしの言動。
「愚か者め。飢饉の際の悍ましき民草でもあるまいに、この波裸羅が人など喰らうか」
善吉から離れ、侮蔑もあらわに波裸羅は言い切った。
「もとより波裸羅は、この催しに乗り気では無い。興味があるとすれば、この場に集う猛者共と、それ以外の者たちの生き様と死に様よ」
「ならば、波裸羅よ。何故善吉に張り手など。お主なら首を飛ばすなど朝飯前であったろうに」
「武蔵の様な虎が強きは当たり前。だが善吉は凡人でありながら、根性で鬼との差を埋めて見せた。その意気やよし。
その根性に陰りが見えたので、少し喝を入れてやったまでよ」
「…………あえてあざっすと言わしてもらいます。確かに俺は覚悟を失うとこでした」
善吉は素直に礼を言った。確かにさっき自分は気力が尽きかけ、人と協力するのではなく、武蔵の強さに寄りかかり、陰から隠れて大言を吐いただけだ。
これじゃとてもめだかちゃんに並ぶなんて夢のまた夢だ。
「その率直さ、覚悟は良し。今後とも忘れるな」
波裸羅は善吉に対し、薄い唇の端を吊り上げた。
善吉は素直に礼を言った。確かにさっき自分は気力が尽きかけ、人と協力するのではなく、武蔵の強さに寄りかかり、陰から隠れて大言を吐いただけだ。
これじゃとてもめだかちゃんに並ぶなんて夢のまた夢だ。
「その率直さ、覚悟は良し。今後とも忘れるな」
波裸羅は善吉に対し、薄い唇の端を吊り上げた。
「あ! 色々ありすぎて煉獄さんの事、すっかり忘れてた! 早く行かねえと!!」
慌てて自転車を起こしに行こうとした善吉を、圭が腕を掴んで止めた。
「待って下さい。今からいった所で、もうそろそろBBの通信が始まります。まず生存しているかどうか確認しましょう。死んでいれば無意味どころか逆に危ない。
聞いてから行っても遅くないと思います」
その台詞は正論だと善吉は思ったが、それでもやはり煉獄を放っておくわけにはいかない。善吉は武蔵の方を見た。
「宮本さん、俺と一緒に行けますか? 煉獄さんと雅の所へ」
「善吉、すまぬ。武蔵は頬に傷を負った。これでは吸血鬼とやらになってしまいかねぬ」
雅という鬼がどれほどの者であろうと、負ける気などない。だが、血を一滴も浴びずに勝つなどはより以上に思えない。
勝ったところで自分が鬼に変じてしまえば意味がない。
「大言を吐きながらこの有様。武蔵は助けに行けぬ。詫びの言葉も無い」
武蔵は善吉に対し、深々と頭を下げた。
「いえ! 頭をあげてください、宮本さん。元々足手まといになった俺が悪いんです。
こうなったら、今はせめて煉獄さんが勝つか、もしくは無事逃げられるように願いましょう」
首を上げた武蔵は、今度は波裸羅に対し殺気を放ち睨んだ。
「波裸羅。お主は、この武蔵が斬る。鬼退治ではない。武芸者同士の果し合いとしてでだ」
「波裸羅はまだこの催しに興味がある。それに飽きたら応じよう」
波裸羅は緩やかに武蔵の殺気を流し、微笑んだ。
慌てて自転車を起こしに行こうとした善吉を、圭が腕を掴んで止めた。
「待って下さい。今からいった所で、もうそろそろBBの通信が始まります。まず生存しているかどうか確認しましょう。死んでいれば無意味どころか逆に危ない。
聞いてから行っても遅くないと思います」
その台詞は正論だと善吉は思ったが、それでもやはり煉獄を放っておくわけにはいかない。善吉は武蔵の方を見た。
「宮本さん、俺と一緒に行けますか? 煉獄さんと雅の所へ」
「善吉、すまぬ。武蔵は頬に傷を負った。これでは吸血鬼とやらになってしまいかねぬ」
雅という鬼がどれほどの者であろうと、負ける気などない。だが、血を一滴も浴びずに勝つなどはより以上に思えない。
勝ったところで自分が鬼に変じてしまえば意味がない。
「大言を吐きながらこの有様。武蔵は助けに行けぬ。詫びの言葉も無い」
武蔵は善吉に対し、深々と頭を下げた。
「いえ! 頭をあげてください、宮本さん。元々足手まといになった俺が悪いんです。
こうなったら、今はせめて煉獄さんが勝つか、もしくは無事逃げられるように願いましょう」
首を上げた武蔵は、今度は波裸羅に対し殺気を放ち睨んだ。
「波裸羅。お主は、この武蔵が斬る。鬼退治ではない。武芸者同士の果し合いとしてでだ」
「波裸羅はまだこの催しに興味がある。それに飽きたら応じよう」
波裸羅は緩やかに武蔵の殺気を流し、微笑んだ。
5.
