慟哭で本能もそう喰らい尽くせよ ◆aptFsfXzZw
――――おかあさん。
――――どうして、いなくなっちゃったの?
――――どうして、いなくなっちゃったの?
……おなかが、すいた。
変わった夢を見ていました。
……基本的に悪趣味なのは、多分、一花の出演している映画を見た影響からだと思います。
怖いものは嫌いなのに、家族の晴れ姿だからって、ホラー映画を頑張って見たのが、きっと思った以上のストレスだったんでしょう。
生まれてからずっと目にしてきた同じ顔、同じ姿形の姉妹が、非現実的なシチュエーションにいる光景で、認識が惑わされてしまうぐらいに。
怖いものは嫌いなのに、家族の晴れ姿だからって、ホラー映画を頑張って見たのが、きっと思った以上のストレスだったんでしょう。
生まれてからずっと目にしてきた同じ顔、同じ姿形の姉妹が、非現実的なシチュエーションにいる光景で、認識が惑わされてしまうぐらいに。
突然、知らないところに放り出されて。かと思うと、目に映る景色が変わって、見たこともない女の子から、悪魔みたいな陽気さでコロシアイを命じられて。
目の前で人を殺した首輪を取り付けられて、そして、初対面の男の子から結婚を申し込まれました。
目の前で人を殺した首輪を取り付けられて、そして、初対面の男の子から結婚を申し込まれました。
……はい、突拍子もありません。でも仕方ないじゃないですか、夢なんですから。
でも、そんなに都合の良い夢じゃありません! 本当です! 別に、知り合いに似ているとか、相手が格好良いとか全然なくて……それにとても情けなく、勝手なことを言っていて。
……夢の中では、はっきり夢だとわからなかったんです。だから、私の初めてのプロポーズがこんなのって、嫌で嫌で。
それで私も言い返していたら、また知らない無愛想な男の子が出てきて、ちょっと乱暴にですけど情けない金髪の子を落ち着かせて、可愛いおまんじゅうも分けてくれて。
でも、そんなに都合の良い夢じゃありません! 本当です! 別に、知り合いに似ているとか、相手が格好良いとか全然なくて……それにとても情けなく、勝手なことを言っていて。
……夢の中では、はっきり夢だとわからなかったんです。だから、私の初めてのプロポーズがこんなのって、嫌で嫌で。
それで私も言い返していたら、また知らない無愛想な男の子が出てきて、ちょっと乱暴にですけど情けない金髪の子を落ち着かせて、可愛いおまんじゅうも分けてくれて。
そしたら、綺麗な女の人に襲われて。それからはもう、映画みたいな大騒ぎで。私、全然ついていけませんでした。
なんだか気持ち悪い怪物まで出てきて、千翼君――えっと、無愛想な方の男の子がお父さんって呼んだら、その怪物は千翼君を殺しに来たって言って。
途中から、大きな音と一緒にいよいよ何も見えなくなって。
なのに、耳は聞こえたんですよ。情けなかった方の男の子、善逸君が急に凛々しくなったかと思うと、千翼君が人間じゃないのは知ってたとか、私達を食べたいのを我慢しているとか……まるで、ゾンビみたいに言ってて。
そんな、ゾンビみたいな千翼君を守るとか、調子のいいこと言うんです。可哀想なまま死ぬのは嫌だから結婚して、なんて私に言い寄ってきたのに。それで、場面が変わったら今度は……
なんだか気持ち悪い怪物まで出てきて、千翼君――えっと、無愛想な方の男の子がお父さんって呼んだら、その怪物は千翼君を殺しに来たって言って。
途中から、大きな音と一緒にいよいよ何も見えなくなって。
なのに、耳は聞こえたんですよ。情けなかった方の男の子、善逸君が急に凛々しくなったかと思うと、千翼君が人間じゃないのは知ってたとか、私達を食べたいのを我慢しているとか……まるで、ゾンビみたいに言ってて。
そんな、ゾンビみたいな千翼君を守るとか、調子のいいこと言うんです。可哀想なまま死ぬのは嫌だから結婚して、なんて私に言い寄ってきたのに。それで、場面が変わったら今度は……
……無茶苦茶な話ですよね。こんな、変な夢を見るなんて――やっぱりわたし、つかれちゃってたのかな。
あのね。おかあさんがいなかったあいだ、わたし、がんばったんだよ。
あんまりかしこい子じゃなかったかもしれないけど、みんなのためにおかあさんの代わりになるんだって、いっぱいいっぱいがんばったんだ。
あんまりかしこい子じゃなかったかもしれないけど、みんなのためにおかあさんの代わりになるんだって、いっぱいいっぱいがんばったんだ。
……だから、おやすみしててもいいよね?
