FILE03「暗黒奇譚 蛇女之怪」 ◆7ediZa7/Ag
その昔。
天の浮舟に乗ってきた大蛇が女を孕ませたが、その後、山に入っていなくなってしまった。
天の浮舟に乗ってきた大蛇が女を孕ませたが、その後、山に入っていなくなってしまった。
やがて女は蛇のように手足のない、化け物のような子供を産み、
村人からひどい差別を受けた。
村人からひどい差別を受けた。
だがある日、大蛇が迎えに来て、
天の浮舟で天に去っていったという。
天の浮舟で天に去っていったという。
その大蛇をこの一帯では“へびがみさま”と呼ぶようになったという。
(暗■奇■■ 蛇女■怪)
この時三つの相すがたに分ち、顕われたる鬼女清姫、いずこより登りしともなく鐘楼にあらわる。
はなはだしき面色の蒼白は、赤き唇と小さき眼とのみありて、ほとんどなめらかなるがごとく見え、その形打ちひしがれたる蛇の首のごとく平たし。
三つの鬼女全く同じ形相にて並びつくばいたれば、左の肩よりいと長きくろ髪、石段の上に流れ横たわる。
依志子のものいうをながめてあれど、妙念もこれを背そびらにしたれば知ることなし。
はなはだしき面色の蒼白は、赤き唇と小さき眼とのみありて、ほとんどなめらかなるがごとく見え、その形打ちひしがれたる蛇の首のごとく平たし。
三つの鬼女全く同じ形相にて並びつくばいたれば、左の肩よりいと長きくろ髪、石段の上に流れ横たわる。
依志子のものいうをながめてあれど、妙念もこれを背そびらにしたれば知ることなし。
(道成寺<一幕劇>)
主なる神が造られた野の生き物のうちで、最も賢いのは蛇であった。
蛇は女に言った。「園のどの木からも食べてはいけない、などと神は言われたのか。」
蛇は女に言った。「園のどの木からも食べてはいけない、などと神は言われたのか。」
主なる神は女に向かって言われた。
「何ということをしたのか。」女は答えた。
「蛇がだましたので、食べてしまいました。」
「何ということをしたのか。」女は答えた。
「蛇がだましたので、食べてしまいました。」
主なる神は、蛇に向かって言われた。
「このようなことをしたお前はあらゆる野の獣の中で呪われるものとなった。
お前は、生涯這いまわり、塵を食らう。」
「このようなことをしたお前はあらゆる野の獣の中で呪われるものとなった。
お前は、生涯這いまわり、塵を食らう。」
(いずれも、創世記)
◇
エデンの園とでもいうべきか。
ハートと、そしてリンゴのなった樹である。
その樹は透き通るように白く、神秘的なものであったが、同時に死を思わせるものでもあった。
ハートと、そしてリンゴのなった樹である。
その樹は透き通るように白く、神秘的なものであったが、同時に死を思わせるものでもあった。
いや──正確にはこれは樹ではないのだろう。
彼、前園甲士はメガネ越しにその木をじっと見据えていた。
彼、前園甲士はメガネ越しにその木をじっと見据えていた。
「おいおい何だよ、こりゃあ」
「……自然に生えたもんって訳じゃなさそうだね、明らかに」
「……自然に生えたもんって訳じゃなさそうだね、明らかに」
その異様な姿に対して、工藤と姐切は驚きを隠せないでいるようだった。
夜が明け、三人は本格的に動き出していた。
どうも三人がいたのは位置的には島のかなり隅だったようで、とりあえず別の参加者に会うべく中央を目指していた。
そうして辿り着いたのがこの街であり、この奇妙なオブジェなのだった。
どうも三人がいたのは位置的には島のかなり隅だったようで、とりあえず別の参加者に会うべく中央を目指していた。
そうして辿り着いたのがこの街であり、この奇妙なオブジェなのだった。
「工藤、こっちじゃ妙な焦げ跡みたいなのもある」
「あん? なんだこりゃ……雷でも落ちたってのかよ」
「あん? なんだこりゃ……雷でも落ちたってのかよ」
奇妙なオブジェ以外にも、その一帯には不可思議な痕跡が残されていた。
派手に割れたガラス。焦げ付いたコンクリート。灰色の街に突如として出来上がった生命の樹。
誰もない街に刻み付けられた奇妙な痕に、三人は遭遇していたのだった。
派手に割れたガラス。焦げ付いたコンクリート。灰色の街に突如として出来上がった生命の樹。