「桃は皮ごとかぶりつくのが一番旨し喰い方ぞ」
波裸羅がバッグの中から桃を取り出し、各人に渡しながら言った。
波裸羅の話によると『波裸羅に与えられた兵糧は、この桃のみよ。幾つあるか分からぬ』との事だ。
「有り難く頂こう」
武蔵は鄭重に片手で受け取った。
善吉と圭の二人も礼を言いながら貰った。
波裸羅がバッグの中から桃を取り出し、各人に渡しながら言った。
波裸羅の話によると『波裸羅に与えられた兵糧は、この桃のみよ。幾つあるか分からぬ』との事だ。
「有り難く頂こう」
武蔵は鄭重に片手で受け取った。
善吉と圭の二人も礼を言いながら貰った。
四人は市街地を走る道の中で、先程善吉が自転車で走っていた広い道で座を囲んでいた。
ここでは誰の目にもとまりやすく、殺し合いに乗った参加者に見つかる恐れもあるが、それ以上に煉獄が見つけ易くするためだ。
北から右回りに武蔵、圭、善吉、波裸羅の順に胡坐をかいて地べたに座っている。
「いいのかな……煉獄さんが今どうなっているのかわからないのに」
善吉は弱冠の罪悪感と共に呟いた。
「この場はいつ、誰に襲われるか分からぬ情勢だ。
ならば、食える時に食っておくべきであろう。次にいつ休息が取れるか知れぬからな」
そういう武蔵は、桃を地面に置き、折れた刃こぼれだらけの刀から鍔を取り、煉獄の日輪刀に嵌め込む。
波裸羅がその刀が一本欲しいといったので、武蔵は抜き身だけならという事で承諾したのだ。
「では、圭よ。お前の身体について話してもらおうか」
波裸羅が促すと、圭は自分の知る限りの『亜人』に関する知識を話した。
ここでは誰の目にもとまりやすく、殺し合いに乗った参加者に見つかる恐れもあるが、それ以上に煉獄が見つけ易くするためだ。
北から右回りに武蔵、圭、善吉、波裸羅の順に胡坐をかいて地べたに座っている。
「いいのかな……煉獄さんが今どうなっているのかわからないのに」
善吉は弱冠の罪悪感と共に呟いた。
「この場はいつ、誰に襲われるか分からぬ情勢だ。
ならば、食える時に食っておくべきであろう。次にいつ休息が取れるか知れぬからな」
そういう武蔵は、桃を地面に置き、折れた刃こぼれだらけの刀から鍔を取り、煉獄の日輪刀に嵌め込む。
波裸羅がその刀が一本欲しいといったので、武蔵は抜き身だけならという事で承諾したのだ。
「では、圭よ。お前の身体について話してもらおうか」
波裸羅が促すと、圭は自分の知る限りの『亜人』に関する知識を話した。
亜人とは、人間と同じ姿をした別種の生物である。
実際に死んで生き返るまで、亜人は人間と区別がつかない。細胞レベルだと何か違うらしい。
戦死、病死、事故死、絞殺。毒殺。どんな死に方をしても亜人は蘇生する。
それまでの負傷、疲労は初めから無かったことになる。手足を切断されても生え変わる。撃たれた弾丸などは別の物質に変換され、体内から無くなる。
この再生の際に周りの物質を変換する性質を利用し、金属の壁に切断した腕を押し当て死んで、生き返る時に壁を巻き込み腕の通る穴をあけるなんて事も出来る。
ただ、怪我や病気をしてもすぐ治るわけじゃない。特に手足を欠損したら、一度死ぬまでそのままだ。自然治癒力は人間と同じだ。
そして、人間同様成長も老化もする。不老ではない。研究者によると寿命があるようだ。
実際に死んで生き返るまで、亜人は人間と区別がつかない。細胞レベルだと何か違うらしい。
戦死、病死、事故死、絞殺。毒殺。どんな死に方をしても亜人は蘇生する。
それまでの負傷、疲労は初めから無かったことになる。手足を切断されても生え変わる。撃たれた弾丸などは別の物質に変換され、体内から無くなる。
この再生の際に周りの物質を変換する性質を利用し、金属の壁に切断した腕を押し当て死んで、生き返る時に壁を巻き込み腕の通る穴をあけるなんて事も出来る。
ただ、怪我や病気をしてもすぐ治るわけじゃない。特に手足を欠損したら、一度死ぬまでそのままだ。自然治癒力は人間と同じだ。
そして、人間同様成長も老化もする。不老ではない。研究者によると寿命があるようだ。
能力として、不死身の他に『声』と『IBM・黒い幽霊』がある。
亜人同士には効かないが、亜人が放つ叫びには人間の動きを止める効果がある。
IBMは亜人の放出する黒い粒子で亜人以外には見えない。亜人でも出せない者も居る。
それが人の形を持ったのが黒い幽霊と亜人たちが呼んでいるモノで、人間が火事場の馬鹿力を出したくらいの力を持つ。
亜人の意志で行動し、出せる量と時間は決まっている。出せる亜人は通常、一度に1、2体を5分から10分程度出せる。圭は一度に最大9体、30分は出せる。
弱点として頭部を破壊されると散ってしまう。水や雨の中だと動けなくなる。
亜人同士には効かないが、亜人が放つ叫びには人間の動きを止める効果がある。
IBMは亜人の放出する黒い粒子で亜人以外には見えない。亜人でも出せない者も居る。
それが人の形を持ったのが黒い幽霊と亜人たちが呼んでいるモノで、人間が火事場の馬鹿力を出したくらいの力を持つ。
亜人の意志で行動し、出せる量と時間は決まっている。出せる亜人は通常、一度に1、2体を5分から10分程度出せる。圭は一度に最大9体、30分は出せる。
弱点として頭部を破壊されると散ってしまう。水や雨の中だと動けなくなる。
「永井よ。その幽霊とやら、猗窩座に対し使えたのではないか?」
桃を両手に持ち、交互に食いながら武蔵が疑問点を指した。
「僕のIBMは思い通りに動かないんです。あの状況だと武蔵さんの方に襲い掛かる危険がありました」
圭の答えに武蔵は頷き、食い終わった桃の種を捨て、波裸羅から桃を受け取り、また食っている。
『一体何個食ってんだ宮本さん、つーか波裸羅さん何個桃持ってんの?』
善吉が心の中で突っ込む。
確かにこの桃は旨い。皮が薄く、固すぎず柔らかすぎず、歯を当てると甘みと酸味のバランスが絶妙な甘露が零れる。
それでも何個も食えば飽きる。善吉は4個、圭は3個が限界の所、武蔵は地面に落ちた種の数だけでもう10個を超えている。
武蔵の余りの食いっぷりに、善吉と圭は見ているだけで胸やけがしてきた。
桃を両手に持ち、交互に食いながら武蔵が疑問点を指した。
「僕のIBMは思い通りに動かないんです。あの状況だと武蔵さんの方に襲い掛かる危険がありました」
圭の答えに武蔵は頷き、食い終わった桃の種を捨て、波裸羅から桃を受け取り、また食っている。
『一体何個食ってんだ宮本さん、つーか波裸羅さん何個桃持ってんの?』
善吉が心の中で突っ込む。
確かにこの桃は旨い。皮が薄く、固すぎず柔らかすぎず、歯を当てると甘みと酸味のバランスが絶妙な甘露が零れる。
それでも何個も食えば飽きる。善吉は4個、圭は3個が限界の所、武蔵は地面に落ちた種の数だけでもう10個を超えている。
武蔵の余りの食いっぷりに、善吉と圭は見ているだけで胸やけがしてきた。
「ふむ、やはり『端麗人』とは違うのか」
「何ですか、そのきらぎらびとって」
善吉が武蔵の食べる姿から目をそらす目的で、波裸羅に尋ねた。
「端麗人とは、永遠の命を持ち不老。時を超える者。時の支配者に使える事を条件に『置き血』と呼ばれる物を飲むことで変ずる者」
「亜人でも寿命があるって話なのに、本当にそんな生物がいるんですか?」
圭もまた話を変えて落ち着こうと、波裸羅に尋ねた。
「波裸羅はそのお方と出会った。吉備津彦命、かの伝説の桃太郎卿とな」
善吉と圭の二人は、同時に口から唾を霧状に噴いた。
全く、ナイチンゲール、宮本武蔵、源頼光、酒呑童子と歴史や伝説に名を残す者達が名簿に載っていて、実際ここに武蔵がいるところに今度は桃太郎ときた。
「何ですか、そのきらぎらびとって」
善吉が武蔵の食べる姿から目をそらす目的で、波裸羅に尋ねた。
「端麗人とは、永遠の命を持ち不老。時を超える者。時の支配者に使える事を条件に『置き血』と呼ばれる物を飲むことで変ずる者」
「亜人でも寿命があるって話なのに、本当にそんな生物がいるんですか?」
圭もまた話を変えて落ち着こうと、波裸羅に尋ねた。
「波裸羅はそのお方と出会った。吉備津彦命、かの伝説の桃太郎卿とな」
善吉と圭の二人は、同時に口から唾を霧状に噴いた。
全く、ナイチンゲール、宮本武蔵、源頼光、酒呑童子と歴史や伝説に名を残す者達が名簿に載っていて、実際ここに武蔵がいるところに今度は桃太郎ときた。
「僕がその『端麗人』だったとしたら、なりたいと思ったんですか?」
圭にとっては軽い疑問だったが、その圭の言葉で波裸羅の表情は一変した。怒りに任せて波裸羅は桃の種を圭の足元に投げた。
桃の種が地面にめり込んだ。めり込む音は種のそれじゃない、まるで砲弾を撃ち込んだかのようだ。
「舐めるなよ、圭! この波裸羅が牢獄のごとき永遠の命を望むと思うか!
