ラリッサの日誌「ティラノサウルス・レックス!」

ティラノサウルス・レックス!
収穫月の第22日、CY593年
島の食物連鎖の資料作りのためにデータを集めている時、ハトイと私は北東の草原地帯でティラノサウルスが小型のテロポッドを食べているのを目撃した。その獲物はこの巨大な獣の飢えを満たすには小さ過ぎたようで、我々の臭いを嗅ぎつけ発見すると突進してきた―その大きさの生き物としてはぎょっとするほど素早い動きだった。ぞっとした。すべての本能に抗って、私はそこに踏みとどまった。逃げれば確実に死ぬことが分かっていたからだ。
私はそのとてつもなく大きな獣を落ち着かせようと話しかけたが、そいつは私を無視して僅かにその前進速度を緩めただけだった。心臓は激しく鼓動していた。私が再び同じ試みをしたところ、不承不承ながらレックスは歩みを止めた。私はこうした獣を仲間にしているドルイドの噂を耳にしたことがあったが、それは余りに危険な考えのように思えた。もし私がそんな事をしようとしているとヴェリクが知ったなら、彼は絶対に私を叱り付けるだろう。
巨獣はその頭を下げ、大きな1つの鼻孔で私の臭いを嗅ぎ、そのシミターのような大きさの牙がほんの数インチまで近づいた。うっとりと魅惑され、私は震える手を伸ばしてそれにそっと触れた。その直後、ハトイが木の上から跳びだし、正面からその暴君の頭部の上に着地した。私は大声で彼を止めたが、もう遅かった。ティラノサウルスはその強靭な頭を振り上げ、耳を聾する咆哮を上げた。激しく体を揺さぶったり回転させたりして小さな邪魔者を振り落とし、その強力な顎を振るって一口でくわえ込もうとした。ハトイは槍を振り上げており、私は大声で彼がやろうとしている事をとめようとしたが、遅すぎた。彼はティラノサウルスの目の1つに、深く槍を突き立て、その巨獣を盲目にさせ、そしてそいつを制御不能な激怒へと陥れたのだ。咆哮の合い間に、そいつは力なく顔を引っ掻きながら激しく尾を振り回していたが、そのとても小さな槍を引き抜くことはできなかった。
そのレックスを最後に見たのは、そいつがジャングルの中を西に向かって逃げ道を辿って行くところであり、疾走しながら無実の木々を引き裂いていた。そいつの逃走する物音が激しくもがく物音に変わり、木々は激しく揺れ動き、衝撃を受けた爬虫類の咆哮がジャングルに反響していた。下生えから再び姿を現して、あたかも何か悪い予感を追い払うかのように、ハトイは狂ったように激しくその手を振り始めた。唐突にティラノサウルスが静かになり、その咆哮が途中で詰まったようにやみ、木々の梢の震えが止まった時、ハトイが騒々しく興奮してカチカチという音を立て始めた。彼はとても必死になってこの場を離れようとし、その謎めいて不安を誘う音から遠ざかろうと私の手を引っ張って連れて行こうとした。
私の原住民ガイドの、疑問の余地のない明らかに切迫した様子に、我々は急いで村まで戻ることにした。後日、私が質問した時、ハトイは彼の行動の真意を語ることを断り、怯えて感情的になった。その時初めて、私はそのファナトンが、島の秘密に関わる何らかの真実を私に隠していることに気づいた。


最終更新:2017年09月30日 09:35