ラリッサの日誌「アレイニアの生息地」

アレイニアの生息地
刈取月の第15日、CY593年
悲嘆と自責の念に何一つ言葉が思いつかない。今はもうハトイは死んでしまった。知らず知らずに私がもたらしてしまった言葉も憚られるような運命の犠牲者となってしまったのだ。もし私が彼の警告にもう少し注意を払っていたなら、まだ彼は、私がこれを書いている隣にいたであろう。なぜ彼の言うことを無視してしまったのだろう?何千回も自問している。愚かにも、サンダー・リザードですら踏み入るのを恐れるような、私が発見した東のジャングルにある暗い穴へと危険を冒して入り込んでしまったのだ。そこで、ひどい代償を私と私の友人は払わされることになった。
密生したジャングルの天蓋によって永遠の闇に閉ざされているその谷へと入って行ったとき、私はすぐに何者かが我々を見ているという感覚を覚えた。最初私は神経過敏になっているのだろうと肩をすくめたが、徐々にハトイを落ち着かせておく事が困難になっていった。突然彼かま立ち止まってシューと言いながら暗闇の中をじっと見つめ始めたとき、私は彼の非常に鋭い感覚に従ってそこに立ち止まった。すぐに私は、我々が頭上の木々に糸を張り、空中に見事に張られた蜘蛛の巣の迷路に真下を歩いていることに気づいた。胸糞の悪くなるような皮だけになった死体が、あたかも薄気味悪い冬至祭の飾り物か何かのように、綱のように太い蜘蛛の糸からぶら下がっている。しかしそれよりもずっと恐ろしいのは、その死体を配置し、そのままにしておくよりももっと不快にさせるための死体置き場を作り上げるという、何者かの意思を感じられるところだ。
動いているものをちらと目に捉えたとき、私は総毛だった。目が闇に慣れるように祈っていると、僅かにそれらを見ることができた:ゆっくりと、巨大な恐ろしい蜘蛛がその蜘蛛の巣から降りて来て、一見空中に浮いているかのようになり、その前面に付いた付属器官で何かの身振りをした―その付属器官は、たくさんの指間接がある、胸糞が悪くなるような細長い腕である。私はこれまでそれを見たことはなかったが、それがアレイニアであることに気づいた―行儀の悪い子供を、悪しき森の王国へと連れ去ると言われている、珍しい、説話に良く出てくる蜘蛛に似た生き物だ。
このくねくねと動く生き物の不明瞭で不吉な影と音とで、周囲のジャングルににわかに生き物の気配がし始めたため、この生き物をもっと近くで見たり、話をしたりする機会がなかった。気配は感じられるものの、私にはハトイ、その蜘蛛、そして自分自身の他には何も知覚できなかった。今となっても、そこに本当に何かがいたのか、それともそうした印象や騒音は、単に致命的な罠に嵌ってしまったことで見た幻であったのか、私には分からない。
いずれにせよ、逃げなければならない、という圧倒的な恐怖が私を捕らえ、勇気を与えてくれるようにアローナ神に祈った。しかし、かわいそうなハトイは一体どうしたというのか、何かに突き動かされるようにして、その蜘蛛の1匹に突撃するかのように、怖がっていはいるが決意を固めた顔で穴の奥深くへ頭から突っ込んで行ったのだ。彼は私を守ろうとしてくれたのだろうか?そうとしか思えない。彼の危難を目撃する前に私にできたことは叫ぶことだけだった。そいつらは下生えの中へと転がり込み、彼の体を次から次へと太い蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにしていき、目に見えないロープが投げ縄のように彼にかけられていった。絹の悪夢に包まれて、樹上へと引き上げられながら私に呼びかけていた彼の叫び声は、いまでもまだ耳に鳴り響いている。それに、私自身が叫び声をあげながら聞いたような気がする、あのおぞましい蜘蛛の笑い声は、未来永劫私を悪夢にさいなむことだろう。


最終更新:2017年10月01日 00:21