時の支配者に奴婢のように、畜生のように使えて永遠を生きるよりも、身の保証無き身分なき身で、一瞬に一生分の力燃やして戦い続ける命懸けの『好き勝手』こそが我が望み!」
圭にとっては軽い疑問だったが、その圭の言葉で波裸羅の表情は一変した。怒りに任せて波裸羅は桃の種を圭の足元に投げた。
桃の種が地面にめり込んだ。めり込む音は種のそれじゃない、まるで砲弾を撃ち込んだかのようだ。
「舐めるなよ、圭! この波裸羅が牢獄のごとき永遠の命を望むと思うか!
時の支配者に奴婢のように、畜生のように使えて永遠を生きるよりも、身の保証無き身分なき身で、一瞬に一生分の力燃やして戦い続ける命懸けの『好き勝手』こそが我が望み!」
どうやら、波裸羅は随分と反体制、アナーキズム的な考えの持ち主らしい。少し常軌を逸しているが。
この反骨心を上手く誘導できれば、佐藤を殺し、脱出するという目的の力になるかもしれない。
先程もし殺されても、生き返る事が出来たとはいえ、この状況でそう考える圭の合理的思考もまた常軌を逸していた。
この反骨心を上手く誘導できれば、佐藤を殺し、脱出するという目的の力になるかもしれない。
先程もし殺されても、生き返る事が出来たとはいえ、この状況でそう考える圭の合理的思考もまた常軌を逸していた。
「圭よ。この場にお前と同じ『亜人』はいるのか?」
波裸羅が尋ねると、圭は顔をこわばらせていった。
「他に佐藤がいます。あいつは危険です。
どんな事をしても死なないから、わざと簡単に自分を殺させたり、相手をたきつけたり、状況を悪化させたりする。
よくゲーム感覚で人を殺すって言うけど、あいつは本当にこの世を自分が主人公のゲームだと思っているんだ。
だから自分が楽しむためだったら、どんな事でもする」
嫌悪感を露わに、というにはむしろ落ち着いた表情で圭は言った。
「あと、さっき言ったIBMも佐藤は一体だけだけど自由に操れて長時間、一日何回でも使えます」
波裸羅が尋ねると、圭は顔をこわばらせていった。
「他に佐藤がいます。あいつは危険です。
どんな事をしても死なないから、わざと簡単に自分を殺させたり、相手をたきつけたり、状況を悪化させたりする。
よくゲーム感覚で人を殺すって言うけど、あいつは本当にこの世を自分が主人公のゲームだと思っているんだ。
だから自分が楽しむためだったら、どんな事でもする」
嫌悪感を露わに、というにはむしろ落ち着いた表情で圭は言った。
「あと、さっき言ったIBMも佐藤は一体だけだけど自由に操れて長時間、一日何回でも使えます」
佐藤の事を話した事で、圭は予定を思い出した。入間自衛隊基地で武器や医薬品を探すというものだ。
だが、猗窩座達が北の方角へ向かってしまった。
これでは入間基地に行って、使える武器を探す予定は、断念するしかないだろう。
だが、猗窩座達が北の方角へ向かってしまった。
これでは入間基地に行って、使える武器を探す予定は、断念するしかないだろう。
ふと、圭に一つの疑問が浮かぶ。なぜ、猗窩座と白銀の二人は突然離れたのか。
追い詰められたから、じゃない。少なくとも猗窩座は圭をもう一度殺し、武蔵に再びあの技を放つくらいの余裕はあったはずだ。
追い詰められたから、じゃない。少なくとも猗窩座は圭をもう一度殺し、武蔵に再びあの技を放つくらいの余裕はあったはずだ。
それまで善吉や武蔵、猗窩座の口から出たキーワード、戦いで得た情報をもう一度確認する。
吸血鬼、血液から感染、鬼、不死身。首に食い込んだ刀を止める猗窩座。
圭の方向を見た猗窩座。その視線は圭の顔ではなく、さらに上の方に向いているように圭には見えた。
吸血鬼、血液から感染、鬼、不死身。首に食い込んだ刀を止める猗窩座。
圭の方向を見た猗窩座。その視線は圭の顔ではなく、さらに上の方に向いているように圭には見えた。
――猗窩座が気にしていたのは、俺じゃなくて太陽?
もしかしたら、猗窩座達の種族は、日光に弱いのでは?
吸血鬼が日の光を浴びると、灰になるという伝承は有名だ。猗窩座達も同じだとしたら?
吸血鬼が日の光を浴びると、灰になるという伝承は有名だ。猗窩座達も同じだとしたら?
そういえば猗窩座は、圭が渡した刀を見て『にちりんとう』と言っていた。
漢字に変換すると『日輪刀』か?
刀は二本とも独特の形状をしていた。猗窩座は胴体や腕の負傷は即座に治るため気にかけていなかったが、首を刎ねられるのだけは必死になって防いでいた。
あの刀には何か鬼を殺すために必要な力でもあるのか? 何か光に反応する特殊な機能でもあるのか?