また、こわいゆめみちゃいやだから……いつもみたいに……そのままおてて、ぎゅっとしててね。
あっ、でも、やっぱり…………
……おなかが、すいた。
おにく、たべたいなぁ。
「なんで……」
遠くで、掠れた声が聞こえた気がした。
それが己の口から漏れ出ているものだと、千翼は認識できていなかった。
いつの間にか、五月を背から落としてしまっていたことも。その目から涙が溢れていることも。
それが己の口から漏れ出ているものだと、千翼は認識できていなかった。
いつの間にか、五月を背から落としてしまっていたことも。その目から涙が溢れていることも。
「――っ、ヒィイイイイイイイイイイイヤァアアアアア!?」
頭を打ったことで軽く目を覚ました五月が、この世のものとは思えない甲高い悲鳴を上げて、それから再び昏倒したのも。
今の彼に、そんなものを気にする余裕は存在しなかったから。
今の彼に、そんなものを気にする余裕は存在しなかったから。
「なんでだよっ……」
あってはならないものが、彼の瞳に映っていたから。
「イユ……ッ!」
それは、最後の希望が潰えた痕。
目に入るヒト、アマゾン、その全てが強烈に食欲を促して来る、気の狂いそうな世界の中で。
たった一人、食べたいと感じなかった女の子。
消し去れない本能に触れないからこそ、何より欲しいと望んだ他者。
たった一人、食べたいと感じなかった女の子。
消し去れない本能に触れないからこそ、何より欲しいと望んだ他者。
その、事切れた残骸。
「なんで……!」
死の淵からアマゾンとして蘇生され、命令に従うだけの道具のように扱われながら。
あの時――一度は「楽しい」と口にしてくれた、恋しい彼女。
あの時――一度は「楽しい」と口にしてくれた、恋しい彼女。
イユのためなら。千翼のことをアマゾン扱いし、何度も何度も苦痛を伴う実験を重ねた挙げ句、他のアマゾンと殺し合わせた4Cに戻るのも――奴らに標本として殺されるのだって、受け入れようとできたのに。
それでも彼女と引き裂かれたくない一心から、遂にはあんなにも忌避した本能まで解き放ってしまったというのに。
それでも彼女と引き裂かれたくない一心から、遂にはあんなにも忌避した本能まで解き放ってしまったというのに。
千翼を人間だと思わせてくれた少女は。
いつか、千翼が寄り添えるかもしれないヒトとして、呪われていた将来への希望そのものだったイユは。
いつか、千翼が寄り添えるかもしれないヒトとして、呪われていた将来への希望そのものだったイユは。
もはや動く死体ですらなく、元に戻る見込みのない、バラバラの肉片に成り果てて――今度こそこの世を、去った。
あの日の母と同じように。千翼を、置いて。
「……なんでぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!」
黎明の夜を震わす咆哮を境に。千翼は、異形と化した。
細胞の異常な活動で生じた発熱、それによって生まれた蒸気の影から顕れたその蒼い姿は、つい先程見せたアマゾンネオの装甲された姿とも違っていた。
細胞の異常な活動で生じた発熱、それによって生まれた蒸気の影から顕れたその蒼い姿は、つい先程見せたアマゾンネオの装甲された姿とも違っていた。
そこにあったのは剥き出しとなった無数の触手、大樹の根のように太く逞しい複腕、筋繊維が膨張した肉体、棘だらけの頭部で怪しく輝く赫い両眼。
そして、獰猛な牙がずらりと並んだ大きな口腔。
そして、獰猛な牙がずらりと並んだ大きな口腔。
それこそは、人の業が産み落とした災厄の獣。
人の手に余る生命の創造、その細胞と人間が掛け合わされた半人半獣の怪物。
故に、完全にならんとヒトとアマゾンのいずれをも我が身に取り込まんとする暴食の本能に突き動かされ、同時に橋渡しとしてヒトをアマゾンへと創り替えていく最悪の生物的汚染源。
人の手に余る生命の創造、その細胞と人間が掛け合わされた半人半獣の怪物。
故に、完全にならんとヒトとアマゾンのいずれをも我が身に取り込まんとする暴食の本能に突き動かされ、同時に橋渡しとしてヒトをアマゾンへと創り替えていく最悪の生物的汚染源。
溶原性細胞のオリジナル、アマゾンネオ素体。
人類という食物を史上最も愛した生きた災害は、しかしこの瞬間だけは、その食欲さえも忘れていた。
獣は、ただ慟哭していた。
悲しみに打ち震え、感情の唸りのまま四方八方に伸びた触手が、未だ目を開けぬ五月を掠めそうになるのも構わず。
……いや、もはや、そこに五月が居ることすら、今の千翼には理解できてないのだろう。
そこに存在するのは、人としての理性を完全に喪った、アマゾンという獣そのものだったのだから。
そこに存在するのは、人としての理性を完全に喪った、アマゾンという獣そのものだったのだから。
失われたものを憐れむのではなく、ただ大切なものを喪った己が悲しいから嘆く、浅ましき獣そのもの。
腹が減れば喰い、叫びたくなれば吠え、暴れたくなれば壊すだけの存在に過ぎない。
腹が減れば喰い、叫びたくなれば吠え、暴れたくなれば壊すだけの存在に過ぎない。
怪物自身にも制御できずに吹き荒れる嵐へと、理性という枷を掛けられるものがあるとすれば、それは。
「……ッ!」
不意に怪物が、言葉にならない叫びを止めた。
癇癪のまま、辺り一面を切り刻もうとしていた触手が一斉に動きを止めると、緩慢に――何かを恐れるように、ゆっくりと本体の方へ戻り始めた。
同時に再びその体から蒸気が昇り、やがて晴れた時には、怪物の巨体は萎んでいた。
癇癪のまま、辺り一面を切り刻もうとしていた触手が一斉に動きを止めると、緩慢に――何かを恐れるように、ゆっくりと本体の方へ戻り始めた。
同時に再びその体から蒸気が昇り、やがて晴れた時には、怪物の巨体は萎んでいた。
「イユ……ごめん……っ!」
怯えたような声音で告げ、よろよろと歩を進めながら、最後は距離を測り損ねたようにして千翼は倒れ込んだ。
その手で挟み込むようにした先には、イユの頭部が転がっていた。
その手で挟み込むようにした先には、イユの頭部が転がっていた。
死者の頬には、先程見た時にはなかった新しい傷が刻まれていた。
「ごめ、ん……っ! 俺、おまえを……っ!」
制御できなかった暴虐の爪痕に、千翼はヒトの物に戻った目からまたも涙を流していた。
イユは死んだ。惨たらしく殺された。二度も。
なのに、今度も穏やかに眠らせてあげられないなんて。
イユは死んだ。惨たらしく殺された。二度も。
なのに、今度も穏やかに眠らせてあげられないなんて。
悔しくて、悲しくて、腹が立って。千翼の頭の中は混沌としていた。
それでも、少しずつ、少しずつ撹拌されていた感情の泥が沈殿して、頭が冴え渡っていくのに連れて。
それでも、少しずつ、少しずつ撹拌されていた感情の泥が沈殿して、頭が冴え渡っていくのに連れて。
嫌いな音が聞こえていることに、気がついた。
「っ!?」
ぎょっとしながら、千翼は己の腹を見た。
ドライバーを介しての変身と、感情の昂ぶりによる暴走とで。アマゾン細胞を著しく活性化させた代償が出た。
アマゾン細胞が、エネルギー源となるタンパク質の補充を求めていたのだ。
ドライバーを介しての変身と、感情の昂ぶりによる暴走とで。アマゾン細胞を著しく活性化させた代償が出た。
アマゾン細胞が、エネルギー源となるタンパク質の補充を求めていたのだ。
(こんな時でも、腹は減るのか……!)
