鬼と鬼と鬼 ◆3nT5BAosPA
島の中央に聳え立つ那田蜘蛛山。
その麓に広がる樹海を、人影が走っていた。
音に匹敵する速度で夜の闇を駆け抜けるそれを視認することは、余人には不可能だろう。その姿、まるで弩から放たれた矢の如し。
矢の名前は猗窩座。鬼と呼ばれる異形の上位に君臨するものである。
強さを求めて闘いの日々を送っている彼にとって、殺し合いの催しは相性が良かった。もっとも、それをあのようなふざけた女から強要されるのは癪に障ったし、自分の上に位置する鬼舞辻無惨が参加者にいることを知って驚いたが、島の各地に点在しているであろう強者との邂逅を想像するだけで、彼の血が沸き肉が躍ったのも、また事実だった。
猗窩座は速度を一切緩めることなく、木々の隙間を通過した──その時である。
その麓に広がる樹海を、人影が走っていた。
音に匹敵する速度で夜の闇を駆け抜けるそれを視認することは、余人には不可能だろう。その姿、まるで弩から放たれた矢の如し。
矢の名前は猗窩座。鬼と呼ばれる異形の上位に君臨するものである。
強さを求めて闘いの日々を送っている彼にとって、殺し合いの催しは相性が良かった。もっとも、それをあのようなふざけた女から強要されるのは癪に障ったし、自分の上に位置する鬼舞辻無惨が参加者にいることを知って驚いたが、島の各地に点在しているであろう強者との邂逅を想像するだけで、彼の血が沸き肉が躍ったのも、また事実だった。
猗窩座は速度を一切緩めることなく、木々の隙間を通過した──その時である。
「!──」
暗闇に紛れて右方から高速で飛来してきた何かを、彼が片手で捕まえたのは。
体が反応した後で、視線を向ける。握られていたのは、矢であった。
体が反応した後で、視線を向ける。握られていたのは、矢であった。
「あらあら──今の一射で仕留めたと思いましたが、掴みましたか」
矢が飛んできた方角から声がした。
顔も見えない声に対して、猗窩座は言う。
顔も見えない声に対して、猗窩座は言う。
「遠方からの不意打ちとは無粋だな。それは卑怯者や弱者がすることだ。お前のような強者には相応しくない」
猗窩座は矢を放り捨て、声がした方向に足を進めた──彼は、まだ声しか見せていない襲撃者を強者だと断定したのである。
当たり前だ。何せ、鬼の機動力をもって走っていた猗窩座の頭部目掛けて矢を放てたのだ。その時点で、相手が尋常ならざる実力の持ち主であることは疑いようもない。
それに、猗窩座の視界には相手の体から漏れ出ている闘気がはっきりと映っている。まだ姿も碌に見せていないのに、これほどまでの闘気が見えるとは──至高の領域に達していないのが不思議なほどであった。
当たり前だ。何せ、鬼の機動力をもって走っていた猗窩座の頭部目掛けて矢を放てたのだ。その時点で、相手が尋常ならざる実力の持ち主であることは疑いようもない。
それに、猗窩座の視界には相手の体から漏れ出ている闘気がはっきりと映っている。まだ姿も碌に見せていないのに、これほどまでの闘気が見えるとは──至高の領域に達していないのが不思議なほどであった。
──闘気に混ざって、血のような赤黒い澱みが見える…… もしや、それが原因で、至高の領域へと到達できていないのか?