漢字に変換すると『日輪刀』か?
刀は二本とも独特の形状をしていた。猗窩座は胴体や腕の負傷は即座に治るため気にかけていなかったが、首を刎ねられるのだけは必死になって防いでいた。
あの刀には何か鬼を殺すために必要な力でもあるのか? 何か光に反応する特殊な機能でもあるのか?
今のところ、乱暴な推測だが、猗窩座達の鬼の種族は――
1.日光に弱い。
2.首を刎ねられると死ぬ(日輪刀と呼ばれる刀限定で?)
1.日光に弱い。
2.首を刎ねられると死ぬ(日輪刀と呼ばれる刀限定で?)
といった所か。
「武蔵さん、もしかしたらあの鬼達は……?」
圭が武蔵に顔を向けると。
「……寝てる」
武蔵は地面に仰向けになって、寝息を立てていた。
「襲い、喰らい、寝る。正しく虎よな」
波裸羅は口端を吊り上げた。
圭が武蔵に顔を向けると。
「……寝てる」
武蔵は地面に仰向けになって、寝息を立てていた。
「襲い、喰らい、寝る。正しく虎よな」
波裸羅は口端を吊り上げた。
「えっと……波裸羅、さん?」
波裸羅の名前を呼ぶだけでも、圭は緊張した。無礼者、様を付けろ、と一度殺されるかもしれないと思ったからだ。
だが、ここで一度下僕のような態度をとれば、とても共闘、最低でも同行などできないだろう。だから、最低限の敬意だけは払って尋ねた。
「なんだ」
圭は内心で一息つき、一つの質問をした。
「今年は何年ですか? あと、人吉にも同じ質問をするけど」
「元和二年だ」
「2009年だろ?」
宮本武蔵と会った時点で圭の中に会った仮説が、この答えで確信に至った。
「僕の認識では、今は平成24年、2012年です。
波裸羅さんからすれば……僕の世界は396年後で、元号は38回変わっています」
「永井……お前、もしかして学校の成績トップクラス?」
「全国模試一桁台でしたけど、ここではそんなことどうでもいいです。
つまり僕たちは全員、喚ばれた時代が、世界が違うんですよ。とんでもない事だけど今のところ、それしか思いつかない」
「いわゆるパラレルワールドってやつか? 確かにとんでもねえな」
「時代、世界が違うというのは、正しいかもしれぬな。善吉が先程申した雅。あの者は、日の本の国に棲まう民草の大半を吸血鬼とやらに変えたという」
「それ、なんてバイオハザードですか?」
善吉は冗談しか言えなかった。どうやら雅は目に見える危うさ以上に危険すぎる相手だったようだ。
「それ、だれから聞いたんですか?」
一方、圭は平然として波裸羅に尋ねた。
「ここに来る前、出会った勝次という童から聞いた」
「その勝次は」
どうしたのか、と圭が言う前に、波裸羅が言葉を遮った。
「この世には様々な『壁』がある。住まいを隔てるための壁。何かを隠すための壁。国の境目の壁。
特に硬いのは、身分を分かつ壁」
波裸羅は何を言おうとしているのか? 善吉も圭も分からなかった。
「衛府という全ての命、まつろわぬ民も貴族も支配者も同等とされる幻の都がある。身分なき者が死に対して抗う時、都の使者である龍が力を授けるという」
今でも結構身分の差というのはいろんな国である。ましてや約400年前の波裸羅の時代なら、身分高きものは低きものに何をしても許されただろう。
だが、この話はどこに繋がっていくのか?
「だが、その衛府でも『才』の『壁』は歴然としてあるだろうて」
そう言って波裸羅は、バッグから二本の注射器を取り出した。
「その才の壁を越える事が出来るのが、この薬よ。上手くいけば人の域を超えた能力を持つ『脳力者』となるという。失敗したら死ぬ。
波裸羅が最初に出会った童の勝次は、常に守られる自分を拒んでいた。
波裸羅がこれの使い道を話すと、勝次は死を覚悟して、これを使い死んだ」
波裸羅はナノロボ入り注射器の解説書を二人に広げて見せた。
「どうだ、善吉。圭。試してみるか?」
そう言う波裸羅の表情は、きっと善吉と圭の二人には、美しすぎて悪魔じみて見えた事だろう。
波裸羅の名前を呼ぶだけでも、圭は緊張した。無礼者、様を付けろ、と一度殺されるかもしれないと思ったからだ。
だが、ここで一度下僕のような態度をとれば、とても共闘、最低でも同行などできないだろう。だから、最低限の敬意だけは払って尋ねた。
「なんだ」
圭は内心で一息つき、一つの質問をした。
「今年は何年ですか? あと、人吉にも同じ質問をするけど」
「元和二年だ」
「2009年だろ?」
宮本武蔵と会った時点で圭の中に会った仮説が、この答えで確信に至った。
「僕の認識では、今は平成24年、2012年です。
波裸羅さんからすれば……僕の世界は396年後で、元号は38回変わっています」
「永井……お前、もしかして学校の成績トップクラス?」
「全国模試一桁台でしたけど、ここではそんなことどうでもいいです。
つまり僕たちは全員、喚ばれた時代が、世界が違うんですよ。とんでもない事だけど今のところ、それしか思いつかない」
「いわゆるパラレルワールドってやつか? 確かにとんでもねえな」
「時代、世界が違うというのは、正しいかもしれぬな。善吉が先程申した雅。あの者は、日の本の国に棲まう民草の大半を吸血鬼とやらに変えたという」
「それ、なんてバイオハザードですか?」
善吉は冗談しか言えなかった。どうやら雅は目に見える危うさ以上に危険すぎる相手だったようだ。
「それ、だれから聞いたんですか?」
一方、圭は平然として波裸羅に尋ねた。
「ここに来る前、出会った勝次という童から聞いた」
「その勝次は」
どうしたのか、と圭が言う前に、波裸羅が言葉を遮った。
「この世には様々な『壁』がある。住まいを隔てるための壁。何かを隠すための壁。国の境目の壁。
特に硬いのは、身分を分かつ壁」
波裸羅は何を言おうとしているのか? 善吉も圭も分からなかった。
「衛府という全ての命、まつろわぬ民も貴族も支配者も同等とされる幻の都がある。身分なき者が死に対して抗う時、都の使者である龍が力を授けるという」
今でも結構身分の差というのはいろんな国である。ましてや約400年前の波裸羅の時代なら、身分高きものは低きものに何をしても許されただろう。
だが、この話はどこに繋がっていくのか?
