痕跡霊の説明

The Vestiges

実在が現実を定義する。
ゆえに、その他には“無”しか存在しない――真空の空間でさえも。
この反論しようがない単純な推論は、痕跡霊の実在には適用されない。
どこでもない場所から力を呼び出し、無から構成されたこれらの存在は、完全に現実世界の黄金律の範疇外に存在している。
それらは触れることも、その寄って来たるところを辿ることもできず、それらを定義したり制限したりしようというあらゆる試みを超越している。
この哲学的な謎かけは、何世紀もの間、契約魔法に関心を持つ賢者たちの興味をそそっており、また彼らの理論のことごとくに逆らっている。
痕跡霊は全く存在しえないにも関わらず、そこに存在しているように見えるのである。

学者たちの中には、痕跡霊は低俗な神話の類に過ぎないと言う者もいる――それらは実際には存在してはいないが、すべての者たちの精神の中に固有に存しているというのだ。
あるいは、それらは真の精神体であるという者もいる――神々の間の協定のために、どんな魔法によっても到達不可能などこかの次元界へ追放された魂だというのだ。
真実が何であれ、他のクリーチャーの視点から見る限りにおいて、痕跡霊は現実世界に必死に関与したがっているように見える。


痕跡霊の選択

Choosing a Vestige
バインダーの中には1つの痕跡霊に献身したり、哲学的あるいは個人的な嗜好に基づいて痕跡霊を選択する者もいるが、大部分の者は呼び出すことができるすべての痕跡霊の中から自由に選択している。
どの痕跡霊を招来するのか選択する際、バインダーはいくつかの要因を熟考しなければならない。
ほとんどの場合、この決定はその日に必要とされるだろうと彼が考える事柄に大きく依存する。
バインダーは、ウィザードが呪文を準備する際にしなければならないのと同じように、自らのその日の行動を予測しなければならない。
バインダーの中には、その日に起こる出来事がもっとよく分かるまで、痕跡霊を招来するのを待つ(あるいはいくつかは招来し、いくつかは招来を待つ)者もいるが、そのようにすると、重大な場面において痕跡霊による特別なパワーを持たぬまま対峙しなければいけないというリスクに見舞われる可能性がある。

その日の必要に加えて、バインダーは痕跡霊の徴候と影響についても注意を払うべきである。
バインダーは、一般的にそれほど害にならない影響を持つ痕跡霊を選択するか、彼が容易に制御できるものを選択することによって、痕跡霊の影響が引き起こしかねない潜在的な厄介事を軽減することができる。
加えて、バインダーはその選択を行なう際に、自らの能力についても考慮しなければならない。
彼は特定の痕跡霊を呪縛しているときに特にその性能を強化し得る特技、魔法のアイテム、マルチクラスによる別のクラス、その他の能力を持っているかもしれない。


契約を結ぶ

Making a Pact
招来された痕跡霊は、その召喚者と契約を結ぶことにしか興味がない。
契約が結ばれるや否や、痕跡霊は消え去り、バインダーが抑制していないなら、その徴候を示す。
いったん契約が結ばれたなら、契約は破棄することができない。
バインダーと痕跡霊のどちらも、その契約期間が終了する前にその関係を終了させることはできない。
ただし、バインダーが“痕跡霊排斥”の特徴を修得している場合にはその限りではない。

ときおり、痕跡霊はバインダーが呪縛の過程を開始する前に他の事柄について話しかけてくるかもしれないが、そのようにしようという意志は、完全に気まぐれなものである。
しかし、そうした会話で得られる情報は疑わしいものである。
痕跡霊は当てにならない情報源であることで悪名高い。
彼らは自らの生前のこと以外のいかなることも思い起こしているようには見えず、そうした生前の記憶ですら、しばしば混乱し正確さに欠けている。

バインダーにとって自らをより魅力ある存在にするために、痕跡霊はしばしば自らが実際に知っている事よりもずっとたくさんの知識を有しているような振りをする。
実際、中には未来を見通したり、遥か彼方の地で現在起こっている出来事を観察したりできると主張する痕跡霊すら存在する。
痕跡霊に真実を話すよう強制したり、嘘をついているかどうかを判別したりすることは不可能である。
痕跡霊はアンティマジック・フィールドを除くあらゆる呪文に完全耐性を有しており、彼らに対する【判断力】〈看破〉判定は常に失敗するためである。