誰もない街に刻み付けられた奇妙な痕に、三人は遭遇していたのだった。
と、そこで工藤がおもむろに地面、焦げ付いた痕に近づき出した。
「なるほどな」
「おい、工藤、触って大丈夫なのかい」
「ただの焦げ跡だ、ビビんな。ただ、まだあったけえぞ、おい」
「ふむ、それはつまり──その痕は島に最初からあったものではなく、つい先ほどつけられたものだと」
「そういうことだな、前園さん」
「おい、工藤、触って大丈夫なのかい」
「ただの焦げ跡だ、ビビんな。ただ、まだあったけえぞ、おい」
「ふむ、それはつまり──その痕は島に最初からあったものではなく、つい先ほどつけられたものだと」
「そういうことだな、前園さん」
工藤は緊張のこもった言葉と共に頷いた。
それは、明らかに“超人”に類するものの痕跡を見つけたが故の警戒も含まれているのだろうが、
それは、明らかに“超人”に類するものの痕跡を見つけたが故の警戒も含まれているのだろうが、
──興奮が隠せていないな。やれやれ、下衆なものだ。
同時に工藤自身が明確に“期待”していることも示していた。
事実、一個一個の痕跡にステルスドローンを誘導し今も撮影している。
ディレクターである彼は、この場面もどういう映像を撮るかという視点で見てしまうのかもしれない。
自身の命が危ない状況でさえ、そのようなことを考えられるのは、ある意味ですごいのだが。
事実、一個一個の痕跡にステルスドローンを誘導し今も撮影している。
ディレクターである彼は、この場面もどういう映像を撮るかという視点で見てしまうのかもしれない。
自身の命が危ない状況でさえ、そのようなことを考えられるのは、ある意味ですごいのだが。
「誰かがここで戦っていた、ということですか」
「誰かじゃねえ、こりゃバケモンだよ」
「そんな断言できるってのかい? バケモンなんてさ」
「あん? 姐切。その辺のチンピラの喧嘩でこんなもんつくと思ってんのかよ。
こんなもんができる奴はな、もう人間とは呼べねえんだよ。だったらバケモンしかありえねえだろうが」
「それは……」
「誰かじゃねえ、こりゃバケモンだよ」
「そんな断言できるってのかい? バケモンなんてさ」
「あん? 姐切。その辺のチンピラの喧嘩でこんなもんつくと思ってんのかよ。
こんなもんができる奴はな、もう人間とは呼べねえんだよ。だったらバケモンしかありえねえだろうが」
「それは……」
工藤の言葉に姐切は言葉尻を濁す。
その発言はいささか論の飛躍があるが、まぁ──間違ってはいないだろう。前園も内心で同意していた。
これは明らかに、怪物同士の戦闘の痕跡である。
その発言はいささか論の飛躍があるが、まぁ──間違ってはいないだろう。前園も内心で同意していた。
これは明らかに、怪物同士の戦闘の痕跡である。
「と、なるとバケモンとバケモンが戦った痕って訳だ。いいじゃねえか」
「何で嬉しそうなんだよ、工藤」
「ばっかお前、雷だよ? 樹だよ? コンクリ破壊だよ? 面白いじゃねえか。
絶対見つけて、取っつかまえてやる。捕獲すんぞぉバケモノ」
「あ? こんな状況で面白いだ? クソ野郎。こんな──」
「待ってください、姐切さん。ここで争っても仕方がないでしょう」
「何で嬉しそうなんだよ、工藤」
「ばっかお前、雷だよ? 樹だよ? コンクリ破壊だよ? 面白いじゃねえか。
絶対見つけて、取っつかまえてやる。捕獲すんぞぉバケモノ」
「あ? こんな状況で面白いだ? クソ野郎。こんな──」
「待ってください、姐切さん。ここで争っても仕方がないでしょう」
再び口論へ発展しそうに成ったところを前園が割って入る。
出会ってから何度も起こっていた口論であり、前園としても一々仲裁が面倒になりつつあった。
出会ってから何度も起こっていた口論であり、前園としても一々仲裁が面倒になりつつあった。
「工藤さんの言動は確かに問題がありますが、しかし近くにバケモノと呼ぶに足る存在がいるのは事実でしょう。
ならここで下手に時間をかけてしまうのは危険です」
「おい!問題ってなんだよ!」
ならここで下手に時間をかけてしまうのは危険です」
「おい!問題ってなんだよ!」
前園はふっと小さく微笑み、
「工藤さんも、例のバケモノの調査をするなら早くした方がいいのでは?