「だが、その衛府でも『才』の『壁』は歴然としてあるだろうて」
そう言って波裸羅は、バッグから二本の注射器を取り出した。
「その才の壁を越える事が出来るのが、この薬よ。上手くいけば人の域を超えた能力を持つ『脳力者』となるという。失敗したら死ぬ。
波裸羅が最初に出会った童の勝次は、常に守られる自分を拒んでいた。
波裸羅がこれの使い道を話すと、勝次は死を覚悟して、これを使い死んだ」
波裸羅はナノロボ入り注射器の解説書を二人に広げて見せた。
「どうだ、善吉。圭。試してみるか?」
そう言う波裸羅の表情は、きっと善吉と圭の二人には、美しすぎて悪魔じみて見えた事だろう。
6.
「受け取っておきます。ですが、僕は使わない」
それが圭の答えだった。
「僕は亜人のままで十分だし満足です。本来なら交通事故で死んでたはずの自分が生きているのはそのおかげですから。
でも、佐藤にこれを使えば、もしかしたら亜人の細胞を変化させて殺せるかもしれない。あいつを殺せる選択肢を増やせるなら、それが何であろうと使います」
勿論、亜人のまま、身体能力が上がり、新たな能力が加わる可能性もある。だが、選択肢は多いに越したことは無い。
リスクを考えた上で、圭は持っておくことに決めた。
それが圭の答えだった。
「僕は亜人のままで十分だし満足です。本来なら交通事故で死んでたはずの自分が生きているのはそのおかげですから。
でも、佐藤にこれを使えば、もしかしたら亜人の細胞を変化させて殺せるかもしれない。あいつを殺せる選択肢を増やせるなら、それが何であろうと使います」
勿論、亜人のまま、身体能力が上がり、新たな能力が加わる可能性もある。だが、選択肢は多いに越したことは無い。
リスクを考えた上で、圭は持っておくことに決めた。
波裸羅は圭に対し、何か不可思議な印象を抱いていた。その理由は佐藤に対する姿勢だ。
佐藤に対する殺意がどうにも読めない。同じ亜人同士による敵意なのか、嫌悪なのか、責務なのか、人間の正義感なのか。
亜人とは別に圭の在り方について、波裸羅は好奇心を抱いた。
佐藤に対する殺意がどうにも読めない。同じ亜人同士による敵意なのか、嫌悪なのか、責務なのか、人間の正義感なのか。
亜人とは別に圭の在り方について、波裸羅は好奇心を抱いた。
一方、波裸羅の問いに対する、善吉の答えは。
「……いらねえよ、こんな物」
怒り混じりの否定の言葉だった。
「ふん、死の覚悟なしに力など」
「違う!!」
波裸羅の声を遮って、善吉は叫んだ。
「死ぬのが怖いからじゃねえ!!」
今まで使っていた丁寧語をかなぐり捨てて、善吉は波裸羅を見据えた。
「確かに俺は強くなりてえよ! 頭だって良くなりてえ! めだかちゃんの隣に並べるくらいに、庇えるくらいになりてえ!
だけど、だけどよ! それをめだかちゃんに失望されるような自分でも、その自分自身と引き換えにしたらお仕舞いじゃねえか!
この俺を、めだかちゃんを好きだという自分を無くしてまで力を手に入れようとしても、受け止める俺がいなくなったら、結局何も残らねえじゃねえか!
自分をつまんない奴だと決めて、それをいらないもんみたいに放り投げて、全く別の、そう、漫画やアニメやゲームの主人公に成り代わったって意味ないじゃねえか!!」
勢いよく並べ立てたそれらが、善吉が力をチートじみた方法で手に入れる事を拒む決意の源であった。
「何でもできて、全てを完成させられるめだかちゃんに並ぶって、勝つって俺自身が決めたんだよ! 決めたからには、絶対に、俺は、俺のままでそこへ行くんだ!」
叫びながら、いつの間にか善吉は波裸羅より、白銀の顔を思い浮かべていた。
この言葉はあいつに言いたかった。あいつが鬼になる前に言ってやりたかった。
「そんなお前にこそ、衛府の加護があるやもしれぬな」
そう、石弓一本で波裸羅に立ち向かった伊織のように、と波裸羅は思った。
「そんな主人公補正だっていらねえ! 誰かの加護なんて、その気になればその誰かに突然取り上げられるものじゃねえか! そんなものはいらねえ!」
その善吉の叫びに、波裸羅は目を丸くし。
「ふ、ふ、ふ。あ、はは。はははははは!!」
笑い出した。波裸羅は、心の底から笑っていた。
こんなにおかしいのは生まれて初めてだ。
生まれた時から強者の波裸羅にこの台詞が言えるか? 生まれる前にこの台詞が言えるか? そう考えると笑いが止まらない。
「面白いぞ、善吉! 身の程知らずに身分の差も才の差も乗り越えんとし、そのような考えの持ち主、身分なき者に授けられる衛府の力も拒み、そのめだかちゃんとやらだけを目指し、並ばんとする『大言』やよし! 波裸羅は大言が好きじゃ! あはははは!!」
波裸羅は実に愉快だった。楽しかった。
ただ一人の為だけに何があれば、人はここまで決意を固められるのか。劣等感に押しつぶされずにいられるのか。才なき身を諦めずにいられるのか。
何だか知らんが、とにかくよし! 実に愉快じゃ!
「……いらねえよ、こんな物」
怒り混じりの否定の言葉だった。
「ふん、死の覚悟なしに力など」
「違う!!」
波裸羅の声を遮って、善吉は叫んだ。
「死ぬのが怖いからじゃねえ!!」
今まで使っていた丁寧語をかなぐり捨てて、善吉は波裸羅を見据えた。
「確かに俺は強くなりてえよ! 頭だって良くなりてえ! めだかちゃんの隣に並べるくらいに、庇えるくらいになりてえ!
だけど、だけどよ! それをめだかちゃんに失望されるような自分でも、その自分自身と引き換えにしたらお仕舞いじゃねえか!
この俺を、めだかちゃんを好きだという自分を無くしてまで力を手に入れようとしても、受け止める俺がいなくなったら、結局何も残らねえじゃねえか!
