アステカの神話

オーマン人の宗教はアステカの神々と通じている。
下記に示すものは『Dragon誌』の352号、354号、356号、358号の4回に渡って連載された記事である。
オーマン人のキャラクターをプレイする際には一度目を通しておくことを勧める。
ただし、この記事は3.5版用の内容となっているため、5版ではゲームデータとして利用することはできない。

アステカの神話Ⅰ

AZTEC MYTHOS I
by David Schwartz
『Dragon #352』p.96
中央アメリカ高地の人々によって崇拝されている多くの神々の中では、最も重要な2柱はケツァルコアトルとテスカトリポカである。これらの2神は頻繁に敵対する立場に立ち、ケツァルコアトルは創造者、テスカトリポカは破壊者という立場である。しかしながら、稀な場合ではあるが、ときに彼らは協力することがある。それぞれが強力な存在であるが、一緒に力を合わせた場合にだけ、これら2柱の神霊は世界を創造することができるのである。
世界創造を成すと、互いに、彼らは誰を太陽にするのかを争い合う。テスカトリポカ―彼は影にして暗黒である―は新たに作られた太陽を盗み出し、自らの腰に結わえ付ける。しかしながら、彼の暗黒性のために、彼は1日の半分しか照らし出すことができない。結局、ケツァルコアトルが巨大な棒で彼を天空から叩き落すのである。その後、ケツァルコアトルは太陽としての地位を掴む。
世界が安定した後、ケツァルコアトルは人間の姿を取り、トルテカ人の中で生活を始めた。彼はトルテカの人々に文明の道具―農業と工芸、支配と忠誠―を与え、彼らの支配者への助言者としての役割を果たした。テスカトリポカはケツァルコアトルの隆盛に対する嫉妬を増し、彼もまた人間の姿を取った。しかしケツァルコアトルとは異なり、テスカトリポカはその力をトルテカ人の間に害悪と不和を撒き散らすために使った。彼は村全体を魅惑し、彼らに自己破壊的な行動を取らしめた。彼の妹トラソルテオトルの助けを得て、テスカトリポカはケツァルコアトルを騙して酔わせ、彼の品位を低下させたのである。非常に恥じ入ったケツァルコアトルは、破壊された彼の町であるトゥーラに命じて、すべての財宝を埋め立てさせた。その後、彼は海岸へと赴き、いつの日か舞い戻り、彼の王国を取り戻すという誓いを立てて、蛇の筏で船出を果たした。彼が去ってしばらくもしない内に、トルテカ帝国は崩壊した。
ケツァルコアトルという対の錘を失うと、テスカトリポカは誰にも邪魔されることなく自由に世界中に悪を為すようになり、羽の生えた蛇が帰還するときに備えて多くの者に見張りをさせた。

アステカからオーマンへ

この記事は、君の信仰系のキャラクターが現実世界の神々を礼拝するために必要とされるあらゆるものを提示する新たなシリーズの第一弾である。このたび、我々はアステカのパンテオンの神々の紹介を開始することにした。これらの神々は、Savage Tide Adventure Pathのオーマン人たちの中に信仰している者たちがいる。

アステカの神話Ⅱ

AZTEC MYTHOS II
by David Schwartz
『Dragon #354』p.90
農業は文明の基盤である。労働者や職人から、貴族や戦士たちまで、すべての者は農場、果樹園、そしてチナンパ(浮き畑;訳注:中央メキシコ高地で造営されていた人工の浮島に作られた畑)で生産される豊富な作物に依存している。であるため驚くには当たらないが、雨の神トラロックは、ほぼ間違いなく中央アメリカ高地において最も広く信仰された神である。雨なしには作物はしおれるため、1年を通して豊作に恵まれるのに足るだけの雨を保証してくれるよう、礼儀に適った捧げ物をトラロックに行なうことは非常に重要な事柄である。
第二の太陽が失われた後、トラロックは天空の権利を要求し、そこを自らの場所とした。しばらくの後、ケツァルコアトルが大地を焦がす火の嵐を送りつけた。炎の雨は太陽さえも焦がすほどに熱く燃え盛った。生き残った人々は七面鳥に姿を変えたとされ、鳥はアステカ人にとって重要である。それからすぐ、ケツァルコアトルは、第四の太陽になってもらうために雨の神の妻チャルチウトリクエを招待し、彼女はそれに同意した。彼女が太陽である時代は、終わることのない雨で特徴付けられるものであった。最終的に水は山の上へと昇り、人々は魚に姿を変えた。あまりに激しく雨が降ったために天は落ち、それとともに第四の太陽も落ちた。
ケツァルコアトルが“糧食の山”―世界の始まりよりトウモロコシ、豆、トウガラシ、そしてそれ以外のあらゆる食料が隠されてきた場所―を発見したとき、彼はそれをどうするべきか他の神々に尋ねた。大部分の者たちは、彼らがその中身を取り、人々に分け与えるべきだと信じていた。しかしトラロックだけは違った。彼は他の神々が議論を続けている間に食料を盗んだのである。この雨の神も“糧食の山”の食べ物を食べるが、毎年その一部を戻していた―ある年は多めに、またある年は少なめに。
トラロックとチャルチウトリクエはトラロカンという楽園世界に住んでいる。そこは溺死、焼死、出産によって死んだ人々の魂が住まう地である。