イユが死んでも、俺は、まだ生きたいのか――っ!!
不意に、強烈な憎悪が沸き上がった。同時に、どうしようもないほどの無力感も。
相反する二つの感情のまま、千翼は自分の腹を殴った。何度も、何度も。
空っぽの腹から、嘔吐感が込み上げてきても。
相反する二つの感情のまま、千翼は自分の腹を殴った。何度も、何度も。
空っぽの腹から、嘔吐感が込み上げてきても。
だが、それを吐き出すほどの体力も千翼には残っていなかった。力尽きたように崩折れた千翼の耳に、また腹の鳴る音が聞こえた。
……今度は、少し離れたところから。
ゆっくりと振り返ると、そこにはすっかり忘れていた人物が横たわっていた。
中野五月。
吾妻善逸が命と引き換えに守った、千翼ともう一人。
吾妻善逸が命と引き換えに守った、千翼ともう一人。
……さっきあんなにたくさん食べていたくせに、まだまだ食い足りないという様子だったとんでもない女。
気を失っている今でさえも、呑気に腹を鳴らしている。
その存在を認識した途端、悲しみに浸っていた千翼の中に、強い感情が幾つも沸いてきた。
それは五月の腹の音が呼び起こした嫉妬であり、何も知らないと言わんばかりに穏やかな寝顔に催された苛立ちであり、
そして鼻腔をくすぐる血臭が齎した、抗えぬ飢餓感の増進であった。
それは五月の腹の音が呼び起こした嫉妬であり、何も知らないと言わんばかりに穏やかな寝顔に催された苛立ちであり、
そして鼻腔をくすぐる血臭が齎した、抗えぬ飢餓感の増進であった。
「そうだ……」
不意に、喉が鳴った。
肉付きの良い、まだ生きている少女を前にしてのそれが、期待に寄るものであることを――――千翼はもう、否定しなかった。
肉付きの良い、まだ生きている少女を前にしてのそれが、期待に寄るものであることを――――千翼はもう、否定しなかった。
「俺は、もう……!」
立ち上がる時、興奮でこめかみの辺りの血流の音が聞こえる気がした。
鎖骨の辺りから、頬を通って上る、人にはないはずの太い血管の脈拍も。
鎖骨の辺りから、頬を通って上る、人にはないはずの太い血管の脈拍も。
だって、当然だ。
この体が、悦ばないはずがない。
本当は、それ以外食べられないような大好物を前に、もう耐える必要がなくなったのだから。
この体が、悦ばないはずがない。
本当は、それ以外食べられないような大好物を前に、もう耐える必要がなくなったのだから。
「俺は、今度こそ……!」
今更を躊躇う理由がどこにある。
人として一緒に生きたかったイユはもう、どこにも居ない。
それでもお腹が、空くのだから。
人として一緒に生きたかったイユはもう、どこにも居ない。
それでもお腹が、空くのだから。
……千翼は柔らかな手触りの、美味しそうな手を取って。その獲物に逃げられないように、ぎゅっと握りしめた。
「もう、我慢シなくてもいいんだ――っ!」
「……おかあさん」
「……おかあさん」
目一杯口を開いて、齧り付こうとしたその瞬間だった。
捕まえた女の唇から、そんな単語が漏れたのは。
捕まえた女の唇から、そんな単語が漏れたのは。
「……そのままおてて、ぎゅっとしててね」
「――ッ!!」
「――ッ!!」
何の力もない、これから喰われるだけの上質な肉が漏らした、他愛のない寝言。
たったそれだけの物が、強大な本能に支配されつつあった千翼の理性を辛うじて呼び覚ました。
―――それこそが、彼が食人を忌避した最大の理由と通じていたから。
五月の夢の中の頼みを振り切るように、千翼は思わず手を払った。
その勢いで尻餅をついたまま、五月からイユのところにまで後ろ向きに這って飛び退る。
その勢いで尻餅をついたまま、五月からイユのところにまで後ろ向きに這って飛び退る。
興奮が、急速に冷めていくのがわかった。
目まぐるしい感情の変化に千翼自身も追いつけず、どうしようもなく疲れを覚える。
目まぐるしい感情の変化に千翼自身も追いつけず、どうしようもなく疲れを覚える。
そんな中でも、視線を逸らせばもう一度映るイユの残骸を前にして、本能よりも勢力を増した思考が駆けるのをやめられなかった。
母のこと。イユのこと。
そして、善逸のことを。
そして、善逸のことを。
チームX(キス)のメンバーだった長瀬裕樹以来、二人目の。人間のくせに、千翼を助けてくれた少年のことを。
アイツ、会った時からずっと腹が減ってたんだ。俺にはわかる。
本当は──ずっと腹が減ってるんだ、アイツ。俺たちを食べたいって、ずっと心の底では思ってたんだ。
本当は──ずっと腹が減ってるんだ、アイツ。俺たちを食べたいって、ずっと心の底では思ってたんだ。
出会ったばかりの彼は……千翼の本心を、物の見事に言い当てていた。
そんな彼は、なんと続けていただろうか?