鬼の肉体が鬼舞辻無惨の血を取り込むことで変質するかのように、まるで精神や気そのものを無理矢理に変質させたかのような──そんな、強くありながら奇妙な闘気を、襲撃者は放出している。
「惜しいな」
「? どういう意味です?」
「二重の意味でだ。一目で分かるほど歪に濁った闘気……いったい何が起きてそうなっているのか見当もつかないが、実に惜しい。もし純粋なままに練り上げられていれば、お前は至高の領域に至れていただろうに」
「? どういう意味です?」
「二重の意味でだ。一目で分かるほど歪に濁った闘気……いったい何が起きてそうなっているのか見当もつかないが、実に惜しい。もし純粋なままに練り上げられていれば、お前は至高の領域に至れていただろうに」
心の底から嘆くような口調で言って、猗窩座は続けた。
「もうひとつ惜しいと思ったのは、俺とお前が出会った『場』だ。たったひとりの生存しか許されていないこの場において、俺は未完成なお前を完成させるために、鬼になるよう誘うことさえできない。これがなんとつらいことか!」
「……ふふっ、ははははは!」
「……ふふっ、ははははは!」
猗窩座の言葉に対し、笑い声が暗闇に響いた。凡人が聞けば竦みあがるような、凄惨な笑い声だった。
「はははっ、『鬼になる』ですか。よりにもよって私にそのような誘いを持ちかけるつもりだったとは。ふふふっ、ああ可笑しい」
「? なにが可笑しい?」
「これが笑わずにいられましょうか。なにせ、この身は既に鬼に堕ちたも同然……あなたの誘いを受けるまでもないんですよ」
「? なにが可笑しい?」
「これが笑わずにいられましょうか。なにせ、この身は既に鬼に堕ちたも同然……あなたの誘いを受けるまでもないんですよ」
猗窩座は訝し気に眉を顰めた。
鬼とは鬼舞辻無惨を頂点として構成されている集団である。無惨の血を有していない鬼などいない。しかし今しがた、無惨の血の気配を微塵も感じさせぬ声の主は、自分は鬼に堕ちたも同然だと言ったのだ。その言葉が意味するのは、はたして──?
ガサリ、と草葉が揺れる音がした。
暗闇に潜んでいた襲撃者が、宵闇と木陰から姿を現した音である。
出てきたのは、意外なことに女だった。烏の濡れ羽のような黒髪で、長身の女である。とても、鬼であるようには見えない。
女の手には、先ほどの射撃で用いたのであろう弓が握られていた。
鬼とは鬼舞辻無惨を頂点として構成されている集団である。無惨の血を有していない鬼などいない。しかし今しがた、無惨の血の気配を微塵も感じさせぬ声の主は、自分は鬼に堕ちたも同然だと言ったのだ。その言葉が意味するのは、はたして──?
ガサリ、と草葉が揺れる音がした。
暗闇に潜んでいた襲撃者が、宵闇と木陰から姿を現した音である。
出てきたのは、意外なことに女だった。烏の濡れ羽のような黒髪で、長身の女である。とても、鬼であるようには見えない。
女の手には、先ほどの射撃で用いたのであろう弓が握られていた。
「それに──」
と言って、女は弓を握った手を鞄に突っ込んだ。どう見ても弓は鞄よりも大きいはずなのに、抵抗なく収納される。不思議である。
鞄から引き抜かれた手には、弓の代わりに何かが握られていた。
それは──刀だった。
五尺ほどの長さをしている、切刃造の直刀である。
鞄から引き抜かれた手には、弓の代わりに何かが握られていた。
それは──刀だった。
五尺ほどの長さをしている、切刃造の直刀である。
「──『この場』において、これ以上の会話は不要でしょう。……いえ、名乗ることくらいなら許されますか」
女は刀を下段に構えた。空から降り注ぐ月光を反射している刀は、妖しい光を纏っていた。
「私は源頼光……ああ、これは骸の真名ですね。刃が与えられし忌み名も名乗らせていただきましょうか──ライダー・黒縄地獄」
「俺は猗窩座だ」
「俺は猗窩座だ」
それが開戦の合図となった。
黒縄地獄は真下から切り上げるようにして、刀を振るう。
彼女と猗窩座の距離はかなりある。故に、その一太刀は空振りで終わるはずだった──だが。
おお! 見るがいい! 斬撃に煽られた地面が、捲れ上がっていく光景を!