まだ遠くまで行ってない可能性があります。捕獲を狙うのなら、早く動いた方がいいかと」
「……まぁ、そりゃあな」
「それに、位置的にも──このバケモノが愛月さんを殺した、あの“鬼”である可能性もあります」
まだ遠くまで行ってない可能性があります。捕獲を狙うのなら、早く動いた方がいいかと」
「……まぁ、そりゃあな」
「それに、位置的にも──このバケモノが愛月さんを殺した、あの“鬼”である可能性もあります」
その言葉を告げた途端、姐切の表情が変わるのがわかった。
愛月しの。
先ほどの放送でその名は明確に死者として告げられた。
愛月しの。
先ほどの放送でその名は明確に死者として告げられた。
愛月しのを救えるかもしれないという、姐切のかすかな希望は絶たれたことになる。
まぁ前園としては──すでに知っていた事実なのだが──それに対して、神妙な対応をしたのがつい先ほど。
まぁ前園としては──すでに知っていた事実なのだが──それに対して、神妙な対応をしたのがつい先ほど。
「直接の戦闘は避けた方がいいかと思いますが、調査は必要です。
他にこの戦闘に巻き込まれた人もいるかもしれません」
「おう、そうだな、前園さん。ちょっくらこの辺見回ってくるか」
「…………」
他にこの戦闘に巻き込まれた人もいるかもしれません」
「おう、そうだな、前園さん。ちょっくらこの辺見回ってくるか」
「…………」
姐切は不満げに口を閉ざしていた。
その胸中のもやが晴れることは早々ないのだろうが、彼女とてここで争っても仕方がないことは理解しているのだろう。
その胸中のもやが晴れることは早々ないのだろうが、彼女とてここで争っても仕方がないことは理解しているのだろう。
「では三十分後にこの樹にて再度集合しましょう。くれぐれも、お気をつけて」
「あん? 前園さん、アンタは来ないのかよ」
「ええ、私は少々、あちらの樹を調べようかと思いまして」
「あん? 前園さん、アンタは来ないのかよ」
「ええ、私は少々、あちらの樹を調べようかと思いまして」
前園は前方に立つ巨大なオブジェを示した。
それは──ハートとリンゴの生命の樹である。
それは──ハートとリンゴの生命の樹である。
◇
──信用できないね、まったく。
夜明け直後の街を歩きながら、姐切は胸中にてこぼす。
それは共に歩く工藤に向けたものであり、あの妙なオブジェに執心している前園に向けたものでもあった。
この島で出会った大人たちは、どちらも方向性こそ違えど信用できなかった。
それは共に歩く工藤に向けたものであり、あの妙なオブジェに執心している前園に向けたものでもあった。
この島で出会った大人たちは、どちらも方向性こそ違えど信用できなかった。
この後に及んで撮影をしている工藤は論外として、前園だってどうも胡散臭い匂いがする。
腹に一体何を抱えているのか、全くわからない。
彼女は直感的に前園に対して警戒心を抱いていた。
腹に一体何を抱えているのか、全くわからない。
彼女は直感的に前園に対して警戒心を抱いていた。
──しかし、ファウストもフィオロもまだ出て来ない。ラブデスター星人とは本当に関係ないのか?