最初の2つの太陽

この新シリーズの第二弾であるこの記事では、君の信仰系のキャラクターが歴史上の神々、ここでは特にアステカ人の創世神話において第三、第四の太陽の役割を果たした2柱の神々を崇拝するために必要なものすべてを提供している。第一と第二の太陽、テスカトリポカとケツァルコアトルは、『Dragon #352』のこの新シリーズの第1回分に掲載されている。混沌と悪の暗黒神テスカトリポカは第一の太陽としての務めを果たしたが、明るさが不十分であった。規則と善良性の神ケツァルコアトルはテスカトリポカを天空から叩き落し、第二の太陽の地位に昇った(後日、彼はテスカトリポカによって天空から叩き落された)。

クレリックの役割

D&Dの属性システムでは、初期中央アメリカ文化の複雑な道徳律を正当に表現することはできない。アステカの神々の多くは紛れようもなく悪であるが、彼らは生きとし生けるあらゆる物たちの生存にとって重要不可欠な事象に対する権能を持っていた。神々は恐るべき対価を求めたが、彼らはまた世界に存するあらゆる善なることをも提供してくれた。すなわち、食料、飲み水、美と驚異、そして家族と友情といったものである。
人々がこの神々を崇拝する方法は都市国家毎にさまざまであり、さらに言えば、個人個人でばらばらである。表向き、アステカは彼らの血に飢えた神々に捧げるための捕虜を捕まえるための戦争につぐ戦争を行なっていたが、同じ存在を崇拝していた他のメソアメリカ地方の部族は人間の生け贄を捧げることはもっと頻度が少なかった。
もし君のゲームにおいてアステカの神のパンテオンを使用するなら、クレリックに対しては信仰する神の属性の1段階以内という制限を課さずに、任意の属性を選択することを許可するべきである。善のクレリックが悪の神格の穏やかな一面―恵みの雨をもたらすトラロックや、圧政に対する守護者としてのテスカトリポカなど―を崇拝しているということも珍しくなく、その神のより暴力的な側面をできるだけ避けるのである。反対に言えば、悪の文化の中では、他では善の神格がぞっとするような儀式によってなだめられていることもあるかも知れない。
さらなる選択ルールとして、アステカのクレリックはあらゆる属性の補足説明が付いた呪文を発動できることにしても良い。しかしながら、悪は悪であるため、善のクレリックが繰り返し[悪]呪文を発動したり、悪の儀式(特に人間の生け贄など)を行なったりしたなら、彼女自身が悪になるであろう。
それでも、彼の神格の教義を著しく破ったなら、クレリックはその呪文やクラスの特徴を失うことになる。倫理や道徳との関連は薄くなっているとは言え、神々は彼らの権能を傷つけたり、反したりする行動を取ることは禁じている―たとえトラロックに仕える悪のクレリックであっても、神によって与えられた食料や飲料水に毒を混入させることは決してない