自分をつまんない奴だと決めて、それをいらないもんみたいに放り投げて、全く別の、そう、漫画やアニメやゲームの主人公に成り代わったって意味ないじゃねえか!!」
勢いよく並べ立てたそれらが、善吉が力をチートじみた方法で手に入れる事を拒む決意の源であった。
「何でもできて、全てを完成させられるめだかちゃんに並ぶって、勝つって俺自身が決めたんだよ! 決めたからには、絶対に、俺は、俺のままでそこへ行くんだ!」
叫びながら、いつの間にか善吉は波裸羅より、白銀の顔を思い浮かべていた。
この言葉はあいつに言いたかった。あいつが鬼になる前に言ってやりたかった。
「そんなお前にこそ、衛府の加護があるやもしれぬな」
そう、石弓一本で波裸羅に立ち向かった伊織のように、と波裸羅は思った。
「そんな主人公補正だっていらねえ! 誰かの加護なんて、その気になればその誰かに突然取り上げられるものじゃねえか! そんなものはいらねえ!」
その善吉の叫びに、波裸羅は目を丸くし。
「ふ、ふ、ふ。あ、はは。はははははは!!」
笑い出した。波裸羅は、心の底から笑っていた。
こんなにおかしいのは生まれて初めてだ。
生まれた時から強者の波裸羅にこの台詞が言えるか? 生まれる前にこの台詞が言えるか? そう考えると笑いが止まらない。
「面白いぞ、善吉! 身の程知らずに身分の差も才の差も乗り越えんとし、そのような考えの持ち主、身分なき者に授けられる衛府の力も拒み、そのめだかちゃんとやらだけを目指し、並ばんとする『大言』やよし! 波裸羅は大言が好きじゃ! あはははは!!」
波裸羅は実に愉快だった。楽しかった。
ただ一人の為だけに何があれば、人はここまで決意を固められるのか。劣等感に押しつぶされずにいられるのか。才なき身を諦めずにいられるのか。
何だか知らんが、とにかくよし! 実に愉快じゃ!
「人吉少年!」
波裸羅の笑い声が終わると同時に、やたら張りのある声が聞こえてきた。善吉にとって聞き覚えのある声だ。
近づいてきたのは、金髪の先が朱色に染まった髪の男、煉獄杏寿郎だ。
「煉獄さん! 無事でしたか! よくここが分かりましたね」
「うむ! 君の叫びと笑い声を聞いて居場所が分かった!」
居場所の言葉で、善吉は周囲にある地面に転がった桃の種を見て、煉獄に恥じた。
「あ、すんません。一人で戦わせておいて俺たちだけ休んでいて」
「気にするな! このような状況下では、飯は食える時に食っておくべきだ! それで、声の主には出会えたか?」
「声の人の方は……」
俯いた善吉の姿で、煉獄はもう手遅れになったと悟った。
「そうか……」
常に豪放磊落な煉獄も、流石に顔を曇らせた。
「それにしても、ずいぶん人が集まっているようだが、彼らは何者だ?」
「えっと……とりあえず、このバトルロワイヤル、殺し合いには乗っていない人達です」
波裸羅がいるため、やや歯切れの悪い言葉になった。
「僕は、永井圭です」
「我が名は波裸羅」
「それがしは、宮本武蔵と申す」
順番に各人が煉獄に対し、自己紹介をした。
「俺は鬼殺隊隊士、煉獄杏寿郎だ! よろしく頼む!」
「って武蔵さん、いつの間に起きたんですか!?」
さりげなく眠りから目を覚まし、煉獄に顔を向けた武蔵に善吉が突っ込んだ。
「今しがただ。飯と眠りのお蔭で疲れもだいぶとれた」
「待って下さいよ。こんな浅い眠りで疲れなんてとれるはずないでしょう!?」
「四半時をさらに十分割した時の眠りで、四刻の熟睡に匹敵する癒しの効能を得る。これも常在戦場を旨とする兵法者の心得よ」
『いやいや、それ無茶だって。ありえないって』
寝起きで水を飲む武蔵に対し、善吉と圭の二人は心の中でツッコミを入れた。
波裸羅の笑い声が終わると同時に、やたら張りのある声が聞こえてきた。善吉にとって聞き覚えのある声だ。
近づいてきたのは、金髪の先が朱色に染まった髪の男、煉獄杏寿郎だ。
「煉獄さん! 無事でしたか! よくここが分かりましたね」
「うむ! 君の叫びと笑い声を聞いて居場所が分かった!」
居場所の言葉で、善吉は周囲にある地面に転がった桃の種を見て、煉獄に恥じた。
「あ、すんません。一人で戦わせておいて俺たちだけ休んでいて」
「気にするな! このような状況下では、飯は食える時に食っておくべきだ! それで、声の主には出会えたか?」
「声の人の方は……」
俯いた善吉の姿で、煉獄はもう手遅れになったと悟った。
「そうか……」
常に豪放磊落な煉獄も、流石に顔を曇らせた。
「それにしても、ずいぶん人が集まっているようだが、彼らは何者だ?」
「えっと……とりあえず、このバトルロワイヤル、殺し合いには乗っていない人達です」
波裸羅がいるため、やや歯切れの悪い言葉になった。
「僕は、永井圭です」
「我が名は波裸羅」
「それがしは、宮本武蔵と申す」
順番に各人が煉獄に対し、自己紹介をした。
「俺は鬼殺隊隊士、煉獄杏寿郎だ! よろしく頼む!」
「って武蔵さん、いつの間に起きたんですか!?」
さりげなく眠りから目を覚まし、煉獄に顔を向けた武蔵に善吉が突っ込んだ。
「今しがただ。飯と眠りのお蔭で疲れもだいぶとれた」
「待って下さいよ。こんな浅い眠りで疲れなんてとれるはずないでしょう!?」
「四半時をさらに十分割した時の眠りで、四刻の熟睡に匹敵する癒しの効能を得る。これも常在戦場を旨とする兵法者の心得よ」
『いやいや、それ無茶だって。ありえないって』
寝起きで水を飲む武蔵に対し、善吉と圭の二人は心の中でツッコミを入れた。
「ほら、煉獄。お前も食え。甘き水菓子は疲れを癒すぞ」
波裸羅がバッグから桃を取り出し、煉獄に投げ渡した。
「いただこう。うむ、うまい!」
煉獄は皮ごとかぶりついた。
「良い食いっぷりだ。まだたっぷりあるぞ」
「もらおうか!」
『また、食う場面を見せつけられるのか……』
善吉と圭は煉獄が食べる光景を見るだけで顔をしかめ、胸を押さえた。
波裸羅がバッグから桃を取り出し、煉獄に投げ渡した。
「いただこう。うむ、うまい!」
煉獄は皮ごとかぶりついた。
「良い食いっぷりだ。まだたっぷりあるぞ」
「もらおうか!」
『また、食う場面を見せつけられるのか……』
善吉と圭は煉獄が食べる光景を見るだけで顔をしかめ、胸を押さえた。
【C-4・市街地/1日目・早朝】
【永井圭@亜人】
[状態]: 健康
[装備]: なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2、ナノロボ入り注射器@ナノハザード