しかしながら、たとえそうであっても、バインダーの中には痕跡霊と整然と話し合う者もいる。
与えられる情報が当てにならないものだとしても、ときに、その中に真実へつながる出発点となりうる類似が存在することがあり、奇妙な偶然の一致が含まれることがあるためである。
何年にも渡って、さまざまな痕跡霊たちに彼らの起源について質問を繰り返した結果、それぞれの痕跡霊について同一個体であるのにさまざまに異なった物語が出てきたが、それでも、痕跡霊の伝説を集めているバインダーの学者たちは、それらに共通する要素を収集し、真実性を調査研究することに精通していった。
このようにして、個々の痕跡霊の歴史は最低限の信憑性を得るまでに至っている。


複数の痕跡霊

Multiple Vestiges
バインダーが力を付けてくると、彼は同時に複数の痕跡霊を呪縛する方法を学ぶ。そのようにする際、彼はそれぞれの痕跡霊について、個別に秘文を描き、契約を結ばなければならない。
複数の痕跡霊を呪縛している間、彼はそれらから与えられるすべてのパワーを獲得することになる。
バインダーはそれぞれの痕跡霊の徴候を(彼がそれを抑制していない限り)その身に表すことになり、呪縛判定に失敗すれば複数の痕跡霊の影響を被る危険性がある。
もし複数の痕跡霊を呪縛しているなら、その内のどれかひとつの影響を無視するだけでペナルティを被る。


痕跡霊の説明

Vestige Descriptions
この項ではバインダーが利用できるすべての痕跡霊について説明する。
痕跡霊のさまざまな要素については下記の形式で記載する。

名前

Name
それぞれの説明文の冒頭は、その痕跡霊について知られている痕跡霊の名前と渾名が記されている。

痕跡霊レベル

Vestige Level
それぞれの痕跡霊は痕跡霊レベルを有している。1~5レベルの痕跡霊を招来しようとしているクリーチャーは、その痕跡霊レベルに等しいかそれ以上のレベルのウォーロックの契約魔法の呪文スロットを消費しなければならない。
すべての痕跡霊は現実世界を経験したいと望んでいるが、いくつかは他のものよりも虚無の世界のずっと遠くに存在しており、コンタクトが困難となっている。
下級の痕跡霊と長く会合を行なうことを通して、バインダーはより非実在に近い位置に存在するより強大な実在を招来することが望めるようになるのである。

6レベルを超える痕跡霊は単純に呪文スロットを消費するのではなく、バインド・グレーター・ヴェスティジ呪文を発動した上で初めて呪縛することができる。

伝説

Legend
説明文のこの項には、それぞれの痕跡霊に関連する起源伝説が述べられている。
バインダーの学者たちは、一般大衆の間に広まっている類似の伝説が彼らの主張を裏付けるものであると指摘しているが、これらの経歴は大部分が出典の怪しい代物であり、バインダーたちにだけ知られているものである。
それぞれの伝説が依って立っている歴史的情報は、何年もかかって彼らに関する情報を質問し続けて収集してきたものである。
この項に説明されている伝説は、最も広く受け入れられている話を記載したものであるが、契約魔法の魔道書には様々に異なった仮説が掲載されている。
何らかの証拠を提示することができるかもしれない宗教的組織や世俗の権威機関は、一般的に、痕跡霊がそれらと関わる者を堕落させる不浄にして呪われた存在であると主張するか、そのクリーチャーの存在を完全に否定するかのどちらかによって、それらの存在をなおいっそうはっきりしない状態にする。

特殊条件

Special Requirement
もし痕跡霊が、招来するにあたって何らかの特殊な必要条件を課すのであれば、次の項にそれが記載されている。
特殊条件は個々の痕跡霊の性質に応じてさまざまであり、幅広い。
たとえば、ある痕跡霊はその秘文を特定の場所で描くことを必要とするかもしれないし、またバインダーに何か決まったアイテムを所持しているか、何かの特性を有していることを求めてくるかもしれない。
もしバインダーが痕跡霊の課す特殊条件を満たせないなら、招来されても発現せず、呪縛の試みは失敗に終わる。

霊の発現

Manifestation
異なる痕跡霊は異なる形態を取るが、すべての発現は(目に見えるようになる)、秘文の上に浮遊する影像として出現する。
出現する影像は超常的な産物である――この幻術は解呪することはできないが、アンティマジック・フィールドの中では消失する。
この幻術のいくつかの要素(霧の筋など)は、秘文の境界線を越えて10フィートまで伸びることがありうるが、痕跡霊自身は決して秘文の上の範囲からは出ない。
痕跡霊や契約を結ぶ過程から生じる騒音は、その音量に応じて通常通りに聞きつけられることがある。