アステカの神話Ⅲ

AZTEC MYTHOS III
by David Schwartz
『Dragon #356』p.90
精霊の代わりに、常に空腹の女性が生きていた。彼女は手首とひじに口を持ち、また足首と膝にも口を持っていた。精霊たちは彼女に食べ物を与えなかったため、ケツァルコアトルとテスカトリポカは彼女を終わりなき水の下へと運び下ろし、彼女の肉体をそこに横たえた。彼らは彼女の髪の毛から森を作り出し、彼女の目から湖を作り出した。彼女の肩からは山々を作り出し、彼女の鼻からは谷が作られた。しかし彼女の口はなおいたるところに存在し、食べ物を求めて叫び声を上げていた。雨が降ると彼女はそれを飲んだ。花がしおれ、木が倒れ、そして人々が死ぬと、彼女はそれを食べた。しかし彼女は決して満足することはなかった。
中央アメリカ高地の人々は、他のあらゆる地の人々と同様に、様々な様相で大地を崇拝した。しかしながら、メソアメリカの大地の女神は、有益なる地母神ではない。シワコアトル―アステカの人々は彼女をそう呼んだ―は生産者にして消費者である。
彼女はまた別の名前も持っている:コアトリクエ、彼らの神聖なる守護神格ウィツィロポチトリの母である。かつて、コアトリクエが掃除をしているときに、彼女のそばに羽の房が落ちてきた。彼女はそれを拾って自らのスカートにしまい込んだ。彼女が掃除を終えたとき、彼女はしまっておいた羽を探したが、それはどこにも見当たらず、その後、彼女は妊娠した。コアトリクエにはすでに数え切れないほどの子供がおり、彼女が妊娠したこと¥を彼らが知ったとき、彼らはその事を恥じ、怒った。最年長の姉コヨルシャウキはその兄弟姉妹たちに、母親が出産する前に彼女を殺してしまわなければならないと納得させた。しかしながら、彼らが近づくと、ウィツィロポチトリは即座に完全に成長して軍装を整えた姿で生まれ出でた。彼は速やかにコヨルシャウキを殺害し、彼の他の兄弟姉妹たちを殺害するか、敗走させるかした。
この高地においては、アステカ人たちは比較的新参者であった。彼らはその守護神格ウィツィロポチトリの命令によって北方から旅をしてきた。ウィツィロポチトリは木の偶像を通して彼らに話しかけたという。アステカ人たちがここに辿りついたとき、すでに数多くの都市国家がこのメキシコの谷間を故郷としていた。これらのすでに定着していた部族は外来者を受け入れず、アステカ人たちは入植するには全く適していない沼沢地に住まざるを得なかった。しばらくの間、アステカ人たちは傭兵として働き、この地域において恐ろしい評判を打ち立てた。しかしウィツィロポチトリは彼らが満足していっているのを感じた。
彼らの神の命令に従って、アステカ人はコルアカンの王に話を持ちかけ、彼の娘をウィツィロポチトリの妻へと懇願した。貪欲な王は快くそれに同意した。しかし、その王女を彼らの寺院へと連れていくと、その神官は彼女を生け贄としてしまった。彼らはウィツィロポチトリの指示に従って彼女の生皮を剥ぎ、1人の少年がそれを被り、かの王を招待し、女神となった彼の娘を供応物として提供した。王が彼への供応物を食べ始めたとき部屋は暗かったが、彼が香に火をともしたとき、彼はアステカ人たちが何をしたのか見知ったのである。激怒した王は彼の軍勢をアステカへと差し向け、アステカ人たちはテスココ湖の中にある1つの島へと逃げ込んだのである。
その島の上で、ウィツィロポチトリは彼らに1つの徴を示した。すなわち、彼らはサボテンにとまって1匹の蛇を食べている1羽の鷲に遭遇したのである。これは彼らが新たな故郷に到着したのだという徴であった。
アステカ人のパンテオンについてのもっと詳細な情報については、このシリーズの最初の2つの記事を参照すること。『Dragon #352』ではケツァルコアトルとテスカトリポカについて、『Dragon #354』ではチャルチウトリクエとトラロックについて紹介している。
シワコアトル/CIHUACOATL
ウィツィロポチトリ/HUITZILOPOCHTLI