森の地面をひっくり返しながら、斬撃は猗窩座目掛けて突進している!
まるで地上で荒波が発生したかの如き光景を見て、猗窩座は口元に三日月を浮かべた。
その表情に驚愕の色は無く、その姿勢に怯懦の様子はない。
迫りくる斬撃に対し、彼がとった行動は、その場で地面を踏みしめること。ただそれだけだった──震脚。
その途端、猗窩座の足元に、雪の結晶のような陣が出現した。
これぞ彼が有する鬼の異能『破壊殺・羅針』である。
起きた現象はそれだけではない。彼を中心として、大地が震え、地表に罅割れが生じたのだ。いったいどれほどの強さで踏みしめれば、斯様な光景を生み出せるのか。
刀の斬撃と震脚の衝撃が、両者の中間地点で衝突する。
その瞬間、まるで大量の火薬が爆ぜたかのような轟音が鳴り響いた。
人外のものどもの武がぶつかり合ったことで、土煙が舞い上がる。
その一瞬後、土煙の向こうから、金属の塊が突進してきた。刀の突きである。
黒縄地獄が持つ切刃造の直刀は、その形状から斬るよりも突くことに向いている刀だ(もっとも、彼女の腕力で振るわれれば、斬っても突いても相手に与える破壊が致命的なものになることは変わりないのだが。おそらく峰打ちでも、イキモノを殺すのには十分だろう)。
だから彼女は猗窩座まで接近し、一点集中の突きを放った。
それは見事なものだった。元から土煙という遮蔽物があったものの、黒縄地獄はそれを不必要に動かして気流から己の位置を感知されるようなことが無いように、繊細かつ迅速に移動したのだ。戦いというものになれていなければ、このような身のこなしはできまい。
だが、猗窩座は反応した。不可視にして回避不能であるはずの突きを、まるで知っていたかのように対応してみせたのだ。
半身の姿勢で軽く一歩横に飛び、突きを避ける。だけでなく、片脚を地面とほぼ垂直になるまで高く上げた。そのまま、先程まで猗窩座が居た位置を突いている刀目掛けて、脚を振り下ろす。このまま踏みつけられれば、刀は地面に衝突し、握り手である黒縄地獄の姿勢は大きく前屈みに崩されてしまうだろう。その隙をついて、猗窩座は彼女に戦闘不能に至る一撃を与えるつもりだった。
しかし、そのような結末には至れなかった。なぜなら、黒縄地獄は猗窩座の俊敏な回避を視認した瞬間、突きをその場で中断し、猗窩座が振り上げた脚へと刃を走らせたからだ。あり得ない絶技である。全力での突きを途中でやめ、別の技に移行するなど、人の身では到底不可能なことだ。
振り下ろされる脚と振り上げられた刃が交差する。ガッと鈍い音が響くだけだった。
相打ちに終わり、両者は互いに一歩分距離を置く。
黒縄地獄は真下から切り上げるようにして、刀を振るう。
彼女と猗窩座の距離はかなりある。故に、その一太刀は空振りで終わるはずだった──だが。
おお! 見るがいい! 斬撃に煽られた地面が、捲れ上がっていく光景を!
森の地面をひっくり返しながら、斬撃は猗窩座目掛けて突進している!