[思考・状況]
基本方針:佐藤を倒す
1.自衛隊入間基地に向かう予定を、箱庭病院へと変更するか。
2.使える武器や人員の確保。
3.雅や猗窩座といった鬼達を警戒。
4.波裸羅を上手く対主催側に誘導できないか。
[備考]
※File:48(10巻最終話)終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力に制限らしい制限がかけられていないことを知りました。
【永井圭@亜人】
[状態]: 健康
[装備]: なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2、ナノロボ入り注射器@ナノハザード
[思考・状況]
基本方針:佐藤を倒す
1.自衛隊入間基地に向かう予定を、箱庭病院へと変更するか。
2.使える武器や人員の確保。
3.雅や猗窩座といった鬼達を警戒。
4.波裸羅を上手く対主催側に誘導できないか。
[備考]
※File:48(10巻最終話)終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力に制限らしい制限がかけられていないことを知りました。
【宮本武蔵@衛府の七忍】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(小)、頬に傷。
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0~3、折れた嘴平伊之助の日輪刀@鬼滅の刃 、煉獄杏寿郎の日輪刀@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:この世にまたとない命を散らせる――鬼を討つ。
1.傷の治療をし、鬼を追う。
2.事情通の者に出会う。
3.煉獄や波裸羅から、さらに詳しく事情を聴く。
4.波裸羅に対し一騎討ちを望む。
[備考]
※参戦時期、明石全登を滅したのち。
[状態]:ダメージ(大)、疲労(小)、頬に傷。
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0~3、折れた嘴平伊之助の日輪刀@鬼滅の刃 、煉獄杏寿郎の日輪刀@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:この世にまたとない命を散らせる――鬼を討つ。
1.傷の治療をし、鬼を追う。
2.事情通の者に出会う。
3.煉獄や波裸羅から、さらに詳しく事情を聴く。
4.波裸羅に対し一騎討ちを望む。
[備考]
※参戦時期、明石全登を滅したのち。
【人吉善吉@めだかボックス】
[状態]:精神的疲労(小)、全身にダメージ(極大) 、頬に傷
[道具]:基本支給品一式、御行のママチャリ、佐藤のコルトガバメント(レッグホルスター付き)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。めだかちゃんに勝つ。
1:随分と人が集まったので、まずは今後の相談から。
2:めだかと球磨川との早期の合流。もしも殺し合いに賛同するような行動をとっていれば、自分が必ず止める。
3:波裸羅に感謝すると同時に警戒。
[状態]:精神的疲労(小)、全身にダメージ(極大) 、頬に傷
[道具]:基本支給品一式、御行のママチャリ、佐藤のコルトガバメント(レッグホルスター付き)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。めだかちゃんに勝つ。
1:随分と人が集まったので、まずは今後の相談から。
2:めだかと球磨川との早期の合流。もしも殺し合いに賛同するような行動をとっていれば、自分が必ず止める。
3:波裸羅に感謝すると同時に警戒。
【波裸羅@衛府の七忍】
[状態]:健康、胸に傷
[装備]:派手な和服
[道具]:基本支給品一式、ナノロボ入り注射器@ナノハザード、ホログラム@ラブデスター、折れた嘴平伊之助の日輪刀@鬼滅の刃、真田の六文銭@衛府の七忍
[思考・状況]
基本方針:びぃびぃの企画には現状惹かれていないが、割と愉快になってきた。
1:勝次のことは忘れぬぞ。
2:善吉の生き方が実に愉快。
3:永井圭に興味。
4:彼岸島勢に興味。すぐ隣に雅がいるなら、会ってみようか。
[状態]:健康、胸に傷
[装備]:派手な和服
[道具]:基本支給品一式、ナノロボ入り注射器@ナノハザード、ホログラム@ラブデスター、折れた嘴平伊之助の日輪刀@鬼滅の刃、真田の六文銭@衛府の七忍
[思考・状況]
基本方針:びぃびぃの企画には現状惹かれていないが、割と愉快になってきた。
1:勝次のことは忘れぬぞ。
2:善吉の生き方が実に愉快。
3:永井圭に興味。
4:彼岸島勢に興味。すぐ隣に雅がいるなら、会ってみようか。
[備考]
※第十四話以降からの参戦。
※波裸羅の食料品は他の参加者と違い、桃100個が与えられています。
※第十四話以降からの参戦。
※波裸羅の食料品は他の参加者と違い、桃100個が与えられています。
【煉獄杏寿郎@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(中)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2 日本刀@彼岸島、涼司の懐刀
[思考・状況]
基本方針:力なき多くの人を守る。
1:人吉少年、永井少年を守る。
2:炭治郎、禰豆子、善逸、義勇、しのぶとの合流。
3:無惨、猗窩座には要警戒。必ず討ち倒す。
4:日輪刀が欲しい。
5:雅のような鬼ではない存在の討滅手段を探す。
[備考]
※参戦時期は死亡寸前からです。
[状態]:疲労(中)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2 日本刀@彼岸島、涼司の懐刀
[思考・状況]
基本方針:力なき多くの人を守る。
1:人吉少年、永井少年を守る。
2:炭治郎、禰豆子、善逸、義勇、しのぶとの合流。
3:無惨、猗窩座には要警戒。必ず討ち倒す。
4:日輪刀が欲しい。
5:雅のような鬼ではない存在の討滅手段を探す。
[備考]
※参戦時期は死亡寸前からです。
3.5.