バトルロワイアルだのなんだのと言っているが、当初はまたラブデスター実験の延長だと姐切は考えていた。
閉鎖空間におけるデスゲームという状況が酷似していたことや、あのBBという女のテンションがどこかラブデスター星人に通じるものがあったからだ。
だが、ラブデスター実験における最も重要なルールであった“愛を証明すれば帰れる”というルールがここでは機能していない。
ある意味、どの参加者にも生還の目があったあのルールと違い、このゲームは直接的な暴力が物を言う場だ。
閉鎖空間におけるデスゲームという状況が酷似していたことや、あのBBという女のテンションがどこかラブデスター星人に通じるものがあったからだ。
だが、ラブデスター実験における最も重要なルールであった“愛を証明すれば帰れる”というルールがここでは機能していない。
ある意味、どの参加者にも生還の目があったあのルールと違い、このゲームは直接的な暴力が物を言う場だ。
そして、当然のように犠牲になるものもいる。
──愛月も、クソッ……! 結局何もできなかった。
ぐっと拳を握りしめる。
先ほど告げられた放送にあった愛月しのの名前。
わかっていた。あの映像や状況を考えて、彼女が生きている可能性が低いことは。
それでも一縷の望みにかけていたが、それも絶たれてしまった。
先ほど告げられた放送にあった愛月しのの名前。
わかっていた。あの映像や状況を考えて、彼女が生きている可能性が低いことは。
それでも一縷の望みにかけていたが、それも絶たれてしまった。
近くにいたのに守れなかった己の不甲斐なさに、姐切は胸が締め付けられる想いだった。
同時にはっきりと認識する。
ラブデスター実験ではいざ知らず、このゲームにおいて中学生である自分たちは明確な弱者なのだ。
信用のならない大人たちに囲まれる中、安穏としていられる余裕は一切ない。
それは姐切の他の知り合いについても同じだろう。
同時にはっきりと認識する。
ラブデスター実験ではいざ知らず、このゲームにおいて中学生である自分たちは明確な弱者なのだ。
信用のならない大人たちに囲まれる中、安穏としていられる余裕は一切ない。
それは姐切の他の知り合いについても同じだろう。
──とっとと若殿や皇城とも合流しないとね。
名簿に記されていたうち、姐切の知っている名前は五つあった。
どういう訳か載っている猛田や、今ひとつ腹の底が読めない神居はともかくとして、その二人とは早めに合流しておきたかった。
どういう訳か載っている猛田や、今ひとつ腹の底が読めない神居はともかくとして、その二人とは早めに合流しておきたかった。
──特に皇城は、アイツ……。
中でも気にかかるのは皇城ジウだった。
彼はこのバトルロワイアルに呼ばれる前、ラブデスター実験においても既に不安定なように見えた。
彼は──とにかく追い詰められていた。
実験開始直後から縁あって行動を共にしていた彼女は、彼のことがまず心配であった。
彼はこのバトルロワイアルに呼ばれる前、ラブデスター実験においても既に不安定なように見えた。
彼は──とにかく追い詰められていた。
実験開始直後から縁あって行動を共にしていた彼女は、彼のことがまず心配であった。
──愛月が死んだからって、アホなことやるんじゃないよ。
嫌な胸騒ぎがする中、姐切は黙々と街を歩いていた。
近くに危険な存在がいる可能性が高いため、道中の会話は最小限だ。
工藤もそのあたりのことはわかっているのか、警戒しつつ慎重に進んでいる。
まぁその間もドローンは確実に回るように常に見ているのだが。
近くに危険な存在がいる可能性が高いため、道中の会話は最小限だ。
工藤もそのあたりのことはわかっているのか、警戒しつつ慎重に進んでいる。
まぁその間もドローンは確実に回るように常に見ているのだが。
