ラリッサの日誌「ゾツィラハの牙の内部」

ゾツィラハの牙の内部
幸日月の第6日、CY593年
私はタナロア村の原住民たちと同行してのネクステピウア、ゾツィラハの牙として知られる双子の火山の内の1つへの旅から戻ってきた。タナロアの村人たちは、彼らのコウモリの神カモゾッツの怒りを静めるため、毎年巡礼を行なっている。私は隣人のオーマン人たちへの善意を見せるための旅に同意し、彼らとの相互交易を確立するというヴェリクの目的を助けたいと思っていたのだ。
その“牙”は堂々たる威容を誇っており、目のくらむような高さを持ち、周囲の風景が小さく見えてしまう。その高みから黒く刺すような煙の柱が立ち昇っているのが何マイルも彼方からも見ることができ、灰と屑とで空気を汚している。くぐもった轟音が山頂の下深くからごろごろと響いて来て、世界の内臓の信じがたいほどの活動を示唆している。“牙”の周囲の平原は蒸気を噴出しており、鉱滓と膝の深さまで積もった灰でいっぱいで、山頂近くの地表は溶岩の通り道で穴だらけである。流れ出したマグマが地下水脈とぶつかっている証拠がいくつも見受けられ、深い噴気孔や裂け目から有毒なガスが噴き出している。原住民たちがこの地を恐れるのも無理はない―彼らは常に火山の爆発の危険に晒されながら生活しているのだ。
タナロアの村人たちは、火山の神聖なる狒狒(バブーン)の守護者たちが彼らの巣穴へ帰って行く夜更けまで、我々は待たなければならないと説明してくれた。狒狒たち―雑食性で危険な飢えた連中だ―は惨憺たる生活をしており、乏しい植生で生存し、周囲の数少ないよどんだ雨水の水溜りに押し合いへし合いしている。
黄昏時が来ると、巨大なコウモリの群れが噴気孔や裂け目から吐き出されて来て、煙で曇った空を真っ暗にする。私はその生き物の体の大きさにぎょっとした。翼長が15フィート以上の個体もいるのだ。その巨体にも関わらず、それらは空中でも地上でも、驚くほどの機動性を誇った。とてつもなくたくさんいるように見え、何千匹ものコロニーであったようで、私の中に始めて恐怖が芽生えた。それらは狒狒のホーホーという鳴き声を追ってその洞窟にまで追いかけていったが、コウモリたちは我々の事は完全に無視しており、苦もなく近づくことができた―この出来事は、タナロアの村人にとって、カマゾッツ自身が安全な道を提供してくれたという証だという。
ネクステペウアの内側に達すると、巡礼を率いるシャーマンが、部族のリズミカルな詠唱を始めた。何であれ、彼が我々にかけた魔法が何かはすぐに分かった。なぜなら、壁から放射される熱気や、時折吹き付ける焼けつく空気に我々は耐えることができたからだ。我々は布のマスクを付けていたが、焼けつく火山性の刺激のあるガスが呼吸を苦しくし、外で聞こえていたくぐもった轟音が、この火山の中心部へ続く場所では耳を聾せんばかりになっていた。また煙と熱波によって前進することがほとんど不可能になってきた。その地獄のような深みは、私であれば確実に道に迷っていたであろうが、タナロアの村人たちはその道を熟知しており、見たところ、視覚に頼らずとも道を辿ることができるようだった。
永劫とも思える時が過ぎた後、我々はカマゾッツの社へと到着した。我々は、反対側の壁の、煤で覆われたコウモリの彫像に慌しく捧げ物をした。その社の中に、私の娘ラヴィニアがまだ子供の頃、私のために作ってくれた記念品を置き、タナロアの村人が勧めるままに、我が心に近いものとしてそれを捧げた。私の従順な態度によって、少なくとも原住オーマン人たちからある程度の敬意を得ることはできたのではないかと思う。


最終更新:2017年09月30日 08:39