そんな彼は、なんと続けていただろうか?
それでもアイツは我慢していた。
きっとこれまで、ずっとひどい目に遭ってきたんだろう。痛い目に遭わされてきたんだろう。
そんな音が──つらい音がアイツからはするんだ。
この世のすべてを憎んで、投げやりになってもおかしくないのに──でも、アイツは俺たちを食べようとしなかった!
きっとこれまで、ずっとひどい目に遭ってきたんだろう。痛い目に遭わされてきたんだろう。
そんな音が──つらい音がアイツからはするんだ。
この世のすべてを憎んで、投げやりになってもおかしくないのに──でも、アイツは俺たちを食べようとしなかった!
今まさに、投げやりになってしまいかけたけど。
……どうして、これまでの千翼は我慢してきたのだろう?
……どうして、これまでの千翼は我慢してきたのだろう?
人を喰うことが怖い。自分がもう人食いなのだと認めてしまえば、それがきっと、母が居なくなった真相と結びついてしまうから。
アマゾンに対する苛烈な敵意も、元を正せば真実から目を背けようとする、その後ろめたさをぶつけていたからなのだろう。
アマゾンに対する苛烈な敵意も、元を正せば真実から目を背けようとする、その後ろめたさをぶつけていたからなのだろう。
でも……それだけだと。
ここに連れて来られる前に、街中で人を食べずに我慢できた理由が出て来ない。
イユのことさえ欲しくなった己の本質が人食いだと遂に折れ、そのイユが死んで何もかもがどうでも良くなった、今更になっても。五月の零した寝言一つで思い留まれるのも、わからない。
ここに連れて来られる前に、街中で人を食べずに我慢できた理由が出て来ない。
イユのことさえ欲しくなった己の本質が人食いだと遂に折れ、そのイユが死んで何もかもがどうでも良くなった、今更になっても。五月の零した寝言一つで思い留まれるのも、わからない。
なんで……どうして、俺は。
「……そっか」
そうして必死に過去の記憶を過ぎらせて、千翼はもう一度、イユのことを振り返った。彼女への想いを確かめた。
彼女の傍に居たいと思った最初の理由と、彼女を初めて欲しいと思ったあの時の気持ちと一緒に、もう二度と、笑うことのない寝顔を見つめて。
彼女の傍に居たいと思った最初の理由と、彼女を初めて欲しいと思ったあの時の気持ちと一緒に、もう二度と、笑うことのない寝顔を見つめて。
「……俺は。母さんの育ててくれた俺として……ちゃんと、生きたかったんだ……」
そんな、極当たり前のような願いを、嗚咽とともに吐き出した。
千翼は、自分を人間だと思いたかった。だから食欲の湧かないことを最初の理由に、イユに興味を持った。
だけれど、なぜ自分を人間だと思いたかったのか。なぜ自分を、アマゾンだと思いたくなかったのか。
――傍に居る人を、傷つけたくなかったからだ。
そうすることでしか生きられないという己の宿命に、絶対に屈したくなかったからだ。
だから、食べたいと思わないイユの傍に居たくて。
好きになっても、その分食べたいと思わずに済む相手ができたことで、やっと少し気持ちが落ち着いて。
実の父に食い殺されるという悪夢を最後の記憶として抱えたまま、そこからどんなに傷が増えても気づけない、死体だから何も変えられないイユが可哀想で、なんとかしてあげたいと……母と別れて以来に、そんな人間らしいことを思うことができて。
好きになっても、その分食べたいと思わずに済む相手ができたことで、やっと少し気持ちが落ち着いて。
実の父に食い殺されるという悪夢を最後の記憶として抱えたまま、そこからどんなに傷が増えても気づけない、死体だから何も変えられないイユが可哀想で、なんとかしてあげたいと……母と別れて以来に、そんな人間らしいことを思うことができて。
「イユが居たから……俺は、なりたい俺にも少しだけ、変われたんだ……」
逆に、イユへの執着が惨劇を巻き起こし、自身も他者も傷つけ追い詰めてしまう原因ともなったが、それでも。
イユと出会わなければ、母を喪った千翼はずっと孤独なままだった。
裕樹とも、きっとあんなには話し合えなかった。
もしかすると、善逸の声を聞いても、そのまま自分の命だけを惜しんで逃げ出していたかもしれない。
もしかすると、善逸の声を聞いても、そのまま自分の命だけを惜しんで逃げ出していたかもしれない。
そうなっても何もおかしくなかった、所詮はアマゾンの身である自分を、それでも『千翼』として繋ぎ止めてくれたのが、母の愛と、イユへの恋だった。
二人が居なくなったのだとしても。人を食べてしまうのは、彼女らに感じた想いへの裏切りに他ならない。
手を握っていてくれる母親を夢見る五月を――――母に手を握られ、安心して眠っていた紛れもない人間だった頃の己を、食い殺してしまうなんてことは。
まして。命を狙って来る父しかいない自分とは違い、彼女には仲の良い数多くの肉親が居ると言うのだから、なおさらだ。
本当は…………自分がされて嫌なことを、誰にも味わって欲しくないのに。
本当は…………自分がされて嫌なことを、誰にも味わって欲しくないのに。
――そんな、欲張りな願いを許さないとばかりに。
首筋で冷たい感触を主張する金属の塊へと、千翼はそっと手を添えた。