「……あん?」
と、そこで不意に工藤が足を止めた。
「どうしたんだ。なんかいるのか?」
「おい見ろよ姐切、あそこに変なモヤがかかってねえか?」
「おい見ろよ姐切、あそこに変なモヤがかかってねえか?」
工藤が指をさした先に姐切も目を凝らす。
人気のない閑散とした住宅街、狭く細長い道の向こうに──それは佇んでいた。
人気のない閑散とした住宅街、狭く細長い道の向こうに──それは佇んでいた。
「……a」
それは工藤のいうとおり、モヤのようなものであった。
カタチの崩れたシルエット。煙のような、影のような、奇怪なもの。
これが夜であれば、気がつかなかったのかもしれない。ただの見間違いと思えたのかもしれない。
カタチの崩れたシルエット。煙のような、影のような、奇怪なもの。
これが夜であれば、気がつかなかったのかもしれない。ただの見間違いと思えたのかもしれない。
「……aannn」
だが、そののっぺりとした“何か”は陽光に照らされ、明確に立っており──そこにいる、と認識せざるを得ない。
「おい、なんか音がしねえか?」
「ああ、工藤。これ、まるで、蛇が地面を這うような」
「ああ、工藤。これ、まるで、蛇が地面を這うような」
工藤と姐切が“何か”の異様さを、明確に認識してしまった、その瞬間──
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
──目の前に黒い影が襲いかかってきた。
数十メートル先にいたはずのそれが、まばたきをした瞬間にそこにいた。
二人は悲鳴と共に、“何か”に遭遇してしまった。
二人は悲鳴と共に、“何か”に遭遇してしまった。
◇
シャドウサーヴァント。
それはサーヴァントの残留思念であり、影のようなものとされている。
それはサーヴァントの残留思念であり、影のようなものとされている。
その成り立ちは不確かで、召喚時の失敗によるものや、英雄未満の霊体がそこに堕すという。
また──霊基を破壊されていながら、座へと帰還することの叶わなかったサーヴァントが、“何か”と結びつくことで、生まれるともされる。
また──霊基を破壊されていながら、座へと帰還することの叶わなかったサーヴァントが、“何か”と結びつくことで、生まれるともされる。
「aaaaaaaaaaaaannnnnn」
無論、工藤たちはそんなことは知らない。
彼らの中に魔術に類する分析をできるものはいなかった。
彼らの中に魔術に類する分析をできるものはいなかった。
「ttttttttiiiinnnn」
だから当然、数時間前にこの場で破壊された霊基についても、知る由はない。
清姫。
紀州道成寺の伝説にその名を刻む女。
それは、怨念によって蛇の身となり、怒りの炎ですべてを焼き尽くした怪物。
清姫。
紀州道成寺の伝説にその名を刻む女。
それは、怨念によって蛇の身となり、怒りの炎ですべてを焼き尽くした怪物。
「おい、何なんだよコイツ!」
「あ、アタイに聞くな!」
「おい、ちゃんと撮れてるか!? おうドローン仕事してんじゃねえか」
「こんな時に撮影のことを気にするな!」
「あ、アタイに聞くな!」
「おい、ちゃんと撮れてるか!? おうドローン仕事してんじゃねえか」
「こんな時に撮影のことを気にするな!」
現れた影、シャドウサーヴァントは奇怪な叫びと共に迫ってくる。
黒いモヤで形成されたそれが何であるのか掴めない。
だが明確な害意と共に、ぼっ、とその炎を一帯に撒き散らしてくるのだった。
黒いモヤで形成されたそれが何であるのか掴めない。
だが明確な害意と共に、ぼっ、とその炎を一帯に撒き散らしてくるのだった。
工藤はデイパッグから何かを出そうとごそごそとやっている。
「おい、姐切ィ! お前も前に出ろ! さっき武器やらお守りやら前園さんからもらってただろ!」