まるで地上で荒波が発生したかの如き光景を見て、猗窩座は口元に三日月を浮かべた。
その表情に驚愕の色は無く、その姿勢に怯懦の様子はない。
迫りくる斬撃に対し、彼がとった行動は、その場で地面を踏みしめること。ただそれだけだった──震脚。
その途端、猗窩座の足元に、雪の結晶のような陣が出現した。
これぞ彼が有する鬼の異能『破壊殺・羅針』である。
起きた現象はそれだけではない。彼を中心として、大地が震え、地表に罅割れが生じたのだ。いったいどれほどの強さで踏みしめれば、斯様な光景を生み出せるのか。
刀の斬撃と震脚の衝撃が、両者の中間地点で衝突する。
その瞬間、まるで大量の火薬が爆ぜたかのような轟音が鳴り響いた。
人外のものどもの武がぶつかり合ったことで、土煙が舞い上がる。
その一瞬後、土煙の向こうから、金属の塊が突進してきた。刀の突きである。
黒縄地獄が持つ切刃造の直刀は、その形状から斬るよりも突くことに向いている刀だ(もっとも、彼女の腕力で振るわれれば、斬っても突いても相手に与える破壊が致命的なものになることは変わりないのだが。おそらく峰打ちでも、イキモノを殺すのには十分だろう)。
だから彼女は猗窩座まで接近し、一点集中の突きを放った。
それは見事なものだった。元から土煙という遮蔽物があったものの、黒縄地獄はそれを不必要に動かして気流から己の位置を感知されるようなことが無いように、繊細かつ迅速に移動したのだ。戦いというものになれていなければ、このような身のこなしはできまい。
だが、猗窩座は反応した。不可視にして回避不能であるはずの突きを、まるで知っていたかのように対応してみせたのだ。
半身の姿勢で軽く一歩横に飛び、突きを避ける。だけでなく、片脚を地面とほぼ垂直になるまで高く上げた。そのまま、先程まで猗窩座が居た位置を突いている刀目掛けて、脚を振り下ろす。このまま踏みつけられれば、刀は地面に衝突し、握り手である黒縄地獄の姿勢は大きく前屈みに崩されてしまうだろう。その隙をついて、猗窩座は彼女に戦闘不能に至る一撃を与えるつもりだった。
しかし、そのような結末には至れなかった。なぜなら、黒縄地獄は猗窩座の俊敏な回避を視認した瞬間、突きをその場で中断し、猗窩座が振り上げた脚へと刃を走らせたからだ。あり得ない絶技である。全力での突きを途中でやめ、別の技に移行するなど、人の身では到底不可能なことだ。
振り下ろされる脚と振り上げられた刃が交差する。ガッと鈍い音が響くだけだった。
相打ちに終わり、両者は互いに一歩分距離を置く。
「なんだその身のこなしは! 素晴らしい! 鬼だと言われても納得してしまいそうな動きだ!」
称賛を浴びせながら、猗窩座は構え直し、拳の乱れ撃ちを放った。
一方、黒縄地獄は再び刀を振るう。雷のような直角の軌道が目立つ、奇妙な斬撃だった。
一方、黒縄地獄は再び刀を振るう。雷のような直角の軌道が目立つ、奇妙な斬撃だった。
「雷の呼吸……に近いようで、違うな。不思議な剣技だ。その勢いでもっと俺にお前の強さを見せてくれ! 黒縄地獄よ!」
猗窩座はその場から消えた。気配に気づいた黒縄地獄が見上げる。そこには、彼女の頭上を越えるように飛び上がっている猗窩座がいた。
「破壊殺・空式!」
宙に浮かぶ猗窩座の姿が、彼の拳で消え失せる。
何もない空中で撃たれた攻撃は、一瞬にも満たない速度で黒縄地獄の元までやって来た。それら全てを刃ひとつで対処すると、黒縄地獄は刀に雷を纏わせ、空中にいる猗窩座目掛けて撃った。地から天という通常とは異なる方向に向かう、幻想的な雷だった。
猗窩座は周囲の木々の中から自分の真上にまで伸びていた枝を蹴ることで、斜め方向に急激に落下。寸での所で雷撃を回避することに成功する。
何もない空中で撃たれた攻撃は、一瞬にも満たない速度で黒縄地獄の元までやって来た。それら全てを刃ひとつで対処すると、黒縄地獄は刀に雷を纏わせ、空中にいる猗窩座目掛けて撃った。地から天という通常とは異なる方向に向かう、幻想的な雷だった。