この殺し合いで千翼たちを駒とするために、この腕のアマゾンズレジスターと同じく、有無を言わさずに付けられた物。
けれど。千翼はアマゾンズレジスターを付けられたからと言って、4Cに従ったわけではなかった。
けれど。千翼はアマゾンズレジスターを付けられたからと言って、4Cに従ったわけではなかった。
そうだ――結局は、それだけなのだ。
どんな時でも。どんな状況でも。己の生き方は、ちゃんと己で選びたい。
どんな時でも。どんな状況でも。己の生き方は、ちゃんと己で選びたい。
アマゾンを狩る道具でもなく、アマゾンとして狩られる害獣でもなく。忌むべき食人の本能を抱えながらでも、千翼という一個の人格として。
嫌でも抱えざるを得ないものに、災厄の細胞が加わったのだとしても。本当はとっくに、この身では背負えきれない重みなのだとしても。
無気力に受け入れて、そんな運命なんてものに、この心を流されたくない。
嫌でも抱えざるを得ないものに、災厄の細胞が加わったのだとしても。本当はとっくに、この身では背負えきれない重みなのだとしても。
無気力に受け入れて、そんな運命なんてものに、この心を流されたくない。
あの情けなかった善逸でさえ、頑張ったのだから。彼の信頼や……イユと。一緒に幸せになりたいと願った己の想いまで、嘘にしたくはない。
「ごめん……ごめん、イユ……俺、自分のことばっかりで」
千翼は結局、イユに何もしてあげられなかった。
彼女を利用するばかりで、彼女を本当に好きになっても、何かを始めることもできないほどに手遅れで。
彼女を利用するばかりで、彼女を本当に好きになっても、何かを始めることもできないほどに手遅れで。
「でも、俺はほんとに……おまえと、生きたかった」
ただ、自身の孤独を埋めるだけでなく。
哀しい傷を負い続けながら、その痛みを癒すどころか感じることすらできない永遠を歩む彼女を、少しでも幸せにしたかった。
哀しい傷を負い続けながら、その痛みを癒すどころか感じることすらできない永遠を歩む彼女を、少しでも幸せにしたかった。
「だから」
どんなに、もう何もかもを投げ出したくなってしまっても。
この痛みこそが……イユのために背負う痛みなのだとしたら。
千翼はあの言葉を、嘘にしたくない。
この痛みこそが……イユのために背負う痛みなのだとしたら。
千翼はあの言葉を、嘘にしたくない。
「だから……おまえと、生きられる俺であり続ける。今更でも、いつかおまえに……ちゃんと、笑って貰えるような俺として、生きるよ」
そんな――――決別の言葉とともに。千翼は、笑顔を作った。
自分が笑いたくて、笑ったわけではなく。
見えているはずのないイユに、それでも安心して欲しいという決意を表すために。
自分が笑いたくて、笑ったわけではなく。
見えているはずのないイユに、それでも安心して欲しいという決意を表すために。
しかし……これから歩むことを決めた道、その待ち受ける痛みを前に、作られた笑顔は間もなく壊れて。
何度目かもわからない涙とともに崩れた、情けない表情をイユから隠そうと、千翼は面を下げた。
何度目かもわからない涙とともに崩れた、情けない表情をイユから隠そうと、千翼は面を下げた。
「……きっと、大丈夫ですよ」
そうして肩を震わせる千翼の耳に、不意に。穏やかな声が潜り込んだ。
「あなたならきっと、大丈夫です」
まるで、在りし日の母のように暖かく。いつの間にか目を覚ましていた五月がそっと、千翼の背中を撫でていた。
「…………っ!!」
その優しい手の感触に、込み上げて来る衝動を必死に抑えながら。
己のどうしようもない身勝手さを自覚しながら、もう一度だけ千翼は、言葉にならない声を出して泣いていた。
己のどうしようもない身勝手さを自覚しながら、もう一度だけ千翼は、言葉にならない声を出して泣いていた。
◆
……五月が意識を取り戻したのは、千翼に声を掛ける少し前だった。
夢の中で、母に手を握って貰っていたはずが。急に体を伝った衝撃に感覚を乱されて、改めて目を覚ました。
夢の中で、母に手を握って貰っていたはずが。急に体を伝った衝撃に感覚を乱されて、改めて目を覚ました。
そうして自身が地べたに、乱雑に投げ捨てられたような姿勢で伏せていることに気づいたのと――未だ夜闇の濃い視界の先に、二度目の失神の前に視たモノを再び発見したことで、今の今まで夢と現を逆転して認識していたことを察した。
それと同時か、あるいはその前に。五月は、声にならない悲鳴をあげた。
それと同時か、あるいはその前に。五月は、声にならない悲鳴をあげた。
大の怖がりである五月には――黒い血に染まった、同年代の少女の生首は、刺激が強すぎたのだ。
それこそ一目で気絶して、夢の中で母親に助けを求めるほどに。
……その母だって、もうとっくに死んでいると言うのに。
それこそ一目で気絶して、夢の中で母親に助けを求めるほどに。
……その母だって、もうとっくに死んでいると言うのに。
とはいえ、流石に二度目は精神にも若干の耐性が付いたのか、またすぐに気絶することはなかった。
それで、ひと仕切り驚いたあと。見るも無残な遺体の散乱現場の、中心に倒れ込んでいた千翼の独白を聞けるまでには落ち着いて。