徴候

Sign
痕跡霊と契約を結んだバインダーは、それを自らの魂に呪縛することになり、それによって、痕跡霊が現実を体感するための導管と化す。
この強力な絆はいかなる魔法によっても引き裂くことはできない――アンティマジック・フィールドですら、それを抑制するだけである。

この完全なる連結は、この項に記載されているように、バインダーの外見上に、個々の痕跡霊に応じた独特の肉体的徴候として発現することになる。
この徴候は幻術や変身効果ではなく、現実の変化として現れるため、トゥルー・シーイングでバインダーを見ている者にもそのままの通りの姿に映ることになる。
この徴候は超常効果であり、それゆえアンティマジック・フィールドなどによって呪縛が抑制されているときには、それも抑制される。

バインダーは通常の手段や魔法的手段をもって徴候を隠すことができる。
さらに、“上手な契約”を結んだ場合、バインダーは痕跡霊の徴候を見せるかどうかを選択できる。

影響

Influence
この項では、呪縛判定に失敗して“下手な”契約を結んだバインダーに対し、その痕跡霊が課す影響を説明している。
痕跡霊の影響はバインダーの人格や感情に絶えず影響を与え続ける。
加えて、その痕跡霊はバインダーに何らかのアクションを取る(あるいは繰り返し行なう)ことを要求するかもしれない。彼に影響を与えている痕跡霊の要望を無視したバインダーは、その痕跡霊を解き放つまですべての攻撃ロール、セーヴィング・スロー、そして能力判定に“不利”を被る。

付与能力

Granted Abilities
痕跡霊が付与する超常的な能力は説明文のこの項に記載されている。
これらの超常的な能力には下記のルールが適用される。

  • 痕跡霊のすべての能力は魔法的なものであるため、アンティマジック・フィールド内では抑制される。
  • 付与能力を使用するとき、その能力の説明に彼が精神集中しなければならないと記載されているか、その能力の使用の説明文から明らかである場合(バインダーの目から光線が発射されるときなど)を除き、外観上は何の徴も発しない。
  • セーヴィング・スローを要求するが、何ら目に見える効果を伴わない超常的な能力の対象となった場合、目標となった者は敵対的な力や何となくぞくぞくとした感覚を受けるものの、必ずしもその攻撃の発生源や性質に気付くというわけではない。
  • バインダーの超常的な能力によって作られた効果は、痕跡霊がバインダーから去ったときや、呪縛中にバインダーが死んだときには終了する。
  • 痕跡霊の付与能力に対するセーヴィング・スローの難易度はウォーロック呪文に対するセーヴィング・スロー難易度と同じである。
  • 痕跡霊の付与能力による呪文攻撃においては、ウォーロック呪文の呪文攻撃修正値を用いる。


痕跡霊一覧

表:レベルに応じた痕跡霊
痕跡霊レベル 痕跡霊 呪縛難易度 特殊条件
1 アモン 15 あり
1 エイム 15 なし
1 ナベリウス 15 あり
1 ルノーヴ 15 あり
1 レラージ 15 あり
2 サヴノック 17 あり
2 ダールヴァーナール 17 あり
2 ハージェンティ 17 あり
2 マルファス 17 なし
3 アンドロマリウス 19 あり
3 カーサス 19 あり
3 パイモン 19 なし
3 フォケイラー 19 あり
4 アガレス 21 あり
4 アスタロト 21 あり
4 アンドラス 21 なし
4 カビリ 21 あり
4 テネブロウス 21 あり
4 ブエル 21 あり
4 ユリュノーム 21 あり
5 アセレラック 23 あり
5 アティアクス 23 なし
5 ゲリュオン 23 あり
5 ダンタリオン 23 なし
5 バラム 23 あり
6 チュポクロプス 25 あり
6 ホーレス 25 なし
6 アイポス 25 あり
6 シャクス 25 あり
6 ザガン 25 あり
7 エリゴール 27 なし
7 アンシティフ 21 あり
7 マルコシアス 27 あり
8 オルトス 29 あり
8 ハルファクス 29 あり


最終更新:2021年02月07日 18:00