戦意満々の発言、戦う気のようだった。
──クソッ、逃げるのも難しいか。
実際工藤の判断は間違っていないだろう。
炎を撒き散らすこの怪物は、先ほど異様な加速を見せた。
あれを考えると、背中を見せることの方が危険だ。
炎を撒き散らすこの怪物は、先ほど異様な加速を見せた。
あれを考えると、背中を見せることの方が危険だ。
「舐めんじゃないよアタイを!」
姐切は先ほど前園から譲り受けた武器、苦無を握りしめて怪物へと向かっていった。
この幽霊じみた奴に果たして刃物なぞ聞くのか、と思ったがやるしかない。
先の跳躍を除けば動き自体は緩慢なので、ざくり、とその身に苦無を突き立てることは難しくなかった。
この幽霊じみた奴に果たして刃物なぞ聞くのか、と思ったがやるしかない。
先の跳躍を除けば動き自体は緩慢なので、ざくり、とその身に苦無を突き立てることは難しくなかった。
「aaaaaannnnntiiiiiiiiii」
「おい! 蛇女ァァァァァァ!」
「おい! 蛇女ァァァァァァ!」
姐切の斬撃で身悶えしている怪物に対して、今度は工藤が突進していた。
その手には何も武器らしいものを持っていない。
ステゴロか、と一瞬思ったが、
その手には何も武器らしいものを持っていない。
ステゴロか、と一瞬思ったが、
──髪だ。
姐切は気づいた。
工藤の手に何かが巻きついていると。
どうやらバッグからそれを取り出して巻きつけていたらしかった。
工藤の手に何かが巻きついていると。
どうやらバッグからそれを取り出して巻きつけていたらしかった。
確か口裂け女の髪、と工藤が言っていたものだった。
前園から譲り受けた時、それを嬉しく彼が受け取っていたのを覚えている。
姐切はそれを汚い髪だとしか思っていなかったし、そもそも口裂け女の髪という出自自体が眉唾だとも思ったが。
前園から譲り受けた時、それを嬉しく彼が受け取っていたのを覚えている。
姐切はそれを汚い髪だとしか思っていなかったし、そもそも口裂け女の髪という出自自体が眉唾だとも思ったが。
「オラァァァァァァァァァァァ!」
猛然と放たれた工藤の殴打は、確かに怪物の頰を穿ち──吹き飛ばしていた。
吹き飛ばされた怪物は、明確に苦しんでいた。
工藤に殴られた箇所を抑えながら、苦悶の声を漏らしている。
吹き飛ばされた怪物は、明確に苦しんでいた。
工藤に殴られた箇所を抑えながら、苦悶の声を漏らしている。
「aaaaaaanaananananananaaaaa!」
「おい、アレを撮るんだよドローン!
勝つのは口裂け女の呪いか! 蛇女の呪いかぁ! 世紀のキャットファイトの始まりだぁ!」
「おい、アレを撮るんだよドローン!
勝つのは口裂け女の呪いか! 蛇女の呪いかぁ! 世紀のキャットファイトの始まりだぁ!」
工藤はドローンを動かしつつ、身悶えする怪物へとカメラを向ける。
怪物はしばらくじたばたとその身を震わせていたが、不意にその身を止め、
怪物はしばらくじたばたとその身を震わせていたが、不意にその身を止め、
「……a、ぁんちんさま」
そう漏らしたのち、
「ユル、サ、ナイ」
その身を霧散させ──一直線に姐切の元へと“何か”がやってきた。
◇
工藤はこれまで「コワすぎ!」の撮影において幾度となく、その口裂け女の髪に救われてきた。
震える幽霊、河童、トイレの花子さん、四谷怪談のお岩、それぞれの怪異と相対する時、その髪は明確に呪具として作用する。
震える幽霊、河童、トイレの花子さん、四谷怪談のお岩、それぞれの怪異と相対する時、その髪は明確に呪具として作用する。
だが──忘れてはならない。
口裂け女もまた、明確な呪いであり、脅威であることを。
工藤が出会った多くの霊能力者が、その髪を「危険だ」と明確に告げていたことを。