それで、ひと仕切り驚いたあと。見るも無残な遺体の散乱現場の、中心に倒れ込んでいた千翼の独白を聞けるまでには落ち着いて。
……彼の語る想いが何故か、五月の胸にも痛いほど響いてしまって。
イユ、と呼ばれているこの亡骸の少女に対して、千翼が抱いていた特別な感情も理解できて。
イユ、と呼ばれているこの亡骸の少女に対して、千翼が抱いていた特別な感情も理解できて。
気がつけば、五月は彼の苦しみを放っては置けなくなっていた。
出会って間もない少年に対しては、どこか歳上過ぎるような、やもすれば失礼な調子になりながらも。何故か、そうするのがちょうど良いように思えて。
出会って間もない少年に対しては、どこか歳上過ぎるような、やもすれば失礼な調子になりながらも。何故か、そうするのがちょうど良いように思えて。
やがて、千翼に拒絶された頃になって。素直に引き下がった五月は、せめて死者が安らかに眠れるように弔うことにした。
とはいえ、埋葬できるわけでもなく。きちんと整えずに燃やすのも以ての外ながら、流石に五月は飛び散った肉片に直接手を伸ばすこともできず。
結局は、五月が支給品から取り出した大きな布の中に、千翼が欠片の一つ一つを丁寧に包むのを、隣で少しだけ手伝っていた。
とはいえ、埋葬できるわけでもなく。きちんと整えずに燃やすのも以ての外ながら、流石に五月は飛び散った肉片に直接手を伸ばすこともできず。
結局は、五月が支給品から取り出した大きな布の中に、千翼が欠片の一つ一つを丁寧に包むのを、隣で少しだけ手伝っていた。
「五月」
その程度で、あまり、力になれたとは言い難いが。
「……ありがとう」
無愛想なまま、それでも千翼は感謝を示してくれた。
……おそらくは今も、例えば姉たちが、上杉風太郎を喪ってしまったような苦しみの中に違いないのに。
ああ、きっと。そんなに親しいわけでもないのに、千翼に強いシンパシーを抱いてしまう理由の一つがそれなのだろう。
彼にとって、より良い自分に変わるために何より必要だった大切な存在が、このイユという少女だったのだろうから。
彼にとって、より良い自分に変わるために何より必要だった大切な存在が、このイユという少女だったのだろうから。
もう二度と逢えない彼女との思い出を抱えて、なお進もうとする彼の姿が。その痛みを、ほんの一部でも想像できてしまえる五月には、妙に眩しく思えていた。
(母さんの育ててくれた自分として――ちゃんと生きる、か……)
……母を亡くした五つ子が、変われる手助けをしてくれる人。
彼と出会って、自分たち五つ子も、少しずつ変わり始めたけれど。
果たして自分は。育ててくれた母のように、皆を教え導くちゃんとした人間になりたいのか。あるいは……
彼と出会って、自分たち五つ子も、少しずつ変わり始めたけれど。
果たして自分は。育ててくれた母のように、皆を教え導くちゃんとした人間になりたいのか。あるいは……
それすらきちんと見据えられていない五月にとっては、大切な出会いを確かに糧とした千翼の決意は、ただの他人事として流せる物ではなかったのだ。
(……とはいえ、いつまでも物思いに耽っている場合ではありませんでした)
残された僅かな学生生活の中で、将来のことを考えすぎる、ということは本来あり得ないが。
あり得ないが、今自分たちが置かれているこの環境こそがあり得ないものであることを改めて意識した五月は……このまま避けては通れない課題へ取り組む覚悟を決めた。
「千翼君。ところで――」
イユを包んだ布をディパックに。唯一残された、彼とお揃いの腕輪を自身に装着したことで一段落した千翼の精神が、明らかな疲労から幾ばくか回復した様子を目にして。
五月は自身が意識を取り戻してから、未だ確かめられていなかった事柄について、触れて行くことにした。
五月は自身が意識を取り戻してから、未だ確かめられていなかった事柄について、触れて行くことにした。
「善逸君が居ないのは、どこかで別れたから……ですか?」
「善逸は…………」
「善逸は…………」
千翼がどこか、口にし辛そうに言い淀むのを見て――五月は静かに息を呑んで、衝撃に備えることにした。
「……善逸は、死んだよ」
「…………っ」
「…………っ」
繰り出される覚悟をした上でも、その言葉は重すぎた。
「俺と、五月を守るために。あの女に殺された」
「……やっぱり、そうなのですね」
「……やっぱり、そうなのですね」
あって欲しくなかった事実を、五月は自分でも意外なほど冷静に認められた。
もしも先に、ここで遺体を見ていなければ。千翼の深い悲しみを見て、逆に心が落ち着いていなければ。きっと、予想することすら忌避しただろうけど。
まだ、はっきりとした実感が伴ってはいないとはいえ。変に目を背けることなく、五月はその喪失を受け入れることができた。
もしも先に、ここで遺体を見ていなければ。千翼の深い悲しみを見て、逆に心が落ち着いていなければ。きっと、予想することすら忌避しただろうけど。
まだ、はっきりとした実感が伴ってはいないとはいえ。変に目を背けることなく、五月はその喪失を受け入れることができた。
「私……彼に、何のお礼も言えませんでした」
「……俺もだ」
「……俺もだ」
五月の故人を惜しむ声に、千翼も同調した。
最初は、生まれて初めて見るぐらいみっともなくて、頭の悪い人間だと思っていたけれど。