猗窩座は周囲の木々の中から自分の真上にまで伸びていた枝を蹴ることで、斜め方向に急激に落下。寸での所で雷撃を回避することに成功する。
大砲が着弾したかのような音を鳴らしながら着地した彼に、黒縄地獄は上段から大きく振りかぶる。けれども、彼女の一刀が猗窩座の頭を斬ることは無かった。
その寸前で、彼が両の掌で挟むようにして刀を止めたからである。白刃取りだ。
そこから猗窩座が何をしようとするかなど、明らかだった。刀を折る以外にあり得まい。
しかし──
その寸前で、彼が両の掌で挟むようにして刀を止めたからである。白刃取りだ。
そこから猗窩座が何をしようとするかなど、明らかだった。刀を折る以外にあり得まい。
しかし──
「…………?」
折れない。力をどれだけ込めても、折れない。
莫迦な。下等な鬼ならまだしも、上弦の力をもってしても折れない刀など、この世に存在するわけが──あり得ざる現象を体験し、意識に僅かな空白が生じた猗窩座であったが、黒縄地獄から先ほどと同じ放電の闘気を感じた瞬間、彼は刀を手放して離れた。
莫迦な。下等な鬼ならまだしも、上弦の力をもってしても折れない刀など、この世に存在するわけが──あり得ざる現象を体験し、意識に僅かな空白が生じた猗窩座であったが、黒縄地獄から先ほどと同じ放電の闘気を感じた瞬間、彼は刀を手放して離れた。
「頑丈な刀だな。これまで数えきれないほどの剣士と戦い、刀を見てきたが、そのような刀は初めて見たぞ」
「ええ、私も初めて見ました。付属していた説明書きによれば、頑丈さに主眼を置いて作られた刀で、どんな扱い方をしようと永久に折れも曲がりも、刃こぼれ一つもせず永遠に使用できるらしいですよ──その名を、絶刀・鉋。振るったことが無い刀なので、やや扱いが慣れませんが、どれだけ乱暴に扱っても壊れないというのは良いですね。羽目を外しがちな今の私にとっては、特にです」
「ええ、私も初めて見ました。付属していた説明書きによれば、頑丈さに主眼を置いて作られた刀で、どんな扱い方をしようと永久に折れも曲がりも、刃こぼれ一つもせず永遠に使用できるらしいですよ──その名を、絶刀・鉋。振るったことが無い刀なので、やや扱いが慣れませんが、どれだけ乱暴に扱っても壊れないというのは良いですね。羽目を外しがちな今の私にとっては、特にです」
二体の鬼は再び戦闘の構えに入った。
絶対に壊れない刀──その説明が真であれば、瞠目すべき性質である。しかし、猗窩座はそれが要因で自分が敗北するとは微塵も思っていない。どれだけ刀が頑丈だろうと、持ち主もそうだとは限らないからだ。
猗窩座は拳を握り、黒縄地獄は切っ先を相手に向ける。
場の緊張感が最高潮に達した、その瞬間。
黒縄地獄は駆け出し──
──猗窩座は跪いた。
絶対に壊れない刀──その説明が真であれば、瞠目すべき性質である。しかし、猗窩座はそれが要因で自分が敗北するとは微塵も思っていない。どれだけ刀が頑丈だろうと、持ち主もそうだとは限らないからだ。
猗窩座は拳を握り、黒縄地獄は切っ先を相手に向ける。
場の緊張感が最高潮に達した、その瞬間。
黒縄地獄は駆け出し──
──猗窩座は跪いた。
「!?」
予想していなかった行動に、黒縄地獄は驚き、足を止めた。
次の瞬間、遠くからやって来た何者かの気配に気づく。猗窩座はあれに反応し、跪いたのだろうか──猗窩座に似た、いや猗窩座よりも『濃い』気配が、そこにはあった。
気配がする方に首を向ける。そこには、ひとりの男がいた。波のように巻きがかかった髪型をしている、洋装の男である。端正な顔をしているが、それは怒りの感情で歪んでおり、見るものに畏怖を感じさせるものになっていた。
拙い──黒縄地獄は考える。