アステカの神話Ⅳ

AZTEC MYTHOS IV
by David Schwartz
『Dragon #358』p.88
第五の太陽を選ぶときがきたとき、神々は篝火を焚き、その周囲に立って次は誰にするべきかを話し合った。どの神も新しい太陽になりたがらなかったため、彼らは不運の神ナナワトルを選んだ。ナナワトルは尻込みしたが、他の神々は彼に対してこう言った。「恐れることはない。もはや、あなたは貧相でも薄弱でもない。あなたは太陽として空を駆け巡るのです。」そうして、ナナワトルは目を閉じて篝火に跳びこんだ。彼の肉体が完全に焼き尽くされると、彼は東の地平線に達するまで地底を旅した。
太陽が地平線の彼方に姿を現したとき、それは大きく眩かったが、すぐに止まってしまった。神々はハヤブサを送って何が起こったのか確かめに行かせた。戻ってくると、ハヤブサは集まっている神々に、太陽は彼らが彼ら自身を生け贄にし、彼らの心臓をこの新たな太陽に捧げるまでは昇ることを拒否しているのだと言った。怒り狂った神々は、恐るべき戦の神、“明けの明星”トラウィスカルパンテクトリを呼び出した。トラウィスカルパンテクトリは彼の弓を手に取り、ナナワトルに向けて矢を射たが、新たなる太陽はそれを上手にかわした。続いてナナワトルが彼自身の弓を手に取り、燃え盛る矢でもって明けの明星を射た。負傷したトラウィスカルパンテクトリは死者の国に落ちた。
神々は抵抗するにはこの太陽が余りに強大であることに気づき、彼ら自身で1人ずつ心臓を生け贄に捧げることにした。とうとう満足したナナワトル―いまやトナティウと呼ばれるようになった―は天空を横切る自らの旅を開始した。
生け贄は、中央アメリカ高地における根源的な要素である。強力ではあっても、神々は全能ではない。世界を作り出そうと努力をし、それが順調に運行し続けるように努力をし続けている。太陽光、雨、そして他のあらゆる神々からの贈り物と引き換えに、人間は彼らに餌食を与えなければならない。生け贄によって与えられる滋養なしでは、神々は衰弱し、耄碌してしまい、宇宙はゆっくりと停止してしまうことになる。
アステカ人は毎日習慣的に動物を生け贄に捧げられており、動物たちはただこの目的のためだけに育てられた。ウズラやハチドリのような鳥は最も一般的であった。元々人間に食べられるために育てられていた犬もまた、神々のために生け贄に捧げられた。他の儀式においては、代わりとして神官たちが陶器を儀式的に破壊したりもした。
同様に、人間の血を捧げる行為も行なわれた。悔悛者はマゲイ(訳注:リュウゼツラン科植物)の棘で彼らの肉を突き刺し、そして血まみれの棘を神々への捧げ物として編んで作った容器で受けるのである。ほとんどあらゆる者が―老いた者も若い者も、一般人も貴族も―一度ならずこの儀式を行なう必要に迫られる。神官たちは特に、彼らの禁欲的な生活スタイルの一部として自傷行為を行なっていた。
もちろん、アステカ人は人間の生け贄を捧げることで最も有名である。中央アメリカの部族すべてがときどきこの儀式を行なっていたが、アステカ人は人間を生け贄に捧げる行為をさらなる堕落の新たなる段階へと引き上げたのである。他の都市国家が神々をなだめるためだけに捕虜を生け贄に捧げたのに対し、テノチティトランにおいては、彼らは政治的な道具として生け贄の儀式を利用したのである。アステカ人は征服した都市国家に対して生け贄の人身御供を提供するよう要求し、彼らの力を見せつけ、彼らの守護神格であるウィツィロポチトリに力を与えるために大量の生け贄の儀式を挙行したのである。(魔法的な触媒としての生け贄のルールについては、成人指定の本である『不浄なる暗黒の書』で言及されている。)

アステカの神話Ⅰ~Ⅳ

信仰系クラス用記事におけるアステカの神話シリーズはこれで終わりである。創造者ケツァルコアトルと破壊者テスカトリポカは#352に、雨の神トラロックと美の女神チャルチウトリクエは#354に、そして大地の女神シワコアトルとアステカの守護神格ウィツィロポチトリは#356において詳細を紹介している。これらおよびそれ以外のバックナンバーについては次のアドレスにおいて購入できる:paizo.com/backissues
同時に、これら4つの記事はアステカの宇宙観における5つの太陽、あるいはその本質をなぞるものである。暗い影のようなテスカトリポカの薄暗い太陽から、ケツァルコアトルの強奪者の役割、トラロックの終わるのが早すぎた統治時期、雨で水浸しになったチャチウトリクエの時代、そして最後に、トナティウの統治下にある現代までである
最終更新:2017年02月26日 13:08