夢の中で、夢だと思っていた善逸の姿や声。五月を背に庇って果敢に敵へと立ち向かい――千翼の父であるという怪物や、恐ろしい和服の女性から千翼を逃がそうとした、その勇ましく立派な顔もまた、真実の彼だったのだ。
夢の中で、夢だと思っていた善逸の姿や声。五月を背に庇って果敢に敵へと立ち向かい――千翼の父であるという怪物や、恐ろしい和服の女性から千翼を逃がそうとした、その勇ましく立派な顔もまた、真実の彼だったのだ。
本当に、何の縁もない。殺し合うために集められ、出会ったばかりの自分たちのために、文字通り命を懸けた。
そんな彼の頑張りを、何一つ労うこともできないまま、その機会は永遠に失われてしまった。
そんな彼の頑張りを、何一つ労うこともできないまま、その機会は永遠に失われてしまった。
「だから……せめて善逸が守った五月には、あいつが恥ずかしいやつなんかじゃなかったって、ちゃんと伝えたかった」
「……はい。よく、伝わりました」
「……はい。よく、伝わりました」
不器用ながらも、義理堅い千翼の優しさに応えるように。彼を守った善逸の意志が、間違いなどではなかったことを、認めるように。五月は丁重に頷いた。
その様を見て、千翼も肩の荷が下りたように、深く深く息を吐いた。
その様を見て、千翼も肩の荷が下りたように、深く深く息を吐いた。
「よかった」
腹の底から安心したようにして、千翼が呟いた。
「だけど………………俺は今から、その善逸を裏切ることになる」
その感情を噛みしめるように目を閉じていた少年は、しかし再び瞼を開いた時には、それまでとは違う輝きを、その瞳の中に宿していた。
「――えっ?」
「……ごめん」
「……ごめん」
事態の推移について行けず、五月が呆けた声を漏らした時には。
千翼の腰には、先の争いでも取り出していた、奇妙な機械が巻かれていた。
千翼の腰には、先の争いでも取り出していた、奇妙な機械が巻かれていた。
「アマゾン」
その言葉を合図に――機械を操作した千翼の体から、強烈な水蒸気が放たれた。
「――っ!?」
それは、爆風となって五月の体を吹き飛ばし――――夜の湿気た土の上に、何度目かになる尻餅を付かせた。
驚愕と痛みに閉じた目を見開いた時。そこに居たのは、無愛想ながらも整った顔立ちをした少年ではなく――彼の父だと言われていた怪物にも似た雰囲気の、機械製の装甲で全身を包み、仮面にその素顔を隠した蒼い怪人で。
映画や何かのように。千翼の変身した姿だと直感できたそいつが、腕から剣を生やしながら、こちらに向けて歩み出す姿だった。
驚愕と痛みに閉じた目を見開いた時。そこに居たのは、無愛想ながらも整った顔立ちをした少年ではなく――彼の父だと言われていた怪物にも似た雰囲気の、機械製の装甲で全身を包み、仮面にその素顔を隠した蒼い怪人で。
映画や何かのように。千翼の変身した姿だと直感できたそいつが、腕から剣を生やしながら、こちらに向けて歩み出す姿だった。
「ちっ……千翼君、何のつもりですか……っ!?」
動揺と、混乱と、そして恐怖に足がもつれて、立ち上がれないまま。五月は声を引きつらせながらも、何とか詰問を繰り出した。
それと同時。先程まで見ていた夢の中で、夢だと思っていたことこそが現実であったことを思い出し――二重の意味で考えたくない可能性を、それでも五月は口走ってしまった。
それと同時。先程まで見ていた夢の中で、夢だと思っていたことこそが現実であったことを思い出し――二重の意味で考えたくない可能性を、それでも五月は口走ってしまった。
「まさかlっ……まさか、私をっ、食べ――」
「食べない。絶対に」
「食べない。絶対に」
五月の恐怖を否定したのは、静かな声だった。
だが、五月にも、誰にも有無を言わさないだけの決意が、そこには込められていた。
だが、五月にも、誰にも有無を言わさないだけの決意が、そこには込められていた。
「俺は、人は喰わない。人を食べたら俺はもう、イユと一緒に居たいと思った俺じゃなくなる」
人間ではない、ヒトを喰らう存在であることを隠そうともせず、しかし千翼はその生き方を否定した。
「じゃあ――」
だが。では。善逸を裏切るという言葉の意味は。
五月への謝罪と、明らかな戦うための形態へと変身したその理由は、果たして――
五月への謝罪と、明らかな戦うための形態へと変身したその理由は、果たして――
「だから……ただ、殺すだけだ」
微かに声を震わせながらも、明瞭に。千翼は戸惑う五月へとそう告げた。
殺す、と。
無愛想でも優しいはずの千翼の口から、食べて生きるためですらなく、ただ殺すだけだと。
なぜ、どうして――そんな疑問が、瞬時に五月の頭を埋め尽くす。
だが、いくら頭の悪い五月でも。何が彼をそこまで追い詰めたのか、すぐに察することができた。
だが、いくら頭の悪い五月でも。何が彼をそこまで追い詰めたのか、すぐに察することができた。
「……俺は生きたい。イユと一緒に! だから戦う……戦って、イユを生き返らせる! 今度こそ、あいつと一緒に笑えるように!」
血を吐くような勢いで、千翼は願いを叫んだ。
その姿に対し、心に息苦しさを覚える五月と同じように。痛みを堪えるように両肩を震わせて、少年は続ける。