少し時は遡る。
朝日が迫り、焦る二人の鬼が人の速さを越えて疾走している。
その鬼達、猗窩座と白銀は北へ向かっていた。
北には自衛隊入間基地がある。猗窩座に自衛隊の意味は分からないが、基地なら分かる。
軍隊の拠点ならば、日の光から隠せる場所などいくらでもある。
さらに、ここへ銃器の類があると推測した者たちがやって来ることも期待できる。
朝日が迫り、焦る二人の鬼が人の速さを越えて疾走している。
その鬼達、猗窩座と白銀は北へ向かっていた。
北には自衛隊入間基地がある。猗窩座に自衛隊の意味は分からないが、基地なら分かる。
軍隊の拠点ならば、日の光から隠せる場所などいくらでもある。
さらに、ここへ銃器の類があると推測した者たちがやって来ることも期待できる。
「……俺は、何もできなかった……」
白銀が誰ともなく呟いた。人間だった頃はまず吐かなかった弱音だ。
鬼となり、人間の頃の抑制が薄くなっているが故だ。
「俺は強くならなければならないのに……」
強くならなければ、『彼女』の隣に並べない。
強くならなければ、『彼女』に■される自分になれない。
「強くなったはずなのに……」
その言葉で、猗窩座は振り向き、白銀を視線で射殺さんばかりに睨みつけた。
「思い上がるな! たかが一刻前に鬼に変じたばかりの貴様が、上弦の鬼にでも成り上がったつもりか!」
猗窩座は白銀の何に関して逆鱗に触れたのか、自分でもわからないまま、さらに白銀に対し怒鳴りつける。
「鬼殺隊ならいざ知らず、只の人間はなり立ての鬼にも勝てない。特にあの男に貴様が負ける要因など何一つなかった。
それを仕留めきれなかったのは『俺は強くなった』という貴様の驕慢のせいだ!
強くなりたいのであれば、先程の人間を必ず殺すと誓え! 奴を『己が強くなるための獲物』と考えず『己がより強く上回るための敵』と思い牙を剥け!
そうして喰らい強くなり、さらなる強者を選び、戦い、喰らえ! 『強くならなければならない』ではない! 『必ず誰よりも強くなる』と狂えるほどに力を求めろ!」
白銀の叱咤を終えると、猗窩座の心は急速に冷めていった。
白銀が誰ともなく呟いた。人間だった頃はまず吐かなかった弱音だ。
鬼となり、人間の頃の抑制が薄くなっているが故だ。
「俺は強くならなければならないのに……」
強くならなければ、『彼女』の隣に並べない。
強くならなければ、『彼女』に■される自分になれない。
「強くなったはずなのに……」
その言葉で、猗窩座は振り向き、白銀を視線で射殺さんばかりに睨みつけた。
「思い上がるな! たかが一刻前に鬼に変じたばかりの貴様が、上弦の鬼にでも成り上がったつもりか!」
猗窩座は白銀の何に関して逆鱗に触れたのか、自分でもわからないまま、さらに白銀に対し怒鳴りつける。
「鬼殺隊ならいざ知らず、只の人間はなり立ての鬼にも勝てない。特にあの男に貴様が負ける要因など何一つなかった。
それを仕留めきれなかったのは『俺は強くなった』という貴様の驕慢のせいだ!
強くなりたいのであれば、先程の人間を必ず殺すと誓え! 奴を『己が強くなるための獲物』と考えず『己がより強く上回るための敵』と思い牙を剥け!
そうして喰らい強くなり、さらなる強者を選び、戦い、喰らえ! 『強くならなければならない』ではない! 『必ず誰よりも強くなる』と狂えるほどに力を求めろ!」
白銀の叱咤を終えると、猗窩座の心は急速に冷めていった。
――何を俺はこいつに言っているのか。これではまるで人間の師と弟子の様ではないか。鬼にそんな関係は必要ないどころか有害だ。
猗窩座は自分の心を引き締め、最後に鬼の役目を言った。つもりだった。
「強くなれ、白銀。そして無惨様のお役に立て」
「強くなれ、白銀。そして無惨様のお役に立て」
――まただ。俺はこいつに何を言っているのだ? 何を見ているのだ?
その疑問は猗窩座の心の中を隙間風のように通り抜けていった。
猗窩座とは逆に、白銀の心は高揚していった。
――そうだ。必ず強くなるんだ。そうすれば胸を張って■■■に会える。
白銀の脳裏に浮かぶのはあの金髪の少年。
凡人でありながら、あそこまで鍛えた執念。命懸けの機略。
そして『おまえは俺なんだよ』という言葉。
そう、同じだ。いや違う。二つの思いが同時に浮ぶ。
だが、決めた感情は一つだ。
凡人でありながら、あそこまで鍛えた執念。命懸けの機略。
そして『おまえは俺なんだよ』という言葉。
そう、同じだ。いや違う。二つの思いが同時に浮ぶ。
だが、決めた感情は一つだ。
――次は必ず殺す!
猛烈な殺意だ。
【C-4・B-4近く/1日目・早朝】
【猗窩座@鬼滅の刃】
[状態]:全身に負傷、回復中
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3、可楽の羽団扇@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針: 強さを求める。
1.無惨様のために動く。
2.鬼殺隊、それに童磨か……。
3.新たな鬼に対して──?
4.自衛隊入間基地で日光から身を隠せる場所を探す。
[備考]
※煉獄さんを殺した以降からの参戦です。
【猗窩座@鬼滅の刃】
[状態]:全身に負傷、回復中
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3、可楽の羽団扇@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針: 強さを求める。
1.無惨様のために動く。
2.鬼殺隊、それに童磨か……。
3.新たな鬼に対して──?
4.自衛隊入間基地で日光から身を隠せる場所を探す。
[備考]
※煉獄さんを殺した以降からの参戦です。
【白銀御行@かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~】
[状態]:頭に負傷、回復中、鬼化、軽い飢餓、強い怒り
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:この力を振るって、■■の隣に。■■に■される、自分に。
1:無惨様の役に立つ。
2:人吉善吉、次に会ったら必ず殺す!
3:自衛隊入間基地で日光から身を隠せる場所を探す。
[備考]
※奉心祭の準備を視野に入れるぐらいの時期。
※無惨の血によって鬼化しました。どれだけの血が与えられたかは後続の書き手さんにお任せします。
[状態]:頭に負傷、回復中、鬼化、軽い飢餓、強い怒り
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:この力を振るって、■■の隣に。■■に■される、自分に。
1:無惨様の役に立つ。
2:人吉善吉、次に会ったら必ず殺す!
3:自衛隊入間基地で日光から身を隠せる場所を探す。
[備考]
※奉心祭の準備を視野に入れるぐらいの時期。
※無惨の血によって鬼化しました。どれだけの血が与えられたかは後続の書き手さんにお任せします。
前話 | お名前 | 次話 |
あけないたたかい | 白銀御行 | 第二回放送 |
猗窩座 | ||
永井圭 | 夜明孤島男刀競聞書(よあけのことうおとこのかたなくらべききがき) | |
宮本武蔵 | ||
人吉善吉 | ||
波裸羅 | ||
紅蓮の華よ咲き誇れ | 煉獄杏寿郎 |