工藤が出会った多くの霊能力者が、その髪を「危険だ」と明確に告げていたことを。
「あ? 倒したのか」
「っ……いないみたいだね」
「っ……いないみたいだね」
一瞬の視界を覆ったモヤが晴れたのち、工藤と姐切の目の前には元の住宅街が広がっていた。
蛇女の影はおらず、元の閑散とした道へと、あっけなく帰っていた。
その事実を二人の意識が追いつくまでしばらく時間がかかったが、
蛇女の影はおらず、元の閑散とした道へと、あっけなく帰っていた。
その事実を二人の意識が追いつくまでしばらく時間がかかったが、
「おいおい、すげえじゃねえか? え?」
工藤は興奮混じりの声をあげ、ドローンを見上げていた。
「今の見た? 見たよな? やべえぞこの島。やっぱりああいうバケモンがゴロゴロいんだよ。すごくない?」
「……何がすごいんだよ」
「……何がすごいんだよ」
カメラに向けて喋り出した工藤を尻目に、姐切は呆れたように声を漏らした。
はぁ、と彼女はひとまず息を吐く。
どうやらあの幽霊みたいな何かを撃退できたようだった。
はぁ、と彼女はひとまず息を吐く。
どうやらあの幽霊みたいな何かを撃退できたようだった。
一体あれが、なんであったのかはわからないが──
「ん? おい、姐切。大丈夫かよ、その目」
「あん?」
「あん?」
工藤の言葉に姐切は瞳を抑える。
──と、そこで奇妙な疼痛を覚えた。
先ほどまでなんともなかった右目が腫れていた。
触るとずきずきとした痛みが走り、異様な感覚が彼女の身に走っていた。
──と、そこで奇妙な疼痛を覚えた。
先ほどまでなんともなかった右目が腫れていた。
触るとずきずきとした痛みが走り、異様な感覚が彼女の身に走っていた。
……忘れてはならない。
工藤は確かに口裂け女の髪を使うことで、怪異から生き延びてきたが、決して怪異を祓ってきた訳ではないことを。
彼自身こそ生き残ってきたが、多くの投稿者が、その余波に巻き込まれる形で呪われ、時に帰らぬ人となった。
彼自身こそ生き残ってきたが、多くの投稿者が、その余波に巻き込まれる形で呪われ、時に帰らぬ人となった。
それも道理だ。祓える訳がない。
あの口裂け女が、そもそもの発端なのだから。
あの口裂け女が、そもそもの発端なのだから。
もう一つ。
シャドウサーヴァントは、サーヴァントの霊基が破壊されたからといって必ず現れる訳ではない。
そのカタチが、“何か”と結びつかなくては現れない。
シャドウサーヴァントは、サーヴァントの霊基が破壊されたからといって必ず現れる訳ではない。
そのカタチが、“何か”と結びつかなくては現れない。
「おい、それ、市川の時と同じ腫れ方じゃねえか?」
では、ここで清姫の殻を被って姿を見せた“何か”の正体は、果たして──
【C-3/1日目・朝】
【工藤仁@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3、ステルスドローン@ナノハザード、口裂け女の髪(強化後)@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!
[思考・状況]
基本方針:脱出はするが、「コワすぎ」も撮るに決まってんだろ
1:化け物(禰豆子)にマッチアップする別の化け物を探す
2:ステルスドローンを回して撮影する
[備考]
※参戦時期は「コワすぎ! 史上最恐の劇場版」開始前。タタリ村へ乗り込む準備中
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3、ステルスドローン@ナノハザード、口裂け女の髪(強化後)@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!