その姿に対し、心に息苦しさを覚える五月と同じように。痛みを堪えるように両肩を震わせて、少年は続ける。
「だから、俺はこの殺し合いで優勝する。食べたいからじゃない! イユを生き返らせるために、善逸の友達も……俺の、父さんも……」
己の欲望で人を傷つけるという選択の痛みに、声を揺らしながらも。
遂に千翼は、表情を隠す仮面の奥からその名を言い放った。
遂に千翼は、表情を隠す仮面の奥からその名を言い放った。
その肉体を囚え続けるアマゾンの本能ではなく――他ならぬ『千翼』自身の、理性に従って。
「……五月、おまえも――みんな、俺が殺す」
狩りではなく――殺人が、開始された。
【E-6/1日目・黎明】
【千翼@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:ひどい空腹、全身に軽傷、心身ともに疲労(中)、仮面ライダーアマゾンネオに変身中、イユへの強い想いと人を食べない鋼の決意、自己嫌悪
[道具]:基本支給品一式、万能布ハッサン@Fate/Grand Order(※イユの亡骸内包済)、ネオアマゾンズレジスター(イユ)@仮面ライダーアマゾンズ、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:イユの痛みになって、一緒に生きる明日を目指す。
1:イユを生き返らせるために優勝する。そのために全員殺す。
2:イユと一緒に生きられる自分であり続けるために、絶対に人は食べない。
3:…………善逸、五月。ごめん。
[備考]
※参戦時期は10話「WAY TO NOWHERE」
※人肉を食すことで、自分の人格が変わり願いに影響が出てしまうことを強く忌避・警戒しています。
[状態]:ひどい空腹、全身に軽傷、心身ともに疲労(中)、仮面ライダーアマゾンネオに変身中、イユへの強い想いと人を食べない鋼の決意、自己嫌悪
[道具]:基本支給品一式、万能布ハッサン@Fate/Grand Order(※イユの亡骸内包済)、ネオアマゾンズレジスター(イユ)@仮面ライダーアマゾンズ、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:イユの痛みになって、一緒に生きる明日を目指す。
1:イユを生き返らせるために優勝する。そのために全員殺す。
2:イユと一緒に生きられる自分であり続けるために、絶対に人は食べない。
3:…………善逸、五月。ごめん。
[備考]
※参戦時期は10話「WAY TO NOWHERE」
※人肉を食すことで、自分の人格が変わり願いに影響が出てしまうことを強く忌避・警戒しています。
【中野五月@五等分の花嫁】
[状態]:空腹、全身に軽傷、ダメージ(小)、リアルに生首を見て失神しながらなお肉を食べたくなる鋼のメンタル
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしたくない。
0:千翼君……っ!
1:殺されたくない。
[備考]
※参戦時期、未定。下田さんと出会った後のようでもありますが、詳しくは後続に任せます。
[状態]:空腹、全身に軽傷、ダメージ(小)、リアルに生首を見て失神しながらなお肉を食べたくなる鋼のメンタル
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしたくない。
0:千翼君……っ!
1:殺されたくない。
[備考]
※参戦時期、未定。下田さんと出会った後のようでもありますが、詳しくは後続に任せます。
【支給品紹介】
万能布ハッサン@Fate/Grand Order
呪腕のハサンからのバレンタインのお返し。
マントにも毛布にもカーテンにもローブにもなる、
ハサンが愛用している万能布。
新品なのでとても綺麗。スマホも磨ける。
万能布ハッサン@Fate/Grand Order
呪腕のハサンからのバレンタインのお返し。
マントにも毛布にもカーテンにもローブにもなる、
ハサンが愛用している万能布。
新品なのでとても綺麗。スマホも磨ける。
ネオアマゾンズレジスター(イユ)@仮面ライダーアマゾンズ
アマゾンズレジスターと同じく、アマゾンの本能を抑制する薬液が充填された腕輪。 鳥の顔のような形状をしている。
嘴状の部分がスイッチになっており、押すことでアマゾン細胞を活性化させる簡易版アマゾンズドライバーのような機能も持つ。
また、イユの物にはいざという時に彼女を破壊する廃棄システムが仕込まれている。千翼は右腕に装着中。
アマゾンズレジスターと同じく、アマゾンの本能を抑制する薬液が充填された腕輪。 鳥の顔のような形状をしている。
嘴状の部分がスイッチになっており、押すことでアマゾン細胞を活性化させる簡易版アマゾンズドライバーのような機能も持つ。
また、イユの物にはいざという時に彼女を破壊する廃棄システムが仕込まれている。千翼は右腕に装着中。
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どうにもならない事があっても幸福な君を守ってあげる | 千翼 | 悲しみは仮面の下に |
中野五月 |