気配が似ていることから、猗窩座とこの男が見知った間柄であることは間違いない。つまり、ここから先はふたりを相手に戦うことになるのだ。
黒縄地獄に、猗窩座と洋装の男を同時に相手取っても勝てる自信はある──が、殺し合いが始まった序盤も序盤で、手痛い消耗をするのは避けたいところであった。
そう考えてからは早い。黒縄地獄はその場から撤退した。
次の瞬間、遠くからやって来た何者かの気配に気づく。猗窩座はあれに反応し、跪いたのだろうか──猗窩座に似た、いや猗窩座よりも『濃い』気配が、そこにはあった。
気配がする方に首を向ける。そこには、ひとりの男がいた。波のように巻きがかかった髪型をしている、洋装の男である。端正な顔をしているが、それは怒りの感情で歪んでおり、見るものに畏怖を感じさせるものになっていた。
拙い──黒縄地獄は考える。
気配が似ていることから、猗窩座とこの男が見知った間柄であることは間違いない。つまり、ここから先はふたりを相手に戦うことになるのだ。
黒縄地獄に、猗窩座と洋装の男を同時に相手取っても勝てる自信はある──が、殺し合いが始まった序盤も序盤で、手痛い消耗をするのは避けたいところであった。
そう考えてからは早い。黒縄地獄はその場から撤退した。
猗窩座は、彼女を追いはしなかった。まるで気配を遮断した暗殺者のようにその場から消えた黒縄地獄を追うのは難しい──それを抜きにしても、猗窩座が立ち上がって黒縄地獄を追うことはあり得なかった。
跪いた状態から猗窩座は動かない。跪かずにいられようか。それほどまでに、今しがた登場したのは、猗窩座にとって絶対的な存在だった──その名を鬼舞辻無惨という。
いつのまにか、無惨の気配は猗窩座の正面にあった。
跪いた状態から猗窩座は動かない。跪かずにいられようか。それほどまでに、今しがた登場したのは、猗窩座にとって絶対的な存在だった──その名を鬼舞辻無惨という。
いつのまにか、無惨の気配は猗窩座の正面にあった。
「猗窩座」
元々跪いている猗窩座が更に身を屈めてしまうほどに圧力の籠った声で、無惨は言った。
「今の戦いはなんだ。それが上弦の参の戦いか? 本来なら配下のお前を真っ先に殺すところを、有象無象の始末のために暫く生かしておいてやるつもりだったが、お前はその役割すら無理だというのか」
増す、増す、圧力が増していく。
無惨は自分が殺し合いに放り込まれた現状に強い怒りを抱いていた。
別に人を殺すことは問題ない。日頃から多くの命を奪って生きている無惨に、殺害への忌避感は皆無だ。
だが、罪人のように首輪を嵌められ、殺し合いを強制されるのは、彼にとって屈辱だった。
無惨は自分が殺し合いに放り込まれた現状に強い怒りを抱いていた。
別に人を殺すことは問題ない。日頃から多くの命を奪って生きている無惨に、殺害への忌避感は皆無だ。
だが、罪人のように首輪を嵌められ、殺し合いを強制されるのは、彼にとって屈辱だった。
「それに名簿を見てみろ。不愉快な鬼殺隊だけでなく、かつてお前が殺したと得意げに報告した柱の名前まであるじゃないか。これはどういうことだ猗窩座。元からお前には期待していなかったが、まさかここまで私を失望させてくれるとはな」
期待の光というものが全くない、失望の暗闇で出来た目で、無惨は猗窩座を見下した。
「幸いに、ここには童磨もいるらしい。お前なんかよりはいい働きを期待できるだろう」
その言葉に猗窩座はピクリと動いた。反応はそれだけだった。猗窩座がそれ以上無惨から許可されていない行動を取れば、彼の頭は粉微塵になっているだろう。
無惨の圧力を受け、全身の彼方此方の骨と肉が細かく砕けた状態で、猗窩座はただ無言で無惨の言葉を聞くだけだった。
それからしばらくして、無惨の気配は消えた。顔を上げると、そこに姿はない。
あのまま殺されなかったのが不思議なくらいだった。いつでも殺せる相手を今ここで殺す労力すら、無駄だと思ったのだろうか。その真意は分からない。