[思考・状況]
基本方針:脱出はするが、「コワすぎ」も撮るに決まってんだろ
1:化け物(禰豆子)にマッチアップする別の化け物を探す
2:ステルスドローンを回して撮影する
[備考]
※参戦時期は「コワすぎ! 史上最恐の劇場版」開始前。タタリ村へ乗り込む準備中
【姐切ななせ@ラブデスター】
[状態]:呪い、目が腫れている。
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2、蛇のお守り@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!、藤の花の毒付きの苦無@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:脱出する
1:とりあえずは工藤・前園と行動する
[備考]
※参戦時期はキスデスター編終了後
※清姫のシャドウサーヴァントとの接触で呪われました
※目の腫れ方は「コワすぎ劇場版:序章」における市川のそれと酷似しています
[状態]:呪い、目が腫れている。
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2、蛇のお守り@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!、藤の花の毒付きの苦無@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:脱出する
1:とりあえずは工藤・前園と行動する
[備考]
※参戦時期はキスデスター編終了後
※清姫のシャドウサーヴァントとの接触で呪われました
※目の腫れ方は「コワすぎ劇場版:序章」における市川のそれと酷似しています
──同時刻。
前園甲士はほくそ笑んでいた。
「やはりこの木はナノロボでできている……!」
ハートとリンゴの生命の木。
その異様な姿を見て、その表面の構造から彼は直感した。
これは、ナノロボがもたらしたものである、と。
その異様な姿を見て、その表面の構造から彼は直感した。
これは、ナノロボがもたらしたものである、と。
だからこそ、とにかくこの木を調べたかった。
工藤と姐切から一時的に単独行動を取ってでも、このサンプルを取る意味はある。
工藤と姐切から一時的に単独行動を取ってでも、このサンプルを取る意味はある。
──姐切がちょうどこのドライバーを持っていたことも運が良い。事は順調に進んでいる。
ドライバー型吸収装置に入ったナノロボを見て、前園は満足げに頷いた。
持っていた武器やお守りといったものを姐切に渡すことで、交換していたこれが早速役に立っていた。
持っていた武器やお守りといったものを姐切に渡すことで、交換していたこれが早速役に立っていた。
それはナノロボを吸収する装置であり、これさえあればサンプルを持ち歩くことができる。
なんならこのサンプルを売り払うことで30億ほど手に入る可能性もある。
その事実に彼はほくそ笑んでいたのだった。
なんならこのサンプルを売り払うことで30億ほど手に入る可能性もある。
その事実に彼はほくそ笑んでいたのだった。
ここでは正確な分析はできないので、研究施設に持ち寄っておきたい。
そう冷静に考えつつも、彼は樹から離れていく。
そう冷静に考えつつも、彼は樹から離れていく。
……リンゴの樹から、叡智の結晶たるナノロボを持ち出す彼は、さながら蛇のごとき存在であった。
【C-3・ハートとリンゴの生命の木(円城の死体)の前/1日目・朝】
【前園甲士@ナノハザード】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~3、ベレッタM92F@現実、青酸カリ@現実、
人肉ハンバーグ@仮面ライダーアマゾンズ、ナノロボット(円城)のサンプル@ナノハザード
[思考・状況]
基本方針:人を殺してでも生き残る。
1:人間よりも強い『超人』を利用して禰豆子と殺し合わせる。
2:工藤・姐切を利用する
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~3、ベレッタM92F@現実、青酸カリ@現実、
人肉ハンバーグ@仮面ライダーアマゾンズ、ナノロボット(円城)のサンプル@ナノハザード
[思考・状況]
基本方針:人を殺してでも生き残る。
1:人間よりも強い『超人』を利用して禰豆子と殺し合わせる。
2:工藤・姐切を利用する
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。
支給品解説
【ドライバー型吸収装置@ナノハザード】
姐切ななせに支給。
一見してドライバーに見えるが、これをナノホストに挿すことで確実に核を吸収することができるらしい。
またこれを自分自身に挿すことで、吸収した核の力を得られるようだ。
ただ融合後何が起こるのかは、まだ人類にはわかっていない。
姐切ななせに支給。
一見してドライバーに見えるが、これをナノホストに挿すことで確実に核を吸収することができるらしい。
またこれを自分自身に挿すことで、吸収した核の力を得られるようだ。
ただ融合後何が起こるのかは、まだ人類にはわかっていない。
【蛇のお守り@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!】
元々は禰豆子に支給されていた。
それを前園が奪い、ドライバーと交換する形で苦無と共に姐切に渡したようだ。
元々は禰豆子に支給されていた。
それを前園が奪い、ドライバーと交換する形で苦無と共に姐切に渡したようだ。
瓶に棒のようなものがつきささっている。
元とは「超コワすぎ」の世界において、川野つぐ巳の住宅の前に置かれていたものである。
「蛇女」である彼女らの性質から考えるに、
その効力は恐らく「蛇を遠ざける」ことではなく「蛇を近づける」ことである。
元とは「超コワすぎ」の世界において、川野つぐ巳の住宅の前に置かれていたものである。
「蛇女」である彼女らの性質から考えるに、
その効力は恐らく「蛇を遠ざける」ことではなく「蛇を近づける」ことである。
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