猗窩座は全身に負った負傷を回復させながら、ゆっくりと立ち上がった。
身体から滴り落ちた赤い体液が、草葉を濡らした。
無惨の圧力を受け、全身の彼方此方の骨と肉が細かく砕けた状態で、猗窩座はただ無言で無惨の言葉を聞くだけだった。
それからしばらくして、無惨の気配は消えた。顔を上げると、そこに姿はない。
あのまま殺されなかったのが不思議なくらいだった。いつでも殺せる相手を今ここで殺す労力すら、無駄だと思ったのだろうか。その真意は分からない。
猗窩座は全身に負った負傷を回復させながら、ゆっくりと立ち上がった。
身体から滴り落ちた赤い体液が、草葉を濡らした。
【D-3/那田蜘蛛山の麓/1日目・深夜】
【猗窩座@鬼滅の刃】
[状態]:全身に負傷、回復中
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針: 強さを求める。
1. 無惨様のために動く。
2.鬼殺隊、それに童磨か……。
[備考]
※煉獄さんを殺した以降からの参戦です。
【猗窩座@鬼滅の刃】
[状態]:全身に負傷、回復中
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針: 強さを求める。
1. 無惨様のために動く。
2.鬼殺隊、それに童磨か……。
[備考]
※煉獄さんを殺した以降からの参戦です。
【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:健康。強い怒り。
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針: 怒りのままに動いています。
1. この状況が気に食わない
2.配下の鬼に有象無象の始末は任せる。
[備考]
※猗窩座が煉獄さんを殺した以降からの参戦です。
[状態]:健康。強い怒り。
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針: 怒りのままに動いています。
1. この状況が気に食わない
2.配下の鬼に有象無象の始末は任せる。
[備考]
※猗窩座が煉獄さんを殺した以降からの参戦です。
【源頼光@Fate/Grand Order】
[状態]:健康。多少の疲労。
[装備]:絶刀・鉋@刀語、弓矢@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~1
[思考・状況]
基本方針: 英霊剣豪として一切合切を粛正する。
1. 鬼を二体確認したが、今戦うのは難しい。
[備考]
※源頼光ではなく、英霊剣豪七番勝負のライダー・黒縄地獄としての参戦です。
[状態]:健康。多少の疲労。
[装備]:絶刀・鉋@刀語、弓矢@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~1
[思考・状況]
基本方針: 英霊剣豪として一切合切を粛正する。
1. 鬼を二体確認したが、今戦うのは難しい。
[備考]
※源頼光ではなく、英霊剣豪七番勝負のライダー・黒縄地獄としての参戦です。
絶刀・鉋@刀語
絶対に折れず、曲がらず、錆びず、朽ちない刀。像が踏んでも壊れず、鬼の力でも壊れない。
絶対に折れず、曲がらず、錆びず、朽ちない刀。像が踏んでも壊れず、鬼の力でも壊れない。
弓矢@Fate/Grand Order
源頼光が使う弓矢。英霊剣豪七番勝負だと偉い武士を上半身ごと吹っ飛ばせるくらいの威力で撃っていた。
源頼光が使う弓矢。英霊剣豪七番勝負だと偉い武士を上半身ごと吹っ飛ばせるくらいの威力で撃っていた。
前話 | お名前 | 次話 |
Debut | 猗窩座 | 貴方の隣に立ちたくて |
Debut | 鬼舞辻無惨 | 鬼は泥を見た。鬼は星を見た。 |
Debut | 源頼光 | 獣達の夢 |